前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜   作:オカノヒカル

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第4話 海賊艦隊、獲物を間違える

 ロズベル領辺境宙域。

 

 星明かりもまばらな航路外縁を、黒く塗られた武装艦が進んでいた。

 

 正規軍の艦ではない。艦腹に識別紋はなく、通信信号も偽装されている。それでも、艦首へ無理に増設された砲塔と、装甲に刻まれた乱雑な傷を見れば、素性は明らかだった。

 

 海賊艦隊。

 

 その旗艦の艦橋で、船長バルドは正面の星図を見下ろしていた。

 

 表示されているのは、ロズベル領第二艦隊。灰色の旧式艦が、まとまりの悪い隊列を組んでいる。

 

 中央には、旧式戦艦《アーク・ロズベル》。

 その後ろに、武装の一部を塞いだ軽巡洋艦が一隻。退役後は訓練艦に回されていた船だ。

 左右を固めるのは、細長い旧式フリゲートが二隻。

 さらに後方には、貨物区画を膨らませた補給工作艦と、観測装置ばかりが目立つ小型の調査艦が続いている。

 

 六隻はそろっていたが、同じ艦隊として造られたようには見えなかった。

 

 中でも旗艦《アーク・ロズベル》は、遠目にも時代遅れだった。四角く分厚い艦体は鈍重で、くすんだ装甲の各所に補修板が貼られている。継ぎ接ぎの艦首へ砲塔だけを載せた姿は、古い倉庫を無理やり軍艦にしたように見えた。

 

「見ろよ。あれがロズベルの第二艦隊か」

「棺桶に砲塔をつけただけじゃねえか」

「戦艦の後ろに、訓練艦と巡回艦かよ」

「工作艦と調査艦まで戦列に混ぜてやがる」

「艦隊じゃねえ。廃船置き場の引っ越しだ」

「乗員ごと売れば、部品代くらいにはなるだろ」

「旗艦には領主家の三男坊が乗っているらしい。身代金も取れるな」

 

 艦橋に笑い声が広がった。

 

 バルドも口の端を吊り上げる。

 

 旧式でも軍艦は軍艦だ。無傷で奪えばそれなりの値がつく。乗員を人質にすれば、ロズベル領への揺さぶりにも使える。

 

 なにより、旗艦には領主家の三男坊がいる。

 

 辺境へ飛ばされた落ちこぼれだろうと、血筋は血筋だ。

 

「中型艦二隻を前へ。小型艦三隻は左右と後方へ回り、退路を塞げ」

「旗艦はどうします?」

「沈めるな。領主家の三男坊ごと拿捕する。逃げようとしたら推進器か外部砲座を叩け。左右のフリゲートは先に潰せ。後ろの工作艦と調査艦は傷つけるな。中身ごと売れる」

「了解」

 

 副官が端末を操作すると、海賊艦隊の進路が第二艦隊へ向けて揃った。

 

「接近を開始します」

「逃がすな。旗艦も使える形で残せ」

 

 バルドは片手を振り、報告を打ち切る。

 彼にとって重要なのは、目の前の灰色の棺桶を捕まえることだけだった。

 

 星図上で、赤い航路線が第二艦隊へ向かって伸びていく。

 

 第二艦隊との距離は縮み続けていた。

 表示された速度差を見る限り、第二艦隊が逃げ切れるはずはなかった。

 

**

 

 警告音が艦橋に鳴り響いていた。

 

 復旧した照明の下で、兵たちが一斉に口を閉ざしている。

 正面の星図では、複数の赤い点が隊列を組み、こちらへ向かっていた。

 

『敵艦隊、戦闘隊形へ移行』

 

 ノアの声が艦橋へ響く。箱舟型のホログラムはまだ不安定で、青白い輪郭がときおり崩れていた。

 

『推定、拿捕目的』

『本艦の戦闘継続能力、低』

『主砲照準系、不安定』

『シールド発生器、起動成功率不明』

 

 報告が重なるたび、兵たちの口元が固くなる。

 

 無理もない。

 

 三日前に炉心と最低限の艦内設備は復旧したが、主砲もシールドも艦体も、戦闘に耐えられる状態ではない。

 航行試験と応急点検を続け、乗員は交代で休ませている。それでも、長く積み重なった疲労までは抜けていなかった。

 

「敵艦六。中央に大型艦一、左右に中型艦二、後方に小型艦三。全艦、こちらへ針路を合わせています」

 

 索敵士の声が艦橋に響いた。

 

「第二艦隊各艦、通信接続を維持」

「戦闘態勢に移行。艦隊を第一戦闘配置へ」

 

 俺が命令を出すと、ノアが各艦の配置を指示した。

 

