前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜 作:オカノヒカル
グレッグたちは、共同治安艦隊より先に帰ってきた。
「ただいま戻りました、司令」
主画面の中で、グレッグが軽く顎を引く。
その後ろでは、ステーション17から持ち帰った保管箱が次々と運び出されていた。
灰色の星脈結晶。
古い施設から回収した記録媒体。
測定機器。
試作炉に関わった技術者たちもいる。
「置いてきたものは?」
「動かせない設備と、なくなってもすぐ困らん物だけです。警備と管理要員も残してあります」
「十分だ」
「ずいぶん急がせましたな」
「間に合っただろう」
「そこは否定しません」
通信の向こうで、作業員がグレッグを呼んだ。
「では、荷下ろしを見てきます」
「ああ。休める者から休ませろ」
「司令もですぞ」
「俺は昨日寝た」
「そういう意味じゃないんですがね」
通信が切れる。
隣では、セラが端末を見たまま次の作業記録を開いていた。
目の下の隈が、昨日より少し濃い。
「セラ」
「はい?」
「お前も少し寝ろ」
「司令にだけは言われたくありません」
『両名に休息を推奨します』
ノアの箱舟型投影が明滅した。
『直近二十四時間の睡眠時間。司令官、四時間二分。セラ技術士官、三時間十七分』
セラの指が止まった。
「……ノア。それ、今言う必要ありました?」
『肯定』
「俺より寝てないじゃないか」
「三時間十七分も寝ています」
「四時間の俺を注意できる数字じゃないだろう」
「司令は司令官です」
「お前は副官だ」
『訂正。役職にかかわらず、両名とも睡眠不足です』
どちらの味方でもないらしい。
『追加報告。共同治安艦隊本隊所属艦群、ロズベル星系内へ進入』
主画面が星系図へ切り替わる。
光点が増えた。
一方向からではない。
本星カレドへ通じる複数の航路に、共同治安艦隊の識別符号が現れている。
先遣隊四隻は、すでに本星外縁の指定宙域で待機している。
その外側へ、後続艦が次々と配置されていく。
『共同治安艦隊所属艦、現時点で二十四隻を確認。先遣隊四隻を含みます』
「二十四隻か」
『肯定。複数航路へ分散展開中です』
一か所に集まらず、本星へ通じる道を一つずつ押さえている。
『なお、構成艦の原籍情報は複数の加盟自治領に分散しています』
「一つの国の艦隊じゃないのか?」
「はい。いくつかの自治領から出された艦を、一つの治安部隊として運用しているようです」
星系連合はいくつもの自治領が集まってできている。
それぞれが自前の艦隊を持っているのだから、こういう合同部隊があっても不思議ではない。
「それで二十四隻か。素直に一列で来る気はないらしいな」
「警戒宙域を分散して押さえるつもりでしょうね」
セラが航路表示を拡大した。
「主要な進入路に一群ずつ。交易船が使う航路にもいます」
「港を撃てる位置か」
『一部艦艇は射程内へ移行可能。ただし現時点で兵装照準は確認していません』
画面の端に第一艦隊からの通信表示が出た。
〈レオン司令、こちらクレイン〉
「見えているか?」
〈嫌でも見える。第一艦隊の残存艦を本星側へ寄せる。駆逐艦は外周警戒、軽巡二隻は港湾進入路を押さえる〉
「頼む」
〈第二艦隊は?〉
「港と退避路を守る。補給工作艦は出さない」
〈了解した。戦術配置はそちらに合わせる〉
ほんの少し前までなら、この男が俺の配置へ素直に合わせるとは思わなかった。
人間は変わるものらしい。
俺も昔より腰が痛くない。
悪いことばかりではない。
『共同治安艦隊本隊より広域通信』
「開け」
短い雑音のあと、男の落ち着いた声がスピーカーから聞こえた。
〈ロズベル領軍および本星港湾管制へ。こちらは共同治安艦隊〉
