軌跡を照らす烈日   作:[ゆーや]

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身喰らう蛇

 

 それはイーディスを出て、広大なカルバードという国を宛もなく旅していた時の事だ。

 何も無い空間から彼は現れた。

 

「初めまして、お兄さん。少し話を……って、待った待った!落ち着いて!危害を加える気とかはないからその剣を下ろして!」

 

 そう言われて無意識にヘリオスを向けていた事に気づく。

 緑色の髪に赤い服、少年くらいの背丈の目の前の人物、見た記憶は無いし唐突に現れた怪しい存在である事には変わりないが、確かにこちらに敵意がある様には見えない。

 とりあえずいきなり争いになる様なことはないと判断しヘリオスを仕舞う。

 

「いやービックリした。そのまま斬りかかられるかと思ったよ」

 

「すまない、突然現れる存在に対してあまり良い思い出が無いんだ。それはそうと、君は何者だい?僕に用事があるようだけど」

 

「まあ、急に話しかけたボクにも非があるからいいけど。じゃあ改めて、ボクは結社《身喰らう蛇》の執行者No.0、《道化師》のカンパネルラ。そして用があるのはその《身喰らう蛇》のマスターが君に会いたがってるのさ」

 

 ボクはその使いだ、と大袈裟におどける様子はまさに自分で言っていた道化師のようだ。

 

「《身喰らう蛇》……聞いたことが無いな。それに執行者と言うのは?」

 

「まあ正直なところ裏の存在な上にまだ新興組織だからね、知ってるほうが少ないよ。執行者っていうのは幹部…或いはエージェントみたいなものだと思って貰えればいいかな」

 

「なるほど……。それで、そのマスターさんとやらはどうして僕に用があるんだい?特に目をつけられるような事はしていないはずだけど」

 

「あはは、確かにキミは何もしてないかもしれないけど、居るだけで気になる存在でしょ?なにせこの世界の外からやって来た存在なんだからね」

 

 その言葉に少し気を引きしめるが、彼は敵意が無い事を証明するためにかそのまま説明を続けていく。

 

「うちのマスター……《盟主》はそういう事は世界で一番詳しくてね、少し前に外から何かが現れたのに気付いて君の事を探してたんだ。因みに言うと、この世界は色々と制限されてる事も多いから、キミの存在に気付いてるのはたぶんウチだけだよ」

 

「そういう事に詳しいっていうのは、僕の他にも別の世界から来た人がいるのかい?それに制限っていうのも気になるな」

 

「うん、この世界の外……外の理って言われてるけど、そこから時たま何かが現れる事があるんだ。基本的には物体になるけど、生物の時もある。《身喰らう蛇》にも一人、外の理から来た存在が所属しているよ。制限に関しては、簡単に言うと普通の人は世界の外とかに気付けない様になってたりするんだけど……そういう話も含めて《盟主》のもとで話したいんだけど、どうかな」

 

 そういって手を差し伸べる彼を見ながら思考に耽る。

 彼がどれだけ本当の事を言っているかは分からないが、少なくとも僕に接触してきている事を考えると全てが嘘という訳ではないはずだ。

 それに、イーディスで人から聞いたり、本を探したりしても特に何も得られなかった事を考えるとこの機会はまたとないチャンスだろう。

 

「そうだね、僕もその盟主さんから話を聞いてみたいし、その話を受けるよ」

 

「本当?いやー良かったよ、ボクにこういう事は向いてないからね。断られたらどうしようか思ってたんだ。じゃあ移動するから少しじっとしてね」

 

 パチン、と指を鳴らすと彼と僕の足元に光る陣のようなものが展開された。

 先程唐突に現れた事を考えると、これが門と道のような空間を移動する手段なんだろう、大人しく身を任せる。

 そうして一瞬の浮遊感と白く染まる視界を感じ、それが開けた時には既に先程とは全く違う場所にいた。

 感覚としては創世の渦心に似た空間だろうか。

 特殊な力で作られた事がひと目でわかるような四角い空間に今立っている足場、幾つかの柱、大きなレリーフのようなものがある。

 そして紋章に巻きついた蛇が自らの尻尾を食べている、おそらく《身喰らう蛇》の象徴のようなソレの前に立っているのがおそらく……。

 

「よく来てくれましたね、外より来たりし者。そしてカンパネルラ、彼をここへ連れてきてくれたこと、ご苦労でした」

 

「いや〜、そんなに苦労しなくて済んだよ。彼が話のわかる人で助かったね。えっと……」

 

「おっと、そういえば自己紹介がまだだったね。僕はファイノン、エリュシオンのファイノンだ。よろしく頼むよ、カンパネルラさんと、盟主さん…でいいのかな」

 

「ええ、《身喰らう蛇》が首領、《盟主》と呼ばれている者です」

 

「あはは、ボクの事はさん付けなんてせずにそのまま呼んでくれればいいよ。さてさて、自己紹介も終わったことだし、早速本題に入ろうか」

 

 そう言いながらも少し下がるカンパネルラ。

 どうやらあくまでもメインは盟主であり、彼はあまり話に入る気は無いようだ。

 

 

