前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜 作:オカノヒカル
第一艦隊が第三交易路へ緊急出撃する、少し前。
ロズベル本星、領主府作戦室。
磨かれた床の中央に、第三交易路の星図が展開されていた。
領内へ入る商船の多くが通る主要航路だ。税関ビーコンと航路監視装置が置かれ、本星港からも遠くない。
その航路上で、複数の赤い反応が商船団を取り囲んでいる。
「第三交易路から救難信号」
作戦士官が報告した。
「商船団が武装船団の襲撃を受けています。護衛艇二隻が応戦中。一隻はすでに航行能力を失いました」
「本星近くで、海賊だと?」
ガレス・ロズベルは、司令卓の肘掛けを指で叩いた。
「敵艦数の照合は」
「妨害波の影響で確定できません。現在確認できる範囲では、中型武装船四、小型船六以上。ただし、重複反応の可能性があります」
「第一艦隊を出せ」
「即時出撃は可能です。ただ、敵の装備情報が不足しています。先行偵察艇を――」
「本隊も同時に出せ。商船被害を広げるな」
作戦士官が一度、言葉を切った。
「敵主力船団の追跡より、商船の救助を優先してよろしいでしょうか」
「救助も制圧も行え。第一艦隊ならできる」
「しかし、敵が複数方向へ離脱した場合は――」
「逃がすな」
ガレスの声が強くなった。
「第二艦隊ですら、外縁の海賊を退けたのだ。第一艦隊が本星近くで取り逃がせば、領主府の面子が立たん」
作戦室の端にいたルシアン・ヴェイルが、静かに口を開いた。
「領主閣下。第二艦隊が交戦した海賊と、今回の武装船団が同一戦力とは限りません。敵装備の確認を急がせるべきかと」
「確認は現場でもできる」
「第一艦隊へ、判断の余地を残しておいた方がよろしいのでは」
「海賊相手に何を迷う必要がある」
ガレスは星図を睨んだ。
「商船を救い、敵主力を撃破しろ。命令はそれだけだ」
ルシアンは、それ以上反論しなかった。
ガレスは作戦士官へ視線を戻す。
「第一艦隊へ伝えろ」
「承知しました」
第一艦隊へ正式命令が送られる。
間もなく、本星港から複数の識別反応が動き始めた。
出撃したのは、重巡洋艦の旗艦一隻、軽巡洋艦一隻、駆逐艦三隻の計五隻。第一艦隊九隻すべてを出さず、残る四隻は本星防衛と救援用に港へ残している。
第一艦隊の艦艇は、第二艦隊より新しい。
乗員も正規の訓練を受けている。整備も補給も、書類上は完了していた。
**
「駆逐艦二隻を商船団へ向かわせろ」
第一艦隊司令官が命じた。
「旗艦と残存艦で、敵主力船団の離脱経路を塞ぐ」
「領主府命令では、敵主力船団の捕捉を最優先としています」
「商船を失って、何が治安艦隊だ。救助を優先する」
「了解」
第一艦隊は二手に分かれた。
駆逐艦が損傷した商船へ向かい、旗艦を中心とした主力が武装船団の前へ出る。
最初の異常は、通信妨害だった。
商船からの救難通信が途切れ、位置情報が細かく跳ねる。
第一艦隊の索敵画面にも、薄い砂を撒いたようなノイズが広がった。
「妨害波、変調を繰り返しています」
「発信源は」
「複数。小型船同士で中継している可能性があります」
「通信を狭帯域へ切り替えろ。商船の位置情報を優先して復元」
第一艦隊は速度を落とさず進んだ。
海賊船団の一部が後退する。
だが、逃走軌道は乱れていなかった。
小型船が左右へ散り、中型武装船がその後ろで隊形を保っている。
「動きがそろいすぎています」
「分かっている。追撃艦は突出するな」
直後、前方の商船が進路を変えた。
自力ではない。
航行能力を失った商船へ、小型武装船が牽引索を撃ち込んでいる。
商船を引きずるように動かし、第一艦隊と中型武装船の射線へ押し込んできた。
「商船が射線上へ入ります!」
「主砲、発射中止。副砲の精密射撃で牽引索を狙え」
「敵主力船団、離脱を開始!」
「回り込ませるな。三番艦、右舷から進路を塞げ」
三番艦が右舷へ向くより先に、中型武装船三隻が第一艦隊旗艦の正面へ同時に砲撃を集中させた。
「前方シールド、負荷上昇!」
「予備蓄電器を前方へ。出力を維持しろ」
「前方シールド、七十二パーセント!」
旗艦は砲撃を受けながらも前進を続ける。
正面の敵主力船団を逃がさないためだ。
その横を、小型武装船が高速で抜けた。
さらに右舷後方へ、別の反応が回り込む。
「右舷後方に敵反応!」
「回り込みです!」
