“V.Ⅰ(ヴェスパー・ワン)”、ワートリ世界に転生する。   作:サクラン

5 / 5
今のところワートリの皮を被ったAC6でしたがここからワートリ要素が濃くなってきます(遅えよハゲ)。

本格的にミスができない…

それでは今回もお楽しみ下さい。


第5話 風上和郎③

(なるほど…C級の頃からランク戦以外にも訓練ってするんだな)

 

 入隊して早速前の世界での知り合いと出会って波乱のボーダー生活を始めた風上は、訓練で増えたポイントを眺めながら内心で呟いた。

 ボーダー内では使うトリガーにポイントが付与されるらしく、正隊員─B級に昇格する為の条件が4000ポイントまで貯めることらしく、そのポイントを貯める為には週二回開かれる合同訓練と、個人ランク戦で勝つことらしい。

 

(とは言え、流石にC級隊員(素人)に合わせてるからか、かなり判定は緩そうだな)

 

 左手の甲に表示されている“1482”のポイントは、風上が全ての訓練で満点を取った証だ。

 訓練の種類は“地形踏破”、“隠密行動”、“探知追跡”、そして“戦闘”。トリオン体の操作にはおおよそ慣れてコントロールできるようになったし、隠密や探知追跡もそこまで得意ではないとは言え“フロイト”であった時に心得やセオリーは学んでいる。本気で隠れ潜んでいるオキーフ(日向野)を探せとなると流石に厳しいが、如何に素質があると言ってもC級隊員の時点でそれ程の芸当を行うのはまず無理なので、今の訓練は風上にとって到底障害とならないものだった。

 

(んじゃ、この後はブースに行って個人戦だな。トリオン体の操作は慣れたし、後は弧月の扱いだな)

 

 入隊式からもう一週間が経とうとしているが、今までの風上はトリオン体の操作練度を高めることを優先し、個人戦は練度を確かめる為の指標として最低限にしか行っていなかった。

 本音を言うと戦いたくてウズウズしてたのだが、自身の使う物は武器だろうと肉体であろうと骨の髄までしゃぶり尽くさなければ気が済まないので、まずはどんなトリガーを使うにしても切って離すことができないトリオン体の操作を極めることは風上にとって急務であった。

 その甲斐あって入隊直後に面食らったトリオン体の感覚にもすっかり慣れ、今では壁なんかを利用した三次元の高速移動すら可能になった。

 

(…今思うとACでも壁蹴りでの移動とか試してみれば良かったな。もっと視野を広く持つべきだったか…)

 

 以前できなかったことができるようになったことに悦びを感じつつも、前の世界でこういったことを試さなかったことに少しもったいなさを覚えた。これからトリガーの種類は増えて行くと思われるので、発想力や思考は柔軟にしなければならないと、風上は気を引き締めた。

 

(さて、今日は面白い奴はいるのか…)

 

 風上は期待に胸を膨らませながら、個人ランク戦のブースへ向かう。ちょくちょく顔を見せることはあり、日向野や東を筆頭に、ランク戦を通して親しくなった者もいる。だが入隊式の折に目を付けていた人間全てに会ったわけではないし、可能性は低いがここ数日間で化けた者がいるかもしれない。

 東然り仲良くなった隊員然りこれまで戦闘どころか武器すら持ったことすらない者がほとんどだろうに異常な適応具合を見せる者もいる為、期待ゼロというのは傲慢だろう。

 

「あ、オキ…日向野」

 

「ん」

 

 そして個人ランク戦のブースに到着すると、既に日向野も来ていたようだった。周囲を見渡すと結構な人数が集まっており、そのほとんどが対戦光景を観戦できるモニターに視線を向けている。

 

「なんだ、面白い試合してるのか?」

 

「ああ、C級の中ではトップクラスだろうな」

 

