前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜   作:オカノヒカル

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第20話 悪い客には、道を間違えてもらう(後編)

「目標らしき残骸を捕捉」

 

 《リトラ七号》の観測員が告げた。

 

 船橋の正面映像に、古い補給モジュールの残骸が浮かび上がる。

 

 半分は砕けていた。

 

 外殻は焼け、識別信号は壊れ、補給アームらしき構造も根元から折れている。周辺には灰色の粉塵が漂い、センサーにはFランク結晶に近い反応が薄く出ていた。

 

「これがステーション17か」

 

 ダンは目を細めた。

 

「記録上の外縁モジュールとは形状が近いです。ただ、質量が合いません」

「破損で吹き飛んだ可能性は」

「あります」

「水再生ラインは」

「反応なし」

「熱源」

「なし」

「生体反応」

「なし」

「通信痕」

「検出できません」

 

 ダンは数秒だけ黙った。

 空振りは嫌いだが、依頼主の期待に合わせて結果を作る気もなかった。

 

「ドローンを出せ」

「了解」

 

 船腹から小型調査ドローンが射出された。

 

 ドローンは、古い残骸へゆっくり近づく。

 光学映像が拡大された。

 

 割れた外殻。

 凍りついた配管。

 焼けた補給端子。

 古い識別板の残り。

 

 補給施設の残骸には見えた。

 少なくとも、動いているようには見えない。

 

「内部空洞、崩落」

「主電源痕、ありません」

「補助電源も死んでいます」

「粉塵反応、Fランク結晶の低濃度汚染。利用価値は低いです」

「放射線計、作業基準超過を表示」

 

 観測員が次々に報告する。

 

 ダンは腕を組んだ。

 

「稼働施設ではないな」

「はい」

「どこかの艦隊が使った痕跡は」

「見当たりません。少なくとも、最近のドッキング痕はありません」

「水は」

「ありません」

「空調は」

「死んでいます」

「医療区画は」

「残っていません」

 

 ダンは契約条件を呼び出した。

 

 許可されているのは、非接触での一次測量までだ。作業基準を超える放射線域での捜索延長も、残骸内部への進入も保険対象には含まれていない。

 

 記録との質量差は補足へ残せる。だが、証拠もなく乗員を危険区域へ入れる理由にはならなかった。

 

「撤収する」

「よろしいのですか」

「ここに人と金をかける価値はない。危険残骸として記録。Fランク結晶粉塵は低濃度。再利用価値、低。調査継続は非推奨」

 

 観測員が報告書を組み始める。

 その横で、航法担当が首をかしげた。

 

「主任」

「何だ」

「帰還航路の補正値、戻っています」

「放射線帯を抜けたんだろう」

「だと思いますが……」

 

 航法担当は言葉を切った。

 ダンはその顔を見た。

 

「言え」

「さっきまでの乱れ方が、妙でした。こちらが避けたというより、避ける場所を選ばされたような」

「航法士が詩人になるな。数値で残せ」

「はい」

 

 ダンは正面映像をもう一度見た。

 死んだ補給モジュールの残骸。

 

 危険残骸。再利用価値は低い。

 報告書には、それで十分だ。

 

 それでも、座標上は目標付近まで来たはずなのに、肝心の場所を見ていないような気がした。

 

 ダンは、その感覚を報告書の本文には入れなかった。

 

 ただ、航法補正ログは添付した。

 気になるなら、依頼主側で追えばいい。

 

**

 

 探査船の反応が、旧鉱山帯外縁から遠ざかっていく。

 残留部隊を預かるマルク・ハイゼンは、片手の端末に視線を落としたまま、それでもすぐに区画出力を戻さなかった。

 細身の身体を包む軍服は規定どおり整っている。ただ、長時間勤務のせいか襟元だけがわずかに緩み、目元には薄い隈が残っていた。

 

「距離、さらに開きます」

 

