偽・虚狩り〜ホロウレイダー堕ちをかました元治安官〜 作:初楼
『周辺に敵対反応無し。』
「おかしい……。あれだけやれば、もっと騒ぎになるはず…。」
ライオネル氏達を逃がした後、研究施設に戻ったのだが敵の兵隊が一向に出てこないどころか床に倒れ伏している。
さらに所々の壁に凹みが新しくできているし、これは一体……?
「もしかして、エーテリアスの実験もしていてその実験体が逃げ出したとか?」
『マスター、ホラーパニックの映画を見すぎでは?』
「事実は小説よりも奇なりって言うだろ?」
少なくとも、俺以外にも研究施設を襲撃しているやつがいるな。
かなりの怪力だ。
普通、合金でできた壁面がこんな巨大な鉄球をぶつけたかのような凹み方はしない。
それでいて、そこら辺にのされた兵隊を確認したが死んでいない。
つまりきっちりと手加減……怪力を制御できてる証だ、手強いぞ…。
研究施設の奴らが追ってこないなら、ライオネル氏の後を追ってもいいんだが……、このままだとポーセルメックスにタイムフィールド家を責める口実を残したままになる。
どうせならもう少し人体実験についての資料を回収したいところだ。
「…よし、奥へ進むぞ。端末が有ればそこからハッキングする。」
『了解です。既にハッキングシステムは起動済みです。』
足音を立てない特殊な歩法を用いて研究施設の通路を進んでいく。
道中何人も倒れ伏した兵隊を見つけたが、全員気絶させられていた。
やがて広い部屋に辿り着いた。
部屋の四方は天井まで設置された本棚に所狭しとファイルが収められている。
ここの資料を漁りたいところだが……、そう簡単には行かないようだ。
部屋の中央に馬のシリオンの女性が手元のファイルに視線を落としている。
茶髪を2つの三つ編みリングした髪型で、赤と黒を基調とした豪華なドレスを身に纏っている。
その瞳は紅玉のような紅色で、一見すると何処かのお嬢様って感じだが…その身に纏う風格が、彼女が紛れもない強者であることを物語っている。
「…あら?こんな所に鼠が1匹。」
「鼠とは随分失礼だな?」
「淑女の読書の時間を邪魔したんですもの。失礼なのはそちらでしてよ?」
「淑女だぁ?お転婆お嬢様の間違いじゃないのか?あれだけの人数叩きのめしといて良く言うぜ。」
パタンとファイルを閉じた彼女はゆっくりと此方に向き直る。
その動作は緩慢なはずなのに、攻め入る隙がない。
「ふーん、貴方もそれなりにやるようですのね。」
「そいつはどうも。」
げぇ、こっちが彼女の強さを見抜いたことを見抜かれたな。
戦力を誤解させるのは常套手段なんだが…。
「では………やりましょうか。」
瞬きの瞬間に目の前から彼女が消え、後ろから気配を感じ
咄嗟に生成した刀を振るう。
彼女の拳が顔面に当たる直前で制止し、此方の刀を相手の首筋の直前で寸止めする。
遊んでやがるな、こいつ。
「…あらあら、あらあらあら。今の一撃でその頭を柘榴のように爆ぜさせるつもりでしたのに、お速いのね?」
「よく言うぜ。お前の拳からは殺気を感じなかったぞ。」
「ふふっ…訂正するわ。貴方は鼠ではなく虎、或いは竜かしら。全力でもって狩らせて頂くわ。」
「馬のシリオンだろ?狩りじゃなくて農園で野菜でも育ててろよ。」
「あら?肉が大好きな兎もいるのよ?」
そう言った彼女から拳の連打が繰り出された。
その一撃一撃は重く、的確に急所を狙ってくるが、その正確さ故に読み易い。
連打を全て刀の峰で弾き、その衝撃を足元の床に逃がす。
彼女はこのままでは埒が明かないと思ったのか、拳で刀を弾いた後、右足で思いっきり床に踏み込むと一瞬で床に亀裂が走り、崩れ落ちていく。
どれだけ馬鹿力なんだよこいつ?
「場所を変えましょう。どうやら欲しいものは同じ。あの部屋ではお互いに全力を出せそうにありませんもの。」
「我儘なお転婆お嬢様だ。」
下は何か実験に使われていたのか、広いホールの様な空間だった。
瓦礫と共に落ちた俺たちはホールの中央にそれぞれ着地した。
拳を握り締めて突貫してきた彼女に対して落ちている瓦礫を蹴り上げ視界を塞ぐ。
それなりの速度で迫って来た瓦礫を難なく粉砕した彼女の背後に回り込み、腰に構えた鞘から居合切りを放つ。が、
振り返った彼女の右手に掴まれてしまった。
力任せに刃を受けていない、抜刀の速度に合わせて掴みやがった。
「…貴方の太刀筋にも、殺気が無くってよ?」
「そりゃ殺す気が無いんもんでね。」
「…随分と舐められたものね!」
彼女は怒りに任せて刀を握り潰してしまった。
そのまま拳で来るかと思ったら、上段の回し蹴りを放ってきた。
ぎりぎりのところで右側頭部に履いているヒールが当たる寸前に側転で躱したんだが、回し蹴りの勢いで広がったスカートの中身を直視することになった。
白色のニーハイとガーターベルトに包まれた御御足と、形の良い臀部を覆う純白の下着を割としっかり見ちまった…!
「っ!!!」
彼女はスカートの中身を見られたことを理解したのか、スカートの端を押さえてワナワナと震えている。
その顔は赤く、若干涙目だ。
「あ〜、その、なんだ。スカート履いている時に上段蹴りは辞めた方が良いと思う。」
「…殺しますわ。」
「決して故意で見た訳ではないと釈明させてもらおうか!?」
「貴方は地を這う虫けら……踏み潰しますわ!」
そう言って鬼の形相で迫ってくる彼女に対してどうしたもんかと思考を巡らせようとしたところで、
「そこまでだよぉ、エデちゃん。」
唐突に響いた可愛らしい声で待ったが掛かったのだった。