白い少女はただ善く生きたい ――人々の瞳に映る少女は、ひとつではない―― 作:不明さん
大柄な男性司祭が教会を訪れてから、しばらく後のことだった。
昼を少し過ぎた王都の南東地区を、リヴィアはアドリアンと並んで歩いていた。
今日の目的は、教会で使う紙と蝋燭、それから数日分の食料を買うことだった。
紙はすでに注文を済ませており、あとは受け取るだけだった。蝋燭もすでに受け取っていた。残る買い物は、小麦粉や乾燥させた豆、塩などの食料品だった。
リヴィアが抱えていたのは、石鹸と糸の入った小さな袋だった。重くはないが、片手では歩くたびに中身が動くため、両手で持つことにしていた。
アドリアンは、さらに大きな袋を二つ持っている。
「神父さま。片方を持ちましょうか」
「必要ありません」
「でも、まだ小麦粉も買うんですよね」
「あなたが持っているものだけで十分です」
アドリアンは、歩く速さを変えずに答えた。
以前なら、その言葉に従って終わっていただろう。
今のリヴィアは、アドリアンが何でも自分で運ぼうとすることを知っている。持てないから断っているのではなく、リヴィアへ重い物を持たせたくないだけだろう。
「帰るまでに重くなったら、言ってください」
「重くはなりません」
「まだ買っていない物もあります」
「それを含めてです」
すぐに返事が来た。
これ以上言っても、袋を渡してはもらえそうになかった。
リヴィアが諦めて前を向くと、通りの先に掲げられた看板の金属飾りが、昼の陽光を強く反射した。
白い光が一瞬、視界を横切る。
リヴィアは目を細め、顔を少し伏せた。フードの縁が日差しを遮り、先ほどより見やすくなる。
「フードを、もう少し下げますか」
アドリアンが足を緩めた。
「いいえ。このままで大丈夫です」
先ほどの反射を避ければ、それ以上の問題はない。
リヴィアは心配させないように笑った。
アドリアンは何か言いたそうにしていたが、結局は歩き始めた。
二人が食料品店の近くまで来た時、横手から男性の声が掛けられた。
「これは珍しい。リアン神父ではないか」
アドリアンが足を止めた。
リヴィアも立ち止まり、声のした方を見た。
人の間を抜けて近づいてきたのは、見覚えのない男性だった。
大柄ではない。むしろ衣服の上から見る限りでは、すらりとしている。
清潔に整えられた服を身につけ、口元には自然な笑みを浮かべていた。目が合うと、その笑みが少し深くなる。
先日教会を訪ねてきた男性とは、ずいぶん印象が違った。
あの男性は立っているだけで入口を狭く見せたが、目の前の男性には、相手へ場所を譲らせるような圧迫感がない。
「この時間に会うとは思いませんでした」
アドリアンの声は普段と変わらない。
ただ、男性を見た瞬間、その目がわずかに細くなったように見えた。
「こちらもだ。今夜の約束は覚えているよ」
男性は明るく答えた。
「今ここで用件を済ませようとは思っていない。これは本当に偶然だ」
「そうですか」
「もう少し喜んでもよいのではないか」
「今夜会う予定ですから」
「それもそうだな」
男性は気を悪くした様子もなく笑い、リヴィアへ視線を移した。
「こちらのお嬢さんは?」
「リヴィアです」
アドリアンが答えた。
「教会で育てている子供です」
「あなたがリヴィアか」
男性は少し身体をかがめ、リヴィアと視線の高さを近づけた。
子供と話すことには慣れているらしい。
先日の男性のように、どう接すればよいのか迷っている様子もなかった。
「初めまして。リアン神父とは、以前からの知り合いだ」
「初めまして」
リヴィアは頭を下げた。
「リヴィアと申します」
「丁寧だな」
男性はそう言って、アドリアンが持つ袋へ目を向けた。
「買い物の途中か」
「ええ」
「今夜の客を迎える前に、ずいぶん働いているようだ」
「普段の買い物です」
「なら、少しくらい手伝おう」
「必要ありません」
アドリアンはすぐに断った。
「遠慮するな。私も同じ方向へ行くところだ」
「どこへ向かっているのですか」
「今決めた」
「それは同じ方向とは言いません」
二人のやり取りを聞きながら、リヴィアは男性を見上げた。