 エリンが表示盤を追いながら言った。

 

「追跡反応なし」

 

 通信士が続ける。

 

「通信波、こちらへ向いていません」

 

 グレッグは大柄な身体を壁に預け、長く息を吐いた。

 短く刈った黒髪には白いものが混じり、剃ったばかりの顎にも濃い剃り跡が残っている。待機が長引いても腰の装備だけは、すぐ手が届く位置から動いていなかった。

 

「撃たずに終わりましたな」

「撃たずに済むなら、それが一番いい」

「同感です。うちの連中も、撃たずに済んでほっとするでしょう。待機だけは性に合わん連中ですが」

「お前もだろう」

「俺は隊長です。連中を生きて帰せれば、それでいい」

 

 マルクの口元がわずかに動いた。

 グレッグも肩をすくめる。

 

「司令の札、本当に効くんですな」

「効かないと思っていたのか?」

「半信半疑でした。ただ、効かなきゃ艦長が次を決める。そっちは信用してました」

「ずいぶん都合のいい信用だな」

「八年も一緒にやってりゃ、そこは信用しますよ」

 

 管制室の端で、誰かが小さく笑った。

 笑い声はすぐに消えた。

 

 エリンが表示盤から目を離さずに小さく言う。

 

「……本当に、見つかりませんでした」

 

 グレッグがそちらを見る。

 

「驚いたか、管制士官殿」

「驚いていません」

 

 エリンは即答した。

 少しだけ間が空く。

 

「ただ、理解はできていません」

「それは全員そうだ」

 

 グレッグが笑う。

 

 ハイゼンは、探査船が完全に観測範囲を離れるまで待った。

 それから、ようやく命令を出した。

 

「全区画、通常の低出力運用へ戻せ。ただし外縁側は眠らせたままだ。整備班は作業再開。医療班は保温優先。揚陸部隊は待機解除」

「了解」

「残留艦は予備炉の再起動を十分後にしろ。急に熱を戻すな」

「了解」

 

 応答灯が、一つずつ戻ってくる。

 整備班の工具音が、遠くで小さく再開した。

 

 医療区画の照明が、ほんの少しだけ明るくなる。

 防衛区画の待機表示も解除へ切り替わった。

 

 グレッグが扉へ向かいかけて、ふと足を止めた。

 

「艦長」

「何だ」

「司令は、どこまで読んでたんですかね?」

 

 ハイゼンは少しだけ考えた。

 

 レオン司令は、何でも見通しているような顔はしない。

 普段は飯や古い艦の話をして、壊れた設備を見れば直せばいいと言う。

 

 それでも今回は、自分が去ったあとの警戒線と交戦条件まで決めていった。

 

「全部ではないだろう」

 

 マルクは片手の端末を持ち直して答えた。

 

「だが、我々が困る場所は読んでいた」

「十分すぎますな」

「その感想は胸にしまっておけ。報告書は【民間測量船接近、交戦なし】で終わらせる」

「迷い杭は?」

「書けると思うか」

「思いませんな」

 

 マルクは表示盤に残る迷い杭の配置図を見た。

 

 あれは公式記録には載せられない。

 領主府に見せる報告にも書けない。

 

 ステーション17へ向かっていた測量船を逸らしたのは、残骸帯に打たれた小さな杭だった。

 迷い杭が効くまで、留守番部隊も撃たずに待った。

 

 マルクは、管制卓の端を軽く叩いた。

 

「ステーション17、異常なし。作業を続ける」

 

 管制室の表示が、通常の低出力運用へ切り替わっていく。

 死んだふりをしている施設の内側で、作業がまた始まった。

 

**

 

 本星軌道港では、《アーク・ロズベル》の外側に白い骨が増えていた。

 

 第一艦隊旗艦から移した構造梁が、灰色の船体へ一本ずつ固定されている。

 

 俺は整備窓の向こうを眺めていた。

 

