前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜 作:オカノヒカル
揚陸部隊の救出から、十数時間後。
外縁補給ステーション17の仮設管制室では、空調が低く鳴っていた。
天井照明は三つに一つが消えたまま。壁際の管制盤にも、赤い警告表示が並んでいる。
水再生ラインは少量ながら飲用水を供給し、空調の戻った休息区画ではグレッグたちが治療を受けていた。
《アーク・ロズベル》との専用回線を通じて、仮設管制卓の上にノアの箱舟型ホログラムが浮かんでいる。
輪郭の端には、細かなノイズが走っていた。
「司令。最初に確認していただきたいことがあります」
管制卓の向こうで、セラが端末を開いた。
目の下の隈は濃い。髪も少し乱れている。
表示された文字列を確認する指は止まっていなかった。
「ステーション17の旧補給記録から復元された、“アーク”の文字列についてです」
投影の中央に、短い単語が浮かぶ。
アーク。
《アーク・ロズベル》と同じ言葉だ。
だが、それ以上のことは分かっていない。
『対象構造物との関連が疑われますが、施設名、計画名、艦名、物資識別名のいずれかは判定不能です』
ノアが破損記録を拡大する。
文字列の前後は、黒く欠けていた。
「内部解析は続けます」
セラが言う。
「《アーク》の初期設計記録も照合に回します。艦名の由来か、同じ名称を使った古い記録が残っていないか確認します」
『《アーク・ロズベル》初期設計記録を照合対象へ追加』
「ただし、この文字列は暫定機密として管理します。外部提出ログへの自動転記を止め、詳細へアクセスできる者も制限します」
「必要なのか?」
「必要です。関連も意味も分からない情報を外へ流せば、こちらより先に価値を決める人間が現れます」
「価値があるかも分からんぞ」
「だからです」
セラは即答した。
「邪魔が入るのは腹立たしいですよ。解析が終わるまでは」
俺は表示された文字列を見た。
偶然か、それとも巨大構造物と関係があるのか。今はまだ分からない。
「分かった。暫定機密にしろ」
『司令官承認を記録』
『内部解析項目へ登録。外部提出記録への自動転記を停止します』
ノアの箱舟が一度だけ明滅した。
「次は、予備三号機です」
セラが投影を切り替える。
格納庫横の修理ベイが映った。
予備三号機は、整備架へ固定されていた。
左腕の外装は取り外され、焼けた関節部から冷却管が露出している。右腕も制御系が開かれ、外部作業電極の交換作業が進んでいた。
色の違う左脚は、姿勢制御ユニットごと整備架に固定されている。
「ずいぶん壊れたな」
「司令が壊しました」
「ちゃんと帰ってきたぞ」
「帰ってきたことと、損傷が軽いことは別です」
『損傷状況を報告』
ノアが表示を追加する。
『左腕外装焼損。左腕関節過負荷および冷却剤漏出』
『右腕外部作業電極、制御系ともに焼損』
『左脚姿勢制御の既知不具合が悪化。通信系および冷却系にも過負荷を確認』
「まだ直せるな」
「部品があれば」
セラの返答は早かった。
「外部報告には、“緊急無人救援運用の暫定試験”と記載します」
「無人だったことは書くのか」
「書きます。グレッグ隊長も隊員たちも見ています。事実を隠せば、後で説明がつきません」
セラは外部提出用の草案を表示した。
予備三号機が、操縦者不在の状態で救援行動を実施。
通信中継には作業艇二番とステーション17を使用。
艦載AIによる姿勢制御補助と、副官による出力・冷却管理を実施。
制御方式の詳細は、未解析技術を含むため機密指定。
「魔法は?」
「書きません」
「エーテルは?」
「書きません」
「意識の半分を入れたことは?」
セラの指が止まった。
「それは内部解析でも、あとで詳しく聞きます」
「必要か?」
「必要です」
『同意。新規現象として記録済みです』
「勝手に増やすな」
『必要です』
「外へ出すのは、無人救援が行われたという事実までです」
セラが話を戻す。
「未登録媒質反応、魔法、司令の感覚共有については、すべて内部解析に残します」
