偽・虚狩り〜ホロウレイダー堕ちをかました元治安官〜 作:初楼
3日後、俺は衛非地区にある港に来ていた。
この港でライオネル氏と合流し、ポーセルメックスの研究所に向かうためだ。
暫く待っているとライオネル氏が数名を引き連れてやって来た。
ライオネル氏が手を繋いで歩いているウサギのシリオンの少女が娘のアリスか。
「待たせて済まないね、今日は宜しく頼むよ。ほらアリス、ご挨拶を。」
「わ、私はアリス・タイムフィールドなのだわ!別にその仮面が怖いとかではないのだわ!今日は宜しくお願いするのだわ!」
そう言いつつも父親の足にしがみ着いている様子は微笑ましいものだ。
どうやら怖がられている様なので、片膝を着いてアリスに視線を合わせる。
「初めましてお嬢ちゃん、ノワールだ。今回君のお父さんから依頼を受けて、君達の護衛をさせてもらう。くれぐれも勝手に走り回らないでくれよ?」
「もう!そんなに子供ではないのだわ!失礼ちゃうのだわ!」
プンプンと言った感じをほっぺたを膨らませるアリスを尻目に、他の人は着々と出発の準備を進めている。
「確か、船で向かうんでしたっけ?」
「ああ、ポーセルメックスの研究所はここから少し離れた離島にあるから、こちらで用意した船で行く予定だ。」
さて、鬼が出るか蛇がでるか。
────────────────────────
「輝磁製品はポーセルメックスで生まれました。他所の発明品じゃありません。我が社のオリジナルです。しばし遅れをとりましたが、今や巻き返しの時です。オブスキュラがお好き?結構、ますます好きになりますよ。さあさどうぞ、オブスキュラのニューモデルです。美しいでしょ?ああ仰らないで、繋ぎ目はタングステン合金、でもフリンツ合金なんて性能だけで、加工が困難だし、入手も困難、費用が嵩むわでろくな事がない。サイズは今まで一番大きいですよ。どんなエーテル物質でも大丈夫。どうぞ開けてみて下さい。(コンコン)余裕の音だ、厚みが違いますよ。」
ここの研究所は希少金属の精製、加工まで行ってるみたいだな。
なんでもエーテル物質がホロウから離れた際の変化を観測するためだとかなんとか。
ライオネル氏はふむふむと頷いて、時折質問をしては研究者達と話し合っている。
アリスは……まだ話についていけて無さそうだな。
論文がどうとか言ってたけど……子供ながら父親を喜ばせようとしたんだろうな。
しかしここは何だか妙な雰囲気だ、どうにも居心地が悪い。
まるで狙撃銃のスコープ越しに覗かれているような……背筋に嫌な感じがする。
(ハイペリオン、一応周囲の警戒は怠らないようにしてくれ。)
(了解です、マスター。)
……どうやらライオネル氏の話も終わったようだ。
周りの研究員達は特に不自然な所もなく、至って真っ当な研究施設といった様子だ。
火のないところに煙は立たないと言うが…なら、噂の出処はどこだ?
(マスター、足元のダクトに生命反応を確認。)
(…は?)
ダクトに生命反応?
その場から少し後ろに下がって周りから分からないように視線だけ向ける。
仮面を被っていると視線を隠しやすいな。
床のダクトに設置されたグレーチング越しに女の子の姿が見えた。
赤髪の…アリスと同い年位の女の子だ。
そしてその服装は、あの日助けたメリュジーヌと同じような簡素な服だった。
…全身の血管が煮え滾るような熱を感じる。
ここでも、人体実験か…!!
駄目だ、今ここでことを起こす訳には行かない…!
幸いにも、女の子のバイタルは安定しているし、こちらが気付いたことに気付いていない。
ライオネル氏にそれとなく伝える必要があるが、どのタイミングで伝えるか…。
ふむ。
アリスの左側の髪に着いているヘアピンをバレないようにそっと抜き取る。
確かマジカルポンプセイラーブー…?だったか。メリュジーヌが毎週見ているので名前は知っていた。
そしてそれをそっと溝にいる女の子の近くに落とす。
幸いアリスは研究施設の見学に夢中でヘアピンが片方無くなったことに気付いていない。
後はアリスかライオネル氏がいつ頃気付くかだな。
────────────────────────
「…ない。ないっ!セイラーブーのヘアピンがないのだわ!」
「どうしたんだいアリス?」
「パパ…セイラーブーのヘアピンが片方無いのだわ…。」
アリスがヘアピンの紛失(故意)に気付いたのは衛非地区を離れる寸前の車内だった。
そろそろ指摘しようかと思っていたが、自分で気が付いたようだ。
ヘアピンを無くしたアリスの落ち込む様に心が罪悪感にグサグサされるが、人命救助のためにも心を鬼にしよう…。
「では、そのヘアピンを探しに行ってきましょう。ライオネルさん、研究施設に入る必要があると思いますので一緒に来て貰えますか?」
「……?…!分かった。アリス、パパはノワールくんと一緒に探してくるよ。」
ライオネル氏も察してくれたようだ。
俺たちが車から降りるとアリスが心配そうに車の窓から声を掛けてきた。
「パパぁ…セイラーブー…見つかる?」
