前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜 作:オカノヒカル
海賊からの通信は、もう一つも聞こえなかった。
主画面には、つい先ほどまで艦だったものが浮かんでいる。
船体を割られたもの。
炉心区画を撃ち抜かれたもの。
艦橋ごと形を失ったもの。
そして、その間を漂う小さな残骸。
脱出艇だったものも混じっている。
『戦闘宙域内の海賊側生命反応、確認できません』
ノアの声が艦橋へ響く。
「全員か?」
『確認可能範囲では、全員です』
戦っていた相手だ。
こちらを罠へ誘い込み、クレインたちを殺そうとした連中でもある。
だからといって、武器を捨てた後まで殺す必要はない。
前世でも同じだった。
剣を置いた兵士と、剣を持って斬りかかってくる兵士は別物だ。
「降伏記録は残っているな」
『保存済みです』
ノアが主画面の端へ記録を並べた。
『海賊残存艦による降伏通信』
『各艦の武装停止時刻』
『推進器出力低下記録』
『共同治安艦隊先遣隊による射撃開始時刻』
『全記録を独立領域へ複製済み』
「第一艦隊側は?」
ちょうどクレイン大佐から通信が入った。
〈第一艦隊側でも保存した。各艦の戦闘記録を集めている〉
「消すなよ」
〈そのつもりはない〉
「損傷した駆逐艦は?」
〈曳航なしで戻れる。主推進器は出力制限中だがな〉
「軽巡も問題ないか?」
〈こちらも帰還可能だ〉
短い間。
〈……助かった〉
少し前なら、礼も言わなかっただろう。
「他に報告はあるか?」
〈いや……ない〉
通信が切れた。
やはり少し難しい男だった。
「司令」
セラの声に振り向く。
彼女は海賊艦隊の残骸ではなく、その外側にいる四隻を見ていた。
共同治安艦隊先遣隊。
中型警備艦一隻。
その周囲に高速武装艦三隻。
識別上は友軍。
領主府発行の治安支援識別符号も持っている。
その四隻が、降伏した海賊をすべて撃沈した。
「通信、来ます」
『共同治安艦隊先遣隊より通信。回線を開きます』
男の声が艦橋へ流れた。
〈《アーク・ロズベル》およびロズベル領軍各艦へ。海賊艦隊の掃討を完了しました。ロズベル艦隊の皆様、ご無事で何よりです〉
声色は、先ほどと変わらなかった。
「戦闘は終わっていた」
俺は言った。さらに責めるように言葉を重ねる。
「海賊は降伏していた。こちらからも射撃停止を伝えたはずだ」
返答まで、ほとんど間はなかった。
〈当部隊では、完全な武装解除を確認できませんでした〉
「こちらはできていた」
〈海賊勢力による偽装降伏、自爆攻撃の危険性を考慮し、現場指揮官の判断で排除を継続しました〉
「脱出艇もか?」
〈武装艇との識別が困難な状況でした〉
主画面に残骸が流れていく。
俺には、武装艇と脱出艇の違いくらい見える。
この世界の軍人なら、俺よりよほど上手に見分けられるはずだ。
「そうか」
これ以上聞いても、同じ答えしか返ってこないだろう。
共同治安艦隊の男は、そのまま続けた。
〈貴艦隊には損傷艦も確認されています。必要であれば、本星まで護衛いたしますが〉
「必要ない。自分で帰れる」
〈承知しました〉
断っても、声色は変わらない。
〈当先遣隊は、今後の治安確保についてロズベル領主府との協議を希望します〉
「協議?」
〈海賊勢力による再襲撃の可能性を考慮し、本星外縁の指定宙域にて待機いたします〉
「領主府には自分たちで連絡してくれ」
〈すでに協議窓口へ連絡しております〉
ずいぶんと早いな。
「了解した」
回線を閉じる。
四隻は攻撃態勢を解いた。
少なくとも、こちらへ砲口は向けていない。
『共同治安艦隊先遣隊、戦場外縁より離脱』
『ロズベル本星方向へ航路変更』
セラがその航跡を拡大した。
「司令」