「艦尾シールドを上げろ!」
命令に対し、シールド表示の反応が一拍遅れた。
『艦尾シールド、規定出力に未到達』
「補助蓄電器を切り替えろ!」
『応答遅延』
『艦尾シールド、規定値の六十一パーセント』
「なぜ上がらん!」
回り込んだ中型武装船が、艦尾へ砲口を向ける。
正面への攻撃で予備出力を前方へ回させた、その直後だった。
最初から艦尾を狙っていた。
「高出力反応!」
「回避!」
旗艦が補助推進器を噴かす。
だが、完全には外せなかった。
高出力砲が艦尾シールドを貫き、主推進器の保護区画へ命中する。
艦体が大きく揺れた。
『主推進器一番、緊急停止』
『主推進区画の共通冷却幹線、圧力喪失』
『主推進器二番、安全機構により停止』
「姿勢制御は?」
「スラスターは生きています。艦首方向は維持できます」
「帰投加速は」
「不可能です。冷却系を復旧しない限り、主推進器は再起動できません」
姿勢制御スラスターは残っている。艦首を向け直し、漂流を防ぐことはできた。
だが、本星港へ戻るための加速はできない。無理に主推進器を再起動すれば、残った冷却系まで焼く危険があった。
第一艦隊旗艦は、本星港に待機する補給工作艦へ曳航を要請した。
「軽巡を追撃へ――」
「商船団側にも敵艦が残っています!」
第一艦隊司令官は、離脱する敵主力を見る。
「救助を続けろ」
司令官は奥歯を噛んだ。
「旗艦はここで敵を引きつける。商船を先に逃がせ」
武装船団は、それ以上の戦闘を続けなかった。
牽引していた商船を放し、複数の離脱経路へ分かれていく。
第一艦隊は商船団の救助を優先した。
追撃可能な艦を回せば、敵主力船団へ届いたかもしれない。その場合、損傷した商船と護衛艇を残すことになる。
第一艦隊司令官は、追撃を選ばなかった。
『敵主力船団、第三交易路より離脱』
『商船二隻、重大損傷』
『護衛艇一隻、航行不能』
『第一艦隊旗艦、主推進器停止』
商船の救助は果たした。
だが敵主力を取り逃がし、旗艦は自力で帰投できない。第三交易路の治安任務としては失敗だった。
戦闘が終わったあと、第一艦隊司令官は医療区画へ運ばれた。
旗艦被弾時の衝撃で重傷を負っていたらしい。
生命に別状はないものの、艦隊勤務への復帰には半年以上を要する見込みだった。
**
旗艦は、補給工作艦の曳航を受けて本星港へ戻ることになった。
戦闘終了後、領主府作戦室へ緊急診断の結果が届く。
「第一艦隊旗艦、戦闘加速不能。主推進器の復旧時期は未定です」
作戦士官が報告した。
「艦尾シールドは、なぜ規定出力に達しなかった」
ガレスの声は低かった。
「現在調査中です。ただし、整備完了記録と実際の応答値に不一致があります」
「不一致?」
「艦尾シールド補助系は、直近の定期整備で部品交換済みと記録されています。しかし、緊急診断では交換後の識別情報を確認できません」
「診断装置の故障ではないのか」
「別系統でも同じ結果が出ています」
作戦士官が次の画面を開いた。
「弾薬庫の実数にも、補給記録との差が確認されました。現時点では原因を断定できません」
「整備は完了していたはずだ」
「書類上は」
作戦室が静かになった。
実物を開いて確認しなければ、交換されていないのか、識別情報だけが失われたのかまでは分からない。
誰が関わったのか。
どこまで記録が食い違っているのか。
まだ何も確定していない。
ただ、一度の入力ミスでは片づけにくい食い違いだった。
「正式調査を命じろ」
ガレスが言った。
「現場担当者だけを処分しても、取引記録と承認経路を確認しなければ原因は残ります」
ルシアンの声は穏やかだった。
「整備記録だけでなく、補給契約と承認印の流れも保全なさるべきでしょう」
「分かった。作戦士官、関連記録を封鎖しろ。整備と補給の承認経路をすべて調べろ!」
「承知しました」
作戦士官が調査命令の作成に入った。
「その前に、交易組合と保険組合への回答が必要です。第三交易路で商船被害が発生しています」
作戦卓へ、二通の照会文が表示される。
交易組合は、護衛失敗の経緯と今後の安全確保を求めている。
保険組合は、第一艦隊の護衛能力と、第三交易路の危険度評価を照会していた。
どちらも文面は丁寧だった。
今後もロズベル領へ船を送れるだけの安全を保証できるのかと尋ねている。
「外縁では、第二艦隊が海賊を撃退したと聞いております」
