白い少女はただ善く生きたい ――人々の瞳に映る少女は、ひとつではない――   作:不明さん

18 / 18
第18話 新しい日課

 ノエラとロランが教会で暮らし始めてから、数日が過ぎていた。

 

 リヴィアが目を覚ました時、窓の外はまだ薄暗く、朝の祈りまでは少し時間があった。

 

 身支度を整え、自室を出た。

 

 普段なら最初に洗い場へ行き、顔を洗うための水と布を確かめる。

 

 だが、廊下へ出た時にはすでに水の入った桶が洗い場の前へ置かれていた。

 

 近くには使い終えた布を入れる籠と、朝に使う四枚の布が分けて置かれている。

 

 誰が用意したのか考えていると、小部屋の扉が開き、ロランが空の桶を持って出てきた。

 

「おはようございます」

 

「おはよう」

 

 ロランは答え、リヴィアの横を通って洗い場へ向かった。

 

「その桶は、どこへ運ぶんですか?」

 

「炊事場。水が少なかった」

 

「洗い場の桶も、ロランが運んだんですか?」

 

「うん」

 

 リヴィアは洗い場の前に置かれた桶へ目を向けた。

 

 一人で満杯の桶を運ばないよう、アドリアンから言われている。

 

「一人で運んだんですか?」

 

「半分にした」

 

 水の量を減らせば、一人でも運べる。

 

 言われたことには反していないのかもしれない。

 

「次の桶は、私も持ちます」

 

「持てる」

 

「二人の方が早いです」

 

 以前、ロランから言われた言葉を返すと、ロランは少し黙った。

 

「まだ入ってない」

 

「では、水を入れてから一緒に運びましょう」

 

「分かった」

 

 ロランが空の桶を置く。

 

 その間に炊事場の方から、畳まれた布を何枚か抱えているノエラが出てきた。

 

「おはようございます、リヴィア」

 

「おはようございます。それは何ですか?」

 

「昨日使った布です。今日は洗濯をする日だと聞いたので、先に集めておけば後で探さなくて済むと思いまして」

 

 ノエラは洗い場の籠へ汚れた布を重ねた。

 

「もう全部集めたんですか?」

 

「礼拝堂と炊事場の分だけです。寝室の物は、本人に聞いてからにした方がよいと思いました」

 

 持ち物を勝手に動かさないことは覚えているらしい。

 

 だが、朝の祈りより前に行うよう頼まれた仕事ではない。

 

「ノエラは、顔を洗いましたか?」

 

「まだです。でも、布を集めるだけならすぐに終わります」

 

「ロランもですか?」

 

「まだ」

 

 二人とも、起きてから自分の身支度より先に仕事を始めている。

 

「先に顔を洗いませんか?」

 

「私は後でも大丈夫です」

 

 ノエラはそう答え、籠の中の布を整え始めた。

 

 ロランも桶のそばに立ったままである。

 

 二人が来る前は、リヴィアが一人で水と布を確かめていた。今は、起きた時には一部が終わっている。

 

 アドリアンの仕事も減るのだから悪いことではない。ただ、自分の支度を後回しにしてまで働く必要はないはずだった。

 

「では、残りは私が行います」

 

 リヴィアは籠の横へしゃがんだ。

 

「ノエラは顔を洗ってください。ロランも、桶はそのままで構いません」

 

「ですが、リヴィアにはほかの仕事がありますよね?」

 

「礼拝堂の掃除と朝食の準備があります」

 

「それなら、私が布を集めます」

 

「私が行えば、二人は少し休めます」

 

 ノエラは籠から手を離さなかった。

 

 ロランも桶のそばから動かなかった。

 

 三人で顔を見合わせる。

 

 このまま話していても、朝の祈りまでの時間が減るだけだった。

 

「では、ノエラは布をお願いします。ロランは、私と桶を運びましょう」

 

「リヴィアは?」

 

「その後、礼拝堂を掃除します」

 

「朝食の準備もありますよね?」

 

「神父さまと行いますから、大丈夫です」

 

 ノエラはまだ何か言いたそうに見えたが、短く頷いた。

 

「分かりました」

 

 リヴィアとロランは洗い場の水瓶で水を何度かすくい、桶へ半分ほど入れた。両側の取っ手を持ち、二人で炊事場まで運び桶を床へ置くと、ロランはすぐに食料庫の近くへ目を向けた。

