前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜 作:オカノヒカル
〈ようやく出てきたな、《アーク・ロズベル》〉
海賊の声は、妙に落ち着いていた。
星図上には、十隻の敵艦が映っている。
正面に中型武装艦四隻。
左右には、小型の高速艦が三隻ずつ。
赤い光点が広がり、《アーク》を囲むように動き始めた。
「包囲するつもりでしょうか」
セラが敵の進路を拡大する。
左右の小型艦は、こちらへ真っすぐ向かっていない。第一艦隊の駆逐艦よりも外側へ回り込もうとしている。
「違う」
俺は左右の駆逐隊を見る。
「《アーク》から、足の速い船を引き離すつもりだ」
小型艦を追えば、駆逐艦が中央から離れる。
残された《アーク》は鈍い。
戦闘加速も使えない。
その隙に、そこへ正面の中型艦をぶつけるつもりなのだろう。
「駆逐隊は追うな。軽巡洋艦の支援範囲から出るな」
クレイン大佐が、間を置かず第一艦隊へ命令を流す。
〈第一、第二駆逐隊。隊列を維持。外側の敵は牽制に留めろ〉
〈第一駆逐隊、了解〉
〈第二駆逐隊、了解〉
左右へ広がった海賊艦から、誘導弾が放たれた。
『敵誘導弾、十二』
「迎撃火器、作動!」
兵装管制士の声と同時に、《アーク》の船体各部から迎撃砲火が伸びる。
白い軌跡が交差し、敵誘導弾が次々と弾けた。
すべては落とせない。
残った誘導弾へ、第一艦隊の駆逐艦が迎撃弾を放つ。
左翼では二隻の駆逐艦が射界を重ね、右翼では一隻が正面を受け持ち、もう一隻が横から抜けようとする弾を仕留めた。
第一艦隊は、書類だけの艦隊ではないらしい。
「左右の小型艦が、さらに散開します」
「多弾頭弾を左右へ一発ずつ」
兵装管制士が振り返る。
「使用しますか? 残数は多くありません」
「ここで使う」
「了解。多弾頭誘導弾、目標を分配」
《アーク》の左右から、一発ずつ誘導弾が飛び出した。
海賊の小型艦へ接近したところで、親弾頭が割れる。
複数の子弾頭が扇状に広がり、それぞれ別の目標へ向かった。
撃沈するための弾ではない。
海賊側の迎撃火器が一斉に動き、小型艦が回避へ入る。
一隻が外へ逃げ、もう一隻が内側へ戻ろうとした。
〈第一駆逐隊、内側の一隻を押し返せ!〉
クレイン大佐の命令で、二隻の駆逐艦が同時に砲撃する。
一隻が進路の前へ弾幕を張り、もう一隻が回避先へ誘導弾を送った。
海賊艦は中央へ戻れず、さらに外側へ逃げる。
悪くない。
第一艦隊は、正しく動かせば十分に強い。
正面の中型武装艦が火を噴いた。
「敵艦、実体弾発射!」
回避は間に合わない。
高速徹甲弾が、《アーク》の艦首へ直撃した。
白い外骨格の表面で火花が弾ける。衝撃が艦橋まで伝わったが、分厚い構造梁は折れなかった。
徹甲弾は外骨格の一部を削り、そのまま艦首の外へ逸れていく。
『外骨格第一接合部、衝撃を吸収。艦首主骨格への損傷なし』
第一艦隊旗艦から借りた骨は、今度は《アーク》を守った。
「副砲。正面二番艦の推進器を狙え」
「レールガン砲塔、照準!」
船体側面の旧式砲塔が、遅い動きで敵へ向く。
初弾は敵艦の横を通り抜けた。
二発目も装甲をかすめる。
三発目が、艦尾の推進器付近へ突き刺さった。
敵艦の噴射光が乱れ、船体が横へ流れる。
「敵二番艦、速度低下!」
「沈めなくていい。動けなくしろ」