男は少し間を置いた。
〈星系連合治安協定、およびロズベル領主府による治安支援承認に基づき、海賊活動への共同対処を開始する。当艦隊はロズベル本星周辺の安全航行確保と、再発防止のための治安活動を実施する〉
セラの指が止まった。
昨日、ガレス兄上が署名した事後承認をもう使ってきた。
〈共同対処について、領主府との協議を要請する。なお、協議終了まで、各艦は現位置を維持する〉
通信が切れる。
「この間の承認を、ずいぶん広く解釈していますね」
セラの声が低い。
「昨日の文書には、本隊の展開許可までは入っていないだろう」
「入っていません。ただ、向こうは“共同治安活動そのものを領主が認めた”という形で話しています」
「兄上に聞こう」
**
暗号会議回線を開くと、ガレス兄上はすでに怒っていた。
〈なぜあれほどの艦隊が本星まで来る!〉
領主府側にはルシアン。
第一艦隊からクレイン。
本星港の管制責任者も回線へ入っている。
「本人たちに聞けばいい」
〈レオン!〉
兄上の怒鳴り声を無視して、俺は卓上の表示へ目を向けた。
「領主府にも要求書は来ているだろう?」
セラが卓上画面へ文書を出した。
「最初の要求です。海賊襲撃の共同調査。そのための本星港への立ち入り。ステーション17の安全確認。それと、Fランク結晶の一時保管を求めています」
兄上は文面を流し読みした。
〈その程度なら受け入れればいい〉
「本星港にも入れるのか」
〈調査員くらいなら構わん。だが、武装艦を港へ居座らせる必要はない〉
そこには俺も同意した。
「ステーション17は?」
〈好きに調べさせろ〉
兄上は面倒そうに手を振った。
〈枯れた鉱山と古い施設だ。Fランク結晶も欲しいなら持っていけばいい。外部の金で調査してくれるなら、その方がましだ〉
セラの指が止まった。
俺は何も言わなかった。
兄上は、あの灰色の石が何に使えるのか知らない。
『新しい要求文書を受信』
ノアが別の文書を開いた。
〈まだあるのか〉
兄上が顔をしかめる。
セラが読み進め、途中で眉を寄せた。
「今度は第一艦隊と第二艦隊です」
〈何?〉
「調査が終わるまで、両艦隊の武装を止めろと書いてあります」
クレインの顔が硬くなる。
〈続けろ〉
「主要艦は共同治安艦隊の指示に従うこと。《アーク・ロズベル》は航行記録と改修記録を提出。その上で、安全確認のため一時的に向こうの管理下へ置く、と」
兄上が机を叩いた。
〈ふざけるな! ステーション17などどうでもいい! だが、第一艦隊も第二艦隊もロズベル領軍だ! 私の艦隊を外部の治安艦隊へ渡せるか!〉
「俺も反対だ」
〈当然だ!〉
「理由は違うだろうがな」
〈何だと?〉
相手の艦隊は、本星のすぐ外にいる。
こちらだけ武器を置いて、その中へ入れる気にはなれなかった。
港湾管制責任者が口を開く。
〈一つ、確認してよろしいでしょうか?〉
「何だ」
〈共同治安艦隊は、まだ敵として登録されていません。ですから、近づいただけでこちらから撃つことはできません〉
「ああ」
〈ですが、武装艦を港のすぐそばまで入れる必要もありません〉
俺は画面を見る。
「止められるのか?」
〈はい。港には、危険があると判断した武装艦を外で待たせる規定があります。領主閣下の承認があれば、すぐ使えます〉
「兄上。使おう」
〈……どこで止める?〉
『港湾施設と民間航路を基準に、港湾接近制限線を表示します』
ノアがカレドの周囲へ黄色い線を出した。
港から十分に離れている。
その一方で、民間船が逃げる航路は塞がない。
「ここより内側へ、外部の武装艦を入れない」
俺は言った。
「港湾側は?」
〈問題ありません〉
兄上はしばらく線を睨んでいた。
〈……認める〉
黄色い線が正式な港湾警戒線へ切り替わった。
