前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜 作:オカノヒカル
十一分後。
『再走査完了』
ノアの箱舟型ホログラムが、艦橋中央で青白く明滅した。
『既存航路図および施設登録に該当しない、大型構造反応を確認』
星図の端に、黒い影が浮かび上がる。
外縁補給ステーション17の旧式広域センサーが拾った反応だ。
先ほどまではノイズに埋もれ、輪郭すら分からなかった。再走査によって、ようやく岩石とは異なる規則的な形が見え始めている。
『ロズベル領軍データベース、該当なし』
『星系連合公開航路図、該当なし』
『旧鉱山帯設備登録、該当なし』
『由来、施設種別、所属、建造記録はいずれも照合不能です』
「ずいぶんと大きいな」
俺は主画面を見上げた。
円形に近い外周構造。その内側には、折れた塔やドックのような突起が幾重にも重なっている。
古い要塞にも見えるし、巨大な造船施設にも見える。
ステーション17を小屋と呼ぶなら、あちらは山だ。
『構造物までの直線距離、作業艇で約十八分』
ノアが推定航路を表示した。
『小惑星群および廃棄ドックを迂回する安全航路では、約二十三分』
「近いな」
近いというより、近すぎる。
「これだけのものが、今まで見つからなかったのか」
『過去観測記録を再照合します』
ノアの投影の横に、古い走査記録がいくつも開いた。
『対象宙域に、大型反射の記録を複数確認』
「見えていたのか?」
『肯定。ただし、反射位置、形状、強度が走査ごとに一致していません』
記録の中では、同じ場所が岩塊になり、何もない空間になり、次には廃棄ドックの影へ混ざっていた。
『過去の観測系では、小惑星群および廃棄施設由来の不規則反射として自動除外されています』
「山を見て、石ころだと思っていたのか」
『概ね、その認識で問題ありません』
ずいぶん大きな石ころだ。
「未知の構造物へ接近する距離としては、近すぎます」
セラが即座に返した。
副官席の周囲には、赤や黄色の警告が浮かんでいる。
通信状態は不安定。
外殻材質は不明。
周辺には微弱な重力変動と、未登録媒質反応が確認されている。通常のセンサーも、構造物へ向けるほど誤差が大きくなっていた。
「《アーク》で近づくのは?」
「却下します」
「早いな」
「考えるまでもありません」
セラは主砲区画の状態を画面へ出した。
「主砲は再射撃不能。艦首構造の点検も終わっていません。補給ステーション17も仮復旧の途中です。未知構造物に防衛機構が残っていた場合、艦隊全体が危険に晒されます」
『旗艦《アーク・ロズベル》の直接接近は非推奨』
ノアも続く。
『現在の第二艦隊に、未知構造物からの攻撃および環境異常へ対応する余力はありません』
「ノアまで止めるのか」
『司令官の過去行動ログを参照し、安全側判断の必要性を再評価しました』
「俺のせいのように聞こえるな」
「司令のせいです」
セラが端末から顔を上げずに言った。
艦橋の何人かが、わずかに息を漏らす。
だが、構造物を無視するわけにもいかなかった。
海賊艦の端末には、旧鉱山帯を何度も通った記録があった。
ステーション17にも、外部商会の形式と似た暗号断片が残されている。
そして、Fランクと呼ばれていた星脈結晶。
分析区画に置いた結晶の反応値は、センサーを黒い影へ向けたときだけ、わずかに上昇していた。
俺にも同じ方角から細い引っかかりを感じる。
だが、距離がありすぎる。
何が存在するのかまでは分からなかった。
「見つけた以上、調べる必要はある」
「はい」
セラは待っていたように探索案を開いた。
「グレッグ隊による限定偵察を進言します」
「揚陸部隊で行くのか?」
「強化揚陸装甲を装備した六名を、作業艇で接近させます。外殻の状態を確認し、安全が確保できた場合のみ、裂け目から三十メートル以内の表層区画へ入ります」
