前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜   作:オカノヒカル

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■第二章 星域防衛
第17話 本星帰還、曳航された第一艦隊旗艦


 ロズベル本星軌道港は、外縁補給ステーション17よりもずっと明るかった。

 大型艦は地表へ降りない。領主府の本星へ戻る船は、まずこの軌道港へ入る。

 

 航路標識は規則正しく点滅し、港湾灯は白く、管制通信には雑音もない。大型商船、護衛艇、整備船、港湾作業機が、それぞれ決められた軌道を進んでいる。

 

 外縁の古い空調の唸りもない。

 配管から漏れる水の匂いもない。

 壁を叩けば埃が落ちてくるような、あの廃墟じみた空気もない。

 

 よく整った港だった。

 

 俺は少しだけ息を吐いた。

 

 ステーション17では、錆もひびも目立っていた。壊れている場所は壊れていると分かる。足りないものも見える。水も、空調も、修理ベイも、全部が不完全だった。

 

 ここでは、どこを見ても整っている。

 そのぶん、外から見ただけでは不具合は分かりにくい。

 

『ロズベル本星港管制へ接続』

 

 ノアの冷たい声が艦橋に流れた。

 

『第二艦隊旗艦アーク・ロズベル、進入許可を申請』

 

 管制官の返答に少しだけ間が空いた。そして、彼の語尾が、わずかに上がる。

 

〈……第二艦隊旗艦ですか? 識別信号を再送してください〉

『再送済み』

 

 ノアの声は平坦だった。

 

『補足。自力航行中です』

 

 セラが隣で、こめかみを押さえた。

 

「ノア。補足する必要ありました?」

『管制側の応答遅延が発生したため、判断補助を行いました』

「それは判断補助ではなく、追い打ちです」

「棺桶が自分で歩いて帰れば、驚くだろう」

 

 俺がそう言うと、セラは眉を寄せたままこちらを見た。

 

「その言い方は嫌ですが、否定できません」

 

 失礼な話だ。

 

 アーク・ロズベルは棺桶ではない。

 少なくとも、今は燃えても沈んでもいない。炉心も安定している。空調も動く。食堂では温かい汁も出せる。

 

 立派な船である。

 

 少し古く、四角く、あちこち継ぎ接ぎで、油断すると警告音が鳴るだけだ。

 

〈第二艦隊旗艦アーク・ロズベル、外縁宙域治安活動記録を確認〉

 

 管制官の返答から、先ほどのためらいが消えた。

 

〈海賊討伐記録、捕虜引き渡し予定、外縁補給ステーション17仮復旧ログを照合〉

〈指定係留区画への進入を許可します〉

『了解。指定係留区画へ進入します』

 

 ノアが応答する。後続のフリゲートには、捕虜引き渡し区画への進路が指定された。

 艦橋前方の投影星図に、港内進入経路が浮かび上がる。

 

『補足。外部治安認定網との照合により、管制優先度が一段階上昇』

「記録を残しておいて正解でしたね」

 

 セラが言った。

 

「皿に名前を書いておいたようなものか」

「また皿ですか。まあ、今回はだいたい合っています」

 

 だいたい合っているなら、よい。

 

 外縁で拾った皿は、名前を書いておかなければ誰かに持っていかれる。水も、食料も、修理材も、ステーション17も同じだ。

 

 セラは管制記録を見ながら、低く言った。

 

「ただし、名前を書いても、持っていこうとする人はいます」

「皿泥棒か」

「領主府です」

「なるほど。質が悪い」

 

 セラは否定しなかった。

 

 アークは港内へ入った。

 

 本星の港は広い。

 

 整備船が長いアームを伸ばし、商船の外装を確認している。税関船が船腹に沿って進み、積荷識別を行っている。遠くでは、旅客船の窓が星明かりを反射していた。

 

 外縁とは違い、物資も人も灯りもある。

 だが、港の空気は妙にざわついていた。

 

 アークの進路に沿って、港湾作業機の動きが一瞬だけ鈍る。整備用デッキの人影が、こちらへ顔を向ける。商船の外部カメラが、灰色の船体を追っていた。

 

