前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜 作:オカノヒカル
「戦闘直後の艦隊に、補給も休息も与えず、危険宙域へ進めと命じています」
セラは命令文から顔を上げた。
「……見殺しです」
誰も反論しなかった。
表示盤には、主砲区画から届く赤い警告が並んでいた。
『現在の第二艦隊継戦能力は限定的』
ノアの箱舟型ホログラムが青白く明滅する。
『主砲は、冷却および艦首構造の点検完了まで再射撃不能。医療品、補修材ともに基準値未満です』
「乗員の休養と、海賊船の処理も終わっていません」
セラが付け加えた。
勝ったところで、続けて戦える状態ではない。
《アーク・ロズベル》は、俺が乗る前から傷だらけだった。燃料は底をつき、必要な部品も薬も届かず、兵の給金まで遅れている。
そこへ俺が主砲を撃たせた。
艦は耐えたが、無傷ではない。放熱板は限界温度へ近づき、副砲二門も冷却が終わっていなかった。
「こちらに使える部分は?」
俺が訊くと、セラは一瞬だけ黙り、命令文へ視線を落とした。
「拿捕した海賊船の物資は、現地補給資産として暫定使用できます。それと、廃棄補給ステーションを発見した場合、任務に必要な範囲で一時的な再稼働が認められています」
「正規補給は?」
「ありません。本星側の再編後、追って通達――それだけです」
通信士は端末へ目を落としたまま、拳を握っている。若い兵装管制士も、赤い警告表示から目をそらしていた。
兵の食料も薬も出さず、責任だけを現場へ押しつける文面が気に入らなかった。
「俺を捨てるのは好きにすればいい」
艦橋の視線が集まる。
「兵を飢えさせるのは、別だ」
怒鳴っても飯は出ない。
なら、使えるものを使えばいい。
「拿捕した物資は、任務中なら使えるんだな」
「暫定使用です。正式な所有権まで認められたわけではありません」
「十分だ。廃棄ステーションは?」
「最低限の再稼働に限ります。恒久的な拠点化や資材の独占は認められません」
セラは別の規定を開いた。
「放棄施設の現地再稼働規定も使えます。危険宙域での補給、応急修理、負傷者保護を目的とした一時利用です」
『命令文および現地再稼働規定に、抵触する項目は確認されません。ただし、使用物資と施設稼働状況の記録が必要です』
「なら、命令には従う」
俺は司令官席の背へ身体を預けた。
「死ぬつもりはないが」
セラは一度だけ俺を見たあと、端末を艦隊指揮画面へ切り替えた。
「グレッグ隊は、投降艦と航行不能艦の武装解除を継続してください。捕虜管理班は乗員の移送準備。補給班と記録班は、貨物区画の検疫と物資一覧の作成を始めます」
「航行不能となった二隻は?」
『乗員の移送を開始しています。船体位置および識別情報を外部治安認定網へ登録します』
三隻すべてを曳航できるほど、こちらには余力がない。
投降艦一隻は武装を封印し、監視下へ置く。航行不能となった二隻からは乗員と使用可能な物資を移し、船体は位置情報を残しておく。
逃げた二隻を追うつもりはなかった。
「捕虜の水と食料は残せ」
「はい。負傷者の治療も、こちらの在庫が許す範囲で行います」
「残りは使う」
「その前に検疫と記録です」
「面倒だな」
「それでも必要な作業です」
『鹵獲物資一覧を作成。第二艦隊の現地補給資産として、外部治安認定網へ暫定登録します』
ノアの報告に、セラが小さくうなずいた。
「これで、少なくとも勝手に持ち出したとは言われません」
「持ち出したくて持ち出したわけじゃないがな」
「記録があれば、あとで領主府に勝手に持ち出したとは言わせずに済みます」
それなら仕方がない。
「進めろ」
『了解』
通信士が各部署へ命令を送り、記録班が戦闘ログと鹵獲品の登録を進める。セラの端末には、複数の作業予定が次々と追加されていった。
先ほどまで下を向いていた兵装管制士も、主砲区画から届いた点検記録を開いている。
**
海賊船の貨物確認が終わったのは、数時間後だった。
残っていたのは、保存食料と水、医療パック、冷却材、汎用補修材だった。弾薬や工具もある。
すぐに使えるものばかりではない。
