前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜   作:オカノヒカル

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第22話 強くなった《アーク》、まっすぐ飛びません

 旗艦《アーク・ロズベル》の外骨格実装試験が始まった。

 

 艦尾に束ねられた旧式推進器から、青白い噴射炎が伸びている。

 その縁には、炉心へ刻んだ術式の黄金色が混じっていた。

 

 白い外骨格をまとった灰色の船体が、本星港から離れた無人宙域を進んでいく。

 

 進路上には、等間隔に観測ブイが並んでいた。

 

 あれをまっすぐ抜ければいい。

 

 分かりやすい試験だ。

 

「本日の目的は、最高速度の測定ではありません」

 

 セラが技術監視卓から釘を刺してきた。

 

「外骨格をつけた《アーク》が、安全に加速し、止まり、姿勢を保てるか確認します」

「速くなったかは調べないのか?」

「安全に止まれない船は、速くしてはいけません」

『試験項目に最高速度測定は含まれていません』

 

 二人とも疑り深い。

 

「昨日の試験で、一度水を汲んだ桶がひび割れたばかりです」

「今日は石を使わない」

「司令が改造した炉心を使いますよ」

「それは問題ない」

「その判断を、これから試すんです」

 

 艦橋正面に試験航路が表示される。

 

 周辺宙域に他の艦はいない。

 推進器と外骨格固定部に近い区画からも、乗員は退避済みだ。

 

「低出力航行を開始します」

「了解。主推進器、点火」

 

 操舵士の操作に合わせて、艦尾の推進器が順に光った。

 

 《アーク》がゆっくりと前へ出る。

 

 白い梁は軋まない。

 新しい放熱板にも異常はない。

 

『直進誤差、許容範囲内』

『外骨格固定部、異常なし』

「通常航行出力へ移ります」

 

 噴射炎が長くなる。

 艦内へ低い振動が伝わった。

 

 古い船だ。

 静かさは求めない。壊れず進めば、それでいい。

 

『通常航行速度への到達時間、改造前記録を上回りました』

「炉心強化の効果を確認。推進出力は上がっています」

「悪くない」

 

 重い外骨格を追加したにもかかわらず、《アーク》は以前より軽く動いている。

 

『姿勢制御補正、予測値より増加』

 

 セラが表示を確認した。

 

「許容範囲です。主推進器ごとの反応差を補正しているのでしょう」

 

 少しだけ引っかかる数字らしい。

 だが、《アーク》は観測ブイの中央をまっすぐ抜けた。

 

「通常航行試験、合格」

 

 セラが記録を閉じる。

 

「次、戦闘加速第一段階へ移ります」

「ようやく本番か」

「試験です」

「似たようなものだろう」

「実弾が飛んでこないところが違います」

『各区画、退避完了』

 

 セラが艦橋を見回す。

 

「異常が出た時点で通常航行出力まで下げます。姿勢が戻らなければ主推進器を遮断します」

「了解した」

「司令ではなく操舵士へ言いました」

「俺も聞いておく」

「それなら結構です」

 

 操舵士が制御盤へ手を置く。

 

「戦闘加速第一段階、準備完了」

「開始してください」

「戦闘加速、開始」

 

 推進器の噴射炎が膨らんだ。

 

 青白い炎の中を黄金の筋が走る。

 《アーク》が強く前へ押し出された。

 

 座席の背へ身体が沈む。

 観測ブイが次々と後方へ流れていく。

 

「加速率、予定値を上回っています」

『炉心出力、安定』

 

 最初の一秒は、問題なかった。

 その直後、正面の観測ブイが右へずれた。

 

「艦首、右へ変位」

『自動補正を開始』

 

 左側の姿勢制御スラスターが噴く。

 艦首が中央へ戻る。

 

 だが、戻りすぎた。

 

「補正量が多いです」

「左へ振れます!」

『直進誤差、増加』

 

 今度は反対側のスラスターが噴いた。

 

 正面の観測ブイが右へ流れる。

 

 また補正。

 

 また行きすぎる。

 

 《アーク》の航跡が、左右へ何度も振れた。

 

「戦闘加速を中止! 通常航行出力まで下げてください!」

「出力低下!」

 

 主推進器の炎が短くなる。

 だが、古い推進器は足並みまで揃ってはいない。

 