逃げられなくなれば、あとで捕まえればいい。
クレイン大佐の軽巡洋艦が、こちらの砲撃へ合わせた。
軽巡洋艦の斉射が、速度を失った敵艦の砲塔を叩く。
続いて二隻の駆逐艦が接近し、敵艦の迎撃火器とセンサーを順番に潰した。
正面の海賊艦が隊列を崩す。
右翼でも、もう一隻の軽巡洋艦が駆逐艦二隻を支え、小型艦一隻の推進器を損傷させていた。
冷却に制限があるため、無理な加速はしていない。
それでも砲撃の間隔は正確だった。
正しい役割を与えれば、第一艦隊は強い。
壊れた部分を隠したまま使うより、よほどいい。
『敵中央艦、進路反転』
ノアの報告と同時に、正面奥の一隻が後退を始めた。
ほかの海賊艦より通信量が多く、戦闘中も周囲へ指示を送っていた船だ。
〈敵中核艦が逃げます〉
クレイン大佐から短い通信が入った。
〈追撃許可を求めます。軽巡洋艦一隻、駆逐艦二隻で追えます〉
敵中核艦は、《アーク》の正面方向へ逃げている。
艦首の軸線からは、大きく外れていない。
「クレイン大佐。軽巡洋艦一隻、駆逐艦二隻で追え」
〈了解〉
「ただし、条件がある」
わずかな間を置いて、返答があった。
〈条件を確認します〉
「《アーク》の艦首軸線から大きく外れるな。第二艦隊フリゲートの通信中継圏を出るな」
〈確認しました〉
「新しい熱源を見つけたら、すぐに戻れ。撃沈する必要はない。推進器を止めればいい」
〈第一駆逐隊、追撃編成へ。旗艦軸線と通信中継圏を維持する〉
三隻が隊列を離れ、敵中核艦を追い始めた。
残った軽巡洋艦と駆逐艦二隻が、《アーク》の前へ位置を変える。
「本隊の前面を預ける」
俺が命じると、クレイン大佐がうなずいた。
〈了解しました。本隊前方を引き受けます〉
敵中核艦の推進光が乱れた。
急に速度が落ちる。
『敵中核艦、推進出力低下』
〈追いつけます〉
クレイン大佐の軽巡洋艦が加速する。
その先には、廃棄された鉱石運搬船や船体残骸が漂っていた。
「クレイン、残骸群の奥へ入るな」
〈了解。外縁で止めます〉
追撃隊が、動かなくなった鉱石運搬船の横を通過する。
その瞬間、艦隊回線へ強い雑音が走った。
「通信妨害です!」
『局地的な妨害波を検出』
クレイン大佐の映像が崩れる。
音声は途切れたが、追撃隊の位置情報はまだ届いている。
フリゲートの中継が生きていた。
「新たな熱源!」
索敵士が声を上げる。
「《アーク》と追撃隊の間に、三つ現れました!」
さきほどまで冷えた残骸だった場所で、炉心が起動する。
廃棄された鉱石運搬船の陰から、中型砲戦艦が一隻。
その左右から、小型襲撃艦が二隻飛び出した。
炉心を止め、船体を残骸へ密着させ、慣性だけで漂っていたらしい。
駆逐艦のセンサーでも、止まった廃船と重なれば見つけにくい。
「待ち伏せ……!」
未確認だった三隻の海賊艦が、追撃隊の背後から砲撃を始めた。
左右の小型艦が駆逐艦を狙い、中央の砲戦艦がクレイン大佐の軽巡洋艦へ火力を集中させる。
駆逐艦一隻が回避する。
もう一隻へ、敵の砲撃が命中した。
「第一駆逐隊二番艦、被弾!」
『姿勢制御出力、低下。主推進器周辺に損傷』
駆逐艦が回転し、隊列から外れかける。
クレイン大佐の声が、雑音に混じって届いた。
〈追撃中止! 損傷艦を回収する!〉
〈……一番艦、損傷艦の左へ……離れるな!〉