医療品は成分と使用期限を確認し、食料も汚染検査を通す必要がある。弾薬の規格は第二艦隊と完全には一致せず、そのまま砲へ装填できる量は限られていた。
それでも、空の倉庫よりはずっといい。
『鹵獲物資による作戦継続可能期間を再計算』
艦橋の表示が更新された。
『食料および水の不足は短期的に改善。医療品と補修材は、依然として基準値未満です』
「当面は飢えずに済みます」
セラは補給表を確認しながら言った。
「海賊船の保存タンパクと油脂を使えば、温かい汁物も何度か増やせます。ただし、主砲の交換部品はありません。冷却材も一時しのぎです」
「給料は?」
「遅れたままです」
「飯があっても駄目か」
「当然です。兵は食事だけで軍務についているわけではありません」
「霞よりは飯の方がいいと思うが」
「比べる相手がおかしいです」
食堂では、検疫を終えた保存食料が再加熱され始めていた。
豪華なものは出せない。
それでも明日の分があると分かり、当直へ戻ってきた兵たちの足取りは、先ほどより軽くなっている。
「海賊にしては、ずいぶん備蓄が整っていますね」
セラが貨物記録を拡大した。
「通信端末の暗号強度も高い。物資の規格も複数の船で揃っています。外部から補給を受けていた可能性があります」
「よい補給元だな」
「こちらにとってはそうですが、笑い事ではありません」
「礼を言う必要はなさそうか」
「言ったら怒るでしょうね。横取りしているようなものですから」
「なら、やめておこう」
海賊船の航路記録には、旧鉱山帯付近の座標が何度も残っていた。
そこには、命令文に記載された廃棄補給施設もある。
「海賊船の物資だけでは、艦隊を長く維持できません」
セラが言った。
「なら、次を拾う」
「拾う?」
「命令に書いてある」
俺は星図上の旧鉱山帯を指した。
「捨ててあるなら、使えばいい」
セラは命令文と星図を見比べた。
「解決したつもりになっていませんよね?」
「解決はしていない」
俺は首を振る。
「生き延びるだけだ」
セラは少し黙ったあと、航法画面を開いた。
「……そこは同意します。乗員を交代で休ませながら、低加速で向かいましょう」
航法士が安全航路の算出を始める。
《アーク・ロズベル》の主砲は使えない。投降艦一隻を監視下で同行させ、乗員を移した航行不能艦二隻は位置情報を残して宙域へ置いていく。
低加速でいい。
急げば、こちらの艦が先に壊れる。
**
旧鉱山帯の外縁へ入ると、星図上の障害物が増えた。
採掘跡の残る小惑星が、ゆっくり回転している。砕けた鉱石片の間には、古いビーコンや補給用コンテナの残骸も漂っていた。
砕けた鉱石片と設備の残骸が、遠くまで視線を通さない。
『前方宙域に微弱ビーコンを検出』
ノアの声に、索敵士が画面を拡大した。
「識別番号を照合します」
『外縁補給ステーション17。登録状態、廃棄』
星の光を受けて、黒い施設が浮かび上がった。
円筒形の居住区画と箱型の倉庫が、太い構造材でつながっている。補給アームの一本は根元から折れ、ドッキングリングも半分が暗い。
外殻に残る番号だけが、かろうじて十七と読めた。
「ドッキングは推奨できません」
航法士が報告する。
「姿勢制御が停止しています。接近するなら、小型艇だけに限定すべきです」
「そうしてください」
セラがすぐに答えた。
「《アーク》は安全距離を維持。作業艇運用班は、外部保守端末の設置準備を。グレッグ隊は外殻と接続区画の安全確認です」
『内部環境、不明。主電源反応なし。補助電源は断続的に作動しています』
「水と空調は?」
『現時点では判定不能』
セラは施設情報を確認した。
「現地再稼働規定を適用できます。ただし、許可されるのは任務上必要な範囲だけです。非常用電源、負傷者用区画、応急修理設備の確認を優先します」
「十分だ」
「まだ何も動いていません」
「動かせばいい」
「その前に調査します」
釘を刺されてしまった。
作業艇がステーションへ近づき、外殻に遠隔接続端末を固定する。グレッグ隊は破損した補給アームやドッキングリングを調べ、爆発物と外部電源の状態を確認していった。
しばらくして、通信が入る。
〈外殻に新しい破損はなし。接続端末周辺も安全です〉
グレッグの声だった。