「ああ」
「やっぱり、おかしいです」
「どれがだ?」
「来た時間です」
彼女の指が、海賊襲撃警報の発信時刻を示す。
次に、先遣隊四隻が出力を上げて姿を現した時刻。
「警報を受けてから出発したとすると、この四隻では間に合いません」
「近くにいたのか?」
「それだけならありえます。治安艦隊なら、近隣宙域を巡回していても不思議じゃありません」
セラが別の記録を開く。
「問題は航路です」
四本の線が引かれた。
戦場へ向かって、ほぼ最短経路で伸びている。
「こちらが海賊を発見する前から、この宙域へ向かっていた可能性があります」
『航跡推定を実行』
ノアが表示を重ねる。
『観測可能な加速履歴から逆算』
『共同治安艦隊先遣隊は、海賊襲撃警報発信以前から本宙域へ向けて航行していた可能性が高いと判断します』
「最初から近くにいたか」
「はい」
「海賊が来るのを知っていたってことか」
「そこまでは言えません」
セラは即答した。
「分かっているのは、この人たちが警報を聞いてから慌てて駆けつけたわけではなさそうだ、ということだけです」
「他には」
『射撃記録を解析中』
ノアの投影が明滅する。
先遣隊四隻から伸びた射線が、残骸の上に再現された。
『第一射の主要着弾箇所を表示』
艦橋。
通信区画。
記録装置。
推進器。
偏っている。
「ずいぶん正確ですね」
セラがつぶやいた。
「海賊を沈めるだけなら、炉心や推進器でも十分です」
「記録を消したかったようにも見えるな」
「見えますね」
そこでセラは言葉を切った。
「でも、証明はできません」
「ああ」
生存者はいない。
海賊側の記録装置も、ほとんど壊された。
こちらにあるのは、海賊の降伏記録と、その後の共同治安艦隊の射撃記録。
それに、警報より前からこちらへ向かっていた可能性を示す航跡だ。
何を知っていたのか。
誰から聞いたのか。
なぜ一人も残さなかったのか。
そこまでは分からない。
『《アーク・ロズベル》損傷報告を更新』
ノアが別の表示を出した。
『主砲、再使用不可』
『主砲支持構造に変位』
『艦首冷却系圧力低下』
『外骨格固定部に複数の変形を確認』
『戦闘加速は禁止を継続』
「帰れるか?」
『通常航行に重大な支障はありません』
「なら帰ろう」
壊れたところは、帰ってから直せばいい。
今は、ここにいても拾えるものがない。
共同治安艦隊が残してくれなかったからな。
**
本星へ戻るまで、先遣隊四隻は俺たちへ近づいてこなかった。
こちらより先に本星へ向かい、港から離れた指定待機宙域で停止した。
少なくとも今のところは行儀はいい。
本星港へ入ると、第一艦隊の揚陸艦と補給工作艦が出迎えた。
工作艇がすぐに損傷した駆逐艦へ向かう。
別の作業艇が《アーク》の艦首へ寄ってきた。
「司令、主砲区画の詳細確認はすぐ始めます」
セラが端末を見ながら言う。
「今日中に直るか」
「直りません」
「返事が早すぎるぞ」
「即答できる程度には壊れています」
『セラ技術士官の判断に同意』
「ノアまでか」
『主砲支持軸の再調整には、実測作業が必要です』
仕方がない。
俺の杖は、一発撃っただけで手入れが必要らしい。
「明日見る」
「今日も見てください」
「腹が減った」
「……食事のあとでいいです」
交渉が成立した。
艦橋を降りる前に、領主府から呼び出しが入った。
嫌な予感はした。
飯より先に会議らしい。
**
領主府の会議室には、兄上とルシアンが待っていた。
クレイン大佐は第一艦隊側から暗号会議回線で参加している。
俺の隣にはセラ。
卓上には、戦闘記録の要約と一通の文書が開かれていた。
「レオン」
ガレス兄上は、俺が席につく前から不機嫌そうだった。
「騒ぎを大きくするな」
「何の話だ?」