無傷の駆逐艦が、回転する僚艦へ接近する。
クレイン大佐の軽巡洋艦は減速し、損傷した駆逐艦と敵砲戦艦の間へ割り込んだ。
「大佐、自艦が狙われます!」
〈駆逐艦の装甲では次を受けられん。本艦で受ける!〉
軽巡洋艦の防御場へ、敵の斉射が突き刺さる。
白い船体の周囲で光が弾けた。
『クレイン大佐乗艦、シールド出力低下』
「副砲は届くか?」
「射程内です」
兵装管制士が答える。
「ですが、この距離では着弾までに回避されます。敵艦もこちらを探知しています」
「誘導弾は?」
「通信妨害の影響で追尾精度が落ちます。到達前に迎撃される可能性が高いです」
「多弾頭弾」
「迎撃火器は乱せますが、中型砲戦艦を止める威力はありません」
「宇宙魚雷は?」
セラが首を振る。
「あの距離では間に合いません。加速も進路変更も遅すぎます」
敵砲戦艦の砲口に、再び熱が集まる。
『敵中央艦、次回斉射準備』
『予測。クレイン大佐乗艦、シールド維持困難』
「本艦の戦闘加速は?」
「禁止です」
セラの返事は早かった。
「通常加速で近づけば?」
航法士が計算結果を出す。
「救援距離へ入る前に、クレイン大佐の軽巡洋艦が次の斉射を受けます」
副砲も誘導弾も間に合わない。
残るのは一つだけ。
「主砲を使う」
「駄目です」
セラが即答した。
「外骨格移設後、実射試験をしていません。主砲支持架が耐えるかも、反動がどこへ逃げるかも分からないんですよ」
「分かっている」
「一発でも安全とは言えません」
「安全な方法では、間に合わん」
画面の中で、クレイン大佐の軽巡洋艦が再び揺れた。
損傷した駆逐艦は、まだ姿勢を戻せていない。
「リーネ、聞こえるか」
船体監視区画の回線が開く。
「聞こえているわ」
「主砲を一発、持たせられるか」
短い沈黙があった。
「持たせる」
「リーネ!」
セラが声を上げる。
「壊れないとは言っていないわ。でも、一発だけなら負荷を逃がせる」
外骨格の構造図が表示される。
リーネはそれを見て、荷重経路を次々と切り替えていく。
「外骨格固定部を非常時設定へ。艦首側を締めて、中央の仮設固定具は逃がして。反動を複数の主骨格へ流します」
眉間と額にしわを寄せ、端末を開いた。
「一発だけですよ」
「十分だ」
「発射後は、結果に関係なく主砲を封鎖します」
「任せる」
「この命令、正式に記録しますからね」
「わかってる。主砲照準へ移る」
操舵士が姿勢制御画面を切り替えた。
「操舵、主砲照準モード」
『警告。主砲は使用禁止状態です』
「解除しろ」
『司令官命令を確認』
「主砲照準モードへ移行。兵装管制、目標軸を送れ」
「目標、敵中央艦。予測射撃線を操舵系へ転送」
『航法、操舵、兵装管制を同期。目標追尾情報を統合します』
《アーク》の左右で姿勢制御スラスターが噴いた。
鈍重な船体が、艦首ごと敵艦へ向きを変えていく。
「相対回転、停止」
「艦首軸線、目標へ接近。誤差0.4」
『内部偏向機構による補正範囲内』
「姿勢固定」
「主砲照準、固定」
正面に射撃予測線が伸びる。
《アーク》から敵砲戦艦へ。
さらに、その先にクレイン大佐の軽巡洋艦がいた。
俺は残った第一艦隊の軽巡洋艦へ命令する。
「第二軽巡、駆逐艦二隻と旗艦直衛へ! 主砲照準中の《アーク》へ敵を近づけるな」
〈了解しました〉
軽巡洋艦と駆逐艦二隻が《アーク》の守りに入る。
