前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜   作:オカノヒカル

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第21話 星脈結晶の使い方、教えます

 本星軌道港の仮設整備区画で、《アーク・ロズベル》は白い骨をまとっていた。

 

 灰色で四角い旧式艦の外側に、白く滑らかな構造梁が取りつけられている。

 艦首から中央部へ伸びる梁。

 横腹を覆う補助装甲。

 艦尾の旧式推進器を囲む、新しい放熱板。

 

 第一艦隊旗艦《エデン》から回収した部材のうち、使えるものだけを移したらしい。

 

 正直、似合ってはいない。

 

 古い作業着の上から、上等な外套を引っかけたような姿だ。

 

 だが、前よりは頑丈そうだった。

 船は見栄えで砲撃を防ぐわけではない。壊れずに帰ってこられるなら、それでいい。

 

『外骨格部材の固定試験、完了』

 

 仮設投影機の上で、青白い箱舟が明滅する。

 

『静荷重試験、基準内。港内低速移動、異常なし』

「問題はないのか」

『高出力航行時の実測記録は存在しません』

「なら、最後は動かして確かめるしかないな」

「その前に、姿勢制御側をもう少し詰めます」

 

 セラが整備卓の前で足を止めた。

 

 透明な封印ケースの中に、親指の先ほどの灰色の結晶片が収められている。

 

 星の脈を流す石。

 俺は星脈結晶と呼んでいる。

 

 この世界では、いまだにFランク結晶だ。

 役立たずの石につける名前としては、ずいぶん丁寧だと思う。

 

「帰還命令後、領主府への報告用として後送された未使用試料です」

 

 炉心担当技師が端末を確認する。

 

「司令。本当に、これを使うんですね」

「ああ」

「炉心の出力を、さらに上げるための燃料なんですか?」

「この石そのものが燃えるわけではない」

「この物質からエネルギーを抽出するわけではない、と?」

「外にある力を、船が使える形へ通し直す。そのための石だ」

 

 技師が結晶を見る。

 

 セラが補足した。

 

「司令がエーテルと呼んでいる未登録媒質を、既存機関へ接続可能な反応へ変換している可能性があります」

「可能性?」

「入力側を測れません。出力だけが観測されています」

 

 技師の眉間に皺が寄る。

 

 分からないから測る。

 悪くない。

 そういう者なら、船を任せられる。

 

 今回の試験には、その前段階があった。

 

 《エデン》の外骨格を移したことで、《アーク》の重量配分は変わっている。通常航行では問題ないが、戦闘加速へ入る瞬間には、既存の姿勢制御スラスターだけでは補正が足りない可能性が出た。

 

 そこで、戦闘加速へ入る数秒間だけ、姿勢制御スラスターへ追加の出力を送る補助機関を組んだ。

 

 最初は簡単だと思った。

 《アーク》の主炉と同じように、エーテルを取り込む術式を刻めばいい。

 

 だが、うまくいかなかった。

 

 反応はする。

 わずかに出力も出る。

 それでも、《アーク》の主炉ほど素直にエーテルが流れない。流れは偏り、俺が補正をやめれば、すぐに不安定になった。

 

 同じようにエーテルを流そうとしているのに、《アーク》の主炉では素直に通り、新しく組んだ補助機関ではうまく通らない。

 

 理由は、まだ分からない。

 

 だから今度は、間に石を挟んでみることにした。

 

 整備卓の上には、小さな試験装置が組まれていた。

 

 星脈結晶を固定する金属枠。

 細い仮設流路。

 計測器と遮断器。

 その先には、短い噴射筒が取りつけられている。

 

「これで飛ぶのか?」

「飛ばさないために、卓ごと固定しています」

 

 セラの返事は早い。

 

「姿勢制御スラスター用の試験器具です。艦を動かす力はありません。結晶から出力を取り出せるかを見るだけです」

「これが安定するなら、《アーク》の姿勢制御系へつなげられるな」

「その前に、結晶が壊れた時と、止めた時の挙動を確認します」

 