 そう言って日向野がモニターに視線を向けるように顎で差すと、確かにそこで繰り広げられている戦いは凄まじいものだった。

 二人共武器は弧月。C級である為当然互いにそれだけだが、それでも二人の動きの鋭さは今まで見てきたランク戦の中でも群を抜いていた。

 

「太刀川と…もう一人は誰だ?」

 

()()って言うらしいぞ。お前と同じかなんなら歳下っぽいのによくやるもんだよ」

 

 一人は以前動き心地を確かめる為にふらりとブースによった際にたまたま出会い、ランク戦の中でその桁並外れた実力に惹かれて仲良くなった太刀川慶。

 もう一人の三輪という人物は戦ったことこそないが見覚えがあった。

 

「あ〜…そういやあんな感じの奴いたな。()()()()()()()()()()()()()()

 

「お前もそう思うか。…まあ、こんな街だしな」

 

 風上の独特な言い回しに、日向野もため息を吐きながら同調する。

 “オキーフ”も“フロイト”程じゃないが、戦場で様々な相手と戦って来た。無論人間によって戦う理由は様々であり、それによって表情はもちろん動き方にも多少の差が出る。そんな二人が導き出した答えが同じとなれば、もう確定と言っても良いだろう。

 

 三輪の─一歩違えば発狂しているのかと疑いたくなる程斬り込んで行く攻めの動きとあの瞳に映る全て─否、三輪の瞳はきっと、過去に見た()()を未だに睨み続けている。

 あれは復讐者の動きだ。燃え盛る憎悪をとにかく相手にぶつけたくて仕方がない。そういった者の動きだった。

 ルビコンにいた時も自分達は“侵略者”であった為、現地に住んでいる解放戦線の者達の中には似たような動きをしていた者が多かったし、そもそも戦闘部隊として活動する以上ルビコンに限らずそう言った者達との戦いとその中で浴びせられる怨嗟の声は飽きる程聞いて来た。

 

 日向野は少し複雑そうな表情をしているが、風上はいつも通りどこ吹く風と言った表情だ。風上としては復讐を否定はしないし人として過ごしている以上当たり前とも思っているが、戦う上での理由は正直どうでも良かった。

 戦いの─殺し合いの中で決まるのは“勝者”と“敗者”だけだ。戦場の方針などで引き分けに終わることもあるが、個人の戦いの中で引き分けなどありはしない。そしてその分割される中に戦う理由が介在する余地はない。どれだけの大義名分があろうが、どれだけの使命を背負っていようが、負ければ死んで終わりだ。

 本当に戦う理由で勝敗がひっくり返るなら自分は早々に死んでいるはずだし、ルビコンの戦いでは解放戦線か惑星封鎖機構が勝ったハズだろう。

 レイヴンはハンドラーの使命があるとは言え、ルビコンの焼却をすればとそれに伴った大虐殺は避けられないし、自分達のことで精一杯の解放戦線からすれば間違いなく憎悪の対象だろう。

 

 じゃあ何故レイヴンは最後まで生き残り続けて台風の目になれたのか?何故戦うことにしか頭にない自分が一大企業のトップを張れたのか?

 そんなもの─“強いから”以外にないだろう。

 そう、強ければ生き残れるし強ければ全てを決められる。どれだけ身勝手でも、どれだけ世界から拒まれても、戦って勝てばそれで終わりだ。

 

 だから“フロイト”は戦う上での理由を気にかけたことはない。

 だがそう言った者達は最後の最後まで喰らいついて来る気概を見せることが多いので、譲れないものを背負った者との戦い自体は大好物だ。

 ただ戦う理由がある者はそれを言い訳にウダウダ言ってくることがあるが、そう言った者は正直煩わしいと思っている。戦場に出て戦うという選択をしている以上言葉じゃ終わらせられなかったからそこにいるのだし、どれだけ言葉を重ねられてもそう言った者達の気持ちを理解するのは自分には無理だろうと思っている。本気でこっちを憎んでいるのなら、顔を合わせた瞬間有無を言わさず斬り掛かって来るぐらいの勢いが欲しい。