敵の誘導弾を迎撃し、小型艦を押し返す。
《アーク》は姿勢制御スラスターを噴かし、鈍い船体をわずかに回頭させた。
『目標、敵中央砲戦艦』
『艦首軸線との差、照準補正範囲内』
追撃の方向を制限しておいたおかげで、大きく艦首を振る必要はない。
「クレイン、聞こえるか」
雑音の向こうから、途切れた声が返る。
〈……聞こえて……います〉
「28秒後、右へ全力回避しろ」
〈右へ?〉
ノアが射撃予定線を送る。
《アーク》から敵砲戦艦を貫き、その先へ伸びる一本の線。
〈まさか、主砲を……〉
「28秒だ」
クレイン大佐は、損傷した駆逐艦を守る位置にいる。
右へ動けば、敵と駆逐艦の間が開く。
「一発で止める」
数秒の沈黙。
〈……了解〉
クレイン大佐の声が戻った。
〈第一駆逐隊一番艦、損傷艦を左へ押し出せ! 本艦は右へ回避する!〉
艦首の分厚い装甲扉が開き始めた。
その奥から、長砲身主砲の砲口が現れる。
灰色の装甲の継ぎ目に、黄金の光が走った。
艦首から船体中央へ、主砲と主骨格の位置をなぞるように螺旋状の術式が浮かび上がる。
「主砲支持架、負荷上昇!」
「外骨格固定部、分散開始!」
リーネの声が艦内回線へ響く。
放熱板が開き、黄金の光を帯びた。
クレイン大佐の軽巡洋艦が右へ噴射する。
損傷した駆逐艦は、僚艦に押されて左へ流れた。
『射線上の味方艦、離脱』
「射線、クリア!」
「目標固定!」
『発射可能』
「撃て」
《アーク》の艦首が光に包まれた。
次の瞬間、主砲の一撃が放たれた。
白金色の一撃が暗い宇宙を貫き、待ち伏せの中央艦へ正面から突き刺さる。
敵艦の輪郭が、白い光の中に浮かび上がった。
船体中央が膨れ上がる。
装甲が内側から剥がれ、長い船体が艦首と艦尾に裂けた。
続いて炉心区画と弾薬庫が誘爆する。
艦首が飛び、砲塔が回転しながら離れ、引きちぎられた艦尾が残骸群へ流れていった。
光が収まったあと、元の船体は残っていなかった。
同時に、《アーク》の船体を激しい衝撃が突き抜ける。
艦橋の照明が消え、非常灯へ切り替わった。
【主砲支持架、変位】
【艦首冷却配管、圧力低下】
【外骨格第三固定部、変形】
警告表示が次々と開く。
『主砲支持軸、許容範囲を超えて変位』
『主砲再射撃不能』
「通常航行は可能か?」
『通常航行および通常兵装への重大な影響なし』
「主砲区画を封鎖します!」
セラが有無を言わさず決めた。
「任せる」
セラが主砲への出力経路を切り、冷却班と整備班へ命令を飛ばす。
砲口を覆う装甲扉が、軋むような遅さで閉じ始めた。
主砲は再射撃不能になった。
だが、敵砲戦艦からの砲火も止まっている。
『敵艦隊の統一指揮信号、消失』
星図上の赤い光点が、一斉に乱れた。
それまで連動していた海賊艦が、ばらばらの方向へ進路を変えていく。
『戦闘中の通信記録を再解析』
『撃破した中央艦を、海賊艦隊司令船と推定します』
「頭だったか」
俺たちが追っていた船は、指揮通信を偽装した囮だったらしい。
撃破した待ち伏せ艦が、司令船だったようだ。
正面の中型艦は本星と反対方向へ逃げ、左右の小型艦は残骸群へ潜り込もうとする。
囮だった船も、推進器を全開にして離脱を始めた。
「全艦、逃走経路を塞げ」
艦隊指揮回線を開く。
「撃沈する必要はない。推進器と武装だけ止めろ」