『旧式軽巡洋艦、旗艦上方に配置』

『フリゲート二隻、下方警戒位置』

『補給工作艦および調査艦、後方待避位置』

「敵、識別信号なし。警告通信への応答もありません」

 

 通信士が続ける。

 

「相対速度、上昇。現状の推力では振り切れません。推定交戦圏到達まで二十六分」

 

 航法士の報告と同時に、星図上の予測線が更新された。

 

『推定、拿捕目的』

 

 ノアの箱舟型ホログラムが青白く明滅する。

 セラは各報告を端末上で確認していた。

 

「識別拒否、武装反応、包囲隊形。海賊と判断します。主砲とシールドは、まだ戦闘状態にありません」

 

 セラは冷静に状況を伝える。

 

「逃げるべきです」

 

 実務士官も続いた。

 端末に表示された速度差を見れば、撤退を提案するのは当然なのだろう。

 

「この艦隊では交戦できません」

「主砲が撃てないなら、ただの的です」

「司令、撤退命令を」

 

 いくつもの視線が俺に集まった。

 まだ彼らは俺を信じていない。当然だ。

 

 三日前まで動かなかった旧式艦隊が、炉心を直しただけで急に勝てるはずがない。そう思うのは当然だ。

 

 俺は正面の星図を見る。

 敵の数も針路も距離も、赤い点として表示されている。

 

 逃げても追いつかれる。

 だが、向こうもまだ撃てる距離にはいない。

 

 交戦まで二十六分。

 それだけあれば、できることはある。

 

 艦橋のざわめきは収まらない。

 

「航法予測、更新。全速後退でも接触までの時間が延びるだけです」

 

 航法士が報告した。

 

「主砲は低出力射撃のみ。シールドも正常起動を保証できません」

 

 兵装管制士の声は硬かった。

 

「司令、撤退を開始しても、途中で交戦に移る可能性があります」

 

 セラが冷静に進言してくる。

 逃げても追いつかれる。交戦しても危険。

 敵が撃沈ではなく拿捕を狙っているなら、旗艦を無傷で手に入れるため、こちらへ近づいてくる。

 

 その時間は使える。

 

「逃げ切れるなら退く」

 

 艦橋の声が少し静まった。

 

「だが、この速度差では追いつかれる。艦首を向けたまま迎えるぞ」

 

 撤退を求める声は止まった。

 だが、士官たちの肩から力は抜けていない。

 

『警告。敵小型艦一、隊列を離脱』

 

 星図上の赤い点がひとつ、急に伸びた。

 

「急加速しています!」

 

 索敵士の声が飛ぶ。

 

 包囲へ回ろうとしていた小型艦の一隻が、進路を大きく変えていた。

 こちらの側面をかすめるような航路だ。

 

「左翼フリゲート、迎撃に移ります!」

 

 味方の光点がひとつ動く。

 だが、敵の方が速い。

 

 小型艦はフリゲートの進路を外側から回り込み、そのまま《アーク》へ向かってきた。

 

『敵小型艦、本艦左舷へ接近』

『兵装起動を確認』

「左舷副砲、目標を追尾! 迎撃火器も回せ!」

 

 兵装管制士が叫ぶ。

 

 外部映像で、横腹に並ぶ古い砲塔が動き始めた。

 数基は途中で止まり、残った副砲が敵艦を追う。

 

 閃光。

 

 こちらの砲撃を、小型艦は急加速で外した。

 

「速い……!」

 

 次の瞬間、敵艦の船体が光った。

 

「シールド展開!」

『シールド発生器、起動』

 

 艦橋の照明が一瞬だけ暗くなる。

 

『出力安定せず』

『シールド展開失敗』

 

 腹の底へ響く衝撃が来た。

 

 床が揺れ、壁面の表示が赤く染まる。

 どこかで金属の軋む音がした。

 

「被害報告!」

『左舷中央部に被弾』

『補修装甲を貫通』

『外周整備区画、気密低下。自動隔壁を閉鎖』

『主骨格への損傷なし』

『人的被害、なし』

 

 艦橋に短い沈黙が落ちた。

 外部映像が拡大される。

 

 左舷中央。

 何度も張り直されてきた補修板の継ぎ目がめくれ、その奥に黒い穴が開いていた。

 

 小型艦はもう離れている。

 一撃を加えただけで、こちらの副砲射程から逃れようとしていた。

 

「……いまのは、小型艦の砲撃です」

 

 セラが低い声で言った。

 端末に表示された損傷箇所から目を離さない。

 

「中型艦に撃たれれば、区画ひとつでは済みません」

 

 なるほど。

 

 穴そのものは直せる。

 主骨格も無事だ。

 

