前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜 作:オカノヒカル
旧政権時代の帳簿整理は、その後も続いていた。
父上が残した秘密の信託とは別の話だ。
ガレスの代で結ばれた契約もあれば、その前から続いていた取引もある。
軍需品、港湾設備、艦艇整備。
一つずつ洗っていくと、よくもまあ出てくる。
その日の朝も、領主府の実務官が一つの資料を持ってきた。
「第一艦隊の整備契約について、確認していただきたいものがあります」
「また高く買っていたのか?」
「今回は、少し違います」
端末を受け取る。
表示されていたのは、第一艦隊で使われている交換部品の管理番号だった。
「こちらが、昨年納品されたことになっている部品です」
次の記録が開く。
「そしてこちらが、現在第一艦隊の艦艇へ実装されている部品です」
番号が違う。
それだけなら、途中で別の部品へ交換した可能性もある。
だが、製造年まで違った。
「古いな」
「はい。第一艦隊の整備班から指摘がありました。帳簿では昨年、新品へ交換したことになっています。しかし実際に装着されている部品は、それ以前から使われていたものです」
実務官が資料を切り替える。
「納品された新品は?」
「不良品として廃棄処理されています」
「新品なのに?」
「書類上は」
廃棄記録が表示された。
処理番号も搬出記録もあり、廃棄証明まで揃っている。
書類だけ見れば、何の問題もなく処理されたように見えた。
「本当に捨てたのか?」
「いいえ」
別の輸送記録が表示される。
「廃棄されたはずの管理番号が、後日、別の貨物記録に現れています」
行き先は、本星港の旧貨物区画。
民間業者が借りている倉庫だった。
「つまり、第一艦隊へ付けるはずだった新品を売っていた?」
「その可能性が高いです」
しかも、話は一社だけでは終わらなかった。
「中心になっている契約業者は一社ですが、複数の下請けと倉庫管理会社を経由しています」
納品、廃棄、輸送、倉庫契約。
記録を追うたび、同じ管理番号がつながっていく。
きっかけは、第一艦隊の整備兵から上がった報告だった。
帳簿では交換済みなのに、実際の部品が古い。
それを領主府の実務官が追い、ここまで辿り着いた。
「第一艦隊が海賊と戦った時も、この部品だったのか?」
「交換時期から考えれば、その可能性があります」
俺は画面を見た。
第一艦隊は第三交易路で海賊に負けた。
書類上では整備されている。
だが、実際の艦には劣化した部品が残っていた。
あの敗北を、整備不良だけのせいにはできない。
それでも、無関係ではないだろう。
「第一艦隊が死にかけた部品か」
「……はい」
少しだけ考える。
「取り返すぞ」
**
数時間後。
本星港の旧貨物区画にいた。
今回の現場を仕切るのは、港湾警備隊だ。
倉庫を封鎖し、従業員を確認し、搬出を止める。
証拠をそのまま保全するところまでが、彼らの仕事だった。
ただし今回は、第一艦隊の揚陸隊にも応援を頼んでいる。
軍需品の横流しが疑われているうえ、業者側が武装している可能性もある。
普通の倉庫監査なら警備隊で足りる。
だが、抵抗された時の装備は第一艦隊の方が強い。
俺も領主代行として同行していた。
倉庫の中には、公有物と民間資産が混在している可能性がある。
その場で判断できる者がいた方が早い。
面倒だが、仕方ない。
正面入口と搬出口は、すでに警備隊が押さえていた。
その少し後ろには、第一艦隊の揚陸兵が待機している。
港湾警備用の防護装備ではない。
施設突入や武装抵抗を想定した軍用装備だ。
今のところ出番はない。
できれば最後まで、そのままでいてほしい。
「対象倉庫、正面封鎖完了」
「北側搬出口も押さえました」
「従業員の退避経路、確保済みです」
警備隊から報告が続く。
手際は悪くない。
後方で待機している第一艦隊兵も、周囲の構造や逃走経路を確認していた。
