僕が雄英に来て、初めて新入生が入ってきた。
それが意味するのは、あの日から1年が経ったということ。未だ、個性の制御はできないままでいる。
「……トラウマ、か」
あの時の状況から見ると、どうやら僕の「崩壊」は伝播していたらしい。それこそパニックにはなっていたけど、一定の範囲に収まっていた。少しでも制御はできてたんだろう。それが、無意識にストッパーをかけられている。
「こればっかりは、頑張って克服するしかないのかな」
小4の漢字ドリルを進めながら呟く。
そもそも「学校の勉強がしたい」と言い出したのは僕だ。あの時僕を助けてくれたヒーローみたいに、先生みたいに。
「ヒーローになる」
おばあちゃんみたいな、ヒーローに。
「ん?」
「え?」
ガチャリと、扉の開く音がした。
その方向を向いてみると、立っているのは3人の男の人。黒い髪と、金髪のDJみたいなのと、ふわふわした白い髪。
「おい、雄英っていつから保育園になったんだ!?」
「でも漢字ドリルやってるぞ!小学生だ!」
「お前ら聞いてなかったのか?去年から保護されてる子供だよ」
「そうなのか!俺は白雲!なあ君名前は!?」
白雲……名前?今僕は名前を聞かれたのか?
「……志村転弧」
「転弧か!俺は白雲朧!朧って呼んでくれ!朧兄ちゃんでもいいぞ!」
「何言ってんだお前は。……デカい声でビビらせて悪かったな。俺は相澤消太。こっちの声がグラサンDJは山田ひざし。3人ともヒーロー科だ。よろしくな、転弧くん」
そう言って、相澤と言った人は手を差し出してきた。
「あ、その……僕の個性、手で触れるとダメで、人も物も、全部壊れちゃうから」
「大丈夫だ、転弧くん。俺の個性があれば、なんとかできる」
「え……?」
話を聞いたところ、相澤……消太さんの個性は「抹消」。見た相手の個性を消すらしい。
「……!!」
そっと手を差し出して、握る。彼の手は、壊れなかった。
「よろしくな、転弧くん」
「……うんっ!」
3人から乱雑に撫でられた頭は、心地よかった。
「っと、俺たちは固目先生に用があって来たんだった。固目先生!」
「あ、相澤くん達ね。今日も体育館借りるの?」
「お願いします」
「わかった、書類はこっちで受理しておくわね。鍵渡しておくから、5時までに職員室に返しにくること!いい?」
「はい!」
「よし!じゃあ行ってこい卵共!」
快活な先生の声と共に、相澤さんたちはドアの向こうに消えていった。
「騒がしくしてごめんね転弧くん。あいつら3バカだからさ」
「さんばか?」
「そ!A組の3バカって呼ばれててね。前の体育祭でも色々やんちゃしててさぁ……私は普通科の担任だけど、学校内で噂になってるよ。本人達は気にしてないみたいだけどさ」
その話を聞いてから、妙にあの3人のことが気になった。職場体験はどこに行くのか。合宿での様子は。訓練は楽しいのか。妙に忘れられない。
「……イレイザーヘッド」
手を握ってくれたあの人のヒーローネームを呟きながら、漢字ドリルを進めていく。