前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜   作:オカノヒカル

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第14話 帝国の提督、怪奇現象を否定する

 異常通知が司令席へ回されてから、数分後。

 

 白い艦橋の中央に、ロズベル領外縁の観測記録が展開されていた。

 

 壁は磨かれた骨のように滑らかで、床には振動ひとつない。黒い星図の上には、帝国領内を走る航路と国境監視線が、細い白銀の光で描かれている。

 

 神聖銀河帝国と星系連合の間には、長い武装警戒が続いていた。

 許可を得た商船や旅客船は国境を越える。外交窓口も閉じてはいない。

 だが、軍艦が一隻進路を変えれば、互いの監視網が動く。

 

 古代遺物や未登録の高出力反応が絡めば、なおさらだった。

 

「提督」

 

 観測員が、艦橋後方の艦隊司令席へ向き直った。

 そこに立っている男の姿勢には、わずかな乱れもない。

 

 神聖銀河帝国第七観測分艦隊司令。

 ヴィクトル・アストレア。

 

 黒に近い帝国軍服には、必要最低限の徽章だけが付いていた。三十代後半にも、四十代にも見える。視線は冷たいが、報告を急かす苛立ちはなかった。

 

「報告しろ」

「ロズベル領外縁、旧鉱山帯付近で、未登録の広帯域反応を検出しました」

 

 観測員が波形を拡大する。

 

「既知の航行波、軍用通信、炉心放射のいずれにも該当しません。古代構造物級の起動兆候と部分的に一致します」

「強度は」

「極小です。反応はすでに沈黙しています」

「発生源は特定できるか」

「できません。推定範囲内には、廃棄された採掘施設と旧式ドック、小惑星群があります」

 

 別の士官が、星系連合側の公開記録を呼び出した。

 

「同宙域について、連合側の外部治安通報が確認されています」

 

 黒い星図の横に、簡素な記録が並んだ。

 

 ロズベル領軍による海賊撃退。

 捕虜引き渡し予定。

 放棄されていた外縁補給ステーション17の一時利用。

 

 未登録大型構造物を発見したとの危険通報。

 

「海賊戦の時刻は」

「帝国観測網が、規格外の高出力反応を拾った時刻と一致します」

「反応源は?」

「確証はありません。連合側記録では、戦闘の中心にいたのはロズベル領軍第二艦隊です。旗艦は旧式戦艦《アーク・ロズベル》」

 

 星図に、古い艦籍情報が表示される。

 

「ただし、《アーク・ロズベル》が高出力反応を発生させた証拠はありません」

「取得データを時系列に並べろ」

 

 ヴィクトルは、三つの時刻を重ねさせた。

 

 海賊戦時の高出力反応。

 ステーション17のビーコン再起動。

 古代構造物級の広帯域反応。

 

「意見を聞こう」

 

 士官たちが順に答える。

 

「辺境設備による誤検知の可能性があります。旧式センサーの復旧直後であれば、校正不良も考えられます」

「海賊艦の炉心が自壊し、その残響を別種の反応と誤認した可能性もあります」

「連合側の危険通報は、現地部隊の申告に基づいています。大型構造物の規模が誇張されている可能性は排除できません」

「旧鉱山帯の施設が偶発的に再通電され、古い観測装置同士が共振した可能性もあります」

 

 ヴィクトルは口を挟まず、最後まで聞いた。

 

「既存分類に該当しない現象です」

 

 副官がまとめる。

 

「一部では、古代遺物に伴う怪奇現象として処理すべきだという意見も出るかと」

「そうだな。だが、怪奇現象などではない」

 

 ヴィクトルは波形をさらに拡大した。

 

「踏査が必要なケースではある」

「分からないからといって、怪奇現象で片づけるな。誤報ならば、誤差の原因が残る。炉心の自壊なら、放射と破片の分布に痕跡が出る」

 

 ヴィクトルの指先が、三つの記録を順に示した。

 

「誤報として処理するな。同じ宙域で異常が三度出ている」

 

 副官が低く答える。

 