 

 そう言う意味では、三輪の動きは風上にとってとても好ましいものだった。言外に「お前を殺す」と叫んでいると思えるような攻撃的な姿勢、やや荒削りではあるが風上としても十分退屈しない相手だろう。

 だが─

 

 

 

 

 

「あ」

 

「攻め過ぎたな」

 

 ─それだけで勝てる程単純じゃないのが戦いというもの。

 これまで三輪の猛攻に対して同じように撃ち合っていた太刀川が三輪の弧月を受けるのではなく躱して峰の部分に自分の弧月を叩き付けて動きを止めると、そのまま刃を滑らせて三輪の身体を袈裟斬りにした。

 致命傷を負った三輪のトリオン体に罅が入って行き、三輪が太刀川に睨み殺しそうな視線を向けると、その身体は光の柱となって消えて行った。

 

「面白いよなぁ、こんな戦いが誰でも気軽に何度でもできるって。ルビコン(前の場所)なら金取れたろこれ」

 

「エンジニアの鬼怒田室長が作ったらしいが…一体どんな技術を使ってるのか…」

 

 風上が改めてランク戦のシステムに感嘆し、日向野もそれに同調する。

 ルビコンでも傭兵支援システムが似たようなシミュレーション戦闘は提供していたが、それはあくまでデータから作られた模造品であり、生きた人間から得られるヒリつきがない。一応人間同士で戦うこともできるのだが当然相手が同意、その上でその場所にいなければ利用できない為、敵勢力と生の戦いをするには実際の戦場で戦うしかなかった。

 だがボーダーなら全員が味方であるというのもあるが、どんな強者でも相手の同意さえ得られれば何度でも本気の戦いができる上、ブースの数も相当数があるので、満員で戦えないということもほとんどない。風上にとってはまさに理想郷とも言える場所だ。

 

「さて、それじゃあ俺も三輪(アイツ)か太刀川と…ん?」

 

 風上が太刀川や三輪と戦おうと思っていると、視界の端にある人物が映った。

 

「……………」

 

 その人物は周囲の隊員と比較してもかなり小柄であり、風上比較しても一回り程小さい。髪型は癖のあるハネが多く見られ、それらとはやや不釣り合いな鋭い目つきをしている。

 その人物もどうやら先程のランク戦を観ていたようで、太刀川達の実力に浮き足立っている周囲とは違い、何か感じるものがあったのか鋭い目を更に細めていた。

 

(…ラッキーだな)

 

 風上は内心で幸運を喜ぶと、その人物に近付いて声を掛ける。

 

「なあお前、時間あるか?もしあるんだったら()ろうぜ」

 

 突然声を掛けられたのにも関わらず、驚いた素振りも表情すらほとんど変えず、少し見定めるように風上を見ると─

 

「─良いだろう。ちょうど学べたこともある」

 

「よっしゃ。んじゃ行こうぜ」

 

 ─ランク戦に同意し、当然風上も共に個人戦用の個室に向かう。

 

(どれだけ動けるかは未知数だが…()()()は、かなりあるみたいだしな)

 

 この隊員は入隊式の時に一目見た瞬間から目を付けていた。

 太刀川のようにずば抜けた才能というわけではないが、静かな見た目からは想像できない程の貪欲さが溢れている。強者弱者問わずあらゆる相手から得られるものを得るという姿勢は風上としても共感できる部分だ。

 動きがある程度期待外れだとしても、この相手なら二戦目以降に学んだことをきっちり活かしてくれるだろう。

 

(どれだけやり合ってくれるかは分からないが、精々楽しませてもらうぞ)

 

 内心で闘争心を昂ぶらせながら、風上は仮想戦闘空間へ入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『MAP、市街地A』

 

 電子音声と共に仮想の市街地に転送される。

 風上の目の前には弧月を腰に提げた先程の少年が同様に転送された。

 

