ハンタ世界でデスゲーム   作:鈴ノ風

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003_本選開始その1

 1986年、八月一日。

 ウルクド王国南方、港町近くの森林。

「よう! オレ様は『念能力バトルロワイヤル』のマスコット兼本選参加資格証明兼個人用ゲーム窓口兼願望機の部品兼参加者管理用念獣の『ポポロ』だZE! よろしくな!」

「うわぁえらく賑やかでおしゃべり好きそうな念獣やな。やっぱ高い所とか好きなんか?」

「お前いま京言葉で『うるさくてバカ』つったか?」

「京都弁と大阪弁の区別もつかんってことは分かったわ」

 手紙に記された定刻になると同時に、操作系代表者ジゼルの隣に、白い犬のような念獣が現れた。

「しっかしなんや、しゃべる念獣憑けて殺し合わせたらもうまんま死滅回游やないか。デザインだけ変えたちゅうてもハンタ読者なら凄い見覚えのある犬やし」

「残念ながらポイントたまったからってルール追加できたりはしねーぜ」

「貯めれるほど人数おらんやろ」

「それな!」

 ポポロはげらげらと笑った。

「ま、閑話休題。まずはルールの説明に入らせてもらうぜ」

「頼むわ」

 ポポロが上げたルールは十個。

 

 一、1986年8月1日午前10時0分のゲーム開始から1987年2月1日10時0分のゲーム終了までの半年間をゲーム期間とする。

 二、ゲーム開始時に『本選開催のお知らせ』に記された系統と、所有者の自系統が一致している場合、『本選開催のお知らせ』は念獣『ポポロ』となり、手紙の所有者に憑依する。

 三、ポポロが憑依した人物を参加者とする。

 四、ウルクド王国領土及びその上空50キロをゲームエリアとする

 五、ポポロは願望機の欠片である。ポポロには他ポポロを吸収する機能がある。期間中に他ポポロ6体を吸収したポポロは願望機となる。

 六、欠片の状態のポポロは参加者への音声及び映像によるアナウンス、おしゃべり機能、憑依者以外に認識されない能力、物質等常時透過能力、そして無敵状態の五つの機能を持つ。ポポロは参加者へのアナウンスで嘘をつけない。

 七、『願望機』の機能は1999年12月31日まで有効とする。

 八、ポポロが他ポポロを吸収する条件は二つ。一つは自憑依者が他参加者を殺害した時。もう一つは他参加者が死亡した際、自憑依者が参加者の中で最も死亡した参加者の近くにいた時である。

 九、参加者及び運営は通常の生命活動の停止の他、二つの追加条件のどちらかを満たすと死亡する。追加される条件とは『ポポロを願望機にしないままゲーム期間が終了した時』と『ゲームエリア外に出た時』である。追加された死亡条件による死亡では念による蘇生を禁止する。

 十、『念能力バトルロワイヤル』の運営は上記の一から九以外のいかなる制限、選択も参加者に強制できないものとする。

 

「ちなみに明言しとくと、今のルール説明は『参加者へのアナウンス』だぜ」

「ほーん。ちょっと長いんとちゃう?」

「穴だらけよりはいいだろ」

「せやけども」

 ジゼルはルールの中に一つ、気になるものを見つけていた。

「『他ポポロ6体を吸収』ってなんやねん。参加者六人なら他のポポロは五体のはずやろ」

「運営が一つ持ってるんだよ。参加者五人殺してはいサヨナラじゃゲームとしてつまらないだろ? 授与式みたいなのをやりたいのさ」

「それは『参加者へのアナウンス』かいな?」

「いいや。『おしゃべり機能』だぜ」

(成程。運営が敵になるちゅうこともあるってわけや)

 ジゼルはため息をついた。

「ただ、ポポロに他の機能はないと思っといていいやろな。このルールはおそらく『制約』や。運営かて簡単に破ることは出来へん。ポポロに隠し機能を仕込んどいたら十番目の『ルール外の制限』に引っかかるやろうからな」