「第二艦隊だ」

「外縁の?」

「海賊を退けたって話、本当だったのか」

「棺桶艦隊じゃなかったのか」

「見た目は棺桶だろ」

「でも、自力で戻ってきてるぞ」

 

 通信帯域の端に拾われた声を、ノアが勝手に整理して艦橋に流していた。

 

「ノア、港の雑談まで拾わなくていいです」

『了解。以後、悪口部分のみ除外します』

「全部除外してください」

 

 セラが疲れた声で言う。

 

 見られていると思うと、自分の船の姿が気になった。

 

 灰色で四角く古い。

 しかも、装甲板は不揃いで、外装には焼け跡が残っている。艦体のあちこちに修理痕が走り、横腹の円筒モジュールは相変わらず不格好だ。

 

 美しい船ではない。

 少なくとも、本星港の整った灯りの下では、余計にそう見える。

 

 だが、動いている。

 

 船体の継ぎ目に沿って、細い黄金の術式が一瞬だけ光った。港湾灯の反射ではない。アークの内部を巡るエーテルが、古い装甲の下で術式を走らせた。

 

 見世物になるつもりはなかった。

 

 俺はただ、壊れた船を動けるようにしただけだ。

 だが、港の奥には、もっとひどく壊れた船がいた。

 

「……あれか」

 

 白い艦だった。

 港の奥、大型修理軌道の手前で、第一艦隊旗艦の重巡洋艦が、補給工作艦に曳航されていた。

 

 艦首側から見れば、まだ立派だった。滑らかな装甲、整った艦体線、艦腹に刻まれた領主府直属艦隊の紋章。本星守備の旗艦として、十分な威容を持つ船だったのだろう。

 

 艦尾側の白い装甲は黒く焼け、主推進器のひとつは歪んでいる。噴射口の縁が裂け、冷却剤の薄い霧がまだ漏れていた。艦尾の外殻フレームは一部が露出し、放熱板は何枚も不自然な角度で止まっている。

 

 補給工作艦の曳航装置が、白い重巡洋艦をゆっくりと修理軌道へ運んでいる。

 

 自力では、港内を移動することもできない。

 

 修理軌道の周囲には、第一艦隊の整備士たちが集まっていた。

 だが、誰もすぐには外板へ取りつかない。

 

 焼けた艦尾を見上げる。

 端末に表示された損傷箇所を確認する。

 それから、露出した外殻フレームへ視線を戻す。

 

 工具を持った整備士たちは、診断結果を待っていた。

 

 セラが、わずかにこちらを見た。

 俺が何か皮肉を言うと思ったのかもしれない。

 

「……よく帰ったな」

「第一艦隊が、ですか?」

「艦尾を抜かれて、推進器を失って、護衛対象もいた。それで沈まなかったなら、現場は働いた。評価すべきだ」

 

 セラは黙った。

 

 俺は、第一艦隊旗艦の焼けた艦尾を見た。

 

 海賊相手に負けることはある。

 相手が商船を盾にしたなら、なおさら厄介だっただろう。

 

 だが、それにしても壊れ方が派手すぎる。

 

「海賊相手に、どうしてここまで派手に壊れる?」

 

 セラが端末を操作した。

 表示されたのは、港湾管制の損傷速報と、領主府軍務局から出された緊急通達だった。

 

「……第一艦隊旗艦の整備担当官が、暫定的に職務停止になっています」

「早いな」

「早すぎます。おそらく、誰かに責任を押しつける準備も兼ねています」

 

 セラの指が、さらに画面を送る。

 

「補助部品の未交換。安価な代替部品の使用疑惑。弾薬帳簿と実数の不一致。整備記録の再照合命令……これ、かなりまずいですね」

「つまり、戦う前から悪かったのか」

「断定はできません。ですが、直撃が一度でも、正常な状態ならここまで複数系統が連鎖停止するとは考えにくいです」

 

「手入れを怠った道具に、戦えと言ったのか?」

 

 セラは答えなかった。

 代わりに、ノアが答えた。

 

『補足。整備記録と実機状態の不一致は、戦闘時の被害拡大要因となります』

「書類は船を守らない、ということか」

『肯定』

 

 俺は小さく息を吐いた。

 

「道具は、紙の上では動かんからな」

「書類上は、手入れされていたはずです」

 