「はい。偶然として片づけるには、発生域が近すぎます」

「ロズベル領が秘匿技術を保有している可能性は?」

「あります。ただし、辺境自治領の旧式艦隊が単独で開発したと考えるには、観測反応の性質が不自然です」

「古代構造物を偶然起動させた可能性は?」

「否定できません」

「海賊の背後に別の技術主体がいる可能性は?」

「公開記録だけでは判断できません」

 

 ヴィクトルは短くうなずいた。

 

「それでいい。可能性を削るのは、記録が増えてからだ」

 

 副官が進み出る。

 

「追加観測を行いますか?」

「帝国側の国境監視装置から、狭帯域の確認走査を一度だけ行え」

「反復走査は?」

「不要だ。何度も照らせば、こちらの位置と関心を教えることになる」

「走査強度は最低値に設定します」

「古代構造物の反射特性を確認できる範囲に抑えろ」

 

 観測員が操作を開始した。

 

「国境監視網、狭帯域走査を準備」

「推定発生域を指向」

「確認走査、送信」

 

 星図上を、一本の細い線が走る。

 

 数秒後、波形が返った。

 

「微弱な反射を受信」

「既知の小惑星、民間施設、旧式軍用設備の反射特性と不一致」

「反射源の詳細特定には至らず」

「一度で止めろ」

「走査停止」

 

 ヴィクトルは返ってきた短い波形を見た。

 

「少なくとも、空間ノイズだけではない」

「現地調査を行いますか」

「第七観測分艦隊を、ロズベル領に隣接する帝国側監視宙域へ移動させる。その後、民間船に偽装した調査船を送り込む」

 

 副官が一拍置いた。

 

「星系連合領内への進入は?」

「艦隊は領域境界部で待機。偽装調査船のみを進入させる」

 

 ヴィクトルの声は変わらなかった。

 

「了解しました。偽装調査船を手配します」

「外交経路を通じ、古代構造物反応に関する観測活動を通告する準備を進めろ。反応が再発した場合は、共同調査を要求する」

「連合軍と接触した場合も、自衛規定を維持しますか」

「維持する。相手の戦力規模は関係ない」

「交戦規定は」

「自衛のみだ。相手が撃たない限り、こちらも撃つな」

「了解しました」

「観測艦と解析艦を中心に編成し、護衛艦と通信中継艦を付けます。第七観測分艦隊、出撃準備へ移行」

「急げ。ただし、連合側へ侵攻と受け取られる進路は取るな」

「承知しました」

 

 ヴィクトルは、ロズベル領外縁に残る赤い点を見た。

 

「辺境で、何かが再起動している」

 

**

 

『未知規格の狭帯域走査波を検出』

 

 ノアの声が、外縁補給ステーション17の仮設管制室に響いた。

 

 五号機はすでに格納庫へ収容されている。

 技術班は遠隔解析を終了し、巨大構造物の映像と測定値の整理へ移っていた。表層への追加接触も停止している。

 

「走査波?」

 

 セラの指が、管制卓の上で止まった。

 

『発信は一度のみ』

『民間通信規格、星系連合標準治安通信ともに該当なし』

『反射確認を目的とした能動観測波と推定します』

「誰かが、こちらを探ったのか?」

『推定。巨大構造物の存在または先ほどの広帯域反応を確認した可能性があります』

「見ていた、ではなく、見に来たのか」

「まだ来てはいません」

 

 セラが即座に言った。

 管制卓には、白く短い波形が残っている。

 彼女は同じ波形を三度拡大した。

 

「ノア。逆探知できますか」

『実行します』

 

 ステーション17の広域センサーが、残留波形を解析する。

 

 数秒後、結果が表示された。

 

『逆探知、失敗』

『発信源、推定不能』

『波形整形精度および指向性は、旧式民間規格を大きく上回ります』

『発信主体の所属は判定不能』

「軍用か、研究用かも分かりません。ただ、ステーション17の観測設備より新しいものです」

「上等な海賊か?」

「その分類を増やさないでください」

『暫定分類は、未登録高精度観測主体です』

「そちらの方が分かりにくいな」

「分かりやすさより、正確さを優先してください」

「長い名前は覚えにくい」

「覚えてください」

 