「そうだな! オレ様にそんな陰険な機能はねーぜ。オレ様は明るいイケメン男子だからな! 寂しくなったら話し相手になってぜ! ただし惚れちゃダメだぜ?」

「せやけど運営側に追加ルールがないとも書いてあらへん。最悪、参加者相手の限定無敵で戦わされる可能性も考慮しとかなあかんな」

「始まったばかりなのに終わった時の心配か? ちょっと気が早すぎるんじゃねーの?」

「ええやろそのくらい。それよか、おたくが他の参加者に見えないんじゃ、参加者同士の確認がとれへんやろ? そのへんどうするんや?」

「照れ隠しか? かわいいね! 安心しろよ、オレ様には参加者の写真が記録されてる。投影するぜ」

 参加者たちの複数の顔写真が、ホログラムのように空中に映し出される。それぞれには名前も記されていた。

「便利やな」

「おっと早速惚れさせちまったかな? ガハハハッ」

「さっきから何なんその勘違いした非モテおしゃべりコミュ障みたいな態度」

「ちょっとひどくない……?」

 落ち込むポポロをしり目に、ジゼルは目の前の木々に視線を向ける。

「おおよそはうちらの予想通り。つまりは作戦続行や。頼んだで?」

 森の中は静かだ。

 虫の音はするし、小型動物の鳴き声もする。

 だが大型動物の気配はない。まして人など。

 なのに。

 

「了解した」

 

 返答が、あった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 八月五日。昼。

 フロム平原の中心で、邂逅する影が二つ。

「よお。初めましてだな。テメエが『ジーラ=ガッドゥ』だな?」

「ソウイウ、オ前ハ、『カイメラ』ダ、ナ?」

 赤と白のチーパオを着た女性と、水着とハーフパンツに黒いフード付きパーカーを羽織った異形の少女。

 変化系代表者カイメラと、強化系代表者ジーラ=ガッドゥによって、本選最初の戦いの火ぶたが切って落とされた。

「じゃあ、始めよう、かっ!」

 挨拶もそこそこに、カイメラが裂帛の気合いと共に駆け出した。

「ッ!」

 二人の距離は二十メートルと少し。

 走るカイメラに対し、ジーラはその場にとどまった。

 後手に回った以上、無駄に動いても意味がないと判断したのだ。

 ならば待ちに回って相手の対応を見る。白兵戦に持ち込むなら応え、それ以外の怪しげな行動をとるなら、改めて距離をとる。

 幸いジーラは肉体強化によって極めて頑丈な皮膚を獲得している。貫通力に優れたライフル弾であっても弾く硬質な皮膚なら、針やアンテナといった操作系の致命的な攻撃に対しても有効な防御効果を発揮する。

 無論、それ以外の可能性も考慮する必要はあるが。

 ジーラが瞬時に戦闘プランを組み上げている間に、カイメラは既に彼我距離の半分を踏破していた。

(早いな。放出か、変化あたりか?)

 ジーラが相手の系統におおよそのあたりを付けた、その瞬間。

 鼓膜を突き破りそうなほどの轟音と、視界を塗り潰すほどの閃光と、全身を貫く激痛が、彼女に襲い掛かった。

「ガッ!?」

 激痛に、僅かにひざを曲げる。

 致命的とは言えないまでも、それはジーラの対応力を確かに削いだ。

「オラァッ!」

 そこへ、間髪入れずに棍による攻撃が繰り出される。

 二メートルほどの木の棒の、先端に付けられた金属の飾り。重しと打撃力増強を兼ねたそこに、カイメラのオーラが集中する。

(敵の攻防力は70。オーラの練度だけなら防御は纏で十分。だが先の攻撃を考えれば)

 防御のために構えた腕に、オーラを集中させる。攻防力は相手と同じ70。強化系の攻撃ならこれで十分だ。

 だが足りないだろうというジーラの予想通り、棍の攻撃とほぼ同時に襲い掛かった激痛は、オーラによる防御を明らかに貫通していた。

(つんざくような轟音。視界がホワイトアウトするほどの閃光。一本の線のように接触点から地面に続いていく激痛。そしてわずかに残る痺れた感覚。なるほどこれは……)