〈第一艦隊本隊、了解。駆逐艦二隻を左右へ展開させます〉
前方を守っていた軽巡洋艦が左へ進路を変え、駆逐艦二隻が反対側へ開いていく。
第二艦隊のフリゲートは後方から各艦の観測情報を集約し、敵の逃走予測を星図へ表示した。
『局地通信妨害、減衰』
雑音の向こうから、クレイン大佐の声が届く。
〈第一駆逐隊、全艦生存。二番艦も自力帰還可能です〉
「クレイン大佐。囮艦を逃がすな」
〈了解しました〉
短い返答の直後、クレイン大佐の軽巡洋艦が動いた。
損傷した駆逐艦を僚艦へ任せ、自ら囮艦の進路前方へ回り込む。
軽巡洋艦の砲撃が、囮艦の正面を横切った。
進路を塞がれた囮艦が、右へ回避する。
その先には、損傷艦を支えていた駆逐艦が待っていた。
〈第一駆逐隊一番艦、対艦誘導弾発射!〉
誘導弾が囮艦の後方から追いつき、主推進器へ直撃した。
艦尾が爆発し、推進光が途切れる。
『敵囮艦、主推進器停止』
〈囮艦を止めました〉
「そのまま後方を塞げ」
〈了解〉
正面では、中型武装艦二隻が包囲を抜けようとしていた。
「副砲、敵の進路前方を狙え」
「レールガン副砲、照準!」
《アーク》の側面砲塔が旋回する。
砲弾が二隻の間を抜け、その先に漂っていた残骸を粉砕した。
中型艦は正面へ進めず、左右へ分かれる。
左には第一艦隊の軽巡洋艦。
右には駆逐艦二隻。
後方にはクレイン大佐の追撃隊。
「全周波数で送れ」
『通信回線を開きます』
「海賊艦隊へ告げる」
俺の声が、残存するすべての海賊艦へ送られる。
「司令船は沈めた。逃げ道もない。武装と推進器を停止しろ。降伏する艦は撃たない」
数隻の海賊艦が速度を落とした。
だが、中型武装艦一隻が砲口を《アーク》へ向ける。
『敵中型艦、砲撃準備』
「副砲。砲塔と推進器を落とせ」
「了解!」
レールガン副砲が連続して火を噴いた。
一発目が敵の主砲塔を叩き潰す。
二発目が艦尾を貫いた。
敵艦の推進器が爆発し、船体が回転しながら残骸群へ流れていく。
別の小型高速艦が、第一艦隊の駆逐艦二隻の間を強引に突破しようとした。
〈第一駆逐隊、左へ追い込め!〉
一隻の駆逐艦が進路前方へ弾幕を張る。
小型艦が右へ逃げた。
もう一隻の駆逐艦から放たれた誘導弾が、その横腹へ突き刺さる。
小さな船体が二つに折れ、爆発の中へ消えた。
残る海賊艦から、降伏通信が続けて入る。
〈降伏する! 武装を停止する!〉
〈炉心出力を落とした! 撃たないでくれ!〉
〈こちらも降伏する!〉
『敵艦七隻、武装停止を確認』
『残る敵艦も航行不能、または戦闘能力を喪失しています』
クレイン大佐から正式な報告が入る。
〈第一駆逐隊、全艦生存。二番艦も自力帰還可能です〉
「分かった。隊列へ戻れ」
通信の向こうで、わずかな間があった。
〈レオン司令〉
大佐は、今度はそう呼んだ。
〈次の指示を〉
「降伏艦を囲め。武装停止と自爆装置を確認する」
〈了解しました〉
第一艦隊の艦艇が、停止した海賊艦の周囲へ展開を始める。
『戦場外縁で、四つの艦艇反応が増大』
それまで出力を抑えていた四隻が、同時に主推進器を起動した。
中型艦一隻と、高速武装艦三隻。
四隻は海賊艦隊の外側から、すでに砲門をこちらへ向けていた。
『領主府発行の治安支援識別符号を受信』
「味方なのか?」
『識別上は友軍です。星系連合内の治安協定に基づく共同治安艦隊と登録されています』