 

「野菜も運ぶ?」

 

「朝食に使う分は、神父さまが出します」

 

「俺が出せる」

 

「食料庫の鍵は、まだ神父さまへ尋ねることになっています」

 

「分かった」

 

 ロランは食料庫から離れたものの、次に行うことを探すように炊事場を見回した。

 

「顔を洗ってきてください」

 

「その後は?」

 

「朝の祈りです」

 

「終わったら?」

 

「朝食です」

 

「その後は?」

 

 リヴィアは答えに詰まった。

 

 掃除、洗濯、食事の片づけ。やることはいくつもある。

 

 だが、すべてを今からロランへ伝えれば、言われた順に一人で始めるかもしれない。

 

「神父さまへ確認してから決めましょう」

 

「分かった」

 

 ロランはようやく洗い場へ向かった。

 

 リヴィアは礼拝堂へ移り、入口に近い長椅子から掃除を始めた。

 

 いつもより早く終わらせれば、その分だけノエラとロランへ任せる仕事を減らせる。そう考え、長椅子を一つ拭いては次へ移り、普段より手を速く動かした。

 

 朝の光が差し込み始める頃には、入口側の半分が終わっていた。

 

「リヴィア」

 

 呼ばれて振り返ると、アドリアンが礼拝堂の奥に立っていた。すでに司祭服へ着替えていた。

 

「おはようございます、神父さま」

 

「おはようございます。ずいぶん早く掃除を始めましたね」

 

「二人が水と布を用意してくれていましたから、その分、こちらを進めておこうと思いました」

 

 アドリアンが洗い場の方を見ると、ノエラとロランはすでに顔を洗い終え、洗い場を整えているところだった。

 

「二人には頼んでいません」

 

「自分から始めていました」

 

「そうですか」

 

 アドリアンは、リヴィアの持つ布へ視線を戻した。

 

「朝の祈りまで、長椅子をすべて拭くつもりですか?」

 

「できるところまでです」

 

「急ぐ必要はありません」

 

「ですが、早く終われば、後で二人が休めます」

 

 アドリアンはすぐには答えなかった。

 

 洗い場からノエラとロランが戻ってくる。

 

「おはようございます、アドリアン司祭」

 

「おはようございます、ノエラ」

 

「おはようございます」

 

「おはようございます、ロラン」

 

 アドリアンは三人を順に見た。

 

 ノエラの袖口は水で少し濡れている。ロランの裾にも水を運んだ時についたらしい跡があった。リヴィアの手には長椅子を拭いていた布がある。

 

「まず、使った物を片づけましょう。リヴィアも掃除はそこまでで構いません」

 

「はい」

 

 リヴィアは布を畳んで所定の場所へ戻した。ノエラとロランも濡れた袖や裾を軽く整える。

 

 三人が揃うのを待ってから、アドリアンは礼拝堂の前方へ目を向けた。

 

「では、朝の祈りを始めます」

 

 朝の祈りを終えると、四人は炊事場へ向かった。

 

 朝食の器を出そうとすると、ノエラが先に棚へ手を伸ばした。

 

「私が並べます」

 

「昨日は、リヴィアが行っていました」

 

「今日は私が行った方がいいと思います」

 

「では、私は食事の準備を手伝います」

 

 リヴィアが鍋へ向かうと、ロランが水の入った器を持ち上げた。

 

「これ、運ぶ」

 

「そのままで構いません。先に座ってください」

 

 三人とも動きを止めた。

 

「まだ器を並べていません」

 

「私が行います」

 

「でも」

 

「座ってください」

 

 アドリアンの声は普段と変わらなかったが、ノエラは棚から手を離し、ロランも器を元の場所へ戻した。

 

 三人が席へ着いた後、アドリアンが食器と食事を運んだ。

 

 リヴィアは、何も持たずに待っていることが落ち着かなかった。

 

 ノエラも膝の上で手を組み、何度か炊事場へ視線を向けている。

 

 ロランはアドリアンが運ぶ鍋を見たまま、椅子から立とうとはしなかった。

 

 四人分の器が並ぶ。

 

 胸元で両手を組み、食前の祈りを唱えた。

 

「女神の恵みと、今日の糧に感謝します」

 