 艦首がさらに振れた。

 

『外周第六姿勢制御スラスター、温度上限接近』

「第六を止めて! 予備系へ切り替え!」

『第六姿勢制御スラスター、緊急停止』

 

 横腹の噴射炎が一つ消えた。

 

 左右の補正力が崩れる。

 

 正面の星空が、ゆっくりと傾き始めた。

 

「回頭が止まりません!」

「主推進器、全基遮断!」

「緊急遮断!」

 

 噴射炎が細くなる。

 それでも、艦尾から押す力が残っていた。

 

『主推進器、停止動作中』

『炉心出力、停止処理能力を上回っています』

 

 俺は艦の奥へ意識を向けた。

 炉心の中で、黄金の術式が回っている。

 

 機械側は止めようとしている。

 だが、俺が増やした流れだけが残っていた。

 

「司令、何をするんですか?」

「増やした分を止める」

「主推進器は遮断動作中です!」

「炉が押し続けている。元に戻す」

 

 炉心へ刻んだ術式を畳む。

 広げた流れを細くし、増幅経路を一つずつ閉じた。

 

『炉心出力、低下』

『推進系残留出力、減少』

 

 噴射炎が消える。

 押す力は止まった。

 

 だが、《アーク》はまだ回っていた。

 

『使用可能な姿勢制御スラスターを再選定』

『回転停止手順を開始』

「操舵、ノアの補助へ合わせてください!」

「了解!」

 

 船体の前後で短い噴射が続く。

 傾いていた星空の動きが鈍った。

 

 もう一度。

 星空が止まる。

 

『回頭速度、ゼロ』

 

 艦橋で、誰かが息を吐いた。

 

『人的被害なし』

『外骨格固定部、構造損傷なし』

『主推進器、損傷なし』

『外周第六姿勢制御スラスター、修理を要します』

「壊れたのは、曲がるための方か」

「まっすぐ進むために使いすぎました」

 

 セラが焼けた第六スラスターの状態を表示する。

 

「主推進器は無事です」

「止める方が負けたか」

「正確には、補正する方です」

 

 少なくとも、強くした分をまだ扱えていない。

 

**

 

 《アーク》は出力を落とし、本星港へ戻った。

 

 低出力なら、船はまっすぐ進む。

 戦闘加速へ入った時だけ暴れる。

 

 艦橋の正面に、事故時の航跡と仮想標的が表示された。

 

 《アーク》の主砲は艦首固定式だ。

 敵へ撃つには、艦そのものを標的へ向け続けなければならない。

 

 事故時の動きを重ねると、主砲軸線は仮想標的の左右を何度も横切った。

 

『主砲充填および照準時間中、軸線維持不能』

「つまり、砲は撃てる。敵へ当てられない」

「戦艦としては、撃てないのと同じですよ」

 

 防御力も速度も上がったが、主砲を敵へ向けられない。

 

**

 

 本星港へ戻ると、事故記録の解析が始まった。

 

 操舵士にミスはない。

 ノアも推進器も、命令どおり動いていた。

 

 第六姿勢制御スラスターは、蛇行を止める補正を繰り返したために過熱していた。

 

「全部、正常に動いていたのか?」

「はい」

「それで曲がった?」

「外骨格で重量配分が変わりました。そこへ司令の炉心強化で、主推進器の出力まで上がったんです」

 

 セラが波形を重ねる。

 

「この艦の推進器は古いので、一基ごとに出力の立ち上がり方が違います。以前ならノアの姿勢制御で吸収できました」

『従来出力時は補正可能』

「今は?」

「押す力が増えたうえ、外骨格で船の回り方まで変わりました。今までの補正では追いつきません」

 

 なるほど。

 全部壊れていないからこそ、厄介らしい。

 

「どうすれば直る?」

「炉心や配管、制御系の調整だけでは足りません」

 

 セラが白い外骨格を拡大する。

 

「外骨格そのものの配置を、引き直す必要があります」

「お前ではできないのか?」

「私は炉心、配管、制御、安全機構が専門です。修理する時に、どこへ人が入る必要があるかも分かります。ただし……」

 

 彼女は少し間を置く。

 