「では最初に聞いて起きたい事があります。貴方はこの世界に何か目的があって訪れたのですか?」

 

「いや、実は僕も何でこの世界に現れたのか、どうやって現れたのかはわからないんだ。だからこの世界に現れた理由とか帰る方法なんかは、むしろ僕が教えて欲しいくらいだよ。もしかして、僕のせいで何か問題が起きたりしたのかい?」

 

「いいえ、そういう訳ではありません。ですが貴方という存在は私にも窺いしれぬ完全なイレギュラーなのです。今まで問題を起こす事もなく、こうして少し相見えただけでも貴方が悪に属する者ではないとわかりますが、それでも本人の口から確証を得たかった」

 

 そう答える彼女は気のせいかもしれないが、少し安心しているようにも見えた。

 カンパネルラがこういう事に一番詳しいと言ってたからには、アグライアが金糸を通して情報を得ていたようなすごい力があるのかもしれないが、それ故に理解の及ばない存在は不安になるのかもしれない。

 僕からしても、運命といった力や見知った物が存在しないこと、導力という未知のエネルギーを使ってることからしてこの世界がオンパロスの様に閉鎖された世界か、あるいは更にもっと遠い世界だというのが推測出来た。

 そうなると彼女の力も及ばなかったのだろう。

 

「なるほど、そういう事かい。確かによくわからない相手に慎重になるのは仕方ないよ、アグライアも相棒達に警戒していたのを思い出すな。……じゃあ、次は僕が聞いてもいいかな?」

 

「ええ、勿論です。」

 

「外の理、だったかな?僕のように世界の外から現れたものについて知りたいんだ」

 

「この世界では時折解析、理解できない物体や現象が起きることがあります。そういうものを、この世界とは別の法則で存在しているものだと仮定し、《外の理》と呼んでいるのです。比較的新しいものだと15年ほど前に《塩の杭》という物体が、40年ほど前には異界の存在がこの世界の人間と融合する形で現れています」

 

「因みに、その融合した人間がさっきも言ったウチに所属してる存在だよ。執行者No.1、《劫火》のマクバーンって言うんだけど」

 

 塩の杭……イーディスで色々と調べていた時に歴史書か何かで読んだ事がある、確か3日でノーザンブリアという国をほぼ壊滅させた天災だという。

 それに同じく世界の外から来た人には話を聞いてみたい。

 

「そのマクバーンという人に会ってみたいんだけど、大丈夫かな?」

 

「大丈夫ですよ。既にマクバーンにも貴方という存在の事は少し話をしてあります。この後にでも会ってみるといいでしょう。カンパネルラ」

 

「はいはい、まあそんな訳で、ボクに言ってくれたら連れていくよ。でも、実はマクバーンって融合したせいかこの世界に来る前の記憶が無いんだよねぇ。だから無駄足になるかもしれないけどそれでもいい?」

 

「ああ、それでも構わないよ」

 

「まあそっちがいいならボクは何も言わないけど。あぁ、でもマクバーンのほうが問題かなぁ……うーん……」

 

 何故かあまり乗り気ではないカンパネルラも気になるが、とりあえずは盟主との話に戻る。

 

「あとはそうだな、確かさっきカンパネルラがこの世界は制限されてると言っていたけど、どういう意味なんだい?」

 

「それに関してはそのままの意味になります。この世界…ゼムリア大陸には外に意識が向かないようになっているのです。船などが大陸を離れようとすると戻される、といった物理的現象もありますがそういうものに対しても空の女神の力だ、とのようになり疑問を抱かず、世界に外があるという発想に至らない用になっているのです」

 

「それは……法や危険があるから出来ないといった理由で実質的な制限を受けているんじゃなくて、本当に世界によって直接枷を掛けられているのかい?」

 

「そうなりますね。とはいえ、七曜教会や霊的、高位的な物に詳しい一族、組織などは気づいています。あくまで一般人といった大勢に対する薄く広い枷ではありますが」

 

「そして知っている側も無闇に混乱を広げない為にも公にはしていないという訳だね。僕の世界でも同じように天外の事は広めないようにされていたよ、とはいえあくまで法に寄るものだったけどね」

 

 アレはエーグルによる天へ近づいた者への制裁を防ぐためのものだったけどもしそれが無かったら天外へと出ようとする者はどうなっていたんだろうか。

 オンパロスがセプターによって作られていた世界である以上、本当に外には出られないだろうが、この世界のように枷に阻まれていたのか、或いはセプターが作り出した偽りの宇宙へと飛び出していたのだろうか。

 もう、今考えても詮無き事ではあるが。

 

「貴方の世界も同じように閉じられていたのですか?であれば、どうやって貴方がこの世界に顕れたのかが更に不可解なものになりますね」

 

「ああいや、僕の世界は色々あってね、今は閉じられた世界を開いて群星に飛び出したんだ」

 

 そしてオンパロスの現状を軽く掻い摘んで説明していく。

 世界を開いたがその時に崩壊してしまったこと、現在は残っていた情報を元に再構築していること、僕をはじめとした人間や生物はとある空間でその誕生を待っていること。

 そしてその途中に僕がこの世界に唐突に現れた事を。

 