 四人の声は、二人が来た日の夕食よりも揃っていた。

 

 祈りを終え、食事を始める。

 

 だが、ノエラは普段より口へ運ぶ速度が遅い。ロランも食事の合間に、洗い場の方を見ている。

 

「食事が合いませんか?」

 

 アドリアンがノエラに尋ねた。

 

「いいえ。おいしいです」

 

「では、何か気になることがありますか?」

 

「布を途中までしか集めていません」

 

「俺も、水をもう一度運びます。リヴィアも、長椅子の掃除が途中です」

 

「はい。ですが、食事の後に行えば間に合います」

 

「三人とも、朝の祈りより前から仕事をしていたのですね」

 

 アドリアンの言葉に、ノエラが少し姿勢を正した。

 

「できることは、先に行っておいた方がいいと思いました」

 

「水が少なかったので、運びました」

 

「私は、二人が休めるように、残りを進めようとしました」

 

 答えてから、三人とも理由は違うのに、していることは似ていると気づいた。

 

 自分が先にできることをしておけば、ほかの誰かの負担が減る。

 

 ノエラも、ロランも、リヴィアも、それぞれ似たように考えていた。

 

「食事が終わったら、話をしましょう」

 

 アドリアンはそう言い、食事を続けた。

 

* * *

 

 朝食の片づけはアドリアンが行い、リヴィアたち三人は礼拝堂脇の小部屋へ移った。

 

 ノエラとロランの寝具は壁際へ畳まれている。三人が小さな机を囲んで座ると、アドリアンは一枚の紙を置いた。

 

「二人が来てから、教会で行うことは増えました。食事の量も、洗う衣服も、水の使用量も増えています。皆で分けた方がよい仕事もあるでしょう」

 

 ノエラは、机の上の紙へ視線を落とした。

 

「では、私たちも手伝ってよいのですね?」

 

「ええ。ただし、その前に確認しておくことがあります」

 

「ノエラは、なぜ朝早くから布を集めたのですか?」

 

「今日は洗濯をする日だと聞いていました。先に用意しておけば、ほかの仕事が早く終わると思ったからです」

 

「早く終わらせた後は、何をするつもりでしたか?」

 

「……ほかに必要なことがあれば、それをします」

 

「必要なことがなければ?」

 

「……何か探します」

 

 アドリアンは次にロランを見た。

 

「ロランは、なぜ一人で水を運んだのですか?」

 

「持てるからです」

 

「運び終えた後は?」

 

「ほかの物を運びます」

 

「運ぶ物がなければ?」

 

 ロランは答えなかった。

 

「リヴィアは、なぜ二人の分まで仕事を進めようとしたのですか?」

 

「二人には、まだ慣れていない場所です。少し休んでもらった方がよいと思いました」

 

「あなた自身は休まなくてもよいのですか?」

 

「私は、今までと同じですから」

 

 アドリアンは三人の返答を聞いた後、机の上の紙へ視線を落とした。

 

「ここで暮らすために、働いて役に立つことを示す必要はありません」

 

 ノエラが顔を上げた。

 

「ですが、何もしないままでは」

 

「何もできない日もあります」

 

 アドリアンが言葉を重ねる。

 

「病気になれば、寝台から起きられないこともあるでしょう。疲れていれば、普段できることができない日もあります。その日に仕事ができなかったからといって、食事を与えないことも、ここから出ていくよう求めることもありません」

 

 ノエラは黙って聞き、ロランは机へ視線を落としていた。

 

「家事は、この教会へ置いてもらうための代金ではありません。ここで一緒に暮らす者が、生活しやすいように分けて行うものです」

 

 ノエラは少し迷い、確かめるように小さな声で尋ねた。

 

「何もしなくても、ここにいていいんですか?」

 

「ええ。仕事ができない日があっても、それでここにいられなくなることはありません」

 

「ただ、皆で使う場所の掃除や自分で使った物の片づけは、ここで暮らす者同士で分けます」

 

「分かりました」

 

「ですが、それとここで暮らす資格を示すことは別です」

 

 ノエラがゆっくり頷くと、アドリアンはロランへ視線を移した。

 

「ロラン」

 

「はい」

 

「重い物ばかりを自分で引き受ける必要もありません」

 

「持てます」

 