交易組合の文面には、その一文が入っていた。
「同じ領軍に属する第一艦隊が、本星近傍で敵主力船団を取り逃がした理由について、説明を求めます」
ガレスの指が、卓上で止まった。
外部治安認定網には、第二艦隊の海賊撃退と捕虜確保が記録されている。
その下へ、第三交易路で武装船団を取り逃がし、商船へ被害を出した第一艦隊の記録が追加されていた。
艦尾シールドの異常や整備記録の不一致は、領主府内部の調査情報だ。
外部へ出ているのは、任務結果だけである。
「なぜ、あいつの名がここで出る」
ガレスが吐き捨てる。
「第二艦隊の戦果が、外部記録に残っているためです」
ルシアンが答えた。
「レオンは私の命令で動いた」
「ええ。第二艦隊の成果は、領主府の指揮による成果として整理できます」
「なら、そう説明しろ」
「そのためにも、本人から正式な報告を受ける必要があります」
ルシアンは、公開記録の横へ第二艦隊の活動項目を表示した。
「海賊戦の詳細。ステーション17の一時利用状況。未登録構造物の調査概要。鹵獲物資の使用記録」
そこで、一度言葉を切る。
「旗艦の記録装置ごと確認すべきでしょう」
ガレスの目が細くなる。
「レオンを呼び戻せと言うのか」
「はい」
「今戻せば、あいつが第一艦隊より優秀だと認めることになる」
「戻さなければ、第二艦隊を呼び戻せない事情があると受け取られます」
ルシアンの声は穏やかだった。
「交易組合への説明にも利用できます。第二艦隊の戦果を領主府の成果として示し、今後の治安計画へ組み込むのです」
ガレスは、しばらく答えなかった。
やがて、椅子へ深く座り直す。
「……レオンを呼び戻せ」
ガレスは作戦士官へ顔を向けた。
「第二艦隊旗艦と司令部要員へ、本星帰還命令を出せ」
「承知しました」
「ステーション17の管理記録、鹵獲物資の明細、未登録構造物の調査概要も持参させろ」
「命令文へ加えます」
作戦士官が端末を操作する。
その横で、ルシアンは静かに頭を下げた。
「適切なご判断かと存じます」
**
『領主府より正式命令を受信』
外縁補給ステーション17の仮設管制室に、ノアの声が響いた。
『第二艦隊旗艦《アーク・ロズベル》および司令部要員は、本星へ帰還せよ』
『戦果記録、捕虜引き渡し資料、ステーション17管理報告、未登録構造物調査概要を持参すること』
『Fランク結晶サンプルの保管状況についても、報告を求められています』
「呼び戻しか」
「帰還命令です」
セラは、表示された認証情報を確認した。
「拒否すれば、ステーション17の一時利用権まで問題にされます」
「第一艦隊の件は?」
『第三交易路で敵主力船団を取り逃がしました』
『第一艦隊旗艦は主推進器を停止。補給工作艦による曳航帰投中』
『商船二隻に重大損傷。死傷者数は集計中』
俺は星図に表示された第三交易路を見た。
「第一艦隊の兵が弱かったのか」
「記録だけでは分かりません」
セラが答える。
「敵は統制された妨害と集中攻撃を行っています。旗艦のシールド応答にも異常があったようですが、詳細は領主府の内部情報です」
「敵と、艦の両方に問題があるか」
「可能性はあります」
命令文の下には、ステーション17と鹵獲物資に関する照会が並んでいた。
こちらへ補給を送らず、拾った物資と調査結果だけは欲しがっている。
「行きますか?」
「行くしかないだろ」
命令を無視すれば、ステーション17の立場が悪くなる。
第一艦隊が何に負けたのかも確かめたい。
「だが、ここは捨てない。留守番体制を組め」
「そうですね。艦隊を再配置します」
セラはすぐに、六隻の配置図を開いた。
「《アーク》だけで戻りますか?」
「いや。フリゲートを一隻つけろ。捕虜と記録を抱えている」
「では、本星へ向かうのは《アーク・ロズベル》とフリゲート一隻。司令部要員、記録班、捕虜引き渡しを担当する保安班が同行します」
残るのは、旧式軽巡洋艦、もう一隻のフリゲート、補給工作艦、調査艦。
「工作艦は必ず残せ。ここを直す手が止まる」
「はい。調査艦も周辺宙域の受動観測に残します。巨大構造物への能動走査は行いません」
セラは、残留四隻の中央に旧式軽巡洋艦の識別表示を置いた。
「残留艦艇の指揮は、旧式軽巡洋艦艦長のマルク・ハイゼンへ任せます。残る四隻では、彼が先任です」
軽巡洋艦を中心にした配置が表示される。
