前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜   作:オカノヒカル

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第13話 誰も読めない遺物、ただの魔法陣だった

 領主府から追加命令が届いてから、数時間後。

 

 強化揚陸装甲五号機は、外縁補給ステーション17の外部作業区画で、無人作業艇の固定架へ収められていた。

 右肩の装甲には、黄色い警告表示が浮かんでいる。

 

「五号機は右肩の駆動出力に制限があります」

 

 仮設管制室で、セラが機体状況を確認した。

 

「作業腕は低出力で使用。高出力兵装は搭載しません。前回のような戦闘行動も禁止です」

「防衛機械が出た場合は?」

「接触を避けて撤退してください」

「避けられない場合は?」

「その状況を作らないための調査です」

 

 セラは管制卓に、何重もの制限項目を並べていく。

 五号機の右肩出力。

 関節部の冷却。

 背部推進器の使用時間。

 作業艇との通信状態。

 

 予備三号機は、両腕と左脚を修理中だ。今回は使えない。

 代わりに選ばれた五号機は、右肩に不調を抱えているものの、歩行系と通信系は使えた。

 

「技術班はステーション17から遠隔解析を行います。五号機が確認した範囲より先には、誰も入りません」

「分かっている」

「雷撃も原則禁止です」

「神経を焼く程度なら」

「禁止です」

『セラ副官の判断を支持します』

 

 ノアの箱舟型ホログラムが、管制卓の上で明滅した。

 

「ノアまで厳しいな」

『予備三号機の損傷記録に基づく判断です』

「壊れたが、戻ってきたぞ」

「五号機まで壊して戻すつもりですか?」

「壊すつもりはないが」

「司令が言うと不安になるのは、なぜでしょうね」

 

 いや、まあ俺が悪いのだろう。

 

『無人作業艇、発進準備完了』

『ステーション17を第一中継点、作業艇を第二中継点として通信経路を確立します』

『五号機の姿勢制御補助、センサー情報整理を開始』

 

 セラが俺を見る。

 

「通信中継、ノアの姿勢制御、司令の術式。どれか一つでも切れたら、五号機を回収します」

「分かった」

「私が設定した出力制限を解除しないでくださいね」

「必要がなければな」

「必要だと思っても、勝手に解除しないでください」

 

 セラは言葉を変えた。

 

「分かった」

 

 俺は管制卓へ手を置いた。

 前回と同じように、五号機の空の操縦槽へ仮の命令核を置く。

 意識の半分が、細い術式の糸を伝って装甲へ沈んでいく。

 人が乗るはずの空間には誰もいない。それでも、関節の重さや足裏の抵抗が、遠い身体の感覚として返ってきた。

 

「立て」

 

 作業艇の固定架で、五号機がゆっくり上体を起こす。

 右肩がわずかに遅れた。

 

『右肩駆動出力、制限値内』

『姿勢制御、正常』

「動くな」

 

 俺が命令すると、五号機はその場で止まった。

 

「悪くない」

「まだ立っただけです」

「立てれば歩ける」

 

 そのまま作業艇内部へと入る。

 

『無人作業艇、発進します』

 

 外部作業区画の隔壁が閉じる。

 作業艇がステーション17を離れ、旧鉱山帯の奥へ向かった。

 前方には、輪状構造と折れた梁を幾重にも重ねた巨大構造物が沈んでいる。

 その外殻を、灰色の結晶脈が走っていた。

 

 星脈結晶。

 

 ステーション17で見つけた小さな欠片よりも太く、何本もの筋が外殻の亀裂から内部へ続いている。

 

『対象構造物まで、残り三分』

『第二中継点との通信品質、低下』

「問題は?」

『許容範囲内です。撤退基準には達していません』

 

 作業艇から届く映像には細かなノイズが混じっていたが、五号機の位置と姿勢は追えていた。

 

「司令、感覚は?」

 

 セラが尋ねる。

 

「古い井戸の縁に立っているような感じだ」

「また分かりにくい例えですね」

「底は見えない。だが、中に何かがあるのは分かる」

「そこまでなら理解できます」

『無人作業艇、外殻へ到達』

『五号機の固定を解除します』

 

 五号機が作業艇から離れた。

 背部推進器を短く噴かし、グレッグ隊が使った裂け目へ向かう。

 