クレインがすぐに続ける。
〈第一艦隊の戦闘艦六隻を、その内側へ展開する〉
「頼む」
〈武装解除命令が正式に出ない限り、こちらから武器を捨てる気はない〉
「第二艦隊も同じだ」
兄上がこちらを睨んだ。
〈勘違いするな、レオン。お前に軍権を譲ったわけではないぞ〉
「知っている」
画面の向こうでは、共同治安艦隊の光点が少しずつ近づいていた。
俺たちが引いた黄色い線へ向かって。
**
共同治安艦隊は、接近制限線の手前で止まった。
素直すぎて、かえって気味が悪い。
主画面には、カレドが青白く浮かんでいる。
その周囲にロズベル領軍。
さらに外側へ、共同治安艦隊。
どの艦もまだ攻撃の意志は示していない。
外側で配置についているだけだ。
それでも艦橋の空気は重かった。
「商船の退避は?」
『主要港湾周辺の民間航路を整理中。非戦闘船へ優先離脱案内を送信済み』
「第二艦隊のフリゲートを誘導へ回す。それから、補給工作艦は港から動かすな。負傷艦が出た時に使う」
『了解』
セラがこちらを見る。
「戦う前提ですか」
「戦わない方がいい」
「そうですね」
「だが、怪我人が出てから補給艦を探すのは面倒だ」
セラは一度だけ目を閉じた。
「司令らしいです」
共同治安艦隊から、再び通信が入る。
〈ロズベル領軍へ通告する〉
先ほどと同じ、抑揚の少ない男の声だった。
〈当艦隊は、ガレス・ロズベル領主によって承認された共同治安活動を遂行中である。港湾接近制限は、その活動を不当に阻害する措置と判断する〉
俺は通信を開いた。
「昨日、兄上が認めたのは海賊掃討の事後処理だ」
〈当方の認識とは異なる〉
「そうか」
相手が一瞬黙った。
〈ロズベル領側に対し、先に送付した安全確保要求の受諾を求める〉
「艦隊の武装解除もか」
〈調査期間中の安全確保措置である〉
「《アーク》を渡せという話も?」
〈未登録高出力機関を搭載する艦艇については、第三者による安全確認が必要となる〉
セラの肩がわずかに動いた。
俺は主画面に映る《アーク》の状態表示を見る。
昨日、ようやく直したばかりだ。
他人に渡すために直した覚えはない。
「断る」
〈再考を求める〉
「もう考えた」
通信の向こうで、小さな息遣いが聞こえた。
〈共同治安艦隊は、地域安定化のために派遣されている。ロズベル領軍との衝突は望んでいない〉
「俺も望んでいない」
〈ならば、武装停止と安全監査を受け入れていただきたい〉
「そちらが線の外にいれば、撃つ理由はない」
〈その接近制限自体が――〉
「港に入りたいのか?」
返答が少し遅れた。
〈共同治安活動上、必要となる可能性がある〉
「なら、兄上と話せ」
〈すでに協議中である〉
「そうか」
それ以上は言わなかった。
通信を切る。
「司令」
セラが小さく呼んだ。
「何だ」
「最後の質問、嫌がってましたね」
「ああ」
こちらへ何をしに来たのか。
それだけ聞いたつもりだった。
共同治安艦隊は、外側で静かに並んでいる。
二十四隻もの武装艦が並んでいるのに、主画面の表示はほとんど変わらない。
**
領主府では、ガレスがまだ共同治安艦隊との協議を続けていた。
「ステーション17周辺の安全調査までは認める! Fランク結晶の一時管理もだ! 必要なら旧鉱山帯へ調査団を入れてもいい!」
机上の星系図には、本星カレドを囲む二十四隻の艦影が表示されている。
「だが、第一艦隊と第二艦隊の指揮権は渡さん! 本星港への常駐も認めない!」
共同治安艦隊側の担当者は、同じ調子で答えた。
〈領主閣下。当地の治安状況を考慮すれば、領軍の一時的な武装停止は不可欠です〉
「ふざけるな!」
〈海賊勢力との交戦において、ロズベル領軍側にも未報告の高出力兵器使用が確認されています〉
「それはレオンが勝手にやったことだ!」