「……雷、カ」

「ご名答。これが俺の能力、【雲耀雷霆(ケラウノス)】だ」

 電気が単純なオーラの防御を貫通できるのは本編でキルアが証明している。

 ならばそれをより強力にした雷電ならば、一撃で敵に大ダメージを与えられるのは道理。

 オーラに雷の性質を付与する。それがカイメラの【雲耀雷霆(ケラウノス)】だ。

「変化系、カ」

「そう言うテメエは強化系だな。待ちに回って格闘戦を選ぶ。放出や操作ならそうはいかない。具現化系なら、何も出さずにオレの【雲耀雷霆(ケラウノス)】を耐えきるはずがない」

 攻撃。雷撃。攻撃、雷撃。

 根を振るい、拳を放ち、蹴りを繰り出す。そのたびに肉体に走る激痛に、ジーラは、顔をしかめた。

 だが、それで終わる彼女ではない。

「ソレ、ハ、ドウカ、ナッ!」

 カイメラの攻撃に合わせ、ジーラも拳を放つ。

 拳にはオーラが込められていた。だがそれは『凝』ではない。『硬』だ。

 攻防力70でさえ防ぎきれない雷撃だ。全身の防御にオーラを割くのは無意味とジーラは判断した。

 防御を捨てたクロスカウンター。だが強化改造されたジーラの肉体ならば落雷さえも凌ぎきる。

 故にそれは勝利の一撃となる、はずだった。

「甘ェよ、ボケ」

 雷撃。だが向けられたのはジーラの胴体や頭部ではない。

 標的は両足。全力のパンチを放つため胴体を回転させようとしていた足に、まさにその瞬間を狙って雷撃が襲い掛かる。

 雷撃は皮膚を、筋肉を、血管を破壊する。そして同時に発生する、感電による反射的かつ強制的な筋肉の収縮反応。

 それは胴体回転を過剰に加速させ、拳の進行方向を狂わせた。

 明後日の方向に殴りかかるジーラの側頭部を、カイメラの棍が雷撃と共に殴打する。

「ガッ!」

「ハッ。マジかよ。普通なら今ので足も頭も終わりだぞ」

 ジーラは未だ立っている。

 立って、カイメラを睨みつけている。

「ガァッ!」

 再び攻撃。冷や汗を流すカイメラに、再び『硬』を纏った拳が迫る。

「だから」

 雷撃。

 狙いは外れ、隙を晒し、カイメラの攻撃が襲い掛かる。

「アァッ!」

「甘いんだよ!」

 雷撃。

 外れ、晒され、襲い掛かる。

 戦いは一方的な様相を呈していた。

 ジーラの攻撃は一切当たらない。予備動作の段階で看破され、肉体運動をピンポイントで狂わされ、見当違いの方向を殴ってしまう。

 対してカイメラの反撃はタイミングも狙いも完璧。全身の急所という急所に雷撃と打撃が撃ち込まれる。

 何度も。何度も。

 何度も何度も何度も何度も。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 ジーラは一方的に攻撃され続けた。