「任せる」
セラがわずかに眉を上げた。
「今回は素直ですね」
「人を助けた結果を、俺が説明するより、お前が説明した方が通るだろ」
「よく分かっていますね」
「会議を増やしたくないからな」
「その会議は減りません」
残念だ。
『グレッグ・ハルト隊長より通信要請』
「つないでください」
管制卓の端に、医療区画の映像が開いた。
グレッグは寝台へ半身を起こし、片腕を固定されていた。
額には冷却シートが貼られている。
「寝ろと言ったはずだ」
「いま寝るところです。その前に一つだけ」
グレッグは画面越しに、セラへ視線を向けた。
〈予備三号機の件ですが、うちの連中には無人救援機だったと説明しておきます〉
「詳しい制御方式は、話さないでください」
〈話せと言われても、見えちゃいません。空の装甲が飛び込んできて、俺たちの退路を開いた。それだけです〉
「助かります」
〈助けられたのはこちらです〉
グレッグは少しだけ口元を上げた。
〈では、今度こそ寝ます〉
「命令だ。回復するまで寝てろ」
〈了解しました〉
通信が切れた。
セラは医療区画の表示が消えるまで、管制卓から手を離さなかった。
「いい隊長ですね」
「そうだな」
「ステーションの状況は?」
セラが断面図を表示する。
「水再生ライン一系統は、配管洗浄と成分検査を終えました。飲用可能ですが、毎日の必要量には届きません。海賊船から接収した水と併用します」
青く表示された区画が、前回よりわずかに増えている。
「空調は四区画。修理ベイ一基は手動運用。倉庫区画三つ、捕虜の一時収容区画一つ、負傷者用の休息区画二つを使用中です」
『居住環境は、星系連合標準値を大きく下回ります』
「眠れるか?」
『肯定。温度、気密、酸素濃度は最低安全基準を満たしています』
「なら、いまは十分だ」
「仮拠点としては、です」
セラは断面図の外側へ、艦隊配置を重ねた。
「外周警戒は僚艦二隻ずつの交代制です。残る艦はステーション近傍で、応急修理と乗員休養に入っています」
「無理はさせるな」
「分かっています。どの艦も全力航行には耐えません。警戒艦も、推進器温度を見ながら交代させます」
窓の外では、補給班が海賊船から運び出したコンテナを倉庫へ移していた。
保存食料と水、冷却材、修理用樹脂、医療パック。
修理ベイでは、整備兵が古い配管継手を削り直している。
医療班は休息区画の寝台を埋め、捕虜管理班は海賊たちの識別情報をまとめていた。
防衛機械の残骸は、封鎖された隔離区画に置かれている。
Fランク結晶のサンプルも、封印容器のまま分析区画へ保管されていた。
「食料も医療品も、ある分を使うだけです。主砲部品もありません。本格修理も不可能です」
セラが確認するように言った。
「で、給料も出ないと」
「はい」
「厳しいな」
「ですが、第二艦隊全体の態勢を立て直す場所にはなりました。運用が安定すれば、前哨基地としても機能するでしょう」
管制室の外を、補給班の兵が水パックを抱えて通り過ぎた。
ステーションへ入ったときより、歩く速度が少し上がっている。
「負傷者が横になれて、水が出る。それなら拾った価値はあるな」
セラは返事の代わりに、補給表を更新した。
『報告』
ノアの声が変わった。
『星系連合外部治安認定網より、先に送信した記録の受理通知を確認』
管制卓に複数の受付番号が並ぶ。
『海賊討伐記録、受付番号を付与』
『捕虜引き渡し予定、仮案件として登録』
『鹵獲物資、現地補給資産として暫定受理』
『外縁補給ステーション17、現地再稼働規定に基づく一時利用記録を受理』
「受理されたのか?」
『肯定』
セラが受付番号を一つずつ確認していく。
「所有権が確定したわけではありません」
「ステーションが俺たちのものになったわけでもない?」
「なっていません。鹵獲物資も、任務中の暫定使用が認められただけです」
セラは受付通知を外部記録へ保存した。
「ですが、記録番号が付きました。少なくとも領主府だけで、戦果そのものを消すことは難しくなりました」
「横から取られることは?」