親しい間柄なのだろう。
男性がアドリアンを「リアン神父」と呼んでいることからも分かる。
アドリアンは不満そうだが、本当に追い返そうとしているようには見えなかった。
「次は何を買うんだ」
「小麦粉です」
リヴィアが答えると、男性は食料品店の方を見た。
「ちょうどよい。袋を一つ持とう」
「この子へ聞かないでください」
「リアン神父へ聞けば断るだろう」
「分かっているなら、聞く必要もありません」
男性は再び笑った。
結局、三人で食料品店へ入ることになった。
アドリアンが小麦粉の量を店主へ伝えると、奥から大きな袋が運ばれてきた。
男性はアドリアンが手を伸ばすより先にその袋を受け取り、苦しそうな様子もなく抱え上げた。
その時、上着の袖が腕に沿って引かれた。
細身の人だと思っていたが、服の下の腕は意外にしっかりしているらしい。肩の辺りにも、外から見た印象より厚みがある。
服を着ると細く見える体つきなのだろう。
アドリアンも、司祭服の上から見るより身体を鍛えている。
昔からの知り合いなら、二人とも以前から身体を動かす機会が多かったのかもしれない。
何をしていたのだろうと思ったが、尋ねるほどのことでもない。
「どうした?」
男性と目が合った。
腕を見ていたことに気づかれたらしい。
「思っていたより、力がある方なんですね」
リヴィアが正直に答えると、男性は一度自分の腕を見た。
「弱そうに見えたか」
「弱そうではありません。ただ、細い方だと思っていました」
「なるほど。よく見ているな」
男性は笑顔のまま答えた。
怒ってはいないようだった。
「すみません。じろじろ見てしまいました」
「構わない。怖い顔で睨まれるよりはよい」
先日の男性を思い出させるような言葉だった。
単なる言い回しかもしれない。
リヴィアは深く考えず、男性へ笑みを返した。
店を出た後、男性は小麦粉の袋を持ったまま、二人と並んで歩いた。
アドリアンは何度か袋を返すよう求めたが、男性は聞き流していた。
「次は紙でしたね」
リヴィアが言った。
「ええ。注文したものを受け取ります」
アドリアンは男性を見た。
「あなたは、いつまでついてくるつもりですか」
「紙を受け取るまでだ。荷物を持ったまま別れるわけにはいかないだろう」
「今すぐ返せば済みます」
「それでは手伝った意味がない」
男性は上機嫌だった。
紙を扱う店へ着くと、店主がアドリアンを店の奥へ案内した。
注文した紙の一部に、輸送中についたらしい汚れが見つかり、代わりの品を確認してほしいとのことだった。
「ここで待っていなさい」
アドリアンはリヴィアへ言った。
「はい」
「すぐに戻ります」
アドリアンは男性へ視線を向けた。
「余計なことはしないでください」
「紙の店で何ができるというんだ」
「あなたなら、何か見つけるでしょう」
「信用がないな」
男性は笑っている。
アドリアンが店主と奥へ入ると、リヴィアと男性は店先に残された。
男性は抱えていた小麦粉を床へ置き、積まれた紙を眺めた。
「リアン神父は、相変わらず心配性だな」
「そうでしょうか」
「君を一人にするのが心配なのだろう」
「私が店の物へ触らないか心配しているのかもしれません」
「君は勝手に触るのか?」
「触りません」
「なら、やはり心配しすぎだ」
男性は棚から少し離れた場所に立った。
店の物へ触らないようにしているらしい。
「リヴィアは、いつもリアン神父と買い物へ来るのか」
「いつもではありません。一緒に来ることもあります」
「一人で来ることは?」
「まだありません」
「教会では、どんなことをしている?」
「掃除や洗濯を手伝ったり、文字を教えていただいたりしています。最近は、簡単な文章を書き写すこともあります」
「リアン神父の仕事も手伝うのか」
「神父さまから渡されたものは、お手伝いします」
「渡されていないものは?」
「触りません」
リヴィアは答えた。
「順番を変えたり、なくしたりしたら困りますから」
「中に何が書かれているか、気にはならないのか」
「なることはあります」
「見ないのか?」