(攻撃手の場合は使う武器が一瞬で分かるのが味気ないよなぁ。まあこの点に関しては日向野(オキーフ)達が新しい武器トリガーを開発してくれることを祈るか)

 

 誰が相手でも弧月で固定という味気ない現状を嘆くが、そこは今後に期待だとすぐに思考を隅に追いやる。

 何せ目の前には退屈しない獲物。ここから先は目を離すなんてもったいないことはできない。

 

「─退屈させてくれるなよ」

 

「━━━━━」

 

『C級ランク戦、開始』

 

 風上が不敵な笑みと共に宣言し、少年は特に表情を変えず、無機質な電子音声が戦闘開始のゴングとなった。

 

「━━━━━」

 

 その音と同時に少年が弧月を引き抜いて風上に向かって斬り掛かる。小柄な体躯で、しかしスピードを落とすことなく、下から上に向かって弧月を振り抜く。

 

「よく動くな」

 

 感想を素直に漏らしつつ、一歩後ろに下がってカウンターで弧月を振り下ろす。

 少年は横に軽く跳躍しつつ振り抜いた弧月を斬り下ろして風上の攻撃の軌道を逸らし、そのまま流れるように姿勢を低くしながら側面へ移動し、風上の足を狙った。

 

「器用だな!」

 

 感心しながら弧月を地面に突き刺して跳躍し弧月(それ)を軸にして身体を捻り、少年に向かって蹴りを叩き込む。少年は反応し腕を盾にするも、踏ん張りが効かずに吹き飛ばされた。

 

(ちっこいとよく飛ぶな。何度も見せるわけには行かないが肉弾戦も手札としてはアリか)

 

 地面から弧月を引き抜きつつ、体勢を立て直している少年に向かって斬り掛かりながら肉弾戦の有用性に関して内心で結果を受け止める。

 トリオン体はトリオンによる攻撃でなければダメージが与えられない。が、それ以外による衝撃までゼロにできるわけではなく、大きな力が加えられたらバランスを崩すし、生理現象もほぼ完璧に再現されているので涙や汗も流せるし目も回す。

 前の世界でもブーストによって勢いを得た機体から成る蹴りを食らえば機体の姿勢制御システムに多大な負荷が掛かることから着想を得た攻撃法だが、やはりこの世界でも十分効果があるらしい。もちろん、調子に乗って場所を選ばなければ相手に四肢を差し出す結果になるので、使い所は考えなければならないが。

 

「━━━━━」

 

「!」

 

 弧月を手に斬り掛かった風上だが、少年の防御法に少し面食らった。

 体躯で少年の方が劣る以上鍔迫り合いはあまりしたがらないと思っていたが、こちらの攻撃を受け流し、()()()()()()()()()()()()()、カウンターで下からの斬り上げ。流石に弧月による防御が間に合わないと感じた風上はすぐにバックステップで距離を取ろうとするが─

 

 

 

 

 

「━━━━━━━━━━ッ」

 

「おお!?」

 

 ─少年はそれに合わせてすぐさま前進し、左右から軽くフェイントを入れながら斬り掛かって来た。

 その連撃による致命傷は防ぎつつも、細かい撃ち漏らしが戦闘体にダメージを蓄積させて行く。

 

(攻防一体の動きが上手いな。重さからして弧月は扱いづらいだろうによくやるもんだ)

 

 風上は基本片手持ちで振っているが、弧月を片手で振るうにはそれなりの練度と立ち回りが求められる。この少年はかなり小柄な為、弧月の重さに振り回されやすく、鍔迫り合いになると体勢も崩されやすいだろう。

 だが、この少年は相手の攻撃を()()()のではなく、勢いを利用して()()、あるいは()()()()。そこから自身の攻勢へ繋ぎ、小柄さを活かしたヒット&アウェイで相手には防戦を強いる。