 セラが《アーク》を見上げた。

 

「実艦へつなぐのは、それからです」

「分かった。先に壊し方と止め方を見る」

「そうしてください」

『過去の行動記録との整合性に疑義があります』

「ノア」

『発言を撤回します』

 

 撤回する気のない声だった。

 

 セラが技術班へ向き直る。

 

「結晶の急激な濁り、温度上昇、出力異常で中止。遮断後も反応が残った場合は緊急放熱へ切り替えます」

「遮断器、正常」

「冷却系、正常」

『中止条件を登録』

「異常が出たら止める」

「はい。その異常判定を、今の条件で固定します」

「頼む」

 

 封印ケースを開ける。

 

 灰色の結晶片をつまみ、固定枠の中央へ置いた。

 

 小さい。

 

 前世なら、これほど小さな魔石で大きなものを動かそうとは思わなかった。

 

 だが、ここでは石の中に力を溜め込む必要はない。

 エーテルは周囲にある。

 結晶はそれを汲み上げ、流路へ渡す。

 

「始めるぞ」

「最低出力でお願いします」

「分かっている」

 

 結晶へ指を触れる。

 

 周囲からエーテルを細く汲み上げる。

 

 結晶の中を一度巡らせ、出口へ送る。

 使い終えた流れは、下の放熱板へ逃がす。

 

 井戸から桶で水を汲み、細い水路へ流す。

 それと大差はない。

 

 指先から黄金の線が伸びた。

 灰色の結晶内部へ光が沈み、一筋だった線が中央で小さな輪を作る。

 

「反応を確認」

『未登録媒質反応を検出』

「仮設流路、出力あり。温度正常」

 

 セラが弁を開く。

 

 短い音とともに、噴射筒から青白い炎が伸びた。

 その縁に、黄金色が混じる。

 

 固定された整備卓が、わずかに震えた。

 噴射はすぐに消える。

 

「小型噴射器、作動確認」

 

 炉心担当技師が計器を覗き込む。

 

「外部電力は?」

『計測器および制御弁の作動分のみ』

「では、いま噴射した分は?」

『供給源を確認できません』

 

 技師が額を押さえた。

 

「見えているのに、どこから来たか分からない……」

「外からだぞ」

「司令。技術報告書には、もう少し狭い範囲を書きたいんです」

「宇宙より狭い場所となると難しいな」

 

 セラが一度だけ目を閉じた。

 

「次へ進みます。司令、指を離してください」

「分かった」

 

 指を離す。

 

 黄金の輪は消えなかった。

 

『入力源との接触、消失』

『反応、継続』

 

 俺は結晶を見る。

 触れていない。

 

 だが、光は回り続けている。

 

 一呼吸ほど。

 計器では一秒。

 

「……保持しています」

 

 炉心担当技師の声が低くなる。

 

 セラが噴射器の弁を、わずかに開いた。

 青白い炎がもう一度伸びる。

 

 今度は弱い。

 それでも噴射した。

 

「司令が手を離したあとも、出力しています」

 

 技師が計器から顔を上げる。

 

「これ……いま、司令は何もしていませんよね?」

「ああ」

『入力源との再接触なし』

 

 黄金の輪が揺らいだ。

 

『出力波形、乱れを検出』

「遮断!」

 

 物理遮断器が閉じる。

 噴射が止まった。

 

 だが、結晶内部の光はまだ残っている。

 細かな揺らぎを繰り返しながら、固定枠の中を走った。

 

「放熱経路を開きます」

 

 黄金の光が結晶の下から細い板へ流れる。

 放熱板の表面に淡い筋が広がり、最後の光が消えた。

 

『未登録媒質反応、消失』

 

 整備区画に機械の低い音だけが残る。

 結晶片の表面は、試験前より白く濁っていた。

 

『警告。星脈結晶片、表面濁度上昇』

『変換効率、初期値より低下』

「一度でこれか」

 