「神父さまが渡していないものなら、見てはいけないものだと思います」
机の上に置いてあるからといって、すべて読んでよいわけではない。
住民から預かった手紙や相談の記録が含まれている可能性もある。
自分に関係のないものを勝手に読むのは、書いた人にもアドリアンにも失礼だろう。
「リアン神父が、そう教えたのか」
「特別に教わったわけではありません」
「では、自分で決めたのか」
「はい」
男性は少しの間、リヴィアを見ていた。
笑顔は変わっていない。
答え方がおかしかったのだろうか。
「見てはいけないものを見ないのは、普通のことだと思います」
リヴィアが付け加えると、男性は小さく頷いた。
「そうだな。普通のことだ」
そう答えた後、男性は話を変えた。
「リアン神父は、今も忙しいのか」
「お仕事は多いようです」
「どんな仕事をしている?」
「分かりません」
知らないことだったため、リヴィアはそのまま答えた。
「書類を読んだり、何かを書いたりしていることはあります。でも、内容は聞いていません」
「夜遅くまでか?」
「遅くまで起きていることはあります」
「今夜のように、君が寝た後で客が来ることも多いのかな」
「分かりません」
男性がわずかに眉を上げた。
「分からない?」
「私は寝ていますので」
リヴィアは説明した。
「朝まで目を覚まさなければ、夜に誰かが来ても分かりません」
「なるほど」
男性は納得したように頷いた。
「では、昼間にはどんな客が来る?」
「近所の方や、神父さまのお知り合いです」
「知り合いというと?」
リヴィアは少し考えた。
先日来た大柄な男性のことを話してよいのかは分からない。
あの男性もアドリアンの知人だった。
だが、誰がいつ教会へ来たのかを、別の知人へ伝える必要があるのだろうか。
必要なら、アドリアン本人へ尋ねればよい。
「教会へ来た方のことを、私からお話しすることではないと思います」
リヴィアは答えた。
「相談に来た方かもしれませんから」
「私がリアン神父の知人でも?」
「神父さまの知人なら、神父さまから聞けると思います」
「それもそうだ」
男性は笑った。
先ほどまでと同じ、親しみやすい笑顔だった。
「知らないことは知らない。知っていても、自分から話すことではないものは話さない、か」
男性の言葉は、少し難しく聞こえた。
「知っていることでも、全部話さないという意味ではありません」
誤解されたくなかったため、リヴィアは説明した。
「私のことなら、お話しできます。神父さまから文字を習っていることや、今日は買い物へ来たことは、隠すことではありませんから」
「では、リアン神父のことは?」
「神父さまが私へ話していないことを、私が想像してお話しすると、間違ったことを伝えてしまうかもしれません」
男性はリヴィアの顔を見たまま、しばらく答えなかった。
難しいことを言ったつもりはなかった。
知らないことを想像で補えば、事実ではない話になる。
それを本人の知人へ伝えれば、アドリアンへ迷惑をかけるかもしれない。
「何か、おかしなことを言いましたか」
「いや」
男性は答えた。
「よく考えていると思っただけだ」
「ありがとうございます」
褒められたらしい。
リヴィアは笑みを浮かべ、頭を下げた。
その時、店の奥からアドリアンが戻ってきた。
交換する紙が決まったらしく、店主は新しい包みを持っていた。
紙の包みは重くなかったため、リヴィアが受け取った。
「何を話していたのですか」
アドリアンが尋ねた。
「リヴィアが教会で何をしているのか聞いていた」
男性は明るく答えた。
「ずいぶんしっかりした子だな」
「ええ」
アドリアンはリヴィアを見た。
「困らせるようなことは言われませんでしたか」
「いいえ」
「ひどいな。普通に話していただけだ」
男性は小麦粉を持ち上げた。
「これで買い物は終わりか?」
「終わりです」
「なら、昼食にしよう」
アドリアンが眉を寄せた。
「今夜会うのでしょう」
「今夜は仕事の話をする。今は昼食を取るだけだ」
「私たちは教会へ戻ります」
「空腹の子供を連れてか?」
男性がリヴィアを見る。