 弧月の持ち方は凌ぐ時は片手、攻勢の際は両手と上手く使い分けている。しかも防御の際は衝撃に負けて体勢を崩してしまわないよう衝撃の方向に自身も軽く跳んで衝撃を逃がすことでスムーズに一転攻勢に移れるようにしている。

 無駄のない攻撃パターンだが、この動きを実現させるには防御、攻撃共に高い技量が求められる。しかもこの少年は体躯で劣る為、なおさら求められるハードルは高いだろう。

 その技術は素直にすごいと思うし鍛錬に注ぎ込んだ時間も相当なものだろう。

 

(とは言え、このまま押し切られるにはもったいない)

 

 それはそれとして、簡単に落とされてしまうのはいただけない。

 風上は攻撃を凌ぐと同時に少年のステップに合わせて同じ方向に追うように移動し、そのまま横薙ぎに弧月を振るう。その一太刀が躱されてしまったのを見届けると更に前進し、少年の腹に膝蹴りを叩き込んだ。いくら未成年とは言え見栄え最悪の戦法だが、周囲からの視線や印象など全く考慮してない風上は使う機会があれば相手が少年だろうが歳下の少女だろうが躊躇なく蹴っ飛ばしに行く。

 足場のない空中に一瞬蹴り出された隙を逃さず建物の壁を蹴って足場にし、少年への追撃を狙う。

 

「━━━━━━━━━━ッ!!」

 

 胴体を狙った斬撃はギリギリで反応され防がれた。

 しかしそれを確認するや否や防御した弧月をすり抜けて腹部に容赦ない腹パンを叩き込んで家屋の屋根に叩き付けた。

 屋根に叩き付けられた少年は屋根を転がって家同士の隙間に転がり落ちる。視線を切って仕切り直すつもりだろうが明らかに罠だと分かる。

 

「なるほど、何か考えがあるな?そういう動きだ」

 

 とは言え、だからと言って距離を取って退屈な時間を作る風上ではない。罠があると言うのならそれを叩き潰して勝つ。負けたとしてもタネが分かればまた挑める。風上は一切迷うことなく路地に踏み込んだ。

 

「ッ!?」

 

 そして路地に入った瞬間、顔に向かって拳より一回り大きな塊が飛んで来た。何とか反応が間に合って躱すがそれと同時に小柄な影が懐に飛び込んだのが見えた。それを見た瞬間風上はもう反射で斜め後ろに弧月を振った。

 

 

 

 

 

「━━━━━━━━━━ッ!!」

 

 手応えを感じるのと同時に、自身の上半身がズレたのが分かった。影の正体─少年は左肩から先が風上の弧月によって斬り落とされていた。

 

「─良いね。楽しかった」

 

 最後に試合の端的な感想を残し、少年の顔に罅が入ったのを確認すると同時に風上の戦闘体は崩壊、光の柱となって消え去った。

 

「…変わった奴だったな」

 

 少年は風上によって奪われた左肩に視線を落として初めて言葉を漏らし、仮想空間から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜…手強かったな!」

 

 個室のベッドに転送された風上は先程の試合の余韻に浸っていた。負けたが表情に負の感情は見られない。負けても死なないボーダーで敗北は自身の伸び代の証明である。今も風上の脳内では先程の試合の反省とシミュレーションが高速で行われていた。

 

(最後明らかに隙を見せたのはダメだったな。自分ができる以上他人ができない保証はない。肉弾戦なんか使い所を間違えなきゃ誰だってできるんだ。そこから発想を広げられなかったのがデカかった)

 

 戦ってみた感じ、単純な実力に大きな差があるようには感じられなかった。実際最後の差し合いまでは互いに大きなダメージは与えられてなかったし、動きもよく鍛えられていたとは言え見切れていないわけではなかった。

