前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜   作:オカノヒカル

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第12話 補給拠点、勝手に正式記録へ載る

 揚陸部隊の救出から、十数時間後。

 

 外縁補給ステーション17の仮設管制室では、空調が低く鳴っていた。

 天井照明は三つに一つが消えたまま。壁際の管制盤にも、赤い警告表示が並んでいる。

 

 水再生ラインは少量ながら飲用水を供給し、空調の戻った休息区画ではグレッグたちが治療を受けていた。

 

 《アーク・ロズベル》との専用回線を通じて、仮設管制卓の上にノアの箱舟型ホログラムが浮かんでいる。

 

 輪郭の端には、細かなノイズが走っていた。

 

「司令。最初に確認していただきたいことがあります」

 

 管制卓の向こうで、セラが端末を開いた。

 目の下の隈は濃い。髪も少し乱れている。

 

 表示された文字列を確認する指は止まっていなかった。

 

「ステーション17の旧補給記録から復元された、“アーク”の文字列についてです」

 

 投影の中央に、短い単語が浮かぶ。

 

 アーク。

 

 《アーク・ロズベル》と同じ言葉だ。

 

 だが、それ以上のことは分かっていない。

 

『対象構造物との関連が疑われますが、施設名、計画名、艦名、物資識別名のいずれかは判定不能です』

 

 ノアが破損記録を拡大する。

 文字列の前後は、黒く欠けていた。

 

「内部解析は続けます」

 

 セラが言う。

 

「《アーク》の初期設計記録も照合に回します。艦名の由来か、同じ名称を使った古い記録が残っていないか確認します」

『《アーク・ロズベル》初期設計記録を照合対象へ追加』

「ただし、この文字列は暫定機密として管理します。外部提出ログへの自動転記を止め、詳細へアクセスできる者も制限します」

「必要なのか?」

「必要です。関連も意味も分からない情報を外へ流せば、こちらより先に価値を決める人間が現れます」

「価値があるかも分からんぞ」

「だからです」

 

 セラは即答した。

 

「邪魔が入るのは腹立たしいですよ。解析が終わるまでは」

 

 俺は表示された文字列を見た。

 偶然か、それとも巨大構造物と関係があるのか。今はまだ分からない。

 

「分かった。暫定機密にしろ」

『司令官承認を記録』

『内部解析項目へ登録。外部提出記録への自動転記を停止します』

 

 ノアの箱舟が一度だけ明滅した。

 

「次は、予備三号機です」

 

 セラが投影を切り替える。

 格納庫横の修理ベイが映った。

 

 予備三号機は、整備架へ固定されていた。

 

 左腕の外装は取り外され、焼けた関節部から冷却管が露出している。右腕も制御系が開かれ、外部作業電極の交換作業が進んでいた。

 

 色の違う左脚は、姿勢制御ユニットごと整備架に固定されている。

 

「ずいぶん壊れたな」

「司令が壊しました」

「ちゃんと帰ってきたぞ」

「帰ってきたことと、損傷が軽いことは別です」

『損傷状況を報告』

 

 ノアが表示を追加する。

 

『左腕外装焼損。左腕関節過負荷および冷却剤漏出』

『右腕外部作業電極、制御系ともに焼損』

『左脚姿勢制御の既知不具合が悪化。通信系および冷却系にも過負荷を確認』

「まだ直せるな」

「部品があれば」

 

 セラの返答は早かった。

 

「外部報告には、“緊急無人救援運用の暫定試験”と記載します」

「無人だったことは書くのか」

「書きます。グレッグ隊長も隊員たちも見ています。事実を隠せば、後で説明がつきません」

 

 セラは外部提出用の草案を表示した。

 予備三号機が、操縦者不在の状態で救援行動を実施。

 通信中継には作業艇二番とステーション17を使用。

 

 艦載AIによる姿勢制御補助と、副官による出力・冷却管理を実施。

 制御方式の詳細は、未解析技術を含むため機密指定。

 

「魔法は?」

「書きません」

「エーテルは?」

「書きません」

「意識の半分を入れたことは?」

 

 セラの指が止まった。

 

「それは内部解析でも、あとで詳しく聞きます」

「必要か?」

「必要です」

『同意。新規現象として記録済みです』

「勝手に増やすな」

『必要です』

 

「外へ出すのは、無人救援が行われたという事実までです」

 

 セラが話を戻す。

 

「未登録媒質反応、魔法、司令の感覚共有については、すべて内部解析に残します」

「任せる」

 

 セラがわずかに眉を上げた。

 