 外殻へ足をつける。

 ノアが姿勢を補正し、五号機はゆっくり入口へ進んだ。

 

『構造物表層へ進入』

 

 通路は暗かった。

 

 五号機の照明が、壁面の紋様を浮かび上がらせる。

 入口付近には、前回の救援で停止させた防衛機械が倒れていた。

 

 六本脚の機械が二体。

 照準機能を焼かれた球形機械が一体。

 拘束ワイヤーを伸ばしていた駆動装置も、床の一部に残っている。

 

『入口付近の停止個体を確認』

『前回の雷撃による局所損傷と一致』

『表層区画奥には、未停止の敵性反応が複数残っています』

「入口だけだな」

「はい。安全が確認できたのは、ここまでです」

 

 セラは調査範囲を赤線で囲った。

 

「第一接続廊の手前まで。奥の敵性反応へ近づいた場合は撤退します」

「了解した」

「素直ですね」

「俺も壊すために来たわけではない」

 

 五号機が通路を進む。

 

 技術班は、ステーション17の別卓から映像と測定値を解析していた。

 

〈近距離走査装置を起動〉

〈壁面材質、既存規格に該当なし〉

〈結晶部から、微弱な未登録媒質反応〉

〈接触センサーを壁面へ向けてください〉

 

 通信越しに、技術班の声が届く。

 五号機の左手に取り付けた小型観測器を、壁の近くへ持ち上げる。

 

〈これ、配線ではありません〉

〈結晶の内部を何かが通っています〉

〈回路のようにも見えますが、閉じていない箇所が多すぎる〉

〈どこを起点に読めばいいんだ?〉

 

 技術班は、目の前の構造を科学の規格に当てはめている。

 俺は壁面の溝を追った。

 円環を描き、別の面へ折れ、天井と床を通って深部へ続いている。

 

 星脈結晶の筋が、それぞれの円環と結節をつないでいた。

 平面で見れば、途中で切れているように見える。

 

 立体として追うと、切れていた筋がつながる。昔、遺跡でよく見た形に似ていた。

 

「回路ではないぞ。ただの模様でもない」

 

 俺が言うと、セラがこちらを見た。

 

「では、何ですか?」

「魔法陣だ」

 

 技術班の通信が止まった。

 

「壁だけを見ても読めん。床と天井、それから奥へ続く筋まで合わせて一つの陣になっている」

「立体構造そのものが、魔法陣……?」

「そうだ。ずいぶん大きいがな」

 

 五号機の映像を切り替え、通路全体を俯瞰する。

 

 壁の円環。

 床へ沈む結晶脈。

 天井を通る細い流路。

 それらが何層にも重なり、巨大構造物の深部へ向かっていた。

 

「これが魔法陣なら、何をするものなんですか?」

「周囲の力を集め、流れを整えて、奥へ送る形だ」

 

 俺は破損箇所を追った。

 いくつかの結節は砕け、流れが途中で滞留している。

 別の経路では、閉じるべき円環が割れ、力が逃げていた。

 外殻側の陣だけでも、かなり広い。

 

 表層の紋様だけでは、その先に何があるかまでは読めない。だが、外殻の陣の役割は分かる。

 

「魔力集積炉だな。少なくとも、ここはそう見える」

 

 管制室が静かになった。

 最初に声を出したのはセラだった。

 

「銀河考古学の研究者が聞いたら、倒れますよ」

「倒れるなら、安全な場所で倒しておけ」

「感動で、という意味です」

『構造物内部に高密度未登録媒質反応を確認』

『外殻構造が、反応を深部へ集約している可能性は否定できません』

『内部解析上の暫定呼称として、“魔力集積炉”を登録します』

「ノアまで登録するんですか?」

『検索性を確保するために必要です』

 

 セラは額を押さえた。

 

「内部限定です。外部報告には出しませんからね」

「名前があった方が扱いやすい」

「司令が付ける名前は、あとで正式名称のように定着するんです」

「分かりやすいからだろう」

「そこは否定しにくいのが困ります」

 

 五号機が、壁面を走る円環をさらに記録する。

 

「待ってください」

 

 技術班から声が飛んだ。

 

「五号機の右側。壁のくぼみを映してください」

 