俺が近くを通ると、小声が聞こえた。
「領主代行まで来る必要あるのか?」
「第二艦隊の司令官でもあるんだろ。現場は任せればいいのにな」
「何かあった方が面倒だぞ」
聞こえている。
まあ、悪意はなさそうだったので無視することにした。
どうやら、艦隊司令官を危険な現場へ連れてくるな、と言いたいらしい。
第二艦隊では、もう誰もそんなことを言わない。
少し新鮮だ。
対象倉庫へ近づく。
大型の搬出口が開いており、貨物車両へコンテナが積み込まれていた。
「搬出を停止しろ!」
警備隊員が声を上げる。
作業員がこちらを振り返った。
それでも積み込みは止まらない。
「当該施設には物品保全命令が出ている! 作業を中止しろ!」
そこでようやく、責任者らしい男が出てきた。
「これは通常出荷だ! 勝手に止めるな!」
「搬出停止命令が出ています」
「ここにある物は民間資産だ! こちらに所有権がある!」
責任者が書類を突き出す。
実務官が受け取り、俺へ回した。
ざっと見る。
「民間資産だと言うのか?」
「そうです!」
そこで責任者は、俺が誰なのか気づいたらしい。
一瞬だけ顔が強張った。
それでも続ける。
「領主代行であろうと、正当な契約で取得した資産を勝手に持ち出すことはできません!」
「そうだな」
そこは正しい。
犯罪の疑いがあるから全部もらう、ではこちらが盗賊だ。
「なら倉庫を開けて調べればいい」
責任者の口が止まった。
「正当に取得した物なら、確認して終わりだ」
返事がない。
「開けてくれ」
警備隊が倉庫内部を確認したあと、俺たちも中へ入った。
広い。
大型コンテナの間に、金属材や冷却材、制御機器、工作機械が並んでいる。
奥には軍用規格の梱包箱まで積まれていた。
同行していた第一艦隊の整備兵が、一つの箱の前で止まる。
「これ……」
端末を取り出し、箱の表示と照合した。
「第一艦隊向けの交換部品です」
責任者がすぐに口を挟む。
「正式に払い下げられた物だ!」
「確認する」
実務官が管理番号を照合する。
「一致しました」
責任者の顔色が変わった。
「領主府記録では、廃棄済みです」
「だから、その廃棄物をうちが――」
「廃棄証明の日付より前に、この倉庫へ搬入されています」
別の箱を開く。
未使用の制御機器と、新品の冷却系部品が入っていた。
箱の側面には、削り切れなかった第一艦隊の管理番号が残っている。
その上から、偽造された廃棄ラベルが貼られていた。
「元の管理表示が残っています」
実務官がそう言うと、責任者は黙った。
倉庫の奥には、灰色の結晶を詰めた保管容器もある。
「Fランク結晶です」
警備隊員が言う。
中を見る。
星脈結晶だ。
「あれも残せ」
「Fランク結晶ですが」
「使い道がある」
詳しい説明は後でいい。
俺は責任者を見る。
「確認できた分は、領主府と第一艦隊の所有物だ」
「待て!」
「では押収する」
その時、倉庫の奥で金属のぶつかる音が響いた。
大型シャッターが一気に落ちる。
「警戒!」
警備隊員が武器を構えた。
責任者が後ろへ下がる。
「これは不法な強制捜査だ! こちらにも自衛する権利がある!」
倉庫の奥から、重い足音が近づいてきた。
姿を現したのは、三機の外骨格《パワードアーマー》だった。
軍用機ではない。
重作業用を改造したものらしい。
防弾板と武器が後付けされ、関節部にも本来の作業には必要のない補強が入っている。
何より駆動音が荒い。
出力制限まで外しているようだ。
「警備隊、下がれ!」
「揚陸隊、前へ!」
配置がすぐに入れ替わった。
第一艦隊兵が前へ出る。
「民間人を退避!」
「右側を封鎖!」
一機へ射撃が集中した。
装甲へ火花が散り、脚部が止まる。
対応は早い。
ただ、ここは倉庫だ。
従業員もいる。
冷却材もあれば、押収予定の軍需品もある。
重火器を好きに撃てる場所ではない。
さらに別の搬出口から、貨物車両の駆動音が上がった。