空腹というほどではない。
ただ、買い物へ出てから時間が経っており、昼食の時刻を過ぎていることは確かだった。
「私は大丈夫です」
「ほら、我慢している」
「我慢はしていません」
「子供はそう言うものだ」
男性がアドリアンへ視線を戻す。
「荷物を運んだ礼だと思えばいい。私が払おう」
「手伝いを頼んだ覚えはありません」
「なら、偶然会った古い知人との食事だ」
アドリアンはしばらく黙っていた。
その後、リヴィアへ尋ねる。
「疲れていませんか」
「大丈夫です」
「お腹は空いていますか」
リヴィアは少し迷った。
ここで空いていないと答えれば、嘘になる。
「少しだけ」
「決まりだな」
男性が先に言った。
アドリアンは男性を見た後、短く息を吐いた。
「近くの店だけです」
「分かっている」
三人は、通り沿いにある小さな食堂へ入った。
昼の混雑が落ち着き始めており、奥の卓が空いていた。
男性は小麦粉の袋を壁際へ置き、リヴィアが座るための椅子を引いた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
注文を終えると、男性は向かいに座ったアドリアンを見た。
「リアン神父が子供と買い物をしている姿を見る日が来るとは思わなかった」
「何が言いたいのですか」
「昔から、子供の世話はしていただろう。だが、今とは少し違って見える」
リヴィアは二人の顔を見比べた。
アドリアンは、以前にも孤児を育てたことがある。
その子供たちは大人になり、教会を出たのだと聞いている。
「神父さまは、以前の子供たちには厳しかったんですか」
「リヴィア」
アドリアンが名前を呼んだ。
尋ねてはいけないことだったのだろうか。
「すみません」
「いや、よい質問だ」
男性が答えた。
「今よりは厳しかったかもしれないな」
「余計なことを言わないでください」
「本人に聞けばよい。私は想像で話すべきではないらしい」
男性がリヴィアを見る。
先ほどの言葉を覚えていたようだ。
「そうですね」
リヴィアは頷いた。
「神父さま。以前は厳しかったんですか」
「必要なことを教えていただけです」
「今も同じではありませんか?」
「そうです」
「では、変わっていないんですね」
アドリアンは答えなかった。
男性は声を上げずに笑っている。
「リヴィアはリアン神父に似たのかもしれないな」
「顔は似ていないと思います」
「そういう意味ではない」
運ばれてきた料理が卓へ置かれた。
野菜と豆を煮たものに、切り分けたパンが添えられている。強い光を発する器具も近くにはなく、目を開けていても眩しさは少なかった。
食事の間、男性はアドリアンの昔の話をいくつかした。
書類を読み始めると食事の時間を忘れること。
人へ休めと言う一方で、自分は休まないこと。
必要な物まで古くなったという理由だけでは捨てようとしないこと。
どれも今のアドリアンに当てはまっている。
「神父さまは、昔から変わっていないんですね」
リヴィアが言うと、男性はアドリアンを見た。
「変わっていないところもある」
「変わったところもあるんですか」
「それは本人に聞いた方がいい」
「あなたが話すのをやめるとは珍しいですね」
アドリアンが言った。
「私も、話してよいことを選ぶことにした」
「今さらですか」
男性は楽しそうだった。
食事が終わる頃には、リヴィアも最初より話しやすくなっていた。
男性は質問が多かったが、自分の話もした。
王都の別の地区へ行ったことや、道中で食べた料理のこと、雨の日に靴を駄目にしたこと。
どれも特別な話ではない。
アドリアンと昔から親しい人なのだと、リヴィアは改めて思った。男性自身にも、最初より親しみを感じていた。
食堂を出ると、男性は教会へ向かう通りの手前で足を止めた。
「私はここで別れる」
アドリアンが手を差し出す。
「荷物を返してください」
「最後まで運んでもよいが」
「結構です」
男性は小麦粉の袋をアドリアンへ渡した。
受け取る際、アドリアンの腕にも力が入る。
二人とも、見た目以上に身体を鍛えているらしい。
「リヴィア」
男性が呼んだ。
「はい」
