白い少女はただ善く生きたい ――人々の瞳に映る少女は、ひとつではない―― 作:不明さん
マルタの教会へ見学に行ってから、何日か経った朝。
リヴィアは食卓に並んだパンを見ながら少し考え、いつもの分とは別に、もう半分だけ自分の皿へ取った。その様子に、向かいに座っていたミアが気づいた。
「リヴィア、今日多いね」
「少しだけ増やしてみました」
「お腹すいてるの?」
「そういうわけではないんですけど」
答えながら、リヴィアは自分の皿を見る。
この前、服を確かめた時、自分だけほとんど大きさが変わっていないことに気づいた。
小柄なのは、それほど気にならない。
前の世界でも、背の高さは食事だけで決まるものではなく、遺伝や体質にも左右されると知っていた。今の自分の両親がどんな体格だったのかは分からず、もともと小柄な家系だった可能性もある。
ただ、自分が昔から食べる量も少ないのは確かで、それなら一度くらい少し増やしてみてもいいかもしれない。
その程度の思いつきだった。
「では、女神の恵みと、今日の糧に感謝します」
アドリアンの言葉に合わせ、全員で食事前の祈りをする。
食べ始めると、ミアはすぐに自分の皿へ集中し、ロランとテオも話しながら食べていた。ノエラはテオが袖を器へ入れそうになっているのを一度だけ注意して、それから自分の食事へ戻った。
リヴィアもパンを口へ運ぶ。いつもの分は問題なく食べられ、スープとパンを食べ終えれば、普段ならこれで終わりだった。けれど、皿には追加した半分が残っている。もう十分に満腹だった。
それでも、一口取る。
噛んで、飲み込む。
もう一口。
「リヴィア」
呼ばれて顔を上げると、アドリアンがこちらを見ていた。
「はい?」
「無理をして食べていませんか?」
「……まだ食べられます」
「食べられるかではなく、もう満腹ではありませんか?」
少し考えたが、嘘をつく理由はなかった。
「ほとんど満腹です」
「では、そこでやめてください」
「でも」
言いかけて止まると、アドリアンが少し首を傾けた。
「何か理由があるのですか?」
ほかの子供たちもこちらを見始めていた。テオはパンを持ったまま止まり、ミアもスープの器から顔を上げている。
「食事が終わってから話します」
「分かりました。ですが、そのパンは残して構いません」
「はい」
追加した分を皿へ戻した。残すことには少し抵抗があったが、あとで食べることはできる。
ミアが尋ねた。
「リヴィア、具合悪いの?」
「悪くないですよ」
「じゃあ、なんでいっぱい食べたの?」
「ちょっと試してみただけです」
「何を?」
「それはあとで神父さまに話します」
「わたしも聞いていい?」
「ミア。本人が神父さまと話すって言ってるんだから」
「でも気になる」
「後で話してもいいことなら、リヴィアが話してくれるよ」
ミアは少し不満そうだったが自分の器へ戻り、リヴィアも食事を終えた。皿には追加したパンだけが残った。
* * *
朝食の片づけが終わり、ほかの子供たちがそれぞれ朝の支度へ移ったところで、アドリアンがリヴィアへ声をかけた。
「それで、どうして今日は食べる量を増やしたのですか?」
「この前、服を確認したでしょう?」
「ええ」
「みんなの服は小さくなっていましたけど、私の服はほとんどそのままでした」
「そうですね」
「それで、食べる量も少ないので、少し増やしたら何か変わるのかなと思って。試してみました」
口にしてみると、少し大げさな理由に聞こえた。
「小さいだけなら、親に似たとか、もともとの体質とか、そういうこともあると思うんです。私は両親のことを知らないので分かりませんけど」
「ええ。体格には個人差があります」
「だから、食事のせいだと思っているわけではないです。ただ、自分で試せることだったので」
「なるほど」
アドリアンの視線が自分の顔から身体へ一度下がる。
「誰かに、もっと食べるよう言われましたか?」
「いいえ」
「食事が足りないと思ったことは?」
「ありません」
それには迷わず答えられた。お腹が減って仕方がないのに我慢してきたわけではない。
「いつも、あれくらいでお腹いっぱいになります」
「今日も?」
「いつもの分を食べたところで、ほとんどいっぱいでした」
「では、無理に増やすのはやめましょう」
「じゃあ、無理に増やさなくてもいいんですね」
「ええ。食べることは身体が育つために必要ですが、満腹なのに食べ続ける必要はありません」
「分かりました」
食べる量を増やせばよいのであれば簡単だったが、そもそもお腹に入らないのであれば仕方がない。
「リヴィア」
「はい」
「少し確認してもいいですか?」
「もちろんです」
「最近、疲れやすくなったり、前なら平気だったことが途中で苦しくなったりは?」
「……いいえ」
「身体のどこかが痛むことはありますか?」
「ありません」
「眠れない日が増えたり、朝起きるのがつらくなったりは?」
「それもないです」
答えていくうちに、食べる量だけを見ているわけではないのだと分かった。
「食べる量だけじゃなくて、体調も関係あるんですか?」
「念のためです。今のところ、何か悪いと決めたわけではありません」
「そうですか」
「あなたが成長の遅さに気づいたのなら、私も気にして見ておくべきだと思っています」
「神父さまも、気づいていたんですか?」
「服を確認した時に」
「そうだったんですね」
考えてみれば当然だった。アドリアンは昔から自分の服を用意し、身体の具合も見てきたのだから、服の大きさが変わっていないことにも気づいていておかしくない。
「でも、今は何も困っていません」
「ええ」
「食事も足りていますし、疲れやすくもないです」
「そうですね」
「じゃあ、今はいつもどおりでいいんですか?」
「ええ。しばらく、食事や体調を今までより少し気にして見ておきます」
「分かりました」
それなら、普段と大きく変わるわけではなさそうだった。
「ただし、食べられるのに遠慮して減らす必要もありません」
「今は遠慮していませんよ」
「今は?」
一瞬、返事が遅れた。
「……小さい頃は、少しだけ。でも、お腹が空いているのに我慢していたわけではありません」
アドリアンは少し考えてから頷いた。
「分かりました。では今後も空腹なら我慢しないこと。満腹なら無理に食べないこと」
「はい」
「それから、身体のことで気になることがあれば話してください」
「分かりました」
「少し気になる程度でも構いません」
「はい」
リヴィアは自分の身体へ目を落とした。見ても成長が遅い理由が分かるわけではない。ただ、今は元気で普段の生活にも困っていない。なら、気になる変化があればアドリアンに話せばよさそうだった。
* * *
昼になり、また全員で食卓についた。リヴィアが皿へ取ったのは朝より少なく、普段と同じくらいの量だった。それに、隣のミアがすぐに気づいた。
「あれ? もういっぱい食べないの?」
「やめました」
「どうして?」
「いつもの分でお腹いっぱいになるなら、無理に増やさなくていいそうです」
「そうなの?」
ミアがアドリアンを見た。
「食べることは大切ですよ」
「じゃあ、いっぱい食べた方がいい?」
「お腹がいっぱいなのに食べ続ける必要はありません」
「テオはいっぱい食べるよ」
「俺は腹減るから」
「わたしも」
二人の話を聞きながら、リヴィアは自分の皿を見る。量も、食べる速さも違う。全員が同じだけ食べる必要はない。
いつもの量を食べ終えると、腹はちょうどよく満たされた。自分があまり大きくなっていない理由はまだ分からないが、朝の試みは一度で終わりにして、次に気になる変化があればアドリアンにも話せばいい。
それなら、ひとまず今日はいつもどおりでよさそうだった。