 ただ最後は“罠がある”というのは分かっていた上でそれを素通ししてしまったのが大きな反省点だろう。基本どっしりと構えて地力で堅実に斬り合うのが弧月使いの立ち回りだが、この少年は機動力を活かしたヒット&アウェイ+こちらの防御を崩すのではなくすり抜けるような動きもして来た。

 自分がちょくちょく使っていた肉弾攻撃も何も自分の特権というわけではない。肉弾攻撃でチャンスが何度かあったにも関わらずまともなダメージが与えられなかったこと、“相手も自分と同じ手を使って来るかも”という点に発想が及ばなかったのが敗因と言える。

 

(太刀川とはまた違った立ち回りの上手さに柔軟な発想、色々と面白い相手だったな。もしできそうならぜひとも10本やりたいが…)

 

 一通りシミュレーションと反省を済ませ、意識を現実に戻す。

 僅かな間ではあったが、相手の少年から特に話し掛けて来ることもない。対戦相手を指定するタッチパネルには部屋番号とポイントは表示されたままである以上、もう去ったということは無さそうだが…

 

『おい』

 

「!」

 

 10本勝負を持ち掛けようとベッドから腰を上げていると、戦ってから初めて少年から言葉を投げ掛けられた。

 

『この後時間が空いてるなら10本程やらないか?もちろん無理にとは言わないが』

 

 そしてそれは風上にとって最も欲しかった言葉だった。一瞬(歳下なのに随分大人びた話し方するな)と思ったが、戦える悦びにそんな思考は一瞬で蹴っ飛ばされた。

 

「もちろんだ!なんなら10本と言わず2、30本だって良い!!あっそうだ良かったらさっきの立ち回りに至った理由とか相手の攻撃を透かす技術とかについても色々聞きたいことがあるんだが…」

 

『落ち着け』

 

 あまりの嬉しさに熱が入り過ぎてしまい少年に諌められるのに5分程時間を有してしまったが、その後無事に10本勝負を行い、互いに戦いの中でお互いの技術を盗み合い、毎試合ギリギリの勝負に縺れ込み10本勝負は“5対5”で引き分け。

 風上としてはそこで終わっても良かったが相手の少年はどうしても決着を着けたかったのか1本だけ延長、少年は少し熱くなり過ぎてしまったのか前のめりになり過ぎてしまいその隙を上手く突いて風上が勝利、“6対5”で決着が着いた。

 

「ふぃ〜楽しかった!!最っ高だな!!!」

 

 延長戦が終わり、最終的に有終の美を飾ることができた風上だが、勝ち負けは問題ではなく、とにかく学べることが多かった。

 

(仮定から訓練するのも良いが、やっぱり実戦に勝るものはないな。あのちびっ子のスタイルも参考になったし…またやり合いたいもんだ)

 

 事前に抱いた“貪欲”という印象も間違いではなく、ランク戦の中でこちらの技術を盗み、自分なりにアレンジすることも度々あった。また戦うことがあればまた成長した少年が見られるだろう。

 

「お疲れ。いやーちっこいのに強ぇなお前!面白かった!」

 

「ん…」

 

 そして個室から出てブースに戻ると、少年も戻って来ており風上は躊躇なく近付き肩をバシバシ叩いて少年を褒め称える。

 風上にとって歳の差など些細なものであり、どんなに歳下だろうとすごいと思ったら褒めるし自分にできないことができていたら尊敬もする。

 特にこの少年の戦い方は理に適っているがそもそも小柄な人間にとって弧月というのは重さも相まって扱いづらいハズである。そこに至るまでには相応の努力か求められただろう。それでも腐らず強くなろうと喰らいついていくスタンスは風上にとって非常に好ましい。

 

「あ、そういや自己紹介がまだだったな。風上和郎だ。改めてよろしく」

 

 そしてここに来て自己紹介もしていないことに気付く。入隊式でも目を付けていたが、それは一方的なものであり、対面してから今まで名乗ったことはなかったのだ。

 初めての人間と挨拶をする場合は先に自己紹介をするのがこの世界の礼儀のようだが、戦いたいあまり後回しにしてしまう癖が中々抜け切らない。

 相手の少年も今までされるがままだったがここで自己紹介の為に口を開く。

 