「今日は話せてよかった。また会った時にも、話し相手になってくれるかな」
「はい」
リヴィアは笑顔で答えた。
「私に分かることであれば」
男性の笑みが、ほんの一瞬だけ止まったように見えた。
だが、すぐに元へ戻った。
「もちろん。それで十分だ」
男性はアドリアンへ顔を向けた。
「では、今夜」
「予定どおりの時刻に」
「分かっている」
男性は二人へ手を上げ、人通りの中へ歩いていった。
その姿が見えなくなるまで、アドリアンは何も言わなかった。
「神父さま?」
「何ですか」
「あの方は、よくお話しになる方ですね」
「ええ」
「昔からのお知り合いなんですよね」
「そうです」
アドリアンの返事は短い。
男性と会ってから、少し表情が硬いように見える。
今夜、何か難しい仕事の話をする予定なのかもしれない。
「私が一緒に食事をしたのは、迷惑でしたか」
「いいえ」
アドリアンはすぐに否定した。
「あなたが気にすることではありません」
「そうですか」
「先ほど、私が店の奥へ行っていた間に、何を聞かれましたか」
リヴィアは男性との会話を思い返した。
「教会で何をしているのか、神父さまのお仕事を手伝うのかと聞かれました」
「ほかには」
「神父さまが忙しいのか、夜まで起きているのか、どのようなお客様が来るのかも聞かれました」
アドリアンの足が、わずかに遅くなった。
「あなたは、何と答えましたか」
「知っていることだけです」
リヴィアは、男性へ伝えた内容を順番に説明した。
アドリアンから渡された文章だけを書き写していること。
仕事の内容は知らないこと。
夜は寝ているため、誰かが来ても分からないこと。
教会を訪ねた人のことを、自分の判断では話さなかったこと。
話し終えても、アドリアンの表情は明るくならなかった。
何か間違ったことを話したのだろうか。
「言わない方がよいことを言ってしまいましたか」
「いいえ」
アドリアンは答えた。
「あなたは何も間違っていません」
「では、よかったです」
「答えづらいことを尋ねられた時は、無理に答える必要はありません」
「分からないことは、分からないと答えました」
「そうですか」
「神父さまのお知り合いでも、神父さまのお仕事を私が勝手にお話しするのはよくないですよね」
アドリアンはすぐには答えなかった。
通りの脇へ寄り、抱えていた袋を片手へ移すと、空いた手をリヴィアのフードの上へ置いた。
「ええ」
ようやく返ってきた声は、少し低かった。
「それでよいのです」
褒められたのだろうか。
それとも、心配されているのだろうか。
アドリアンの表情からは分からなかった。
リヴィアは、安心させるために笑った。
「次にお会いした時も、分からないことは分からないと答えます」
アドリアンはリヴィアの頭へ手を置いたまま、目を閉じた。
「……そうしてください」
教会へ戻った後、買ってきた物を片づけ、夕食を済ませた。
日が沈んでから、アドリアンはいつもより早く、リヴィアへ休むように言った。
「今夜は、昼間に会った方が来ます」
「お仕事のお話ですか」
「ええ」
「お茶を用意しましょうか」
「必要ありません。こちらでします」
「分かりました」
「夜中に目が覚めても、部屋から出ないようにしてください」
普段より強い言い方だった。
重要な話をするのだろう。
「はい」
リヴィアは自室へ戻り、寝台へ入って目を閉じた。
昼間の男性は、親しみやすい人だった。
アドリアンの昔の話も聞けた。
質問は多かったが、昔からの知人なら、アドリアンが今どのように暮らしているのか気になったのかもしれない。
答えられなかったことはある。
けれど、知らないことを話すことはできない。
神父さまのお客様のことを、本人の許可なく別の人へ話すこともできない。
それだけだった。
アドリアンが何を心配していたのかは、最後まで分からなかった。
昼間に歩き続けた疲れもあり、リヴィアの意識はほどなく沈んだ。
その夜、リヴィアは一度も目を覚まさなかった。
昼間の男性が何時に教会へ来たのか。
アドリアンと何を話したのか。
翌朝になっても、リヴィアは知らなかった。