「ハイゼン艦長には、外周警戒と接近船への対応、残留艦艇と復旧班の総括を。施設内部の防衛と揚陸部隊はグレッグ隊長。現場巡回は副隊長へ任せてください」
残留艦艇と外周はマルク。ステーションの内側はグレッグ。
外と内で指揮を分ける。
通信画面のグレッグが、固定具を付けた腕を上げた。
「了解です。まだ医療班から走るなと言われていますので、管制室から指揮します」
「ちゃんと守っているか確認しますからね」
「副官殿は本星へ行くんでしょう」
「ノアの記録に残ります」
「逃げ道がありませんな」
「逃げる気はないでしょう?」
「まあ、きっちり守りますよ」
『ステーション17のローカル管制へ、監視手順を移管します』
『対象。水再生、空調、法定識別ビーコン、余剰反応抑制、近接警戒補助』
『《アーク・ロズベル》離脱後、ノアとの常時接続は終了します』
ノアは《アーク・ロズベル》の艦載AIだ。
旗艦が離れれば、ここへ残ることはできない。
ステーションの旧管制系と、残留部隊の人間だけで回す必要がある。
「近接警戒補助だけで敵味方を判断しないでください。通常センサーとの照合を徹底してください」
「接近船への対応は?」
通信画面に映るマルク・ハイゼンが尋ねた。
「近づく船には、標準通信で名を確認しろ」
俺はそう答える。
「応答がない場合は?」
「接舷制限線の前で警告する。通信妨害、兵器照準、強制接舷のどれかを確認したら、自衛射撃を許可する」
グレッグが通信越しにうなずいた。
「名乗らないだけでは撃たない。敵対行動を確認した時だけ、ということですな」
「そうだ」
「もう一つ、置いていくか」
俺は外縁側の宙域図を開いた。
「何をです?」
セラが訊く。
「留守番だ」
『残留要員は、すでに配置されています』
「人ではない」
ステーション17の周囲には、壊れた補給モジュールや外殻材、古いビーコンの残骸がいくつも漂っている。
その中から、接近航路になりそうな場所を何か所か選んだ。
「出る前に、ここへ杭を打っておく」
「杭?」
「迷い杭だ」
旧鉱山の残骸から集めた結晶粉塵に細かな金属片を混ぜ、小さな札へ術式を刻む。昔のものほど立派ではないが、これで足りる。
「何をするものなんですか?」
「近づいてくる者に、少しだけ道を間違えてもらう」
セラの眉が寄った。
「船を動かすんですか?」
「そこまで強くはしない。見えている目印を、少し間違えやすくするだけだ」
『航法装置への直接干渉ですか』
「違う。道の方を分かりにくくする」
ノアの箱舟型投影が、一度だけ明滅した。
『説明不足です』
「いつものことです」
セラが即答した。
ひどい言われようだった。
「効かなければ、普通に警告すればいい。だが、撃たずに帰ってくれるなら、その方が楽だろう」
マルクが宙域図を見た。
「どちらへ逸らします?」
「こっちだ」
ステーション17から少し離れた、古い補給モジュールの残骸を指す。
壊れている。
目立つ。
調べても、大したものはない。
「悪い客には、道を間違えてもらう」
グレッグが通信越しに低く笑った。
「なるほど。そいつはいい留守番ですな」
「撃たなくて済むなら、それが一番だ」
俺は外縁残骸帯へ、迷い杭を打つ位置をいくつか指定した。
Fランク結晶と防衛機械の残骸は封印を継続。巨大構造物への能動走査と、強化揚陸装甲の再出撃は禁止する。
ステーション17で動かすのは、水、空調、修理ベイ、法定ビーコンだけにした。
**
出発準備を終え、《アーク・ロズベル》の艦橋へ戻った。
正面スクリーンに、ステーション17が映っている。
錆びた外殻。
壊れた接続港。
冷えたままの外周区画。
法定識別ビーコンだけが、決められた信号を繰り返していた。
内側では水が流れている。
修理ベイでは、次の補修板を焼き直している。
負傷者が眠り、残った兵が警戒配置へ入っていた。
『針路設定、本星ロズベル』
『直衛フリゲート、追従位置へ移動』
セラが副官席へ着く。
「出ますか」
「出る」
「戻ってきますよね」
「ここは捨てないと言った」
セラは、少しだけ息を吐いた。
「了解しました」
《アーク・ロズベル》の炉心が出力を上げる。
灰色の艦体に、細い黄金の線が走った。
外縁補給ステーション17の灯りが、少しずつ遠ざかる。
正面スクリーンには、本星ロズベルまでの航路が伸びていた。
その脇に、俺を外縁へ出した領主府からの帰還命令が残っていた。