 セラは口元を引き結んだ。

 

『外部観測のみでの推定』

 

 ノアが淡々と告げた。

 

『第一艦隊旗艦、主推進器停止』

『副推進系、出力不安定』

『艦尾シールド基部、損傷』

『冷却剤の排出量から、放熱系統にも異常が残存』

『港湾接続時の姿勢制御に遅延を確認』

「外から見ただけで、そこまで分かりますか」

 

 セラが眉を寄せる。

 

『損傷箇所の熱分布、排出冷却剤の濃度、港湾接続時の姿勢制御ログから推定可能』

『ただし、内部損傷の範囲は未確定』

「つまり、見えている部分だけでも悪いと」

『肯定』

「……これは、応急修理では済みませんね」

「推進器を付け替えれば動くのではないのか」

 

 俺が尋ねると、セラは首を横に振った。

 

「新しい推進器を載せても、周囲の系統が耐えられるとは限りません」

『外部観測では、内部損傷の範囲を確定できません』

『推進器交換前に、艦尾区画の全面診断を推奨』

「推進器だけ直して出力を上げれば、傷んだ配管や制御系へ負荷が集中します。最悪の場合、修理前よりひどく壊れます」

「馬車を引く馬だけ速いものに替えても、傷んだ車軸は直らん。無理に走らせれば、先に折れる。そういうことか」

「はい。新しい推進器を載せる前に、周囲の系統がどこまで傷んでいるかを調べる必要があります」

 

『必要作業。損傷区画の分解調査』

『整備記録と実機部品の照合』

『交換範囲は、調査完了後に確定』

『短期間での戦列復帰は困難と推定』

 

「そこまでは言い切れるんですね」

 

『現状のまま主推進器を再起動できないことは確認済みです』

 

「ばっさり言いますね」

 

『曖昧な表現は、艦を修復しません』

 

 俺は第一艦隊旗艦の艦尾を見た。

 

 白い装甲材。

 焼け残った外殻フレーム。

 まだ歪んでいない構造梁。

 何枚かは使えそうな放熱板。

 シールド基部の周辺に残る、頑丈そうな支持材。

 

「使えるところはあるな」

 

 セラがこちらを見る。

 

「ありますね。装甲材、構造梁、外殻フレーム、放熱板、シールド基部の一部。中枢系を通さない部材なら、再利用できます」

『補足。第一艦隊旗艦の外装材は、アーク・ロズベルの現行外装より高品質』

『構造梁の一部は、外部補強材として転用可能』

『放熱板も再加工すれば、アーク側の熱処理に利用可能』

 

 なるほど。

 

「船としては、すぐには動けません」

 

 セラが言う。

 

「動けないだけだ。骨と皮はまだ使える」

「司令。その言い方だと、解体する人みたいです」

「直せないなら、別の形で生かす。古い道具には、そういう使い方もある」

「ですが、修復方針が決まるまでは一枚も外せませんよ」

「分かっている。直すために外すものまで、捨てる必要はないという話だ」

 

 セラは少しだけ黙った。

 

 アークが指定係留区画へ進む途中、第一艦隊の兵たちがこちらを見ていた。

 

「……あれが、第二艦隊か」

 

 若い整備兵の声が、通信の端に拾われた。

 

「棺桶艦隊だろ」

 

 別の兵が答える。

 

「棺桶が、自分で帰ってきてるぞ」

 

 誰も笑わなかった。

 

「現場は、恥をかかされたな」

「第一艦隊の兵たちが、ですか?」

「艦を壊したのは敵だ。だが、壊れるように放っておいたのは別の者だ」

 

 セラは答えなかった。

 

『補足。第一艦隊現場兵の士気低下を確認』

『原因候補。敗北』

『原因候補。整備不正疑惑』

『原因候補。第二艦隊との比較』

「比較されるのは嫌なものだ」

「司令が言うと、少し説得力がありますね」

「俺も、役立たずと比べられ続けたからな」

 

 セラは口を開きかけ、すぐに閉じた。

 

 俺も長く、役立たずだの、無能だの、家の恥だのと言われてきた。

 好きに言えばいい。

 だが、比べられる側の兵がどんな顔をするかくらいは分かる。

 

 旗艦アークは係留区画に入った。

 