「持てるかどうかだけで決めません。水を一人で運び続けて腕を痛めれば、次の日には何も持てなくなります」

 

「半分にしました」

 

「量を減らしたことは適切です。ですが、一人で行うと決める前に、誰かへ伝えてください」

 

「分かりました」

 

「それから、リヴィア」

 

「はい」

 

「二人を休ませるために、あなたがほかの仕事まで引き受ける必要もありません」

 

「すべてを行うつもりではありませんでした」

 

「今朝は、二人が行っていない仕事をできるだけ自分で進めようとしていました」

 

 否定できなかった。

 

 ノエラとロランが仕事をしているのを見て、自分は別の仕事を始めた。

 

 三人で分けるのではなく、三人とも自分が多く行おうとしていた。

 

「手伝うことと、ほかの人の役割まで引き受けることは別です」

 

 責任を負うことと手伝うことは別だと、マルタから教わった。

 

 それは分かっていたはずなのに、二人を休ませたいと思うと、自分が代わればよいと考えていた。だが、先回りして手を出せば、相手が自分でしようとしていたことまで取り上げることになる。

 

「分かりました」

 

 リヴィアが答えると、アドリアンは机上の紙へ文字を書き始めた。

 

「しばらく、簡単な当番を決めます」

 

「当番ですか?」

 

「生活の中で繰り返し行う仕事を一人へ偏らせないためです」

 

 食事の器を並べる者。

 

 食後に器を洗う者と拭く者。

 

 礼拝堂の長椅子を拭く者。

 

 洗濯をする者。

 

 水を運ぶ時は、一人で満杯にせず、二人で運ぶこと。

 

 アドリアンは一つずつ紙へ書き、三人にできることや希望を確かめながら、順番を決めていった。

 

 食事を作ることや火を長く使う作業、特に重い荷物の運搬は、引き続きアドリアンが行う。

 

 リヴィアは食事の下ごしらえを手伝う。

 

 ノエラとロランも、使い方を教わった後にできる範囲を増やす。

 

「当番の仕事が終わったら、次は何をすればいいですか?」

 

「何も頼まれていなければ、好きなことをしてください」

 

「好きなことですか?」

 

「本を読んでも、礼拝堂で過ごしても、小部屋で休んでも構いません。ほかに手伝えることがないか尋ねてもよいですが、断られたら別の仕事を探し続ける必要はありません」

 

 ノエラはすぐには返事をしなかった。

 

「分かりました」

 

「ロランも、それでよいですか?」

 

「仕事が残っていても、ですか?」

 

「自分の当番が終わり、急いで行う必要がない仕事なら、残っていて構いません」

 

「次の日にやるんですか?」

 

「ええ」

 

「分かりました」

 

 アドリアンは紙の下へもう一つ書き加えた。

 

「体調が悪い日や疲れている日は交代します」

 

「自分の当番でもですか?」

 

 ノエラが紙を見ながら尋ねる。

 

「当番だからこそ、できないことを伝えてください。黙って行えば、周囲は疲れていることに気づけません」

 

 リヴィアは紙へ目を落とした。

 

 三人の名前が同じ大きさの文字で並んでいる。

 

 自分の名前が最初にあるわけでも、二人の上に書かれているわけでもない。

 

 三人ともこの教会で暮らす子供として、それぞれできることを分けられていた。

 

* * *

 

 昼を過ぎた頃、炊事場の水桶の水が少なくなった。

 

 ロランが空の桶を持って洗い場へやって来た。

 

「リヴィア」

 

「はい」

 

「水、運ぶ?」

 

「私の当番ではありませんが、一緒に運ぶ人が必要ですね」

 

「うん」

 

 リヴィアとロランは洗い場の水瓶から何度かすくって桶へ水を移し、半分より少し多いところで止めた。

 

 両側の取っ手を一つずつ握って持ち上げる。一人で運んでいた時より、腕へかかる重さはずっと小さかった。

 

 分かりきったことのはずなのに、その違いが妙におかしく、リヴィアは思わず笑った。向かいのロランと目が合った。

 

「軽いですね」

 

「二人だから」

 

 そのまま廊下へ出ると、ノエラが小部屋から出てきた。

 

「私も手伝いましょうか?」

 

「二人で持てています」

 

「分かりました。では、先に炊事場の扉を開けます」

 