〈ただし、内部への立ち入りはまだ勧めません。気密状態が分からん区画が多すぎます〉
「内部調査は後回しです」
セラが答える。
「端末を設置したら、一度戻ってください」
〈了解〉
作業艇が離れたあと、ノアが旧式の保守回線へ接続した。
『外部保守端末との接続を確認。ステーション制御系へ限定的にアクセスします』
俺は司令官席の端末へ指を置いた。
「これから触る」
「申告としては最低限ですが、聞かなかったことにはしません」
セラが複数の監視画面を開く。
「炉心へ大きな出力を入れないでください。異常が出たら、すぐ切ります」
「分かっている」
端末の向こうに、細い流れがあった。
施設全体を一度に動かす必要はない。途切れた保守回線を伝い、非常用電源の近くまで力を通す。
冷えた炉へ、一度に大量の薪を入れれば煙が出る。
小さな火種でいい。
俺は、細くエーテルを流した。
端末の縁に黄金の線が浮かぶ。
その光は保守回線を進み、ステーションの外殻に取り付けた端末へ届いた。
『非常用電源に反応』
ノアの箱舟が明滅する。
『補助電源、一部復旧。管制区画一つの空調を試験起動』
主画面に映るステーションの窓が、一か所だけ淡く光った。
「水再生系は?」
『自己診断を開始。配管洗浄および成分検査が必要です。現時点で飲用不可』
「修理ベイは?」
『照明および手動クレーン制御のみ復旧。動力工具と自動修理設備は使用不能』
「広域センサーに通電反応」
索敵士が報告した。
「ただし出力は最低値です。本格的な走査には調整が必要です」
セラは各画面を確認しながら、復旧した設備へ次々と制限を掛けていった。
「空調区画も、気密検査が終わるまで立ち入り禁止です。修理ベイは外部から状態を確認。水は検査結果が出るまで使いません」
「一晩休める場所にはなりそうか?」
「安全確認が終われば、一部区画だけは使える可能性があります」
「悪くない」
「仮設の休息区画です。完全な補給拠点ではありません」
「分かっている」
「本当に分かっているなら、その顔をやめてください」
「どんな顔だ?」
「次に直す場所を探している顔です」
ノアの箱舟が小さく揺れた。
『否定材料なし』
「失礼な船だな」
セラはそれには答えず、稼働記録を外部送信画面へ回した。
「ノア。ステーション17の仮復旧状況を登録してください」
『現地再稼働規定に基づく一時利用ログを、外部治安認定網および旧施設管理網へ送信します』
「所有権は?」
「変わりません。あくまで一時利用です」
「使えるなら十分だ」
セラがため息をついた。
「司令は、その言葉を便利に使いすぎです」
**
ステーション外部の安全確認が終わったのは、それからさらに数時間後だった。
内部には気密の保たれた区画がいくつか残っていたが、空調を使えるのは管制区画周辺だけだった。水再生設備も試験運転の段階で、配管洗浄が終わるまでは飲めない。
それでも、修理ベイの照明と手動クレーンが動くだけで、応急作業は進めやすくなる。
グレッグが艦橋へ戻ってきた。
作業服の肩には、ステーション外殻から付いた灰色の汚れが残っている。
「外部区画に爆発物はありません。内部へ入れるのは、気密確認が終わった管制区画だけですな」
「負傷者を休ませられるか?」
「医療班が先に入れば。あとは空気の匂い次第です」
「空気に匂いがあるのか」
「古い施設の空気は、たいてい嫌な匂いがします」
森よりはましだろう。
グレッグは主画面に映るステーションを見た。
「司令は、捨てられたものを拾うのがうまいですな」
「使えるものを捨てる方が悪い」
「第二艦隊も、拾われた側ですかね」
グレッグの口元から笑みが消えた。
俺はステーションの外殻を見る。
「そうだな」
「……そうですか」
「拾った以上は使う。壊れている場所は直す」
グレッグは少しだけ目を細め、迷いなく敬礼した。
「了解しました」
**
ステーションの旧記録領域から、断片的なログが見つかった。
旧鉱山帯と廃棄ドックの補給履歴。最近になって開かれた形跡のある航路記録。海賊艦の端末で見つかったものと似た暗号断片も残っている。
「外部商会の識別形式に似ています」
セラが記録を拡大した。
「一致するのか?」
『部分一致。現時点では確定できません』