「そういう事でしたか。であれば……」

 

 話を聞いて考え込んでいた盟主が顔を上げた。

 

「ファイノン。貴方が宜しければ、《結社》に所属しませんか?」

 

「え?えっと、僕をその…《見喰らう蛇》に?それまた急な話だね」

 

「確かにそうですね。ですがいい人材を見つけたらスカウトしたくなるものです。どうでしょうか?」

 

 そう評価してくれるのは嬉しい事ではあるが、そうすぐに決めれるものではない、特にどういう組織なのかまだ何も知らないのだから。

 

「そもそも、その《結社》は何をする組織なんだい?」

 

「私はこの世界にある七つの至宝、それが人の手で如何なる結末を迎えるのかを導き、見届けるための《オルフェウス最終計画》という計画を進めるために動いています。と言っても、まだ準備段階ですが」

 

「七つの至宝…空の女神が与えたとされる古代遺物だったかな。僕が知ってる限りではただの御伽噺だ、とか大崩壊の時に消えてしまった、とか言われていたと思うけど、まだ残っているのかい?」

 

「はい、完全に消滅してしまったものもありますが、封印されていたり人の手の届かない場所に存在していたりと今も残っています」

 

「封印されているなら、それを解放するのはあまり良くないんじゃないかい?困ったな、僕はこれでも正義の味方を目指しているからあまり人々に悪影響が出るようなことはしたくないんだけど」

 

 とはいえ彼女ら《結社》がこの世界において重要な事を色々と知っているのは間違いない。

 それに僕と同じく外から来たマクバーンという人物もいる、出来れば友好的な関係を続けたいが、やはり裏の組織というのは元老院なんかを思い出すのもあってあまり気が乗らないのも確かだ。

 

「まあキミって見るからに清廉潔白、品行方正って感じだしねぇ。後半はともかく、福音計画や幻焔計画の前半はまあ色々と悪い事をする事になりそうだしキミには合わないかもね。

 でもまあ、表の組織だからって全部が全部正しいことをしてる訳じゃない。国の政治家だってマフィアなんかと繋がってたりもするし、七曜教会なんかも一部では黒い事をしてたりするからね」

 

「それはそうかもしれないけど……」

 

「別に《結社》に入ったからって命令に従って悪いことやれって言う訳じゃないし、なんなら計画を止めるために動いてくれても構わない。そういうのを義賊とかダークヒーローって言うんだっけ?」

 

「いや、それはいいのかい?組織として破綻している気がするけど」

 

「執行者にはあらゆる自由を約束しています。カンパネルラの言う通りこちらからの要請を拒否してもらっても構いませんし、計画に対して敵対することも問題ありません」

 

「とは言っても、そうなったら計画の内容なんかは流石に伝えられないし、こっちとしても全力で抗わせてもらうことになるけどね。それに今すぐ決めろって話じゃない、まだ計画を開始するまでは10年くらいかかりそうだし、今は保留でもいいよ」

 

 10年か……。

 それはまた別の問題があるな、少し意見を聞いた方がいいだろう。

 

「少し意見を聞いてもいいかな。前に僕が別の世界に呼ばれた時は、その呼ばれた儀式が終わったら元の世界に戻ることになったんだけど、今回は10年後も残っているかな?塩の杭は3日で消えてしまったと言うし、僕もそのうち唐突に消えて元の世界に戻るかもしれないと考えているんだけど」

 

「あー、そういえばキミって見た目は普通の人間だけど、その肉体も含めて全て外から来たんだったね。マクバーンは肉体はこの世界のものだし、その辺は参考にならないか」

 

「ふむ……。塩の杭は正確に言うと消えたのではなく小さくなったところを七曜教会によって回収されています。それに貴方は既に確固たる個としてこの世界に存在していますから、唐突に消えるということは無いと思いますが、顕れた方法が分からない以上絶対とは言えませんね」

 

 僕を呼んだ儀式や原因も分からない以上、盟主さんがそういうなら問題ない可能性が高いと考えるしかない。

 とはいえそんなに長くいると、今度はオンパロスが新生する時に僕がどうなっているのかという問題になるけど、帰り方が分からない以上はどうしようも無い。

 オンパロスのようにこの世界と外の時間の流れが違うとか、聖杯戦争のようにここに居る僕はあくまで分体のようなものと言うことに期待するしかない。

 

「じゃあ、《結社》への加入はとりあえず保留ってことでいいかな?もし気が変わったら、いつでも言ってくれたらいいからさ」

 

「そうだね、そうさせてもらおうかな。盟主さんも、すまないけどそれでいいかな?」

 

「ええ、無理強いをするつもりはありません。ですがファイノン、私達はいつでも貴方の事を歓迎しますよ」

 

 

 そうして話を終え、盟主さんとの挨拶を済ませたらカンパネルラにマクバーンの所に連れて行ってもらうように頼む。

 来た時と同じように彼が指を鳴らして作り出した転移の陣によって《星辰の間》と呼ばれているらしい空間を後にした。

 




アルカナの太陽…執行者No.19はセドリックか…更正させるか?
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