「共同治安艦隊のことだ!」
「あの掃討は問題だ。そもそも支援要請をしたのか?」
「救難信号を受け、海賊どもを処分した。それだけだろう」
「降伏していたぞ」
「海賊は海賊だ!」
兄上の声が会議室へ響く。そして、こう言い切る。
「交易船を襲い、領民を殺してきた犯罪者だぞ。何人死のうと知ったことか」
クレインが何か言おうとしたらしいが、先にルシアンが口を開いた。
「問題は、海賊の生死そのものではありません。共同治安艦隊は、ロズベル領内で発生した海賊事案に対し、治安支援行動を実施しました」
「それがどうした?」
「はい。ですから、その現場判断について領主府として処理を確定させる必要があります」
ルシアンが卓上の文書をこちらへ向けた。
表題は、
――対海賊緊急治安行動に関する事後承認。
セラの指がわずかに動いた。
「これは、先遣隊が先ほど行った掃討行動だけを対象にした文書ですか」
「ええ」
「本星港への進入許可や、将来の共同治安活動に対する包括承認ではありませんね」
ルシアンは微笑んだ。
「もちろんです。今回の海賊事案について、現場判断を追認するためのものです」
セラは文面を追う。
俺も見る。
細かい言葉は多い。
だが、書かれているのは先ほどの戦闘処理についてだけだった。
「署名しなければどうなる」
俺が聞く。
兄上がこちらを睨んだ。
「なぜ署名しない話になる!」
ルシアンは穏やかなままだ。
「共同治安艦隊側から、現場行動の正当性について照会が残ります」
「それで困るのか」
「領主府が招いた治安支援戦力の行動です。曖昧なままにすれば、今度は領主府の管理責任が問われかねません」
「管理責任」という言葉に、兄上の眉が動いた。
「なら署名するべきだな」
「兄上」
「何だ?!」
「俺たちは射撃停止を求めた」
「だからどうした!」
「降伏した後だった」
「しつこいぞ、レオン!」
兄上は端末を引き寄せた。
「奴らは海賊を排除した。結果としてロズベル領の治安に寄与した。それで十分だ」
指輪の認証を端末へ当てる。
承認欄が光った。
【ガレス・ロズベル領主認証を確認】
ノアの声ではない。
領主府端末の無機質な確認音声だった。
文書に正式な承認印が付く。
「これで終わりだ」
兄上は椅子へ深く座った。
「共同治安艦隊には、領主府として感謝を伝えておけ」
「承知しました」
ルシアンは静かに頭を下げ、承認済みの文書を閉じた。
セラが、自分の端末へ文書の写しを保存する。
クレインも何も言わなかった。
ただ、回線越しの顔は固い。
会議が終わる。
廊下へ出てから、セラが小さく息を吐いた。
「海賊戦の件は、事後承認だけです」
「ああ」
「本来なら、将来の権限まで渡したわけではありません」
「だが、向こうは使うか」
セラが俺を見る。
「使いますね」
即答だった。
「領主本人が、共同治安艦隊の治安行動を正式に追認した。その事実は残ります」
「玄関には入れていないが、門番としては認めたようなものか」
「……だいたい合っています」
「面倒だな」
「海賊よりは」
「海賊は撃てたからな」
「そういう意味でもかなり面倒ですよ」
艦へ戻る途中、ノアから通信が入った。
『追加報告』
「何だ」
『共同治安艦隊先遣隊四隻は、指定待機宙域で停止中』
「動いたか」
『否定』
なら何だ。
『星系連合内の共同治安艦隊登録情報に、新たな航行申告を確認』
携帯端末の小さな星図に、光点が増えた。
一つではない。
別々の航路から、ロズベル星系へ向かっている。
「数は」
『現時点で確定できません』
「全部、同じ登録か」
『肯定。共同治安艦隊所属として登録されています』
先ほどの四隻の登録には、「先遣隊」とある。
携帯端末の星図には、同じ所属の光点が別々の航路から増えていた。