 

 

 

 

「風間蒼也─17歳だ。よろしく」

 

「え゛」

 

 そこで風上は驚いたような声色と共に一瞬硬直する。当然名前にではない。驚いたのは─その年齢である。

 繰り返すが少年─風間は男子の中では小柄な風上より更に一回り小柄であり、見た目に不釣り合いな雰囲気や目つきこそあるが、総合的に見てどう見積もっても小学生以上には見えない。中1ならまだ理解できたが、この見た目で高校生というのは…世界の幾何学による気紛れが作用しているとしか思えなかった。

 

「お前…何かしらの身体改造とかしてたりするか?」

 

「していない。自前だ」

 

 風上は珍しく真面目な表情で風間に問い掛けるが、風間はからかわれていると感じたのか少し表情を険しくして否定した。

 実は強化手術による様々な影響を受けた人間を見てきた“フロイト”としての経験を持っている風上にとっては本当に至って真面目な質問だったのだが、当然風間はそんなことは知らないのでバカにされていると感じるのも無理はなかった。

 

「しかし本当よく弧月であんな立ち回りできるな。色々試してみてあのスタイルに落ち着いたのか?」

 

「…それはお前にも言えるだろう。あんなに躊躇なくこっちを殴って来る相手は初めて見た」

 

 しかし目の前で起きたことを現実と捉えるしかないので強引に納得した風上は風間の戦闘スタイルに興味を抱き、まだ不満気ではあるが戦って風上の実力を実感した風間はその型破りな戦い方には面食らっていた。

 

「けど対応されたしなぁ。腕のある人間からすれば猫だまし以上の効果はないか」

 

「防げはしたがその後に嫌でも選択肢に入り込む。お前が肉弾戦にかまけるような単純な奴なら良かったが、使い所もちゃんと見極めていただろう。後半に巻き返されたのもそれを含めたお前の判断力が正確だったからだ」

 

 風間は声色にやや不満気なそれを混じえながらも、風上の強さは素直に認めていた。

 風上が風間の強さに驚いていたように、風間も風上の戦い方には内心面食らっていた。特にいきなり殴り掛かって来た時は単純ながらそれを躊躇することなく行なって来た事実に(どんな精神性してるんだコイツ)と内心で疑問を呈していた。

 

「いやーでも本当にありがとうな。色々学べることも多かった」

 

「…それは俺も同じだ。お前の立ち回りは参考にできる点も多かった。だが─」

 

 風間は一瞬そこで言葉を区切ると─

 

 

 

 

 

「次は俺が勝つ」

 

 ─確かな戦意と共に風上に向かって宣言する。風上はその宣戦布告を不敵な笑みで受け止める。

 

「─ああ、いつだって受けて立つ」

 

 そして風上は風間と連絡先を交換し、そこで解散することとなった。まだランク戦をするつもりだった風上はヒラヒラと手を振って風間を見送った。

 

「─ふぅ、やっぱり楽しいな。ボーダー(ここ)は」

 

 風間とのランク戦を思い出しながら、まだまだ楽しめるボーダーに風上は笑みを浮かべ、風間とのランク戦によって得た経験を活かすべくブースに戻って行った。




はい、今回はここまで。C級編は思ったより短くなりそうだから章の名前変えようかな…


・風上和郎(バトルマニア)
もう既に太刀川とマブダチになった男。常識は分かってるし復讐者の人達の理屈は分かるけどそれはそれとして叩き潰すナチュラルボーン戦闘狂。三輪とは結局入れ違いになって話せなかった。風間さん相手は序盤は押され気味だったけど3、4戦目あたりで慣れて巻き返して来た。似たタイプの風間さんから沢山学べてホクホク。