「それはできます」
「できるのか?」
「政治は、番号一つで止まるほど親切ではありません」
セラは続けて、危険物の記録を開いた。
「Fランク結晶サンプル一件。未解析危険物として封印保管中。外部へは、ここまで記録します」
「星脈結晶という名は?」
「内部解析上の呼称です」
「本名なのだが……」
「外ではFランク結晶です」
『未登録自律機械残骸についても、危険物として隔離中と記録します。内部構造および制御情報は機密指定を継続』
「これなら、あとから存在を隠していたとは言われません」
セラは受付番号をまとめ、俺の承認欄へ送った。
「承認してください」
「面倒だな」
「記録がなければ、あとでこちらだけが責任を負います」
仕方なく承認する。
画面上で、各記録へ俺の認証が付いた。
**
ロズベル本星の領主府で、ガレス・ロズベルは外部治安認定網の受理通知を睨んでいた。
「なぜ、外部記録へ載っている?」
机上には、第二艦隊の戦果と現地活動が並んでいる。
海賊討伐。
捕虜引き渡し予定。
鹵獲物資の暫定登録。
ステーション17の一時利用。
どの記録にも、星系連合側の記録番号が付与されていた。
「危険宙域での標準手続きです」
ルシアン・ヴェイルは、ガレスの斜め後ろに立っていた。
「第二艦隊の艦載AIが、規定どおりに処理したのでしょう」
「棺桶艦のAIが、余計なことを」
「古い設備ほど、定められた手続きを残しているものです」
ガレスは表示を送った。
「廃棄施設を一つ動かした程度で、大げさな記録を残しおって」
「記録が残った以上、活用なさるべきでしょう」
「活用?」
「第二艦隊の戦果は、ロズベル領軍の戦果でもあります」
ルシアンの視線は、討伐数よりも、登録不能構造物の概要欄で長く止まった。
記載されているのは、危険な大型構造反応を確認したという事実だけだ。
内部図も、未登録媒質反応の詳細もない。
「構造物の記録が薄すぎる」
ガレスが言った。
「詳細情報も提出させるべきでしょう」
ルシアンは穏やかに答えた。
「ステーション17の管理状況と、鹵獲物資の残量も必要です。領内防衛資産である以上、領主府が配分を管理する理由は立ちます」
ガレスは椅子へ深く座り直した。
「命令文を作れ」
文官が端末を開く。
「外縁補給ステーション17の管理状況を報告。鹵獲物資については、領内防衛資産として適正配分を行う。使用状況と残量を報告し、領主府指定分を本星へ移送」
「正規補給は?」
文官が尋ねる。
「再編後、追って指示する」
ルシアンの目がわずかに細くなったが、何も言わない。
「登録不能構造物の詳細データも提出させろ。旧鉱山帯周辺の掃討と警戒は継続だ」
「かしこまりました」
ガレスは外部治安認定網の受付番号を見た。
弟の名前を消せないなら、成果ごと領主府の管理下へ置けばいい。
「第二艦隊はロズベル領軍の一部だ。その成果も、領主府が管理する」
「ええ。領主閣下のお考えどおりに」
ルシアンは頭を下げた。
**
『領主府より追加命令を受信』
ノアの声が、仮設管制室に響いた。
セラは命令文を開き、認証欄を確認する。
「正式命令です。ステーション17と鹵獲物資の管理報告、指定物資の本星移送。それから巨大構造物の詳細提出と、旧鉱山帯の掃討継続です」
セラが最後の一文で顔をしかめた。
「正規補給については、領主府側の再編後、追って指示する」
その意味を俺は即座に理解した。
「補給は、また後回しか?」
「はい」
「こちらの食料は取るのか?」
「適正配分という名目です」
俺は命令文を見た。
兵へ渡す水も、治療に使う薬も、艦を冷やす冷却材も、領主府からは届いていない。
その一方で、拾った物資の配分は管理するらしい。
「兵を飢えさせる命令は嫌いだ」
俺は命令文を閉じなかった。
「拾った飯を横から持っていこうとする命令は、もっと嫌いだ」
「完全に無視すれば、こちらが不利になります」
セラが別の画面を開いた。
「管理状況報告は提出します。巨大構造物については、未解析の危険対象として概要のみ。防衛機械の残骸も、危険物として隔離中と報告します」