「逃走車両だ! 一班回せ!」
揚陸兵が分かれる。
警備隊も従業員の退避と出口封鎖へ動いた。
その隙に、一機の外骨格が側面通路へ回り込む。
揚陸隊の指揮官が俺を見た。
「領主代行、後方へ!」
「分かった」
正しい判断だ。
俺が怪我をすれば、現場の仕事が増える。
素直に後ろへ下がった。
その直後、側面通路の壁が弾けた。
金属片を押しのけ、外骨格が強引に抜けてくる。
向かう先には、退避途中の職員と、まだ立てない負傷した警備隊員がいた。
揚陸兵は正面と搬出口へ割れている。
間に合わない。
「……仕方ない」
身体の内側へ魔力《エーテル》を通す。
久しぶりに、自分の身体へ使う。
筋肉だけを強くしても意味はない。
そんなことをすれば、先に骨か関節を傷める。
足から腰、肩へ術式を通し、動きと衝撃を受ける部分へ保護を重ねる。
床を蹴った時に滑らないよう、足元も固めた。
前世では散々使った術式だ。
船一隻を強化するより、よほど分かりやすい。
床を蹴る。
「領主代行!」
後ろから声が飛んだ。
外骨格がこちらを向く。
でかい。
機械腕が持ち上がり、その影が俺の上へ落ちた。
まともに受ければ、人間の身体など簡単に潰れるだろう。
振り下ろされる。
半歩だけ外した。
直後、金属の拳が床を叩く。
鈍い衝撃が靴底から脚へ突き上げてきた。
その腕の脇へ踏み込む。
どれだけ装甲を厚くしても、動く物には繋ぎ目がいる。
鎧もゴーレムも、この世界の機械も、その辺りは同じらしい。
左膝の横へ拳を叩き込んだ。
拳に硬い手応えが返る。
だが、狙ったのは装甲ではない。
奥で何かが潰れる感触がした。
外骨格の脚ががくりと沈む。
「なっ――」
操縦者の声。
さらに足首へ蹴りを入れた。
駆動部がひしゃげ、巨体が片膝をつく。
そのまま支えきれず、床へ倒れ込んだ。
「……生身で?」
後ろで誰かが呟いた。
生身ではない。
強化している。
説明している暇はないが。
倒れた外骨格が腕を持ち上げた。
銃口がこちらへ向く。
短く防御を張る。
発射音。
弾を横へ逸らし、そのまま一歩踏み込んだ。
腕部の接続部へ掌を叩き込む。
金属が曲がり、武器が床へ落ちた。
「ふざけるな!」
残った機械腕を振り回してくる。
腕を合わせ、軌道だけを外へ流した。
重さが腕にかかるが、耐えられないほどではない。
壊れた脚へ重心が寄る。
外骨格の腕を掴んで引くと、巨体は踏ん張れず、そのまま床へ叩きつけられた。
今度こそ止まる。
「一機停止!」
正面に残っていた外骨格が、こちらへ向きを変えた。
俺を先に止めるつもりらしい。
だが、一機目でだいたい分かった。
突っ込んできた腕を避け、横を抜けざまに肘の駆動部を殴る。
装甲板の隙間が歪み、右腕が止まった。
そこへ第一艦隊兵が反応する。
「左からも来るぞ」
「了解!」
二方向から低出力の射撃が飛ぶ。
肩と脚の駆動部へ、正確に弾が集まった。
火花を散らしながら外骨格が膝をつく。
「対象停止!」
「操縦者を出せ!」
兵たちが一気に距離を詰めた。
それで終わった。
最初の一機は、すでに集中射撃で脚を止められている。
逃走車両も港湾警備隊が出口で確保した。
武装していた警備員も拘束済みだ。
俺は身体強化を解いた。
近くにいた第一艦隊兵が、壊れた外骨格と俺を交互に見る。
「……第二艦隊が強くなったの、船だけじゃなかったのか」
隣の兵が小さく言った。
「司令官が一番おかしいんじゃないか?」
俺はそちらを見る。
「何か言ったか?」
「いえ」
「何も」
聞こえていたが、まあいい。
揚陸隊の指揮官がこちらへ来た。
「領主代行、怪我は?」
「ない」
指揮官が俺を見る。
倒れている外骨格を見る。
もう一度、俺を見る。
「……そうですか」
なぜ納得していない。
怪我はない。
問題ないはずだ。
責任者は、港湾警備隊に拘束されていた。
それでも口は動く。
「私は知らない! 倉庫の管理は現場に任せていた!」