探索範囲が図面上に表示された。
「目的は内部環境の測定、防衛機構の有無、進入経路の確認です。センサーを設置した時点で撤退。それ以上の侵入は禁止します」
「危険を感じた場合は?」
「即時撤退です。通信が乱れた場合も、現場判断で戻らせます」
「俺の許可を待たせるな」
「そのつもりです」
セラは格納庫へ連絡を入れた。
「グレッグ隊長を呼びます」
揚陸部隊は、すでに海賊艦の武装解除とステーション17の安全確認を終えている。
休ませたいところだが、未知施設の表層へ入るなら、今の第二艦隊で彼ら以上の適任はいない。
「装備は足りるのか」
『即時稼働可能な強化揚陸装甲、七機』
ノアが格納庫の状況を表示した。
『有人偵察へ六機を投入可能。予備三号機は、左脚姿勢制御系に不調あり。格納庫待機を推奨』
「そうだな、予備は残した方がいい」
「はい。偵察隊六機、予備一機で運用します」
セラがうなずいた。
「格納庫へ行きますか?」
「行こう」
未知の場所へ部下を送り出す。
顔も見ずに命じる気にはなれなかった。
**
格納庫には、焼けた配線と冷却材の匂いが残っていた。
強化揚陸装甲が、整備架の上に並んでいる。
人の形に近いが、肩と胸の装甲は分厚く、背中には短距離用の推進器が備えられていた。腕部には作業用の補助機構と小型火器、脚部には船体へ固定するための磁気ブーツが組み込まれている。
どの機体も塗装が剥げ、補修した装甲板の色が揃っていない。
それでも、整備班の手は行き届いていた。
グレッグは、先頭機の接続部を自分で確かめていた。
「司令」
こちらへ気づくと、手袋をつけたまま敬礼する。
「装甲六機、出せます。予備三号機は左脚が少し厄介ですが、格納庫内なら動かせます」
整備架の端には、出撃機より一段くたびれた装甲が残されていた。
左脚の外装だけ色が違う。
「今回は残せ」
「その方がいいですな。途中で座り込まれると、背負って帰る羽目になります」
「乗り手にも癖があると聞いたが」
「そちらは全機共通です」
近くの隊員たちが笑った。
全員、手は止めていない。
酸素残量を確認し、通信機の予備系を接続し、切断工具や測定器を装甲へ固定している。
「任務を確認します」
セラが格納庫の表示装置へ探索範囲を映した。
「外殻接近、進入口の確認。安全を確保できた場合のみ、表層区画三十メートル以内へ進入してください」
「センサー設置後は撤退ですか?」
「はい。防衛機構や生体反応を発見した場合、調査を中止します。交戦は自己防衛と撤退路の確保に限定してください」
「了解」
「通信が乱れた場合は、私たちの返答を待たずに撤退してください」
グレッグが眉を上げた。
「現場判断でよろしいので?」
「許可を待って死なれる方が困ります」
「ありがたい」
グレッグは、俺の方を見た。
「司令からは?」
「無理はするな」
「それだけですか」
「危険を感じたら逃げろ」
「揚陸隊に逃げろと言う司令官は珍しいですな」
「生きて帰れば、また飯が食える」
グレッグの口元が少し持ち上がった。
「そいつは分かりやすい」
「命令ではない。事実だ」
「了解しました。事実として受け取ります」
グレッグが装甲へ乗り込む。
続いて、残る五名も操縦席へ身体を収めていった。
ハッチが閉じる。
機体の関節が軋み、背部推進器が短く火を噴いた。
『揚陸部隊六機、出撃準備完了』
『作業艇一番、発進可能』
『ステーション17、通信中継モードへ移行』
ノアの声が格納庫に響く。
傷だらけの装甲が、一機ずつ作業艇へ入っていった。
俺は格納庫の奥に残された予備三号機へ目を向けた。
左脚の姿勢制御に癖があるらしい。
動かせないわけではない。
「司令」
セラの声に振り返る。
「何でもありません」
今は、送り出した者が戻ることを考えるべきだ。
作業艇のハッチが閉じた。
機体が浮き上がり、旧鉱山帯の闇へ消えていく。