『ステーション17より報告』

 

 ノアの声がした。

 

『民間測量船一隻が警戒宙域へ接近。交戦なし。現在は旧鉱山帯外縁から離脱しています』

「そうか」

 

 撃たずに済んだなら、それでいい。

 隣で外骨格の固定記録を確認していたセラが顔を上げた。

 

「民間測量船が?」

『肯定。登録名称《リトラ七号》。ステーション17への接舷、および交戦行動は確認されていません』

「ステーション17は見つかったんですか?」

『報告上、施設への接近および接舷行動は確認されていません』

 

 セラが少しだけ考えた。

 

「司令が置いてきた、あの杭のおかげですか?」

「たぶんな」

「たぶん?」

「迷わせるようには作った」

「効果を確認していなかったんですか?」

「宇宙船を使って試してはいない」

 

 セラの手が止まった。

 

「初めて使うものを、留守番部隊の防衛に置いてきたんですか?」

「効かなければ、ハイゼンが判断する。そのために警戒線と迎撃許可も決めておいた」

 

 杭が効かなければハイゼンが判断する。

 それでも来るなら、グレッグたちがいる。

 そこまで決めて置いてきたのだ。

 

『追加報告』

 

 ノアが続ける。

 

『残留部隊、人的被害なし。施設被害なし』

「なら、うまくやったのはハイゼンたちだ」

 

 セラが俺を見る。

 

「司令は、そういうところだけ妙に謙虚ですね」

「杭を打っただけだからな」

『訂正。警戒線および交戦条件の設定記録も存在します』

「ノア」

『事実確認です』

 

 セラが小さく息を吐いた。

 

「とにかく、無事ならいいです」

「ああ」

 

 俺も整備窓へ視線を戻す。

 白い梁の一本が、《アーク》の古い船体へ固定されていく。

 

 ステーション17は、ハイゼンたちに任せた。

 

 こちらでは、《アーク》の補強が続いている。

 

**

 

 探査船《リトラ七号》の報告は、半日後、外部商会の分析卓に届いた。

 

 分析担当の女は、最初に結論を読んだ。

 

 危険残骸。

 稼働反応なし。

 生体反応なし。

 水再生ラインなし。

 高価値資源反応なし。

 Fランク結晶粉塵は低濃度。

 再利用価値、低。

 

 現場の測量主任は、無理な成果を書いていない。危険宙域でドローン確認まで行っている。撤収判断にも問題はない。

 

 女は、結論欄に指を置いたまま、添付ログを開いた。

 

 航法補正値。

 放射線量。

 磁場異常。

 光学補正ノイズ。

 

 目標座標の推移。

 

 数値を追ううちに、指が止まった。

 

 放射線量の高さのわりに、探査船の外装劣化が薄い。

 磁場異常も強いのに、航法補正値は荒れていない。

 

 航跡だけを見れば、測量船は迷走していない。

 別の目標へ向かうように、滑らかに針路を変えている。

 

 女は、古いステーション17の質量記録を呼び出した。

 

 探査船が調査した残骸と、古い記録が合わない。

 

 破損で説明できない差ではない。

 だが、全部を破損で処理すると、今度は航法ログとの辻褄が合わなくなる。

 

 第二艦隊残留部隊の反応はない。

 戦闘も通信も確認されていない。

 高価値資源も見つかっていない。

 

 証拠と呼べるものはなかった。

 

 これでは、上へ強い報告は出せない。

 

 女はしばらく画面を見たあと、報告書の結論は変えず、補足欄を一つだけ足した。

 

 追加調査の必要性、低。

 

 ただし、航法補正ログに未解明の連続誤差あり。

 

 入力を終えても、女は画面を閉じなかった。

 

 結論欄には「再利用価値、低」とある。

 

 女はもう一度、測量船の航跡を呼び出した。

 

 何もないだけなら、こんな曲がり方をするだろうか。

 

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