・日向野幸助(社畜)
色々とキツい経験して来たけどだからこそ三輪のことが気遣える大人。太刀川対三輪を見届けた後は普通にランク戦やって着実にポイント稼いだ。そろそろB級昇格が見えて来た。

・太刀川慶(餅)
同じ戦闘狂として風上とマブになった。多分もうこの時点でB級上位以上の実力がある。

・三輪秀次
入隊して間もない頃なのでマジでキレたナイフみたいになってそう。風上君とはまだ絡みないけど話したら方向性によっては手が出るかもしれない。

・風間蒼也(ミニハイスペック)
努力の鬼。原作だと黒星が多かったりステータスから若干強さが分かりづらかったり何かと不遇な面が多いけどいざ書いてみると全く負けさせられる気がしない。風上君初戦は「本領発揮できるスコーピオンじゃないしこの時点だと発展途上だろうし風上君が勝つやろうなー」とか思ってたけどあまりに風間さんが粘り強いせいで初戦はそのまま勝っちゃった()
地の文で負け越させちゃってごめんなさい()でもスコーピオン持ちじゃない&入隊直後でまだ動きに粗があると思われる風間さんじゃ風上君(フロイト)には勝てないかなぁって…じゃあ文章で表現しろって話ですね。もっと精進します()


こんなもんかな。次かその次ぐらいにB級昇格するようになるかも。

評価、感想もよろしければお願い致します。

それでは次回もお楽しみに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

猟犬は透き通る空の夢を見る(作者:ピンカル)(原作:ブルーアーカイブ)

エアを打倒し、星を焼き尽くすコーラルの爆発に巻き込まれたレイヴン。▼ウォルターからの最期の通信を聞き届け、その命は炎の中で散ったはずだった。▼闘争しか知らなかった猟犬は、目覚めた世界でこれから何を成すのだろうか。▼今更ながら、アーマードコア6とブルーアーカイブのクロスオーバー作品です。▼自分が見たいため自給自足しました。▼C4-621がレイヴンの火ルートを終…


総合評価:1323/評価:8.61/連載:22話/更新日時:2026年09月10日(木) 12:00 小説情報

血しぶきハンター(作者:みこみこみー)(原作:HUNTER×HUNTER)

幾万もの悪夢の夜を繰り返したその果てに、月の魔物を屠り上位者と成った狩人は、流星街で目覚める。


総合評価:5048/評価:8.01/連載:11話/更新日時:2026年04月23日(木) 15:00 小説情報

玉葱騎士、六面世界に立つ(作者:プラザ合意)(原作:無職転生)

▼何もかも忘れ、志半ばで倒れた騎士。▼彼は何の因果か、異世界で再び剣を取る。▼たとえ記憶を失っても、たとえ壊れてしまっても。▼それでも彼は、誰かを守ろうとした。▼※ダークソウルと無職転生のクロスオーバーがないので自分で書きました。玉葱と言っているものの、主人公はジークマイヤーさんでもジークバルトさんでもジークリンデさんでもないです、すみません。


総合評価:3677/評価:8.82/連載:45話/更新日時:2026年09月03日(木) 20:01 小説情報

剣豪の英雄譚(作者:二天一流)(原作:落第騎士の英雄譚)

▼──褒められたい、認められたい、憧れられたい…!▼──敵も味方も誰も彼もが放っておいてくれない存在になりたい…!▼──逃げも隠れもできない存在になりたいッ!▼承認欲求の鬼のようなそんな男がいずれ最強へと至る物語。


総合評価:2518/評価:8.29/連載:3話/更新日時:2026年08月05日(水) 16:49 小説情報

ボクは悪い吸血鬼じゃないよ!(作者:二等辺大三角形)(原作:血界戦線)

助けて!ライブラに追われ——(F1カーと衝突する音)


総合評価:4472/評価:8.5/完結:9話/更新日時:2026年08月21日(金) 21:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>