 それでも。

 それでも彼女は止まらない。

 なぜならそれが──

「ァァアッ」

 それが、彼女の────

「……最高だなァ、オイッ!」

 雷撃と、打撃。

 だがそれは今までのそれを大幅に上回っていた。

 常人ならば一撃で焼死する攻撃を何十回と浴びて、なお攻める姿勢を止めないジーラに、このままでは埒が明かないと判断したのだ。

 今までの十倍近いオーラを込められた雷撃はジーラの腹部を貫通し、内臓と背骨を粉砕し大穴をあけた。

「────」

「強ぇな、お前。舐めてたよ。悪かった」

 そう言って、カイメラはジーラの瞳を見つめる。

 それは敬意だった。

 どれほど攻撃されても倒れぬ、不屈の精神に対する、戦士としての敬意。

 だが。

「……ウソだろ」

 カイメラはそこに、未だ朽ちぬ意志の炎を見た。

「────ぁ」

 ジーラの口から、言葉が漏れる。

 同時に、彼女の腹部の傷口が、蠢き始めた。

「なん、だよ、それ」

 カイメラは、思わず笑った。

 歓喜で、興奮で、笑っていた。

 ジーラの腹部から炭化した細胞が崩れ落ち、内側からピンク色の新たな細胞が現れるのを見て、笑っていた。

 即座に増幅する細胞が、傷口を完全に埋め尽くしたのを見て、声をあげて笑っていた。

「ハハハッ、ハハハハハハッ! 再生! 再生か! なるほど、それがテメエの念能力────」

 笑っていたが、故に。

 カイメラは、()()をまともに喰らってしまった。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!」

 

 

 絶叫。いや。

 ()()は、咆哮だった。

 天地を震わせ草木を薙ぎ、至近距離のカイメラを三十メートル以上吹き飛ばす、怪物のごとき咆哮だった。

「ごッ、がはッ!」

 油断したところに思わぬ衝撃を喰らい、それでもカイメラは倒れなかった。

 吹き飛ばされ転びそうになりながらも、回転によって勢いを制御し、何とか立ち続ける。

 耳鳴りに顔をしかめながら、再生したジーラの腹部を睨みつけた。

「……なるほどな。何十回攻撃しても立ってるわけだ。即死以外のダメージは即座に再生しちまうわけだからな」

 肉体改造により、ジーラの細胞は既に通常の人間のそれから完全に逸脱している。

 圧力や熱、毒素に対する高い耐性。

 そして高い自己再生能力。

 それらの働きをオーラによって『強化』し、致命傷すら一瞬で治癒させる。

 それがジーラの二つ目の能力、【G細胞(カイジュウセル)】。

 そして。

「……ガ、ア」

 ジーラの着ていた衣服が消えた。

「……具現化系!?」

 そう。ジーラの服は具現化系能力によって実体化していたオーラだ。

 能力はない。破れても、燃えても、瞬時に作り直せるだけ。そもそもそれは能力ですらなかった。

 それは制約であり、誓約であった。

 衣服が具現化させている間、オーラ運用の効率を半分にするという制約。

 そして。

 衣服の具現化が解除された場合、ジーラ=ガッドゥは人としての理性を放棄するという誓約。

 それは自らを鍛えるために課した枷。

 それは、人としての在り方を捨てるという覚悟。

 今この瞬間、ジーラは人ではなくなった。

 異形の体、理外の細胞、人外の知性。

 それは怪物……いや。

 ()()だった。

「ッ!」

 衣服が消え、露出した背びれが、青く光り始める。

 真昼の太陽に晒され、ジーラの胴体に遮られ、それでもなお目に見える、青い光。

「させるかッ!」

 彼我の距離は三十メートル。カイメラならば瞬き三つでゼロにできる。

 すなわち。

 足ではジーラの攻撃に間に合わない。

 だからこそ、彼女は走らなかった。

 代わりに雷撃を放った。

 秒速十万キロという超高速は、三十メートルも三百メートルも一瞬でゼロにする。

 狙いは片足。足元を崩せばいかに強靭な体軸を持とうと姿勢を崩し、攻撃を外す。

 カイメラの考えは正しく、そして間違っていた。

 彼女は近接戦闘のプロフェッショナルであったが、遠距離戦闘においては銃の扱いに慣れているという程度に過ぎなかった。

 故に見誤った。

 足を掬われようと、姿勢を崩そうと。

 射線が通っていれば攻撃は当たるという、簡単な事実を。

「…………ッ!」

 (ゴウ)ッと、ジーラの口から青白い灼熱が放射された。

 姿勢を崩しながらも、真っ直ぐに、カイメラめがけて。

 

 体内炉心で生成された熱エネルギーを、オーラによって強化し、収束させ口内より射出する。

 これこそがジーラ=ガッドゥの必殺技、【放射熱線(カイジュウキング)】である。

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