**
グレッグ・ハルトは、作業艇の正面モニターを見ていた。
背後には、仮復旧したステーション17の光がある。
前方では、廃棄ドックや採掘済み小惑星の影が流れていた。
『対象まで、残り三分』
ノアの声が通信機から聞こえる。
「通信状態は?」
『通常回線に軽度のノイズ。緊急回線は正常です』
「了解」
巨大構造物の外殻が、正面いっぱいに広がり始めた。
遠くから見たときより、遥かに大きい。
黒ずんだ輪状構造の内側に、折れた塔や梁が複雑に絡み合っている。外殻の裂け目ひとつだけでも、作業艇が数隻並んで入れそうだった。
「隊長」
後部座席の若い隊員が声を上げる。
「これ、本当に施設なんですかね」
「岩よりは真っ直ぐな場所が多い」
「それだけですか?」
「今分かるのはな」
グレッグは外殻表面へ視線を走らせた。
灰色の装甲材の間に、青白い結晶脈が走っている。
ステーション17で見つかったFランク結晶に似ていた。
鉱物の価値はグレッグには分からない。
ただ、近づくほど装甲のセンサー誤差が大きくなっていることは分かった。
『作業艇固定位置を算出』
ノアが外殻の裂け目を示す。
『正規進入口かどうかは不明。周辺構造の安定度は許容範囲内です』
「全員、降下準備」
作業艇が外殻へ接近し、固定アームを伸ばした。
機体が小さく揺れる。
固定完了の表示を確認してから、グレッグは装甲を立ち上がらせた。
「確認する。進入は裂け目から三十メートルまで。センサーを設置したら戻る」
『了解』
「隊列を崩すな。見つけたものは、触る前に報告しろ」
「隊長、その言い方だと、触っていい場合もあります?」
「俺がいいと言った場合だけだ」
「分かりました」
若い隊員の声は硬い。
グレッグはそのままハッチへ向いた。
ハッチが開いた。
その先には、構造物の外殻と星空が見えた。
グレッグは外殻へ降りた。
磁気ブーツが構造物をつかみ、低い振動が脚から腰へ伝わってくる。
「振動を確認」
「周期は?」
「不規則です。自然振動か、内部設備の残留動作かは分かりません」
「記録しておけ」
六機は外殻の裂け目へ近づいた。
縁には、金属とも結晶とも判別できない素材が露出している。青白い筋が、その隙間を縫うように奥へ続いていた。
「壁の中に、何か流れていますね」
「近づけるだけにしろ。触るな」
「まだ何もしてませんよ」
「声が触りたがっている」
「了解」
裂け目の先には、広い通路が続いていた。
強化揚陸装甲が三機並んでも余裕がある。
壁面には、配線や端末の代わりに、規則的な溝と結晶脈が刻まれていた。
現代の軍艦で見慣れた構造は見当たらない。
だが、通路として使われていた形跡はある。
「進入距離、十メートル」
「環境測定を開始」
「微弱重力あり。気体濃度は極小」
「未登録粒子反応を検出」
「壁面材質、分析不能」
隊員たちが測定器を設置しながら進む。
二十メートル。
前方の闇に動きはない。
「二十五メートル」
グレッグは足を止めた。
「この位置に主センサーを置く。設置したら戻るぞ」
「了解」
一人が壁際へ測定器を固定する。
固定具が外殻へ触れた瞬間、足元から細い振動が返ってきた。
「全員、停止」
グレッグが腕を上げる。
壁の結晶脈が淡く明滅した。
一度。
二度。
三度。
通路の奥で、構造材の継ぎ目が開く。
天井の一部が沈み、床の隙間から六本の細い脚が伸びた。
「複数のエネルギー反応!」
「撤退だ」
グレッグは即座に命じた。
「センサーは捨てろ。隊列を維持して戻るぞ」
「攻撃許可は?」
「制圧射撃だけだ。撃破に固執するな」
床から現れた機械が、丸い胴体を持ち上げた。
脚の先には切断刃が備えられている。
続いて、球形の機械が天井近くへ浮かび上がった。壁面からは、細長い機械が這い出し、裂け目へ続く通路を塞ごうとしている。
「退路側にも反応!」
「退路を制圧して抜ける。前へ出すぎるな!」
