前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜 作:オカノヒカル
「レオン、お前にもようやく家の役に立つ機会を与えてやる」
父が死んで、まだ数日しか経っていない。
長兄ガレスはロズベル領の新しい領主となり、俺は領主府の執務室へ呼び出されていた。
部屋は広い。
壁にはロズベル家の紋章が飾られ、机も椅子も無駄に大きい。古い調度品は磨かれているが、金具の端には剥げた跡が残っていた。
その中で、領主の椅子だけは妙に新しく見える。
ガレスはそこへ深く腰を下ろし、署名済みの任命書を机の上へ置いた。
「領軍の再編を行う。第一艦隊へ戦力と予算を集中し、第二艦隊には旧鉱山帯を含む外縁宙域の警戒を担当させる」
なるほど。
領主になったばかりだというのに、仕事はしているらしい。
「ですが、第二艦隊は……」
壁際に並んでいた家臣の一人が口を開きかけた。
ガレスが視線を向ける。
それだけで、男は口を閉ざした。
「旧式艦を遊ばせておく余裕はない。領主家の者が司令官として赴任すれば、辺境を軽視していないという示しにもなる」
筋は通っている。
少なくとも、書類の上では。
第二艦隊が退役寸前の旧式艦ばかりを集めた部隊だということを除けば、だが。
「そこで、お前だ」
ガレスが俺を見る。
「これまで領政にも軍務にも、ろくな功績のないお前に艦隊ひとつを任せてやる。これほど名誉な話もあるまい」
家臣たちは誰も俺と目を合わせなかった。
どうやら、本当に名誉な話ではないらしい。
役立たず。
今世では、そういうことになっている。
俺には前世の記憶がある。
前世では長く魔法を使い、最後には大魔道士などと呼ばれていた。
だが、この世界では、魔法というもの自体が知られていない。
俺も幼い頃に何度か試した。火を灯そうとしても指先がわずかに温まるだけ。風を呼んでも、カーテンの端が揺れる程度だった。
魔力がまったくないわけではない。だが、まともな魔法を動かすには薄すぎる。
大魔道士の記憶があっても、これでは使い道がない。周りから見れば、ただの穀潰しだ。
「レオン・ロズベル」
ガレスが任命書を持ち上げた。
「お前をロズベル領軍大佐に任じ、第二艦隊司令官を命ずる。正式な任命だ」
二十二歳で大佐。
俺の軍歴を考えれば、ずいぶん景気のいい階級だった。
領主家の人間を艦隊司令官へ据えるため、書類の辻褄を合わせたのだろう。
そこで初めて、ガレスの口元が歪んだ。
「泣いて感謝するがいい」
「船をくれるのか。なら、悪くない」
執務室が静まり返った。
ガレスの笑みがわずかに固まる。
家臣の一人が咳き込み、別の者は目を伏せた。こちらへ集まった視線も、すぐに散っていく。
失礼な空気である。
俺は正気だ。
第二艦隊が厄介払い先だということくらいは分かっている。
それでも、地上で何をするでもなく過ごすより、船を任される方がいい。
ガレスが目を細めた。
「……状況を理解しているのか、レオン。第二艦隊はロズベル防衛の最前線だ。遊びではないぞ」
「分かっている」
「海賊も出る」
「それも資料で見た」
ガレスの眉間の皺が深くなる。
何か気に入らないらしい。
俺は任命書を受け取った。
紙は上等だったが、中身はだいぶ雑だった。
**
数日後。
俺は《カレド軌道港》から連絡艇へ乗り、第二艦隊の係留宙域へ向かっていた。
本来なら、副官のセラ・ヴィルナーという士官が出迎える予定だったらしい。
だが、旗艦の不調対応で手が離せず、代わりに若い連絡士官が同乗している。
窓の外には、ロズベル星系の本星《カレド》が青い弧を描いていた。
薄い大気。
その向こうには、黒い空と無数の星が広がっている。
視界を遮るものがない。
「森よりは、いいな」
思わず呟くと、連絡士官がこちらを見た。
「は?」
「いや、こちらの話だ」
連絡士官は少し不思議そうな顔をしたが、それ以上は聞いてこなかった。
助かる。
説明すると長くなるからな。
連絡艇が本星から離れるにつれて、肌の奥が妙にざわつき始めた。
最初は機体の振動かと思った。
違う。
もっと懐かしい感覚だった。
地上では気配すら薄かったものが、軌道へ上がるにつれて濃くなっている。
指先の奥。
血の流れよりも深いところで、古い感覚が目を覚ましていた。
……魔力か?