 ノエラは桶へ手を出さず、先に扉を開いた。

 

 中へ運び、床へ下ろす。

 

「これで終わり?」

 

「水は終わりです」

 

「次は?」

 

 リヴィアは少し考えた。

 

 まだ洗濯物が残っている。

 

 礼拝堂の奥も、今日は掃除していない。

 

 だが、急ぐ必要はない。

 

「今はありません」

 

「そう」

 

 ロランは桶から離れた。

 

 何かを探すように一度周囲を見た後、小部屋へ戻っていく。

 

 ノエラも後へ続こうとしたが、途中でリヴィアを振り返った。

 

「本当に、ほかにありませんか?」

 

「ありません。洗濯の続きは夕方でも間に合います」

 

「では、小部屋へ戻ります」

 

「はい」

 

 二人が去った後、リヴィアは洗い場に残っていた布へ手を伸ばしかけた。

 

 自分の当番は、夕食の下ごしらえである。

 

 洗濯は、今日のノエラの当番になっていた。

 

 今のうちに進めれば、ノエラが休める。

 

 そう考えたところで、朝の話を思い出す。

 

 休ませたいからといって、相手が自分で行う仕事まで先回りする必要はない。

 

 リヴィアは布から手を離した。

 

 夕食に使う野菜を確認するため、炊事場へ向かった。

 

* * *

 

 午後の礼拝が終わった後、マルタが教会を訪れた。

 

 ノエラとロランを連れてきた日の帰り際に告げていたとおり、二人の様子を確かめるためである。

 

 小部屋で向かい合うと、マルタはまず二人へ尋ねた。

 

「食事は足りていますか?」

 

「はい。今は、食べられる量を伝えています。足りない時は、追加をお願いしています」

 

「足りなければ言っています」

 

「夜は眠れていますか?」

 

「はい。最初の日は何度か目が覚めましたが、今は眠れています」

 

「俺も眠れています」

 

「ここで暮らしていて、まだ分かりにくいことはありますか?」

 

 ノエラとロランは少し考えた。ノエラが隣のロランへ目を向けると、ロランはまだ考えているようだった。

 

「私は、何かしていないと落ち着かない時があります」

 

「その時は、どうしていますか?」

 

「自分の当番を確かめます。終わっていれば、ほかに必要なことがあるか、一度だけ聞くことにしました」

 

「断られた場合は?」

 

「小部屋へ戻ります」

 

「それで構いません」

 

 マルタはロランへ顔を向けた。

 

「ロランは?」

 

「手伝っていい範囲が、まだ分かりません」

 

「迷った時は、どうしていますか?」

 

「先に聞いています」

 

「それでよいでしょう。リヴィアはどうですか?」

 

「二人の当番を先に行わないようにしています」

 

「行いたくなるのですね」

 

「はい」

 

 マルタは机の上に置かれた当番表を確かめた。

 

「三人とも、似たところがありますね」

 

 リヴィアが二人を見ると、ノエラもこちらを見返し、ロランだけは机の上の紙へ視線を向けていた。

 

「似ていますか?」

 

「自分が多く行えば、ほかの人が困らないと考えるところです」

 

 マルタはアドリアンへ顔を向けた。

 

「食事と睡眠に大きな問題はなく、困った時に尋ねることもできているようですね」

 

「ええ。教会内の場所と日課にも、少しずつ慣れています」

 

「では、今すぐではありませんが、次の受け入れについて相談を始めてもよいかもしれません」

 

 リヴィアは顔を上げた。

 

「次の受け入れですか?」

 

「ええ。次に受け入れを考えている子供が、二人います」

 

 ノエラも当番表から顔を上げた。

 

「私たちより年下ですか?」

 

「九歳の少女と八歳の少年です」

 

 二人とも、リヴィアより年下だった。

 

 教会へ来れば、洗面場所も、食事の決まりも、相談者がいる時の過ごし方も教える必要がある。

 

 ノエラは何かを言いかけたが、先に机上の当番表へ視線を落とした。

 

「私が二人の世話をするのではないんですよね?」

 

「ええ。迎える手伝いはできます。ですが、二人を育てる責任はアドリアン司祭にあります」

 

「分かりました」

 

 ノエラは今度は迷わず答え、ロランがマルタへ顔を向けた。

 

