霊山・偶礼山、その地下洞窟に俺らは居る。俺は軋む身体にむち打ちながらも辺りを見渡す、地下洞窟は夏を忘れさせる程に冷たい冷気に満ち、手持ちの光では向こう岸が見えない程の湖がある。
「はぁ……はぁ……アサシン、聖杯の場所は何処だ?」
「あらマスター?流石にコレだけの魔力、ほぼ只人であるマスターでも感じるのではなくて?」
「あーそうだねビシバシ霊験あらたかな雰囲気を感じてるよ、感じ過ぎて前からなのか後ろからなのか分からないくらいにはね」
「少しは見直してたというのに、こういう事は本当からからきしね」
「不甲斐ない男で申し訳ないとは思ってるよ……それで、聖杯の場所、わかる?」
そういうとアサシン──女神ステンノは湖の方を、正確に言えば湖のかなり深い方へと指さした。
「………………………まじ?」
「えぇそうよ、聖杯はこの湖の底にあるわ」
「はぁ〜……一応聞くけど、アサシンは」
「嫌よ、濡れるじゃない」
「ですよね〜」
頼れぬサーヴァントに一応確認を取った後、身体を伸ばす準備運動の後ゴーグルとヘッドライトを装着した。
「流石に酸素ボンベなんてのは買えなかったしな、一息で何とかするしかないか」
「……はぁ、マスター」
「ん?なんだアサシンってぉわ?!」
「じっとしてなさい」
呼び声に振り返ると、アサシンに頭を捕まれデコをぶつけ、目を合わされた。暫くすると目が少しぼぅっとぼんやり暖かくなりはじめた。
「マスターの目に軽い術を施したわ、ソレでぼんやりと魔力やその流れを可視化出来るようになるわ」
「え?ありがとうアサシン!良いのか、こんな事してくれて」
「別に、ただの気まぐれよ……分かったらさっさと聖杯を取りに行くのね」
「あいよ、待っててくだせぇ女神様」
そうして俺は湖へと飛び込んだ。
「ほんと、よく頑張るわよね……全身痛い癖に」
湖の中は怖いほど暗く、アサシンの術が無ければ何日も探す羽目になってたと思う。魔力の流れを辿ると、湖の地中へと向かっていた。
俺は魔力で腕を強化し、腕を突っ込むと何か木箱のようなものが出てきた。ソレを抱え急いで水面へと上昇した。
「ぷはっ!はーっはーっ」
俺は岸へと上がり、木箱を地面に置いてみた。
「アサシン、ソレっぽいの見つけたぞ」
「お手柄ねマスター、異常なまでの魔力の密度と安定性……その箱の中の〝ナニカ〟が聖杯よ、開けてみましょう」
「おう!」
俺は木箱を封じる紐を解き、ゆっくりと蓋を開けるとそこには──素晴らしい意匠が彫られた簪があった。
「へ?簪?聖杯は?」
「だから、ソレが聖杯よマスター」
「いや、聖杯って何か変な話お椀とかそう言った奴じゃないのかよ」
「魔力が溜まって、願望器としての機能があればソレは聖杯戦争の聖杯足り得るのよ」
「そっそうだったのか……まぁ確かに簪とかは魔を払うと言われてる、みたいな話も聞くし凄い簪なら聖杯になれちゃうのかもな」
俺は簪を手に取ってよく見てみる、桜の意匠に細かな所まで彫られてるその職人技は感嘆を漏らすには十分だった。
そして素人の俺にすら分かるほどの存在感が、願望器として十全な状態なのだと分からされる。
俺は暫し考えを巡らせ、〝やはりそうだよな〟と結論を付けた。
「アサシン」
「なに、マスター。聖杯への願いは決めたのかしら」
「この簪、アサシンにやるよ」
「……え?」
「どうしたんだアサシン?珍しく呆けた顔をして」
「い、いや……マスター、貴方自分が何を言ってるかお分かりで?」
「あぁ」
「コレは確かに願望器として機能するわ、簡単に言えば莫大な冨を得ることだって容易い事なのよ。ソレを願わず私に渡すっていうの?」
「惚れた女にプレゼントの1つも渡せないようじゃ、男として失格だろ?」
心配するアサシンにそう言い返すと、一瞬面食らったかと思えば口元を手で隠しくすくすと笑い始めた。
「……くっアハハハ!魅了の効き方が変だ変だとは思っては居たけど……はー、〝全く効いて無かった〟訳ね貴方」
「そ、そんな笑う程変な事かよ」
「いいえ、ただここまで真っ直ぐな勇士も今時珍しいと思ってね……貴方のプレゼント、貰っとくわ」
簪を受け取ったアサシンは、そのままソレを見つめながら何か思い詰めかと思えばため息を着いた。
「マスター」
「なんだ?」
「貴方は曲がりなりにも私のマスターとして、不承不承ながらも聖杯戦争を勝ち進み果てには聖杯をその手に取りました」
アサシンを1歩、また1歩と俺に近づいてきた。
「私は女神ですからね、女神にここまで尽くした勇士に寵愛の1つも渡さないようじゃ沽券に関わるから」
アサシンは俺の手首を掴み、引き寄せ俺を抱きしめる。
「光栄に思うのね、我が愛し人」
俺はそのままアサシンキスをされた、俺の口なのにまるで〝自分のものだぞ〟とアサシンに言われてるような、そんなキスを。
「なっなっ!なっ!?」
「ふふふ、男の子ならこの位で動じないようになりなさいマスター」
そうして俺達の聖杯戦争は終わった、ただの男が一目惚れを果たし、愛を結ぶハッピーエンドとして。
女神を愛し愛されるという事の重みを知るのはまだ後のお話。