「艦全体の骨格と重量配分を一から設計するのは専門外です」

「ノアでは駄目なのか?」

『荷重計算および配置案の検証は可能です。ただし、設計条件の設定が必要です』

「設計条件?」

「どの骨格を残すか。どこまで動かせるか。放熱や整備性をどこまで犠牲にできるか。それを人間が決めなければ、ノアも計算できません」

『加えて、本船には原設計へ反映されていない補修箇所が存在します』

 

 計算の前提になる条件は、人間側で決める必要があるらしい。

 

「それを決めるのが?」

「船体設計の専門家です」

 

 セラの指が、白い外骨格をなぞる。

 

「しかも今回は、《アーク》だけを知っていればいいわけではありません。この外骨格が元の艦でどう使われていたかまで分かる人が必要です」

「そんな都合のいい奴がいるのか?」

 

 セラの返事が止まった。

 

「……います」

「なら呼べ」

「あまり呼びたくないですね」

 

 他に人材がいないなら贅沢を言っていられない。

 

「どこにいる?」

「第一艦隊旗艦の修復区画です」

「なら、会いに行く」

 

 セラの眉間に深い皺が寄った。

 

「司令は、その人がどんな相手か知らないから言えるんです」

「腕は確かなんだろう」

「腕だけなら、誰よりも」

「人としては?」

 

 セラは、すぐには答えなかった。

 

「一度、私を見捨てた人です」

 

 セラはそれ以上説明しなかった。

 ただ嫌っているだけなら、その能力を認めたりもしないだろう。

 

「嫌なら、お前は残っていてもいい」

「行きます」

 

 返事だけは早い。

 

「私が行かなければ、最初の一言で追い返されます」

「嫌われていても話は聞いてもらえるのか?」

「その確認は必要ですか?」

「少し気になった」

「必要ありません」

 

 セラがジト目で俺を見る。

 

 個人的な事情は、船がまっすぐ飛んでから聞くことにしよう。

 

**

 

 第一艦隊旗艦《エデン》は、修復区画の中央で艦尾を開かれていた。

 

 白い装甲板が外され、内部の配管や骨格が露出している。

 設備も人員も《アーク》より揃っている。

 それでも、修理は進んでいなかった。

 

 一つ部品を外せば、別の傷が見つかる。

 交換済みと記録された場所から、古い製造番号まで出てくる。

 

 腕のよい治療師がいても、患者の中へ腐った針を残されていては困るだろう。

 

 セラが修復区画を見回し、すぐに足を止めた。

 

「あれです」

 

 白い作業灯の下に、一人の女が立っていた。

 

 淡い蜂蜜色の長い髪を低い位置でまとめている。

 細身で柔らかな顔立ち。

 

 報告を聞く青灰色の瞳だけが鋭かった。

 

 周囲では作業員が走り、運搬機械が部材を運んでいる。

 彼女自身はほとんど動かない。

 

 報告を聞き、二言、三言と指示を返す。

 指示を受けた作業員が、すぐに持ち場を変える。

 

「あれが?」

「リーネ・カーヴェル。私の元相棒です」

 

 相棒。

 

 セラの口から出た言葉が妙に耳へ残った。

 

 その時、若い技師がリーネへ駆け寄る。

 

「カーヴェル主任。三番船体骨格の応答が遅れています」

「数値は?」

「基準内です。ただ、試験を重ねるたびに戻りが少し遅くなっています」

 

 近くにいた修復統括官が振り返った。

 

「規定値内なら続けろ。これ以上、工程を遅らせるな」

 

 補助推進区画に試験開始表示が灯る。

 リーネは若い技師の端末を受け取った。

 並んだ波形を一度見る。

 

「まあ。数字はお行儀よく並んでいるのに、三番だけ帰りが遅いわね」

 

 指先で波形を広げる。

 

「試験は止めましょう」

「カーヴェル主任。骨格材は交換済みだ」

 

 修復統括官が、いらついたように声を上げた。

 

「記録では、そうなっていますね」

「なら問題はない。続けろ」

 

 リーネが端末から目を上げた。

 

「交換した骨格が、試験を重ねるたびに戻らなくなる方が問題です」

「規定値を超えてから確認すればいい」

「超えた時には、隣まで歪みます」

 

 試験開始までの秒数が減る。

 

 リーネは非常停止器の蓋を開け、物理ロックを下ろした。

 試験開始表示が消える。

 