「勿論だ。お前のお気に入りのヘアピンを無くしたままにできないだろう。
丁度パパも研究所の先生達に難しいことを聞きたかったんだ。
アリスはおじいちゃんと一緒に先に帰ってくれ。パパもヘアピンを見つけたらすぐ帰る。」
「ありがとうパパ!約束なのだわ!セイラーブーが見つからなかったら帰ってきちゃっだめなのだわ!」
「お嬢ちゃん、俺は探し物が得意でね、良くホロウ内で落し物を拾っては交番に届けたものさ。」
てか、一緒にいた人、ライオネル氏の父だったのか…。
今はもう一線を退いて息子に全部任せてるって感じか。
「凄いのだわ!……ってそれは嘘よ!そんなとこしたら逮捕されてしまうのだわ!」
「ハハハ。流石お嬢ちゃん、鋭いねぇ。まぁ、探し物が得意なのは本当さ。必ず見つけてこよう。」
「むぅ〜!必ず見つけてくるのだわ!そうじゃないと許さないのだわ!」
「はいはい、仰せのままに、お姫様。」
アリスを乗せた車が去った後、
「…ノワールくん、何かあったんだね?」
「えぇ、あそこの研究施設は人体実験をしている可能性が極めて高いです。」
「なんだと…!?」
ライオネル氏に施設内で見た少女について説明する。
「なんて事だ…。やはり噂は本当にだったのか…。」
「急いで戻りましょう。人体実験なんてろくな物じゃないはずです。救出は早い方がいい。」
「分かった。なら、私が研究員たちの気を引こう。その隙にその少女の救出を頼みたい。」
「了解です。」
救出作戦…開始だ。
───────────────────────
「済まない、先生方。実は当研究所に対しての資金援助の話がタイムフィールド家の中で挙がっていてね、追加の予算案について先生方からも意見を……」
早速研究施設に戻ると、ライオネル氏が研究員達が食いつきそうな話題で注目を集めてこちらから離れていく。
今のうちにあの女の子を探すとしよう。
「ハイペリオン。あの子の生体反応は何処だ?」
『確認しました。発見した溝から動いていません。』
「何!?」
まさか手遅れか…!
足早に女の子を発見したダクトに近付くと、女の子は俺が落としたヘアピンを握りしめていた状態で動いてない。
いや、微かに呼吸しているな。…寝ているのか?
「ハイペリオン、バイタルチェックを。」
「バイタルチェック終了。何らかの薬物投与による副作用で睡眠状態にあると推測されます。」
よし、とりあえず命に別状はないな。
グレーチングを剥がして女の子を抱き上げる。
…くそ、この歳の子供にしては体重が軽すぎるだろ…。
「おい!そこのお前!何をやっている!?」
明らかに武装した輩がやって来たな。
手持ちはサブマシンガンか。閉所でそれを選択する当たり素人じゃないな。
銃口を向けられる前に義手からワイヤーを射出して相手の首に巻き付ける。
さらに勢い良く引っ張っり、向かってきた輩の頭にヘッドバットをかましてやる。
「ぐっ!?」
鈍い音を立てて倒れたせいか、右腕に抱えている女の子が目を覚ましてしまった。
「…えっ?なに?誰?」
「お、目が覚めたか。もう大丈夫だ。」
「お兄さん……変な仮面だね?」
「なに、正義のヒーローは仮面で素顔を隠すものさ。」
「正義のヒーロー…?」
女の子を落ち着かせていた所、ライオネル氏も走ってきた。
「その子がそうなんだね?」
「えぇ、無事に救出できましたが、見ての通り施設にもバレましたね。」
床に伸びている輩を指指すと、ライオネル氏がしゃがんで確認した。
「…彼はここの研究員の名簿に載っていない人物だ。」
「ライオネルさんまずは避難を。この子をお願いします。」
そう言って女の子をライオネル氏に渡す。
「それなら私が案内しよう。地下の水路から海に出られるはずだ。」
地下の水路に向かっていると、さっき倒した輩と同じような装備の奴らが前方から向かってきた。
「ライオネルさん俺の後ろに!ハイペリオン!大楯だ!」
『了解です。』
身の丈程の大楯を生成、前方に構えてシールドバッシュを敢行する。
サブマシンガン程度の弾じゃこいつは抜けないぜ…!
「おらぁ!」
シールドバッシュの衝撃で奴らを吹き飛ばして、通路を確保する。
「うわっ…力強…。」
「流石ノワールくんだ、頼もしい。」
「さあ、行きましょう!」
幾つかの通路で敵を同じように吹き飛ばした後、ライオネル氏が言っていた水路に辿り着いた。
水路を塞ぐ金具を蹴り壊し、近くに落ちていた木の板をライオネル氏と女の子に渡す。
「ライオネルさん、先に行ってください。」
「ノワールくんはどうするつもりだい?」
「もう少し残って奴らを撹乱してから逃げます。そう言えば名前を聞いていなかったな。」
「…柚葉。お兄さんはノワールって言うの?」
「そうだ、縁があればまた会おう。ライオネルさん、この子をお願いします。」
「分かった。タイムフィールド家の名誉に掛けてこの子を守ろう。」
そう言ってライオネル氏と女の子…柚葉は木の板に捕まって水路を流れて行った。
……よし。これからドンパチ賑やかにして、人体実験していたことを後悔させてやる…!