「荷物は多いですか?」

 

「二人分ですから、一人で運べる量ではないでしょう」

 

「一人では持ちません」

 

「そうしてください」

 

 ロランは短く頷いた。

 

 リヴィアは、机の上に並んだ三人の名前を見た。

 

 二人が増えれば、食卓の器も、洗う布も、水の量も増える。

 

 今の当番も、そのままでは足りなくなるかもしれない。

 

 だが、誰か一人がすべてを引き受ける必要はない。

 

 その時にいる者で、できることを分け直せばよい。

 

「神父さま」

 

「何ですか」

 

「二人が来る前に、もう一度、当番を考えた方がいいでしょうか?」

 

「そうですね」

 

 アドリアンは当番表を手に取った。

 

「ですが、今日決める必要はありません」

 

「はい」

 

 空いた時間に、先の仕事まで始めなくてもよい。

 

 必要になった時に、皆で決めればよい。

 

 新しい日課は、すべての仕事を早く終わらせるためのものではなかった。

 

 誰がどこまで行い、いつ休み、困った時には誰へ頼るのかを四人で決めておくためのものだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

儚い系うすほそエルフになったので自由を謳歌する(作者:うすほそ~(挨拶))(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

人生に疲れていた社畜は、気がつけば異世界で儚い系うすほそエルフとなっていた。▼当然チートも持っている。▼ちょっと儚すぎること以外、何一つ不満のない状況を手に入れたのだ。▼これからは自由に生きていい、そんな幸福感に満ちながらうすほそエルフ”リリア”の新たな人生は始まった。▼しかし儚すぎる見た目のせいで、生き急いでいるようにしか見えないうすほそは、周囲に多大な心…


総合評価:837/評価:8.44/連載:5話/更新日時:2026年08月30日(日) 12:35 小説情報

TS少女は野蛮な世界を塗り替えたい(作者:きうりの魂)(オリジナル現代/冒険・バトル)

林檎が木から落ちるように殺人が勃発する世界。▼暴力が全てを肯定する世界で、TS少女は考えた。エネルギッシュ野蛮人しか居ないし、平和な空間が欲しいなあと。


総合評価:452/評価:7.31/連載:15話/更新日時:2026年08月11日(火) 23:30 小説情報

『世界くらい救ってこい!』と送り出した子分、十年経ったら様子がおかしい(作者:べべべのすけ)(オリジナルファンタジー/恋愛)

転生したら村娘だった。▼そんな俺の特筆すべき点は、勇者の幼馴染であること。▼「俺の子分なら、世界くらいパパッと救ってこい!」▼そう言って送り出して十年。▼帰ってきた勇者の様子が、なんかおかしい。▼*TS転生、精神的BLものです。


総合評価:401/評価:8.91/完結:10話/更新日時:2026年08月23日(日) 21:00 小説情報

いきなり許嫁候補!? ~分家序列最下位からの成り上がり?!私、望んでませんから!ほっといてくださいよ!~(作者:天野建)(オリジナル現代/ノンジャンル)

私は前世、戦場で死んだー。▼これでやっと休めると思ったら、次の瞬間には生まれ変わっていた。▼なんだと!?少しは休ませて欲しいのである!▼それになんということか!▼生まれた世界は、前世とはまったく異なっていたのである!▼そこには馬もつけずに高速で走る乗り物、車なるもの。▼金属の平面に、人間が入り込み情報を無限に発するもの、テレビなるもの。▼私が驚愕する数々の文…


総合評価:708/評価:7.71/連載:40話/更新日時:2026年08月14日(金) 23:20 小説情報

居場所をなくしたTS聖女は魔法少女と出会う(作者:綺羅星瑠奈)(オリジナル現代/冒険・バトル)

聖教による世界統治の為、象徴として利用されたTS転生聖女のルナ。▼勇者パーティの仲間だった魔法使いによって前世の現代日本に転移する。▼しかしそこは魔法少女がいる世界だった。▼妹にも信じてもらえず、死んだ方が楽なのではないか思っていたところで、死にかけの魔法少女に出会う。▼異世界でも現代でも居場所をなくしたサポート特化のTS聖女と困っている人を見捨てられない近…


総合評価:1300/評価:8.77/連載:16話/更新日時:2026年08月31日(月) 21:15 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>