「今回は素直ですね」

「人を助けた結果を、俺が説明するより、お前が説明した方が通るだろ」

「よく分かっていますね」

「会議を増やしたくないからな」

「その会議は減りません」

 

 残念だ。

 

『グレッグ・ハルト隊長より通信要請』

「つないでください」

 

 管制卓の端に、医療区画の映像が開いた。

 グレッグは寝台へ半身を起こし、片腕を固定されていた。

 額には冷却シートが貼られている。

 

「寝ろと言ったはずだ」

「いま寝るところです。その前に一つだけ」

 

 グレッグは画面越しに、セラへ視線を向けた。

 

〈予備三号機の件ですが、うちの連中には無人救援機だったと説明しておきます〉

「詳しい制御方式は、話さないでください」

〈話せと言われても、見えちゃいません。空の装甲が飛び込んできて、俺たちの退路を開いた。それだけです〉

「助かります」

〈助けられたのはこちらです〉

 

 グレッグは少しだけ口元を上げた。

 

〈では、今度こそ寝ます〉

「命令だ。回復するまで寝てろ」

〈了解しました〉

 

 通信が切れた。

 セラは医療区画の表示が消えるまで、管制卓から手を離さなかった。

 

「いい隊長ですね」

「そうだな」

 

 殿(しんがり)を務めながら部下を連れ戻したのだ。いまは休ませるべきだろう。

 

「ステーションの状況は?」

 

 セラが断面図を表示する。

 

「水再生ライン一系統は、配管洗浄と成分検査を終えました。飲用可能ですが、毎日の必要量には届きません。海賊船から接収した水と併用します」

 

 青く表示された区画が、前回よりわずかに増えている。

 

「空調は四区画。修理ベイ一基は手動運用。倉庫区画三つ、捕虜の一時収容区画一つ、負傷者用の休息区画二つを使用中です」

『居住環境は、星系連合標準値を大きく下回ります』

「眠れるか?」

『肯定。温度、気密、酸素濃度は最低安全基準を満たしています』

「なら、いまは十分だ」

「仮拠点としては、です」

 

 セラは断面図の外側へ、艦隊配置を重ねた。

 

「外周警戒は僚艦二隻ずつの交代制です。残る艦はステーション近傍で、応急修理と乗員休養に入っています」

 

「無理はさせるな」

「分かっています。どの艦も全力航行には耐えません。警戒艦も、推進器温度を見ながら交代させます」

 

 窓の外では、補給班が海賊船から運び出したコンテナを倉庫へ移していた。

 保存食料と水、冷却材、修理用樹脂、医療パック。

 修理ベイでは、整備兵が古い配管継手を削り直している。

 

 医療班は休息区画の寝台を埋め、捕虜管理班は海賊たちの識別情報をまとめていた。

 防衛機械の残骸は、封鎖された隔離区画に置かれている。

 

 Fランク結晶のサンプルも、封印容器のまま分析区画へ保管されていた。

 

「食料も医療品も、ある分を使うだけです。主砲部品もありません。本格修理も不可能です」

 

 セラが確認するように言った。

 

「で、給料も出ないと」

「はい」

「厳しいな」

「ですが、第二艦隊全体の態勢を立て直す場所にはなりました。運用が安定すれば、前哨基地としても機能するでしょう」

 

 管制室の外を、補給班の兵が水パックを抱えて通り過ぎた。

 

 ステーションへ入ったときより、歩く速度が少し上がっている。

 

「負傷者が横になれて、水が出る。それなら拾った価値はあるな」

 

 セラは返事の代わりに、補給表を更新した。

 

『報告』

 

 ノアの声が変わった。

 

『星系連合外部治安認定網より、先に送信した記録の受理通知を確認』

 

 管制卓に複数の受付番号が並ぶ。

 

『海賊討伐記録、受付番号を付与』

『捕虜引き渡し予定、仮案件として登録』

『鹵獲物資、現地補給資産として暫定受理』

『外縁補給ステーション17、現地再稼働規定に基づく一時利用記録を受理』

「受理されたのか?」

『肯定』

 

 セラが受付番号を一つずつ確認していく。

 

「所有権が確定したわけではありません」

「ステーションが俺たちのものになったわけでもない?」

「なっていません。鹵獲物資も、任務中の暫定使用が認められただけです」

 

 セラは受付通知を外部記録へ保存した。

 

「ですが、記録番号が付きました。少なくとも領主府だけで、戦果そのものを消すことは難しくなりました」

「横から取られることは?」

「それはできます」

「できるのか?」

「政治は、番号一つで止まるほど親切ではありません」

 