「星脈結晶は?」
「外部記録ではFランク結晶サンプルです。封印保管中で、移送には安全審査が必要だと回答します」
「物資は残せるか」
「現地任務で使用中の分は、配分対象から外す根拠があります」
セラは補給資産の使用計画を表示した。
「医療品は、負傷者と捕虜の治療へ割り当て済み。水再生部品はステーション維持へ。冷却材と補修材は、主砲区画と損傷艦の応急修理に使用します」
『現地補給資産の使用計画を更新』
『医療、生命維持、応急修理への割り当てを記録します』
「あとから書き換えたと思われないか?」
「実際に使います。負傷者も故障箇所も存在します。必要数と作業記録を付ければ、正当な任務使用です」
「残った分は?」
「本星へ送れる余裕は、ほとんどないと報告します」
「事実か」
「事実です」
実際に必要なら、構わない。
その横で、ノアが修理予定を表示する。
『小型配管継手、冷却材循環弁、医療区画温度管理ユニット、食堂加熱ライン用部品の順で再加工中』
「食堂の部品も入っているな」
「温食を出せる回数は、士気と休養効率に影響します」
セラは真面目な顔で答えた。
「司令の言い方は雑ですが、効果は認めます」
「飯は大事だ」
『温食提供後、乗員の士気関連指標に改善を確認しています』
「ノアも分かってきたな」
「勝ち誇らないでください」
外周警戒中の哨戒艦から、報告が届く。
〈外周警戒一番艦、二番推進器の温度上昇を確認。予定より十五分早く交代を要請〉
続いて、拿捕船監視班からも通信が入った。
〈捕虜移送、半数完了。監視班の交代要員を要請〉
「交代を回せ」
「外周警戒は次の二隻と交代。現在の警戒艦は推進器を停止して休ませます」
セラが即座に割り振りを変更する。
「捕虜管理班も交代。食事がまだの班へ温食を回してください」
『作業効率が一時的に低下します』
「死なれるより安い」
『妥当と判断』
ノアの箱舟が明滅した。
直後、警告音が管制室へ響く。
『警告』
旧鉱山帯の星図が開いた。
ステーション17から離れた場所に、登録不能の巨大構造物が表示されている。
外殻の一部に、淡い反応が点滅していた。
『巨大構造物外殻に、低周期反応を確認』
「前回、防衛機械が起動した際に観測された深部反応と同じ波形ですか?」
セラが尋ねる。
『一部一致。ただし、今回の反応は表層区画付近に限定されています』
「防衛機械は?」
『入口付近で確認された一部機体は停止中』
『表層区画には、未停止の敵性反応が複数残っています』
セラの指が星図の上で止まった。
「領主府は、構造物の詳細を要求しています」
「人を入れるのか」
「反対です」
返事は早かった。
「グレッグ隊は休養中。予備三号機も修理中です。技術班を先に入れれば、防衛機械が残る区画へ調査員を立たせることになります」
「なら、人を入れなければいい」
セラがこちらを見る。
「空のゴーレムを使う」
「その呼び方はともかく、予備三号機は動かせません」
「他の装甲は?」
セラは格納庫の機体一覧を開いた。
「五号機なら使えます。右肩の出力に制限がありますが、歩行系と通信系は生きています」
『強化揚陸装甲五号機。作業艇による輸送が必要です』
『ステーション17および作業艇を経由した中継回線を推奨』
「前回と同じだな」
「同じにしないでください」
セラは運用条件を並べた。
「表層区画の確認だけです。有人部隊は出しません。雷撃は最小限。防衛機械と接触した場合も、撃破より離脱を優先します」
「分かっている」
「司令、私、ノアの三者運用です。どれか一つでも切れたら、五号機を撤退させます」
『同意。セラ副官による出力制限および冷却管理を必須とします』
「分かった」
「素直ですね」
「人を入れないで済むなら、その方がいい」
俺は星図の反応を見た。
領主府に口を出される前に、何があるのかだけは確かめておきたい。
「表層を確かめるぞ」
「準備を始めます」
セラが五号機の整備記録を開いた。
『強化揚陸装甲五号機、無人表層調査の準備を開始します』