 だが、敵の主力まで同じ距離へ入れるのはまずい。

 

「主砲は?」

 

 セラが顔を上げた。

 

「司令、副官として申し上げます。主砲は撃てる状態ではありません」

 

 画面には赤い警告が並んでいる。

 照準系不安定。砲身劣化。供給経路過負荷。反動吸収系、限界値不明。

 

「一応、低出力なら発射できます。しかし、それでは海賊艦の装甲を抜けない可能性が高い。かといって最大出力で撃てば、炉心からの供給に主砲が耐えられません」

「なら、撃てるようにする」

「いまからですか? 戦闘前整備の手順も安全確認も、まるごと飛ばすことになります」

「敵の主力はまだ遠い」

「距離の問題ではありません!」

 

 セラが声を荒らげた。

 

『推定交戦圏到達まで、残り時間あり。ただし、主砲修復に必要な標準作業時間を大幅に下回ります』

「標準ではない方法でやる」

「嫌な予感しかしません」

 

 俺は左舷の損傷表示を一度見てから、主砲の状態表示へ目を移した。

 

**

 

「第二艦隊各艦へ。《アーク》は正面に残る」

 

 星図上で、自艦隊の六つの光点を確認する。

 

「軽巡洋艦は後方の二隻をまとめろ。補給工作艦と調査艦は、《アーク》の主砲射線から退避」

「フリゲート二隻は左右へ。回り込む小型艦を監視し、後方へ近づけるな」

「敵の大型艦はこちらで引き受ける」

 

 通信士が各艦へ命令を送る。

 

「軽巡洋艦、通信中継位置へ移動」

「フリゲート二隻、左右警戒へ展開」

「補給工作艦、緊急修理班待機」

「調査艦、敵航跡の追跡を継続」

 

 ばらばらだった六つの光点が、それぞれの場所へ動き始めた。

 

「航行指揮は当直士官に任せます。ノア、艦橋の補助を」

『了解。戦術航行補助を継続します』

 

 セラは端末を抱え、俺の後を追った。

 

 艦橋を出ると、通路のあちこちで兵たちがこちらを見た。

 

 赤い警告灯が点滅し、壁や床を染めている。炉心出力が戻っても、補修板の並ぶ壁や、踏む場所によって音の違う床までは新しくならない。

 

「あの司令官、本当に戦う気か」

「主砲はまともに撃てないはずだ」

「逃げるんじゃないのか」

 

 囁きが背中に届く。

 

 俺は立ち止まらなかった。

 セラは隣を歩きながら端末を操作し、艦内の退避指示、主砲制御室の開放、整備班への警告を同時に流している。

 

 箱舟型のノアは壁面端末に映り、次の区画では通路上へ薄く投影された。移動するたびに輪郭が乱れ、青白い光へ細かなノイズが混じる。

 

『敵艦隊、進路変わらず』

『武装反応、増大』

『本艦主砲制御室、到着まで十二区画』

「わかっている」

 

 艦首主砲制御室には、古い管制盤と、何度も張り替えられた配線が並んでいた。焼けた絶縁材の匂いが残り、立入制限表示が赤く点滅している。

 

 砲身へ続く巨大な制御管が、壁の奥へ伸びていた。

 

 俺は管制盤へ手を当てる。

 金属の奥に力の流れがある。まっすぐではない。何か所も歪み、途中で細くなっていた。

 

「やはり、芯が曲がっている」

「主砲です」

「長くて、力を通し、先端から撃つ。杖だ」

「前にも聞きました。そして納得していません」

 

 俺は答えず、主砲の制御系へエーテルを通した。

 

 艦の機械は、前世の杖とはまるで違う。だが、力を通す道具であることに変わりはない。

 問題は、途中の流れが歪んでいることだ。

 

 指先から、黄金の細い光が走った。

 

 管制盤の表面に螺旋の術式が浮かぶ。光は配線へ入り、壁面を伝い、主砲の制御管へ伸びていった。

 

 セラが慌てたように問いかける。

 

「待ってください。いま主砲制御系に直接、何を刻みました?」

「補正だ」

「補正で砲身に発光ラインは出ません!」

 

 壁の奥で低い振動が生まれた。

 

 灰色の制御管に沿って、黄金の線が伸びていく。螺旋を描いて分かれ、また集まりながら、主砲へ向かって進んでいた。

 

「反動吸収系への負荷配分が変わってる……? 熱も既存の放熱経路へ分散されている? ノア、全ログを保存。出力経路の変化を追跡して!」

『記録中。ただし、既存分類に該当しない処理が多すぎます』

 

 ノアの返答には、わずかな遅れがあった。

 