 セラは続けて、危険物の記録を開いた。

 

「Fランク結晶サンプル一件。未解析危険物として封印保管中。外部へは、ここまで記録します」

「星脈結晶という名は?」

「内部解析上の呼称です」

「本名なのだが……」

「外ではFランク結晶です」

『未登録自律機械残骸についても、危険物として隔離中と記録します。内部構造および制御情報は機密指定を継続』

「これなら、あとから存在を隠していたとは言われません」

 

 セラは受付番号をまとめ、俺の承認欄へ送った。

 

「承認してください」

「面倒だな」

「記録がなければ、あとでこちらだけが責任を負います」

 

 仕方なく承認する。

 

 画面上で、各記録へ俺の認証が付いた。

 

**

 

 ロズベル本星の領主府で、ガレス・ロズベルは外部治安認定網の受理通知を睨んでいた。

 

「なぜ、外部記録へ載っている?」

 

 机上には、第二艦隊の戦果と現地活動が並んでいる。

 

 海賊討伐。

 捕虜引き渡し予定。

 鹵獲物資の暫定登録。

 ステーション17の一時利用。

 

 どの記録にも、星系連合側の記録番号が付与されていた。

 

「危険宙域での標準手続きです」

 

 ルシアン・ヴェイルは、ガレスの斜め後ろに立っていた。

 

「第二艦隊の艦載AIが、規定どおりに処理したのでしょう」

「棺桶艦のAIが、余計なことを」

「古い設備ほど、定められた手続きを残しているものです」

 

 ガレスは表示を送った。

 

「廃棄施設を一つ動かした程度で、大げさな記録を残しおって」

「記録が残った以上、活用なさるべきでしょう」

「活用?」

「第二艦隊の戦果は、ロズベル領軍の戦果でもあります」

 

 ルシアンの視線は、討伐数よりも、登録不能構造物の概要欄で長く止まった。

 記載されているのは、危険な大型構造反応を確認したという事実だけだ。

 内部図も、未登録媒質反応の詳細もない。

 

「構造物の記録が薄すぎる」

 

 ガレスが言った。

 

「詳細情報も提出させるべきでしょう」

 

 ルシアンは穏やかに答えた。

 

「ステーション17の管理状況と、鹵獲物資の残量も必要です。領内防衛資産である以上、領主府が配分を管理する理由は立ちます」

 

 ガレスは椅子へ深く座り直した。

 

「命令文を作れ」

 

 文官が端末を開く。

 

「外縁補給ステーション17の管理状況を報告。鹵獲物資については、領内防衛資産として適正配分を行う。使用状況と残量を報告し、領主府指定分を本星へ移送」

「正規補給は?」

 

 文官が尋ねる。

 

「再編後、追って指示する」

 

 ルシアンの目がわずかに細くなったが、何も言わない。

 

「登録不能構造物の詳細データも提出させろ。旧鉱山帯周辺の掃討と警戒は継続だ」

「かしこまりました」

 

 ガレスは外部治安認定網の受付番号を見た。

 

 弟の名前を消せないなら、成果ごと領主府の管理下へ置けばいい。

 

「第二艦隊はロズベル領軍の一部だ。その成果も、領主府が管理する」

「ええ。領主閣下のお考えどおりに」

 

 ルシアンは頭を下げた。

 

**

 

『領主府より追加命令を受信』

 

 ノアの声が、仮設管制室に響いた。

 セラは命令文を開き、認証欄を確認する。

 

「正式命令です。ステーション17と鹵獲物資の管理報告、指定物資の本星移送。それから巨大構造物の詳細提出と、旧鉱山帯の掃討継続です」

 

 セラが最後の一文で顔をしかめた。

 

「正規補給については、領主府側の再編後、追って指示する」

 

 その意味を俺は即座に理解した。

 

「補給は、また後回しか?」

「はい」

「こちらの食料は取るのか?」

「適正配分という名目です」

 

 俺は命令文を見た。

 兵へ渡す水も、治療に使う薬も、艦を冷やす冷却材も、領主府からは届いていない。

 その一方で、拾った物資の配分は管理するらしい。

 

「兵を飢えさせる命令は嫌いだ」

 

 俺は命令文を閉じなかった。

 

「拾った飯を横から持っていこうとする命令は、もっと嫌いだ」

「完全に無視すれば、こちらが不利になります」

 

 セラが別の画面を開いた。

 