窓へ手を触れる。
何もないはずの空間から、冷たい圧のようなものが伝わってくる。
地上とは比べものにならない。
前世でも、これほど濃い場所はそう多くなかった。
星と星の間には、力が満ちている。
なぜ、この世界の人間が使っていないのか。
そもそも認識していないのか。
考えているうちに、連絡艇の進行方向へ灰色の影が並び始めた。
「見えてきました」
連絡士官が言う。
「あれが第二艦隊です」
最新鋭艦の姿はなかった。
灰色。
四角い。
継ぎ接ぎ。
装甲板の色は場所によって違い、配管や放熱板が外へむき出しになっている。艦番号はかすれ、古い焼け跡まで残っていた。
軍艦というより、処分し損ねた大型機械をまとめて宇宙へ浮かべたように見える。
その中央に、ひときわ大きな艦がいた。
「あれが旗艦《アーク・ロズベル》になります」
「ずいぶん古いな」
「建造から百三十年ほどです」
「よく残っているものだ」
「残っている、という表現が正しいかは少々……」
連絡士官の歯切れが悪くなった。
中央の《アーク・ロズベル》は、特にひどい。
艦体は分厚い箱のようで、横腹には不格好な円筒モジュールがいくつもつながっている。
表面には古い修理跡。
装甲の色も揃っていない。
動かせば、どこかが軋みそうだった。
棺桶。
事前資料にあった陰口を思い出す。
なかなか詩心のある呼び方だ。
だが、俺は嫌いではなかった。
古い道具は、癖が見える。
どこが傷み、どこへ手を入れてきたのかも分かりやすい。
新しい道具より、直す余地がある。
「悪くない」
「……今、なんと?」
連絡士官の声が裏返った。
「悪くない、と言った」
「あの艦が、ですか?」
「直しがいがある」
連絡士官は口を開きかけたが、何も言い返さずにそのまま閉じる。
正しい判断だ。
さすがに赴任する司令官を前に、旗艦を棺桶とは呼びにくいのだろう。
**
連絡艇は《アーク・ロズベル》の格納口へ入った。
艦内へ降りると、古い金属と油の匂いがした。
廊下の照明は暗い。
壁の一部は剥がれ、床も歩くたびに小さく軋んでいる。
空調が低く唸っていた。
あまり調子のいい音ではない。
俺は壁へ手を当てた。
細かな振動が返ってくる。
あちこち傷んではいる。
だが、死んではいない。
「これが、俺の船か」
「はい。司令官閣下の旗艦《アーク・ロズベル》となります」
「棺桶にしては生活感のある内装だな」
「……」
俺の冗談に、連絡士官は複雑な表情を見せる。
「呼び方より、動くかどうかの方が大事だ」
「その点につきましては……かなり問題があります」
「そうか」
見れば分かる。
問題など、いくらでもありそうだった。
それはいずれ、一つずつ片付ければいい。
艦橋へ入ると、予想通りの酷さだった。
広いはずの艦橋は薄暗く、いくつもの計器が沈黙している。
操作卓の端には古い修理跡。
正面の大型表示窓には細かなノイズが走っていた。
その向こうには、星が見える。
俺は足を止めた。
黒い空と無数の星。
枝も、雲もない。
何もないはずの真空が、力で満ちている。
連絡艇の中で感じたものより、さらに鮮明だった。
艦橋の窓の向こうから、冷たい流れが押し寄せてくる。
大気ではない。
熱でもない。
俺の知っている感覚に、一番近いもの。
「魔力だ」
小さく呟いた。
連絡士官がこちらを見る。
「何か?」
「いや」
この世界では、別の呼び方をした方がいいかもしれない。
空間を満たす力。
【エーテル】。
そんなところか。
問題は、本当に前世と同じように使えるかどうかだ。
俺は薄暗い艦橋を見回した。
攻撃魔法を試す気にはならない。
火を出せば何かを焼くかもしれない。
雷はもっとまずい。
初めて乗った戦艦の艦橋で試すものではない。
なら、一番簡単なものでいい。
「少し借りるぞ」
窓の向こうに満ちる力へ、意識を伸ばす。
久しぶりだった。
術式そのものは忘れていない。
呼吸をするように形を組み、細い道を通す。
指先を軽く上げた。
淡い黄金色の光が灯る。
小さな光球だった。
手のひらに収まる程度。
熱はほとんどない。
ただ周囲を柔らかく照らすだけの、初級照明魔法。
暗かった操作卓の表面へ光が落ちた。
古い傷。
埃。
何度も交換された部品。
全部が少しだけ見やすくなる。
隣で、連絡士官が小さく息を呑んだ。
「……司令、いまのは?」
俺は指先の光を眺める。
そういえば、この世界では魔法は知られていないのだったな。
「ただの手品だ。明るくて見やすくなっただろう?」
前世なら、弟子が最初に覚える程度の術だ。わざわざ説明して話をややこしくすることもない。
その直後。
『警告』
艦内スピーカーから、冷たい女の声が響いた。
連絡士官の肩が跳ねる。
「艦載AIが……?」
『艦橋内に未登録エネルギー反応を検出』
古いが、よく通る声だった。
艦載AI《ノア》。
事前資料にあった名前が、ようやく声と結びついた。
『発生源を特定』
一拍。
『レオン・ロズベル司令官周辺』
「俺か?」
『既知照明装置との一致なし』
ノアは淡々と続ける。
『携帯端末、化学発光、熱源との一致なし』
一拍。
『再測定』
黄金の光球は、俺の指先の上で静かに浮いている。
『同一反応を確認』
「だから、ただの手品だ」
『否定』
「否定するのか」
『発光に必要な電力供給を確認できません』
『化学反応、蓄電装置、熱源、外部送電との一致なし』
『観測可能な入力エネルギーと、発生した光エネルギーが一致しません』
ずいぶん真面目に調べる船だ。
俺は指先に浮かぶ光を見る。
ここまで調べられれば、手品で押し通すのも無理があるか。
「……そうだな。照明魔法だ」
短い沈黙。
『「魔法」。該当分類なし』
「そうか」
『再検索』
一拍おいてノアが喋る。
『該当分類なし』
『安全性を確認できません』
連絡士官の顔から、少しずつ血の気が引いていく。
俺にはよく分からない。
明るくしただけだ。
『提案』
「なんだ」
『司令官を医療区画へ搬送し、身体状態および精神状態を検査してください』
「初対面で失礼な船だな」
黄金の灯りの向こうで、沈黙した計器と修理跡だらけの操作卓を見回す。
古くてあちこち壊れていて、まともに動く場所の方が少なそうだ。
だが、外には魔力がある。
そして俺の魔法も使える。
船はもらったのだ。
ならば、まずはこの棺桶を直す。
※生成AIの利用について
本作では、プロット整理・設定確認・本文作成/推敲の補助に生成AIを利用しています。
設定・展開は作者が決定し、各話とも内容確認・設定照合・修正を行った上で投稿しています。