実務官が端末を開く。
「搬出指示に、あなたの認証があります」
「通常業務だ!」
「では、こちらは?」
別の記録が出る。
「廃棄処理された第一艦隊向け部品を関連会社へ移す指示です」
「前任者が決めた!」
「あなたの就任後の日付ですが」
責任者が黙る。
「二重帳簿も見つかっています」
実務官は記録を順に示した。
「倉庫契約。軍需品管理番号。偽造された廃棄記録。それに、搬出停止命令後の出荷指示」
最後に、壊れた外骨格を見る。
「加えて、武装外骨格による公務執行妨害です」
責任者は何も言わなくなった。
俺は確認する。
「この会社との軍需契約は?」
「重大な契約違反として解除可能です」
「では契約解除」
「承知しました」
「関連資産も凍結してくれ」
「横流し利益との関係が疑われる資産について、手続きを開始します」
もちろん、倉庫の中身を全部その場で没収するわけではない。
領主府所有と確認できた物は回収。
第一艦隊の物も同じ。
横流し利益で購入された疑いのある設備は資産凍結。
契約担保に入っている物は差し押さえ手続き。
純粋な民間資産なら、所有関係が確認できるまで保全する。
手間はかかるが、ここを雑に済ませるわけにはいかない。
第一艦隊の兵が、押収対象になった箱を開いていた。
中には新品の部品が並んでいる。
一つを手にした兵が、そこで動きを止めた。
「どうした?」
「これ……うちに納品されたことになっていたやつです」
管理番号を見せる。
「第三交易路へ出る前に、交換される予定だった型です」
声が少し低かった。
第一艦隊は、まともな整備もされないまま海賊と戦った。
ここには、その時に届いているはずだった部品がある。
新品のまま。
箱に入れられて。
「戻せるものは戻せ」
兵が顔を上げた。
「いいんですか?」
「元からお前たちの物だろう」
元から第一艦隊の物なら、戻すだけだ。
「……了解しました」
敬礼が返ってきた。
その後、押収した帳簿から別の倉庫も見つかった。
一棟ではなかった。
同じ管理会社。
同じ契約系列。
中にあったのは、金属資材や交換部品だけではない。
加工機械、作業用ロボット、冷却設備、それにFランク結晶まで保管されていた。
これだけでロズベル領の貧しさを説明できるとは思わない。
ただ、足りないと思っていた物の一部が、途中で抜かれていたのは確かだった。
戦闘記録をまとめていた第一艦隊兵が、壊れた外骨格を見ながら困った顔をしている。
「これ、どうやって報告書に書けばいいんだ?」
隣の兵が答えた。
「領主代行が殴って止めた」
「信じてもらえるか?」
「俺は見た」
「俺も見たけどさ」
横を通りながら口を挟む。
「そのままでいいだろ」
「……はい」
なぜ嫌そうなんだ。
事実なのだから仕方ない。
**
数日後。
法的な整理が進んだ倉庫の一つを、改めて確認することになった。
重い扉が開く。
しばらく使われていなかった照明が一列ずつ点き、暗闇の奥から設備が姿を現していく。
大型の加工台。
切削機械。
金属材を扱う搬送設備。
部品棚に作業用ロボット。
奥には解体設備まであった。
古い。
表面には埃が積もり、ところどころ錆も出ている。
最新鋭とは言えない。
だが、使えそうなものは多い。
何より、設備が一通り揃っている。
加工も、組み立ても、修理もできる。
ここなら物を作れる。
実務官が端末を確認する。
「契約と所有権の確認が終われば、かなりの部分が領主府へ戻ります」
「戻る?」
「はい。もともと公費で購入された設備ですので」
俺は倉庫の中を見渡した。
加工機械がある。
材料も部品もある。
搬送設備まで残っている。
領地に金がないと言いながら、こんなものが眠っていた。
「……これ、全部うちの物だったのか?」
なら、倉庫のまま寝かせておく理由はない。
「工場にして、稼ぐか!」
次回、『第42話 取り返した倉庫で、工場を作ろう』の投稿は10/23となります。