「誰かが、この施設を使っていた可能性はあります」
「海賊か?」
「海賊だけかもしれません。外部商会が直接関わっているのか、同じ通信設備が流出しただけなのかは、まだ分かりません」
「なら、調べればいい」
「調べます。これ以上、仕事を増やさないでください」
さらに古い資材記録には、鉱石サンプルの保管場所が残っていた。
資材庫B3。
補給班が封鎖区画の安全を確認し、古い鉱石ケースを回収した。汚染検査を終えたケースは、《アーク》の分析区画へ運ばれている。
透明な封印容器の中に、小さな結晶片が入っていた。
灰色がかった石だ。
内部には、細い青白い筋が走っている。
「Fランク結晶です」
セラが古い鉱山記録を表示した。
「旧鉱山帯で採れていた副産物です。加工が難しく、既存規格では安定した用途がありません。高出力試験では周辺機材を壊すこともあり、採算に合わない鉱物として扱われています」
「Fランク?」
「利用価値がほとんどない、という公式分類です」
「雑な名だな」
「公式分類へ文句を言われても困ります」
俺は封印容器へ指を置いた。
「少し通すぞ」
「出力を上げないでください。異常が出たらすぐ止めます」
ごく細く、エーテルを流す。
容器の中の結晶へ触れた瞬間、抵抗が消えた。
金属とも、炉心に使われていた結晶材とも違う。力が引っかからず、細い流れのまま奥へ抜けていく。
「魔力の通りがいい石だな」
セラが分析値を確認する。
『結晶周辺に微弱な未登録媒質反応を検出』
ノアの報告と同時に、青白い筋がわずかに明るくなった。
『反応パターンは、司令官周辺で観測される未登録媒質と部分類似。出力は極小です』
「本当に反応している……」
「扱い方を知らなかっただけだろう」
「まだ用途が判明したわけではありません」
「力を通す芯には使える」
「高出力を入れれば周辺機材が壊れるという記録があります」
「止め方を知らなかったのだろうな」
セラは否定せず、過去の試験記録を開いた。
「可能性はあります。ただ、この量だけで実用化を判断するのは早すぎます」
「それは任せる」
「司令も一緒に調べるんです」
灰色の石の奥を、青白い筋が通っている。
その筋に沿って、星の海に満ちる力が細い脈のように流れていた。
「Fランク結晶という名は、やはりよくない」
「また始まった……」
「星の脈を通す石だ」
俺は結晶を見る。
「星脈結晶と呼ぶことにする」
セラの指が止まった。
「公式文書では、Fランク結晶のままです」
「艦内ではそう呼べばいい」
『内部解析記録へ暫定呼称を併記します。公式分類、Fランク結晶。艦内呼称、星脈結晶』
「暫定ではない。本名だ」
『訂正は保留します』
「失礼な船だな」
「そこはノアが正しいです」
セラは、旧記録に残るFランク結晶関連の照会履歴を並べた。
「妙ですね。価値がないとされている鉱物なのに、最近の記録でも何度か検索されています」
「外部商会か?」
「同じ識別形式が含まれています。ただ、外部商会側が価値を知っているのか、何かあると疑っているだけなのかは分かりません」
「なら、先にこちらで調べるか」
「そのつもりです」
『星脈結晶周辺の未登録媒質反応を、内部解析対象へ追加します』
セラは端末を閉じなかった。
鉱山記録と結晶反応を並べ、すぐに新しい解析を始めている。
しばらくは寝そうにない。
困った副官だ。
『追加報告』
ノアの箱舟が淡く赤く明滅した。
『ステーション17広域センサー、限定走査を開始』
艦橋の主画面が、ノイズの混じった星図へ切り替わる。
旧鉱山帯の小惑星と廃棄ドックが、途切れた光点として表示された。
その端に、一つだけ不自然な反射が浮かぶ。
形は分からない。
距離も、正確な大きさも出ていない。
『既存航路図および施設登録に該当なし』
索敵士が画面を拡大した。
「センサー出力が足りません。ノイズの可能性もあります」
『再走査を推奨』
「どのくらいかかる?」
『センサー調整および再走査まで、十一分』
セラが黒い反応を見つめる。
「登録されていない施設でしょうか」
「まだ分からん」
俺は司令官席へ座り直した。
「少しだけ待てばいい」
星図の端で、正体の分からない反射が明滅していた。