 固定枠が冷えるのを待ち、結晶へ触れる。

 

 内側の流れが細くなっていた。

 流れは残っているが、先ほどより明らかに通りが悪い。

 

「少し詰まったな」

「宇宙にあるエーテルが尽きなくても、通す道具は傷みます」

「海が広くても、桶は壊れるか」

「はい。今の桶は、一度水を汲んだだけでひびが入りました」

「冷却すれば戻りますか?」

 

 炉心担当技師が尋ねる。

 

『現時点では判定不能』

「再使用は?」

「禁止します」

 

 セラは迷わなかった。

 

「分析用結晶片A。一回使用。安定保持、約一秒。二秒目から出力不安定。停止後に残留反応あり。再使用禁止」

 

 技師が記録する。

 結晶片は封印容器へ収められた。

 

「失敗でしょうか?」

 

 炉心担当技師が尋ねた。

 セラは少し黙った。

 

「艦へ載せられる状態ではありません」

「だが、俺が手を離しても動いた」

『肯定。入力源との接触消失後、反応保持を確認』

 

 青白い箱舟の周囲に、試験波形が表示される。

 

 俺が触れている間の安定した線。

 指を離したあとも続いた線。

 

 わずか一秒。

 だが、ゼロではない。

 

 炉心担当技師が、もう一度波形を見た。

 

「司令が触れていないのに、噴射器が動いた……」

「そういうことになります」

 

 セラは波形を見たまま言った。

 

「保持時間は約一秒です。短すぎて、このままでは実用になりません」

 

 一度言葉を切る。

 

「ですが、司令が触れ続けなくても動く装置を作れる可能性は出ました」

 

 それなら十分だ。

 

「姿勢制御には使えそうか?」

「一秒では無理です」

「必要なのは戦闘加速へ入る数秒だけだろう?」

「安定して止められるなら、です」

「なら、次はそこだな」

『補足。現在の試験系では、安全停止条件を満たしていません』

「なら、止められるようにすればいい」

「そう簡単に言いますけどね……」

『追加分析』

 

 ノアの投影が明滅した。

 

『星脈結晶の変換挙動と、レオン司令の術式構造に相関を確認』

「どこまでですか?」

『取り込み量、流路、出力先、放熱経路。すべてに対応構造が存在します』

 

 セラが黄金の術式と機械側の制御記録を重ねる。

 一部の線が重なった。

 

「司令の術式が、制御命令の代わりになっている……」

「魔法だからな」

「その一言で報告書を書ければ、私も楽なのですが」

「書いてみればいい」

「提出先で私の精神状態を疑われます」

『レオン司令の発言を原文のまま添付する方法を提案』

「ノア。それは私だけ逃げる方法です」

『訂正。責任者を明確にする方法です』

 

 技術班から小さな笑いが漏れた。

 

 結晶は傷んだが、怪我人も装置の損傷もない。

 石を挟んでの最初の試験なら、十分だ。

 

 セラは記録を分ける。

 

「外骨格の固定試験記録は第一艦隊へ返します。星脈結晶の反応記録は、第二艦隊の機密区分へ」

「借りた骨の記録は返す。石の使い方まで教える必要はないということだな」

「はい。事故が起きた場合は別ですけど」

「それでいい」

 

 セラが次の画面を開いた。

 《アーク》の航行試験計画。

 

「次は通常航行出力です。問題がなければ、戦闘加速第一段階まで上げます」

「ようやく艦を動かせるのか」

「順番を守って、です」

『外骨格移設後の高出力航行データは存在しません』

 

 俺は整備窓の向こうを見る。

 

 灰色の箱型船体。

 その外側を走る白い梁。

 艦尾には、いくつもの旧式推進器が束ねられている。

 

 固定している間は問題なかった。

 低速でも、問題は出なかった。

 

 だが、白い骨をまとった《アーク》は、まだ一度も本気で走っていない。

 

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