 視界を向ける。

 

 結晶脈の間に、薄い板状の部材が埋め込まれていた。

 表面は傷んでいるが、周囲の紋様とは違う。細かな文字らしきものが何列も残っている。

 

『画像を補正』

『文字体系の一部が、旧標準記号群と一致』

『銘板と推定します』

「読めるのか?」

『完全な復元は不可能です』

 

 欠けた文字列が一つずつ補われていく。

 

『項目名候補――主任設計者』

『固有名詞を復元』

 

 その下に、一人の名前が表示された。

 

『フリードリヒ・ロズベル』

 

 セラの指が止まった。

 

「名前だけなら、不思議ではないな」

「はい」

 

 セラがすぐに記録を開く。

 

「フリードリヒ・ロズベルは、古い設計工房で歴代主任が継いだ設計者名です。《アーク》を基本設計した初代領主も、その名を使った最後期の一人とされています」

『記録と一致』

『対象区画の最古構造層、約千二百年前と推定』

『銘板周辺の主要構造、建造年代は約千年前と推定されます』

 

 千年前。

 

 それなら名前が同じでも、おかしくはない。

 

「昔のフリードリヒが、ここに関わっていたということか」

『現時点では、その解釈が妥当です』

 

 そこで、技術班の一人が声を上げた。

 

「銘板の右端を拡大できますか?」

 

 五号機の視界を寄せる。

 文字列の横に、浅いくぼみがあった。

 

 人間の右手を、そのまま押しつけたような形だった。

 

「手形か?」

『掌形刻印と推定』

『周辺記号から、設計責任者に関連する認証または署名である可能性があります』

 

 ノアの投影に別の資料が開いた。

 

『照合候補を確認』

『《アーク・ロズベル》初期設計原簿に、基本設計者の認証時掌形記録が存在します』

「比較してください」

 

 セラの声が少し低くなった。

 

 二つの掌形が重なる。

 約千年前の銘板。

 そして、約百三十年前の《アーク》設計記録。

 

『掌幅、高度一致』

『各指の長さ比、高度一致』

『関節位置、高度一致』

『親指基部角度、高度一致』

 

 セラが黙った。

 

「指紋は?」

『古代側の刻印には、指紋および掌紋を照合可能な精度の情報が残っていません』

『生体認証として、同一人物と断定することはできません』

「名は継げる」

 

 俺は重ねられた二つの掌形を見る。

 

「手まで似るのは、少し妙だな」

 

 なぜか、前世で何度も杖を任せた偏屈な技師を思い出した。

 いや。千年を隔てた設計者に、昔の知人を重ねる方がどうかしている。

 

『肯定』

『ただし、親族関係、記録形式、刻印生成方法など、他の可能性を排除できません』

「……名前だけなら、工房の慣習で説明できたんですが」

 

 セラが小さく息を吐いた。

 

「余計に分からなくなりましたね」

「そういうこともある」

「普通、調査というのは分かることを増やすものなんですが」

『関連記録として保管します』

「外には出しません。少なくとも、意味が分かるまでは」

「異論はない」

 

 俺は銘板から、壁面を走る魔法陣へ視線を戻した。

 

「壊れている場所なら分かる」

「修復できますか?」

「表層だけならな。中枢は見てみないと分からん」

 

 セラが管制卓を握った。

 

「今、直すつもりではありませんよね?」

「今の俺たちには大きすぎる」

 

 外殻の陣だけで、《アーク・ロズベル》の炉心を何基も並べたほどの流れを受け止める形になっている。

 ステーション17は仮復旧の途中。

 第二艦隊の艦も、応急修理を繰り返しながら休んでいる。

 

 ここで巨大構造物を完全に起こせば、何が起こるか分からない。

 

「完全起動はさせない」

 

 俺が言うと、セラの肩から少し力が抜けた。

 

「助かります」

「挨拶するだけだ」

「は?」

 

 セラの手が止まる。

 

「外側の閉じた陣へ、ごく小さな術式を置きたい」

「なぜですか?」

「見つけた物に印を付けるのは当たり前だろ?」

「当たり前ではないですが、それを挨拶と呼ぶつもりですか?」

「そうだ」

「完全起動につながる可能性は?」

「外側で閉じる。深部へ流れ込まないようにする」

「確実ですか?」

「壊れている部分へは通さない」

 