四隻のうち、先頭を進む中型艦から通信が入った。
〈こちらは共同治安艦隊先遣隊。ロズベル領内で発生した海賊襲撃警報を受信し、援護に参りました。残存する海賊艦を掃討します〉
「戦闘は終了している」
俺はすぐに返した。
だが、外部艦は速度を落とさない。
「海賊艦は降伏済みだ。射撃を停止しろ」
クレイン大佐も、第一艦隊の識別情報を付けて警告を送る。
〈こちらは第一艦隊司令官代行、マティアス・クレイン大佐。降伏艦の武装停止を確認している。掃討は不要だ〉
〈当部隊では、完全な武装停止を確認できません〉
外部部隊の指揮官が答えた。
〈自爆攻撃の危険があるため、排除を継続します〉
〈待ってくれ! もう武装は止めて――〉
降伏した海賊艦からの通信が、砲撃音にかき消された。
外部艦四隻が、一斉に火を噴いた。
砲弾と誘導弾が、停止していた海賊艦へ同時に襲いかかる。
一隻が爆発する。
続けて二隻。
航行不能になっていた中型艦と、クレイン大佐たちが止めた囮艦にも、複数の砲撃が集中した。
「撃つな! その艦は降伏している!」
〈武装停止を確認できませんでした〉
「全艦、外部艦を照準追尾! ただし、俺の命令なしに撃つな!」
俺は続ける。
「第一艦隊各艦、外部艦の砲口を監視! 全射撃記録を共有しろ!」
外部艦は領主府の治安支援識別符号を出している。
形式上は友軍だ。
こちらの艦は、降伏した海賊艦を囲んで散開している。撃ち返せば、味方艦まで射線へ入る。
「ノア。降伏通信、武装停止時刻、外部艦の発砲記録を保存しろ」
『記録を固定保存します』
ロズベル艦隊が再配置するよりも早く、第二斉射が放たれた。
囮艦の艦橋と通信区画が吹き飛んだ。
降伏していた小型艦が、二隻まとめて爆発する。
『海賊艦から脱出艇三隻を確認』
「救難信号を送信している! 撃つな!」
高速武装艦の砲塔が動いた。
三つの小さな反応が、一つずつ星図から消える。
〈武装艇による接近の危険を排除しました〉
外部部隊の指揮官は、声色一つ変えなかった。
最後に残った海賊艦も、艦橋と機関区画を同時に撃ち抜かれた。
船体が砕け、熱源が散る。
星図上から、海賊側の生体反応がすべて消えた。
〈海賊艦隊の掃討を完了しました〉
外部部隊の指揮官が、落ち着いた声で告げた。
〈ロズベル艦隊の皆様、ご無事で何よりです〉
誰も答えなかった。
『記録』
ノアの箱舟型投影が青白く明滅する。
『最後に撃沈された海賊艦は、攻撃の32秒前に武装を停止しています』
『降伏通信も受信済みです』
セラが、四隻の航路を戦術表示へ重ねた。
「海賊襲撃警報を聞いてから来た速度ではありませんね」
『外部警備艦は、海賊襲撃警報の発信以前から、本宙域へ向けて航行していた可能性があります』
「最初から近くにいたか」
戦場へ現れた時には、四隻とも海賊艦へ砲門を向けていた。
救助艇は出していない。
生存者を探す動きもない。
クレイン大佐から、短い通信が入った。
〈第一艦隊側でも、すべての射撃記録を保存しました〉
「消すなよ」
〈もちろんです、レオン司令〉
外部部隊の指揮官が、さらに通信を送ってくる。
〈今後の治安確保について、領主府との協議を希望します〉
海賊側の生体反応は、もう星図に残っていない。
四隻から救助艇が出る気配もなかった。