『主砲制御系に未登録幾何学パターンを確認』

『警告。主砲構造材の耐久限界を超過する可能性』

「では、砲身が壊れない程度に撃つ」

「その判断を感覚でやらないでください!」

 

 セラの声が制御室に響いた。

 

 整備兵たちは工具を持ったまま、管制盤を見つめている。何年も応急処置を重ねて使ってきた主砲が、目の前で見知らぬ動きを始めていた。

 

 完全に作り替える時間はない。

 一発に必要な範囲だけ、流れの歪みを直し、反動と熱を逃がす経路をつなぐ。

 

『敵艦隊、接近継続』

『交戦圏到達まで、残りわずか』

 

**

 

 海賊艦隊の旗艦では、まだ笑い声が続いていた。

 

 第二艦隊が逃げない。

 それが、彼らには諦めたように見えていた。

 

「観念したか」

「いや、撃つ気か?」

「あの棺桶の主砲で?」

「撃たせろ。反動で自滅するかもしれん」

 

 そこへ、先ほど《アーク》へ一撃を加えた小型艦から通信が入った。

 

「こっちは射撃終了。離脱する」

「戦果は?」

「命中。左舷を抜いた」

 

 艦橋の何人かが顔を見合わせた。

 

「抜いた? あれでも戦艦だろ」

「戦艦らしいぜ。一応な」

 

 通信の向こうで笑い声がした。

 

「あの棺桶、装甲まで紙くずだ。こっちの連装砲で穴が開いたぞ」

 

 旗艦の艦橋にも笑いが広がる。

 バルドは艦長席へ深く腰かけ、正面の灰色艦を眺めた。

 

 逃げない旧式艦。

 小型艦の砲撃で装甲を抜かれた旗艦。

 そこに乗る領主家の三男坊。

 

 これほどいい獲物はない。

 

「前面シールドを上げろ。中型艦は隊形を維持。小型艦は、いつでも散開できるよう間隔を取れ」

「船長」

 

 副官が端末を見て眉をひそめた。

 

「敵旗艦から高エネルギー反応。規格不明です」

「前面シールドは?」

「展開済みです。ただ、炉心出力が旧式艦の範囲を超えています。艦首にも未確認の発光パターンが」

 

 バルドは正面表示へ目をやった。

 

 灰色の船体は、先ほど小型艦の砲撃をまともに受けたばかりだ。

 

「センサーの誤読だ。照準反応が出たら散開しろ。それまでは拿捕隊形を維持する」

 

 副官は端末と灰色艦を見比べた。

 

「ですが――」

「小型艦の連装砲で外板を抜かれた船だぞ。警戒するのは照準反応が出てからでいい」

 

 副官はわずかに口を閉ざした。

 

「……了解」

 

 海賊艦隊は速度を落とさず、《アーク》へ近づいていく。

 

 

**

 

 俺たちが艦橋へ戻った時には、壁一面に赤い警告が広がっていた。

 

 星図上の赤い点は、すでにかなり近い。

 

 兵たちは持ち場についているが、誰も口を開かない。乾いた空調音と、端末を叩く指の音だけが続いていた。

 

 ノアの箱舟型ホログラムが、艦橋中央へ浮かぶ。

 

『敵艦隊、交戦圏へ接近』

『本艦主砲、未登録補正処理により出力経路変更』

『警告。安全基準を複数超過』

 

 セラが俺を見る。

 

「司令、発射命令を出すおつもりですか」

「撃たなければ、向こうが撃つ」

「そんな出力で撃ったら、主砲どころか艦首が吹き飛びます!」

「なら、吹き飛ばないように撃つ」

「だから、その判断を感覚でしないでください!」

『推定結果。通常条件では、艦首構造崩壊』

「ほら!」

『ただし、現在は通常条件ではありません』

「ノアまで何を言い出すんですか!」

 

 セラが額を押さえた。

 

 補正は通っている。一度なら撃てるはずだ。

 

 正面の星図では、敵旗艦が中央に位置し、その左右を護衛艦が固めている。照準反応が出るまでは、このまま拿捕隊形を崩さないつもりらしい。

 

 なら、最初に中央を止める。

 

 外部映像に映る《アーク》の艦首へ、黄金の螺旋術式が浮かび上がった。

 光が主砲の砲身へ巻きつき、古い放熱板を細かく震わせる。艦首の先端では、小さな光の輪が形を結んだ。

 

 艦橋のあちこちで、息を呑む音がした。

 

「艦がきしんでる!」

「大丈夫なのか?」

「何が起きてるんだ?」

 

 ノアの冷静な声だけが聞こえてきた。

 

『主砲発射可能。ただし、結果予測不能』

「撃つんですか? 司令!」

 

 セラの声が艦橋に響いた。

 

 

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