 セラはノアへ視線を移した。

 

『外殻側に、独立した小規模円環を確認』

『深部経路との間に、破損した結節があります』

「機体に負荷をかけるのは5秒だけです」

 

 セラが出力上限を設定した。

 

「機体の出力はこちらで固定します。深部反応が基準値を超えた場合、即時遮断します」

『緊急切断経路を設定』

『五号機左腕部へ、入力監視を集中』

「厳しいな」

「挨拶で艦隊を消さないためです」

「礼儀正しくするだけだ」

「司令の感覚は信用できません」

 

 五号機の左手を、壁面の小さな円環へ近づける。

 

「技術班、観測準備」

『各測定器、待機状態』

「ノア」

『入力監視を開始』

 

 黄金の細い光が、五号機の左指へ浮かんだ。

 ほんのわずかな術式を、外側の円環へ置く。

 起動させるほどの量は入れない。こちらの存在を伝え、何が返るかを見るだけだ。

 

『五号機からの入力信号、局所測定限界付近』

 

 壁面の円環が、一度だけ青白く光った。

 その光が、周囲の結晶脈へ薄く広がる。

 光は外側の円環に留まり、深部へ流れたようには見えなかった。

 

 だが直後、

 

『巨大構造物深部より、入力を上回る応答波形を確認』

 

 管制卓に白い警告が並んだ。

 

『高密度未登録媒質反応』

『ステーション17広域センサーへ瞬間負荷』

『反応の一部が、旧観測経路を通じて宙域外へ漏洩』

『到達範囲、算出不能』

「切ってください!」

 

 セラの声と同時に、緊急切断が作動した。

 五号機の指から黄金の光が消える。

 

 壁面の円環も暗くなった。

 入口付近に倒れていた球形機械の外殻が、わずかに震えた。

 

『停止個体に再起動兆候』

「五号機を二メートル後退」

 

 五号機が壁から離れる。

 赤い光が灯りかけていた球形機械は、それ以上動かなかった。

 

『再起動兆候、低下』

『接近または未登録媒質反応に連動した可能性があります』

「技術班は遠隔解析を中止。五号機も回収します」

「もう少し見たいのだが」

「今の応答が、どこまで届いたか分かりません」

 

 セラは五号機の帰還経路を開いた。

 

「深部の防衛系統も残っています。足場はステーション17一つ。これ以上続けるのは危険です」

「分かった」

『五号機、撤退開始』

 

 五号機は、停止個体から距離を取りながら入口へ戻った。

 右肩の出力は制限値内。

 通信状態もまだ保たれている。

 外殻へ出ると、無人作業艇が待っていた。

 

『五号機を固定』

『無人作業艇、ステーション17へ帰投します』

 

 巨大構造物が遠ざかる。

 意識の半分が術式の糸をたどり、ゆっくり俺の中へ戻ってきた。

 仮設管制室の空調音が、急にはっきり聞こえる。

 

「領主府への報告は、表層調査の概要だけです」

 

 セラが言った。

 

「未登録構造、防衛機械、追加調査の必要性。魔法陣と魔力集積炉の仮説、深部からの応答波形は暫定機密として扱います」

「異論はない」

『表層調査ログを内部解析区画へ保管』

『外部提出用記録を作成します』

 

 五号機を乗せた作業艇が、ステーション17へ近づいていた。

 

**

 

 遠方宙域。

 

 白い艦橋の深宙観測端末へ、一件の異常通知が届いた。

 磨かれた骨のような壁面に、黒い星図が浮かんでいる。

 

 観測員が通知を開いた。

 

「辺境宙域で、未登録の広帯域反応を検出」

 

 隣の士官が振り向く。

 

「通常航行波か?」

「該当しません。古代構造物級の起動兆候と部分一致」

 

 星図上に、発生推定域が表示される。

 ロズベル領外縁。

 旧鉱山帯付近。

 

「発生源の特定は?」

「信号は極小です。すでに沈黙しています。ただし、既知の民間設備から出る波形ではありません」

 

 観測員は、検出記録を未登録古代構造物の起動兆候として切り出した。

 

 士官は星図を見上げた。

 

「観測ログを、提督へ回せ」

 

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