 セラは管制卓の表示を切り替えた。

 

「巨大構造物方向への能動走査を停止します。広域センサーの出力も一段落とします」

「外が見えなくならないか?」

「受動観測は継続します。法定識別ビーコンも維持します」

 

 セラは、第二艦隊の各艦へ新しい警戒命令を送る。

 

「第二艦隊は低出力警戒へ移行。不要な通信と高出力レーダーを止めます。外周警戒艦は予定どおり交代制を維持」

『命令を送信』

「五号機を含む無人装甲の再出撃は禁止。Fランク結晶の解析を一時停止し、分析区画の外部回線を遮断します。よろしいですか?」

「わかった。しかし、徹底しているな」

「正体の分からない相手へ、こちらから余計な反応を返さないためです」

「足音が聞こえても、扉を開けないということか」

「そうです」

 

 セラは一度うなずいた。

 

「司令向けに言えば」

『有効な比喩です』

 

 最近、二人とも俺に合わせるのがうまくなっている。

 

「こちらから探り返すのは?」

「反対です」

「見られたなら、見返すのが礼儀ではないのか」

「軍事的には、こちらも気づいたと相手へ教える行為です」

「相手が弱ければ?」

「所属も戦力も分からない相手を、弱い前提で扱わないでください」

「面倒だな」

「はい。とても」

 

 セラは眉間を押さえた。

 目元には疲れが出ていた。

 

「観測波は一度だけです。こちらの防御を試したのか、巨大構造物の反射を確認したのか、それさえ分かりません」

 

『同種波形の再検出なし』

『ただし、再走査または観測主体の接近可能性は否定できません』

「見つけたなら、来るかもしれないな」

「冗談のように言わないでください」

「深刻に言えば来なくなるのか?」

「来るときは来ます」

「なら同じだ」

「同じではありません」

 

 セラは眉を寄せた。

 腹も減っているのだろう。

 

「分かった。こちらから探り返すのはやめる」

 

 セラが一瞬だけ目を見開いた。

 

「……珍しく素直ですね」

「こちらには、まだ飯も休息も足りない」

 

 俺は第二艦隊の状態を表示させた。

 外周警戒艦は交代が必要。

 揚陸部隊は休養中。

 

 予備三号機は修理架から動かせない。

 五号機も、連続で使うべき状態ではない。

 

「喧嘩を売るには、準備が悪い」

「理由はともかく、判断は正しいです」

『司令官による交戦回避判断を記録』

「珍しいことのように残すな」

『重要記録です』

「ノア」

『今後の判断との比較に使用できます』

「否定しにくいですね」

 

 セラまで同じ側に回った。

 

 俺は星図を見る。

 

 ロズベル星系。

 旧鉱山帯。

 ステーション17。

 登録不能の巨大構造物。

 

 発信源の位置は、星図のどこにも出ていない。

 それでも、誰かがこちらを探った。

 

「来るなら、飯を食ってからにしてほしいものだ」

「来る時刻はこちらでは決められません」

「なら、今のうちに食わせろ」

「それは賛成です」

 

 セラが補給班へ連絡を入れる。

 管制室の照明が一段落ちた。

 

『第二艦隊、低出力警戒へ移行』

『外縁補給ステーション17、能動走査を停止』

『法定識別ビーコンを維持』

『受動観測を継続します』

 

 ステーション17の能動走査が止まり、外向きの出力が落ちた。

 

 外周の旧式艦も、炉心出力を抑える。

 発信源はまだ表示されない。

 セラは星図を見続けていた。

 

**

 

「第七観測分艦隊、出撃準備完了」

 

 白い艦橋に報告が響いた。

 ヴィクトルは、帝国領内の監視航路を表示させる。

 

「進路設定」

「目標、ロズベル領に隣接する帝国側監視宙域」

「越境禁止を全艦へ再通達」

「了解」

「観測、記録、照合を優先する。武器使用は自衛のみ」

「交戦規定を更新」

 

 黒い星図の中で、白い航路線が一本だけ伸びた。

 

 第七観測分艦隊の各艦が、ロズベル領国境へ向けて静かに針路を変えていく。

 

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