「管理状況報告は提出します。巨大構造物については、未解析の危険対象として概要のみ。防衛機械の残骸も、危険物として隔離中と報告します」

「星脈結晶は?」

「外部記録ではFランク結晶サンプルです。封印保管中で、移送には安全審査が必要だと回答します」

「物資は残せるか」

「現地任務で使用中の分は、配分対象から外す根拠があります」

 

 セラは補給資産の使用計画を表示した。

 

「医療品は、負傷者と捕虜の治療へ割り当て済み。水再生部品はステーション維持へ。冷却材と補修材は、主砲区画と損傷艦の応急修理に使用します」

『現地補給資産の使用計画を更新』

『医療、生命維持、応急修理への割り当てを記録します』

「あとから書き換えたと思われないか?」

「実際に使います。負傷者も故障箇所も存在します。必要数と作業記録を付ければ、正当な任務使用です」

「残った分は?」

「本星へ送れる余裕は、ほとんどないと報告します」

「事実か」

「事実です」

 

 実際に必要なら、構わない。

 

 その横で、ノアが修理予定を表示する。

 

『小型配管継手、冷却材循環弁、医療区画温度管理ユニット、食堂加熱ライン用部品の順で再加工中』

 

「食堂の部品も入っているな」

「温食を出せる回数は、士気と休養効率に影響します」

 

 セラは真面目な顔で答えた。

 

「司令の言い方は雑ですが、効果は認めます」

「飯は大事だ」

『温食提供後、乗員の士気関連指標に改善を確認しています』

「ノアも分かってきたな」

「勝ち誇らないでください」

 

 外周警戒中の哨戒艦から、報告が届く。

 

〈外周警戒一番艦、二番推進器の温度上昇を確認。予定より十五分早く交代を要請〉

 

 続いて、拿捕船監視班からも通信が入った。

 

〈捕虜移送、半数完了。監視班の交代要員を要請〉

「交代を回せ」

「外周警戒は次の二隻と交代。現在の警戒艦は推進器を停止して休ませます」

 

 セラが即座に割り振りを変更する。

 

「捕虜管理班も交代。食事がまだの班へ温食を回してください」

『作業効率が一時的に低下します』

「死なれるより安い」

『妥当と判断』

 

 ノアの箱舟が明滅した。

 直後、警告音が管制室へ響く。

 

『警告』

 

 旧鉱山帯の星図が開いた。

 

 ステーション17から離れた場所に、登録不能の巨大構造物が表示されている。

 外殻の一部に、淡い反応が点滅していた。

 

『巨大構造物外殻に、低周期反応を確認』

 

「前回、防衛機械が起動した際に観測された深部反応と同じ波形ですか?」

 

 セラが尋ねる。

 

『一部一致。ただし、今回の反応は表層区画付近に限定されています』

「防衛機械は?」

『入口付近で確認された一部機体は停止中』

『表層区画には、未停止の敵性反応が複数残っています』

 

 セラの指が星図の上で止まった。

 

「領主府は、構造物の詳細を要求しています」

「人を入れるのか」

「反対です」

 

 返事は早かった。

 

「グレッグ隊は休養中。予備三号機も修理中です。技術班を先に入れれば、防衛機械が残る区画へ調査員を立たせることになります」

「なら、人を入れなければいい」

 

 セラがこちらを見る。

 

「空のゴーレムを使う」

「その呼び方はともかく、予備三号機は動かせません」

「他の装甲は?」

 

 セラは格納庫の機体一覧を開いた。

 

「五号機なら使えます。右肩の出力に制限がありますが、歩行系と通信系は生きています」

『強化揚陸装甲五号機。作業艇による輸送が必要です』

『ステーション17および作業艇を経由した中継回線を推奨』

「前回と同じだな」

「同じにしないでください」

 

 セラは運用条件を並べた。

 

「表層区画の確認だけです。有人部隊は出しません。雷撃は最小限。防衛機械と接触した場合も、撃破より離脱を優先します」

「分かっている」

「司令、私、ノアの三者運用です。どれか一つでも切れたら、五号機を撤退させます」

『同意。セラ副官による出力制限および冷却管理を必須とします』

「分かった」

「素直ですね」

「人を入れないで済むなら、その方がいい」

 

 俺は星図の反応を見た。

 領主府に口を出される前に、何があるのかだけは確かめておきたい。

 

「表層を確かめるぞ」

「準備を始めます」

 

 セラが五号機の整備記録を開いた。

 

『強化揚陸装甲五号機、無人表層調査の準備を開始します』

 

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