蜘蛛型の機械が床を蹴った。
先頭の隊員が小型火器を撃つ。
弾丸は丸い胴体を弾き、機械の姿勢を崩した。
「下がれ!」
球形機械の表面に白い光が集まる。
「射線!」
三機が左右へ散った。
細い光が通路を走り、強化揚陸装甲の肩をかすめる。装甲表面が赤く焼けた。
「低出力ビームを確認!」
「制圧射撃を続けろ。止まるな!」
グレッグは最後尾へ回った。
隊員たちは少しずつ裂け目へ近づいている。
機械の数は増えていた。
蜘蛛型が天井と床を走り、球形機械が射線を作る。細長い作業機械は、床から拘束具を伸ばし始めていた。
どの機械も、こちらの退路を塞ぐように動いていた。
「隊長、一人捕まった!」
後方で若い隊員の装甲が傾いた。
床から伸びたワイヤーが、右脚へ絡みついている。
「動くな。締まるぞ」
「切断工具が届きません!」
「俺が行く」
グレッグは機械の間を抜け、若い隊員のもとへ走った。
蜘蛛型が横から飛びかかる。
作業アームで受け止め、壁へ押しつけた。
切断刃が腕部装甲を削り、警告が赤く染まる。
モニターに警告表示が出た。
【右腕部外装、損傷】
グレッグは拘束ワイヤーの根元へ切断工具を当てた。
火花が散る。
ワイヤーが弾け、若い隊員の脚が自由になった。
「立て」
「すみません」
「謝るのは帰ってからにしろ」
背中を押し、裂け目の方へ走らせる。
蜘蛛型が再び跳んだ。
グレッグは身体を割り込ませた。
切断刃が右腕の関節部へ食い込み、装甲を破る。
【右腕駆動、低下】
【冷却液漏出】
右腕の反応が鈍くなった。
それでも、掴んだ機械を床へ叩きつける。
「走れ!」
「隊長!」
「ここで格好をつけるのは隊長の仕事だ。俺の仕事を奪うな!」
若い隊員は一度だけ振り返り、そのまま走った。
残る隊員も裂け目へ近づいている。
あと少しだ。
グレッグは後退しながら、弾薬残量を確認した。
右腕はほとんど動かない。
背部推進器の出力も落ちていた。
通信機に大きなノイズが入る。
『グレッグ隊……状況を……』
「こちらグレッグ。撤退中。敵性機械多数。隊員五名は裂け目へ向かっている」
『隊長機……損傷を確認……』
「見れば分かる」
音声通信が途切れた。
ヘルメットの端には、緊急回線を示す表示だけが残っている。機体位置と損傷情報が、断続的に送信されていた。
こちらの声が届いているかは分からない。
球形機械が三体、通路の奥に並んだ。
白い光が集まり始める。
遮蔽物はない。
部下は裂け目まで抜けた。
なら、まだいい。
グレッグは動かない右腕を盾のように前へ出した。
「生きて帰れば、飯が食えるんだったな」
三つの光がこちらへ向いた、その直前。
横から重い影が飛び込んできた。
強化揚陸装甲。
塗装の剥げた肩。
色の違う左脚。
格納庫に残したはずの予備三号機だった。
「なぜ、ここに……」
三本の光が走る。
予備三号機が左腕を上げた。
装甲表面に黄金の線が浮かび、ビームを受け止める。
熱は消えきらなかった。
左腕の装甲が赤く焼け、関節部から白い冷却剤が噴き出す。
『左腕部、過負荷』
ヘルメット表示に、機体情報が流れ込んできた。
部隊識別欄には、予備三号機。
操縦者名は空欄。
生体モニターにも反応はない。
「無人……?」
予備三号機は、損傷した左腕を下げなかった。
右腕を前へ向ける。
黄金の光が、指先から腕部装甲へ広がった。
蜘蛛型の機械が一斉に飛びかかる。
雷光が、通路を走った。
先頭の二体が床へ崩れる。
球形機械の一体が火花を散らし、照準光を失った。
奥に残る機械は、まだ動いている。
それでも、裂け目へ続く数メートルの退路が開いた。
予備三号機が、グレッグの前へ立つ。
左腕から冷却剤を漏らし、色の違う左脚を引きずっている。
それでも、グレッグと通路奥の機械の間に立ったままだ。
「……誰が、乗っている?」
答えはない。
予備三号機の右腕には、雷のような黄金の光が走っていた。