「勝手に止めるな!」

「わたしが止めました」

 

 リーネは若い技師へ端末を返す。

 

「三番の外装を外してください。表面ではなく、骨格材の製造番号まで確認を」

 

 白い外装板が外される。

 

 中から現れた骨格材は、周囲より明らかに古かった。

 新しい補修塗装の下へ検査光を当てる。

 

 細い亀裂が浮かび上がった。

 

「交換済みのはずでは?」

 

 若い技師が呟く。

 

「塗装は新しいわね……」

 

 リーネは製造番号を見る。

 若い技師が、製造番号と記録を見比べた。

 

「交換記録と現物を、全部照合してください」

「それでは修理がさらに遅れる」

 

 修復統括官が焦ったように声を上げる。

 

 新品を横流しして、古い骨格材を入れたのかもしれない。

 以前の整備担当官を処分しても、根本的には解決していないみたいだ。

 

「壊れた旗艦を、壊れたまま出港させるより早いと思います」

 

 セラが小さく息を吐いた。

 

 俺たちが近づくと、リーネがこちらを見る。

 青灰色の瞳が俺を通り過ぎ、セラで止まった。

 

「今度は、止めたんですね」

「あら。生きていたのね、あなた」

「ええ。おかげさまで」

「……まだ怒っているのね」

「その話をしに来たのではありません」

 

 セラが俺を示した。

 

「レオン・ロズベル司令です」

 

 リーネが軽く頭を下げる。

 

「リーネ・カーヴェルです。第一艦隊旗艦修復班で、船体構造を担当しています」

「《アーク》を見てほしい」

「どこか壊れたのかしら?」

「戦闘加速に入ると、まっすぐ飛ばなくなった」

 

 リーネが目を瞬いた。

 

「ずいぶん基本的な問題を起こしたのね」

「《エデン》から移した外骨格をつけた状態で、炉心出力を上げました」

「外骨格をつけてから、主推進器を交換したの?」

「いや。改造しただけだ」

「誰が?」

「俺だ」

「まあ」

 

 柔らかい声のまま、目だけが先ほど亀裂を見つけた時と同じになった。

 

「事故記録を見せてくださる?」

 

 端末を渡す。

 

 《アーク》が加速し、右へ振れる。

 補正が入り、左へ振れる。

 第六姿勢制御スラスターが過熱し、最後には船体が回る。

 

 リーネは途中で止めなかった。

 

 映像を最初へ戻し、主推進器の出力波形を重ねる。

 

「……この主推進器、交換していないのよね?」

「そうだ」

 

 リーネは加速記録をもう一度見る。

 

「それで、この加速?」

「速いのか?」

「少なくとも、この艦の推進器が出していいデータではないわね」

 

「直せるか?」

「現物を見ずに答える技術者を、信用してはいけませんわ」

「見に来るか?」

「そうですね。《エデン》を放り出すわけにもいかないので、《アーク》の共同解析申請を出します」

「許可が出るまで待つのか?」

「先に申請して、解析結果を添えます。その方が通りやすいもの」

 

 リーネは端末を返した。

 

「自分の目で見て、触って、どこが痛いのか聞かなくては」

 

 機械を患者のように扱うらしい。

 

 悪くない。

 

「セラ。案内してくださる?」

「こちらです」

 

 二人は並んで歩き始める。

 二人の間には少し距離があったが、歩く速さは同じだった。

 

**

 

 リーネは《アーク》へ入ると、艦首から艦尾まで三度往復した。

 

 白い外骨格を見て、内部骨格を見て、最後に推進器と姿勢制御スラスターを見る。

 

 焼けた第六スラスターの前で足を止めた。

 

「これは結果ね」

「はい。蛇行を止めようとして補正噴射を繰り返しました」

「事故前までは正常?」

「温度も出力も規定内です」

「なら、原因は別ね」

 

 技術解析室へ戻る。

 

 リーネは外骨格と重量物の位置を船体図へ重ねた。

 

 改造前の重心と、現在の重心。

 二つの点は、わずかにずれている。

 

「静止している時なら問題ない範囲です」

 

 セラが言う。

 

「静止している時はね」

 

 リーネが主推進器の出力線を重ねる。

 

「今の《アーク》は、昔より強く押される。でも、推進器の足並みは昔のまま。しかも、外骨格で船の重さと回り方が変わった」

 