 港湾接続アームが伸びてくる。補給ライン、通信ライン、検査用端末。整った港らしく、どれも規格通りの動きだった。

 

 整備兵の何人かが、ほっとしたように表情を緩める。

 

 だが、セラは端末を操作しながら、すぐに指示を出した。

 

「総員聞いてください。ハッチ開放は私の許可後です。本星側の検査員が来るまで、内部区画への接続は最低限にしてください」

「客を迎えるだけだろう?」

「相手が客なら、です」

『港湾接続、最低権限で受理』

『補給ライン、手動承認へ移行』

『内部ログへの外部照会、遮断』

「ずいぶん用心深いな」

「外縁で拾った皿を、本星で割られたくありませんので」

「皿のたとえが移ったな」

「司令のせいです」

 

 セラは真面目な顔でそう言った。

 

 俺が壊れた道具を見ている間に、セラは権限と接続と記録を見ている。ノアはその横で、接続権限を一つずつ閉じていく。

 

 ありがたい話だ。

 

 俺一人なら、皿に名前を書いたところで、食堂の扉を開けっぱなしにしていたかもしれない。

 

『領主府より正式命令を受信』

 

 ノアの報告で、セラの手が止まった。

 

『第二艦隊司令官レオン・ロズベルへ、即時出頭要請』

『名目。戦果報告および旧鉱山帯調査状況説明』

「名目がある命令は、だいたい名目以外が重い」

「正解です」

 

 セラの声が低くなる。

 ノアが続けた。

 

『付帯照会』

『外縁補給ステーション17管理報告』

『鹵獲物資明細』

『捕虜引き渡し状況』

『登録不能構造物調査状況』

『Fランク結晶サンプル管理状況』

 

「全部、欲しがっていますね」

「皿の数を数えに来たか」

「皿どころか、食堂ごと持っていく気です」

 

 それは困る。

 

 ステーション17は、まだ仮の足場でしかない。

 

『命令文の文体は丁寧です』

『ただし、照会項目は通常の戦果報告範囲を超過』

『推定目的。第二艦隊保有資産の把握』

『推定目的。ステーション17管理権への介入』

『推定目的。未登録構造物および星脈結晶関連情報の取得』

「司令。これは報告要請ではありません」

 

 セラがこちらを見る。

 

「取り上げるための呼び出しか」

「はい」

 

 やはり、皿泥棒か。

 俺は椅子の肘掛けに指を置いた。

 

「出せるものは?」

「外部治安認定網に登録済みの戦果記録、捕虜引き渡し予定、鹵獲物資の概算、ステーション17の仮復旧ログの外向き部分。そこまでは出せます」

「出せないものは」

「アークの炉心改造核心ログ、エーテル場仮説、星脈結晶の内部利用ログ、巨大構造物の深部反応、無人強化揚陸装甲の実運用ログの核心部分です」

『補足。秘匿対象を暗号区画へ退避済み』

『セラ技術士官との共犯関係を記録』

「記録しないでください」

『訂正。記録名を共同判断に変更』

「そういう問題ではありません」

「仲がいいな」

「よくありません」

 

 セラは即答した。

 

 ノアの小さな箱舟型ホログラムが、艦橋中央で淡く明滅する。

 少し得意そうに見えた。

 

「出せるものだけ出せ」

 

 俺は言った。

 

「兵の飯と水と寝床に関わるものは、出すな」

「了解しました」

 

 セラは短く答えた。

 

『領主府車両、係留区画へ到着』

 

 ノアが告げる。

 

 艦橋前方の表示に、港湾デッキへ停まる領主府の車両が映った。磨かれた外装、領主家の紋章、無駄に滑らかな扉。

 

 よく整っている。

 

「行きますか」

 

 セラが言う。

 

「行こう」

 

 俺は立ち上がった。

 

「皿を渡すかどうかは、話を聞いてからだ」

「渡さない前提の顔をしています」

「兵がまだ飯を食っていないからな」

 

 セラは小さく息を吐いたが、否定はしなかった。

 

 領主府の車両へ向かいながら、俺はもう一度、照会項目を思い返した。

 ステーション17も、鹵獲物資も、結晶も、向こうはすでに確認するつもりでいる。

 

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