〈ならばなおさら、安全監査が必要です〉
ガレスは言葉に詰まった。
〈《アーク・ロズベル》を共同管理下へ移してください。当艦隊は、領主閣下の統治権を保護した上で、安全確認を実施します〉
「断る! 《アーク》はロズベル領軍の戦艦だ! 第一艦隊も第二艦隊も私の軍だ!」
短い沈黙のあと、担当者が告げた。
〈では、協議継続のため、改めて猶予時間を設定します〉
通信が切れた。
ガレスは椅子へ背を預け、荒い息を吐いた。
「ルシアン! 話が違うぞ!」
「私も、ここまで踏み込んだ要求は想定しておりませんでした」
ルシアンの声は静かだった。
「共同治安艦隊側も、現場の状況を受けて要求を強めているのでしょう」
「奴らは私を何だと思っている!」
ルシアンは答えなかった。
ガレスは再び星系図を見る。
本星の周囲を、外部の艦が囲んでいる。
第一艦隊は傷ついている。
第二艦隊はレオンが握っている。
領主府にいるのは自分なのに、自由に動かせる艦がほとんどない。
「閣下」
しばらくして、ルシアンが口を開いた。
「念のため、領主府の非常時退避手順だけは確認しておくべきかと存じます」
ガレスが顔を上げた。
「退避だと?」
「使用する必要がなければ、それが最善です。ただ、外部艦隊がこれだけ展開しております。領主閣下ご本人の安全確保は、領政継続のためにも必要です」
「私は領主だぞ。こんな時に領主府を離れられるか」
「もちろんです」
ルシアンは否定しなかった。
「ですから、あくまで非常時の備えです」
ガレスは黙った。
もう一度、星系図へ目を落とす。
「……経路は、まだ使えるのか?」
「確認させます」
「非常用の船もだ」
「承知しました」
「勘違いするな。逃げるわけではない」
「存じております」
ルシアンは静かに頭を下げた。
ガレスはそれ以上、何も言わなかった。
星系図の外周には、共同治安艦隊の光点が並んでいた。
**
『警告』
ノアの声で艦橋に緊張が走る。
『共同治安艦隊の一部で、兵装系出力上昇を確認』
会議回線を閉じる。
「数は」
『複数。現時点では通常対艦兵装、迎撃系、防御系の待機出力と推定』
「こちらを狙っているか」
『照準固定は確認していません』
まだ撃つ気はないらしい。
『追加反応を検出』
主画面の星図が切り替わった。
共同治安艦隊の外周。
そこに一隻だけ、別の表示が出る。
「何だ?」
『解析中』
セラが席を立ち、表示へ近づいた。
「炉心出力?」
『一部一致。ただし兵装区画への出力集中を確認』
「主砲か」
『既知の対艦主砲パターンと一致しません』
ノアが観測範囲を絞る。
一隻の艦から、細い予測線が伸びた。
こちらへではない。
惑星カレドへ向かっている。
「地上を狙っている?」
セラの声が乾いた。
『照準解析を継続』
惑星表面に予測領域が表示された。
南半球。
都市部から遠い。
軍港でもない。
広い砂漠地帯だった。
『高エネルギー投射兵装の可能性』
「何を撃つ」
『兵装内部反応を再解析』
数秒。
艦橋の空調音だけが耳に残った。
『核融合反応を利用する戦略投射兵装と推定』
セラの顔から血の気が引いた。
「戦略兵器……?」
『低出力設定と推定。ただし惑星地表への投射を前提とした兵装構成です』
「人はいるか」
『予測着弾域は、カレド南半球の広大な無人砂漠地帯。登録居住区なし』
俺は主画面を見る。
青い惑星。
その表面に、小さな赤い範囲が浮いていた。
共同治安艦隊は、まだ一発もこちらへ撃っていない。
港湾接近制限線も越えていない。
それでも、一隻だけが静かに姿勢を変えていく。
艦首ではない。
船体下部の投射区画が、ゆっくりとカレドへ向いた。
セラが息を呑んだ。
その砲口は、《アーク》ではなく本星を向いていた。