 事故映像が再生される。

 

「弱く進む間は補正できる。でも戦闘加速では、一度曲がってから直す。その補正が遅れて、今度は反対へ曲がりすぎる」

「片側へ荷を積んだ荷車を、力の違う者たちで押しているのか?」

「そのうえ、車夫は昔の軽さだと思って把手を引いています」

「分かりやすい」

「荷車から離れてください」

 

 セラが眉を寄せた。

 

「外骨格を外すか?」

「駄目です」

 

 リーネとセラの声が重なった。

 

「船体補強がなくなります」

「放熱能力も落ちるわ。今の炉心を使うなら残すべきです」

 

 リーネが配置を動かす。

 

「補助装甲を中央寄りへ」

「そこでは整備口を塞ぎます」

「では少し外へ」

「冷却配管と干渉します」

 

 リーネが数秒考えた。

 

「……補助装甲を分割しましょう」

 

 リーネが船体と骨格の位置を決める。

 セラが配管と整備動線を通す。

 ノアが重量、熱、姿勢制御を計算する。

 

『外骨格再配置案を反映』

『船体重量偏差、減少』

『通常航行時、姿勢維持可能』

「戦闘加速は?」

『再計算』

 

 改造後の推進器出力が重ねられる。

 数秒後、結果が表示された。

 

『戦闘加速後の定常状態、姿勢維持可能』

「加速したあとは問題ないのか?」

『肯定』

「では、どこで足りない?」

『戦闘加速移行時、姿勢制御出力が不足』

『最大不足時間、二・八秒』

『設計上の補助時間として、三秒を推奨』

 

 リーネが表示を止めた。

 

「ずっと足りないわけではないのね」

「主推進器の出力が揃うまでです」

 

 セラも結果を見る。

 

「加速へ入る三秒だけ、姿勢制御スラスターへ追加出力を送れれば……」

「新しいスラスターを載せるか?」

「使える軍用部品がありません」

「重りで左右を揃えることもできるわ」

「その分だけ重くなります」

「炉心出力を戻せば?」

「安全ですが、強化した意味がなくなります」

 

 どれも使えないらしい。

 

「なら、三秒だけ今あるスラスターを強くする」

 

 俺が言うと、セラが別の記録を開いた。

 

 昨日の星脈結晶試験。

 俺が手を離してからも、約一秒だけ術式を保った記録だ。

 

「小さな結晶片と仮設流路で、一秒でした」

 

 リーネが記録を見る。

 

「必要なのは、戦闘加速へ入る三秒だけだろう」

「はい。ただ、現状では一秒しか保持できません」

「なら、連続運転はいらない。三秒だけ安定して保てる形を作る」

 

 セラは少し黙った。

 やがて、新しい設計画面を開く。

 

「主炉とは切り離します」

「そうだな。別にエーテルを汲めばいい」

「主推進器にも、主砲にも接続しません。姿勢制御系だけで完結させます」

『補助出力経路の仮設計を開始』

 

 リーネが船体図へ線を引く。

 

「わたしは、外骨格とスラスターの位置を合わせるわ」

 

 セラがそこへ流路と停止機構を足す。

 

「私は配管と制御を組みます」

『本船を監視。異常時は警告します』

 

 リーネとセラが俺を見る。

 

「俺は石へ術式を入れればいいのか?」

「前回より大きな未使用結晶を使います」

 

 セラが答える。

 

「三秒持つ保証はありません」

「その三秒を作るのが、俺の仕事だな」

「そう簡単にいきますかね?」

 

 ノアの投影に、新しい名称が表示された。

 

『設計仮称。小型補助星脈炉・試作一号』

「長いな」

「試作品だと分かるようにしています」

「小さな補助心臓では駄目かしら」

「駄目です」

 

 セラの返事は早かった。

 リーネが楽しそうに笑う。

 

 整備員たちへ、外骨格再配置の指示が送られた。

 画面の向こうでは、《アーク》の白い補助装甲を外す準備が始まっている。

 

 別の画面では、セラが独立した補助出力経路を引いていた。

 リーネが必要な姿勢制御出力を入力する。

 

 ノアが出した必要稼働時間は三秒。

 昨日の結晶は、一秒しか持たなかった。

 

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