前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜   作:オカノヒカル

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第43話 あの娘は、本当に妹だった

 領主府の執務室で、古い記録を担当する実務官が端末を机に置いた。

 

「確認が完了しました」

 

 読んでいた書類から顔を上げる。

 

「どうだった」

「エルゼ・フィッシャー嬢は、先代領主の実子と判断して問題ありません」

「……そうか」

 

 まったく驚かなかったわけではない。

 

 ただ、父上が残した信託を調べた時から、その可能性は考えていた。

 

 十五歳。アンナと一緒に軌道港にいた、エルゼ・フィッシャーと名乗った少女。

 あの子が、本当に俺の妹だったらしい。

 

「確認方法は?」

「信託設定時に封印された身元確認資料と、当時の医療記録を復元しました。保存状態と記録の真正性も確認済みです」

 

 担当官が資料を開く。

 

「先代領主本人の保存情報との照合結果も一致しています」

「本人から何か採ったわけではないんだな」

「はい。既存の記録だけで確認できました」

 

 それならいい。

 

 何も知らない十五歳の少女を呼び出して、先に検査を受けさせる必要はなかった。

 

「母親との関係は?」

「正式な婚姻関係ではありません」

 

 そこは以前の調査でも分かっている。

 父上はエルゼの母親と正式な婚姻関係を結ばず、エルゼもロズベル家へ登録されていない。

 

 それでも生活費を払い、学校へ通わせ、必要な医療を受けられるよう支援していた。

 自分が死んだあとも、エルゼが成人するまで困らないよう信託まで残している。

 

「先代領主が、母子の生活を気にかけていたことは間違いないかと」

 

 担当官が慎重に言った。

 

「そうだな」

 

 そこは否定しない。

 父上は、あの母子を完全には見捨てなかった。

 

 それでも家族として迎えず、娘だと公に認めることもしなかった。俺たち兄弟にも、その存在を知らせていない。

 

 何を考えていたのかは、もう聞けない。

 守ろうとはしていた。だが、隠してもいた。

 

 父上も、ずいぶん中途半端なことをしたものだ。

 

「今後の扱いはいかがなさいますか」

 

 担当官が聞く。

 

「本人に伝える」

「公表については?」

「先に本人だ」

 

 本人が知らない話を、領主府や外部へ先に公表する理由はない。

 

「正式な家籍については、別途手続きが必要になります」

「それも急がなくていい」

「承知しました」

 

 血が繋がっていたからといって、今日からエルゼ・ロズベルを名乗れ、とはならない。

 

「この件の秘匿扱いは、そのまま継続してくれ」

「はい」

 

 確認は終わった。

 次は本人へ話さなければならない。

 

 こういう仕事になると、戦艦を動かす方が楽な気がする。

 

**

 

 領主府の小さな応接室を使うことにした。

 

 謁見室では大げさすぎる。十五歳の少女へ家族の話をするのに、家臣を並べる必要もない。

 

 しばらくして扉が開いた。

 

「失礼します」

 

 エルゼが入ってくる。

 

 軌道港で会った時と同じ少女だ。

 血縁が判明したからといって、急に顔が妹らしく見えるわけでもない。

 

「座ってくれ」

「はい」

 

 向かいの椅子へ腰を下ろし、両手を膝の上で揃える。背筋が妙に伸びていた。

 

「急に呼んですまなかった」

「いえ……」

 

 エルゼは俺の顔を見て、迷ってから尋ねた。

 

「……アンナのことで、何かありました?」

「いや。アンナは関係ない」

 

 あからさまに表情が緩む。

 

「よかった……」

 

 まず友人の心配をするところは、以前と変わらない。

 

「では……何でしょうか」

「君自身の話だ」

 

 また肩に力が入った。

 

 さて、どう切り出すべきか。

 

「君の父親について、分かったことがある」

 

 エルゼの表情が止まった。

 

「……父、ですか?」

「ああ」

 

 少し間が空く。

 

「母から何か聞いていたか?」

 

 エルゼは首を横へ振った。

 

「詳しくは……。あまり話したがらなかったので」

 

 なら、こちらから話すしかない。

 

「領主府に、古い記録が残っていた」

「はい」

「生活や学校の費用について、君の母親を長く支援していた人物がいる」

 

 エルゼがわずかに目を見開いた。

 

「それって……母が残してくれた手続きじゃないんですか?」

「元を作ったのは別の人物だ」

 

 そこで一度言葉を切る。

 

「君の父親だ」

 

 エルゼは黙っていた。

 

「その人物について、記録の確認が終わった」

 

 回りくどくしても仕方ない。

 

「君の父親は、先代のロズベル領主だった」

「……え?」

 

 エルゼが固まった。

 

「俺の父でもある」

 

 エルゼが俺を見る。

 

「それって……」

「血縁上では、君は俺の妹になる」

 

 一度口を開きかけ、何も言わずに閉じる。

 

 しばらくして、ようやく声が出た。

 

「……困ります」

「だろうな」

 

 今度は別の意味で驚いた顔をされた。

 

「そこは否定しないんですか?」

「急に兄が増えて喜べと言われても困るだろう」

「兄……」

 

 自分で言葉にして、さらに困った顔になる。

 

「しかも三人いる」

「三人……」

 

 余計に困らせた気がする。

 

「とにかく、今すぐ何か決める必要はない」

 

 エルゼはしばらく考えてから、恐る恐る聞いた。

 

「それで……これから、どうなるんですか?」

「どうもならん」

「……はい?」

「学校を辞める必要はない。住む場所も変えなくていい。フィッシャーの姓を捨てる必要もない」

「でも、妹なんですよね?」

「血はそうらしい」

「……らしいって」

「確認はした。俺がまだ慣れていないだけだ」

 

 昨日まで存在すら知らなかった妹だ。

 俺だって、まだどう接すればいいのか分からない。

 

「俺を兄と呼ぶ必要もない」

「いいんですか?」

「今までそう呼んでいなかっただろう」

 

 エルゼは何とも言えない顔になった。

 

「ロズベル家に来るかどうかも、今決めなくていい」

「……本当に?」

「ああ」

 

 そこは最初から決めていた。

 

 父上にも事情はあったのだろう。

 だが、本人の知らないところで全部決めた結果、エルゼは十五年間、自分の父親すら知らなかった。

 

 なら今度は、エルゼ自身に決めさせる。

 

「血が繋がっているからといって、俺が勝手に君の生活を変えるつもりはない」

 

 エルゼは俺を見ていた。

 

「ロズベル家の娘なら……」

 

 言いにくそうに続ける。

 

「継承権とか、そういう話にもなるんですか?」

「ならん。少なくとも今はな」

「今は?」

「君は十五歳だ。正式な領主継承権を持てる年齢ではない。それ以前に、血縁と家の登録は別の話だ」

 

 今ここで、それ以上の政治の話をする必要はない。

 

「だが、そんな話をするために呼んだんじゃない」

「……はい」

「まず、君に伝えるべきだと思っただけだ」

 

 エルゼは黙って考えていた。

 やがて、別のことを聞いてくる。

 

「でも……前に会ったあと、もう分かっていたんですか?」

「いや」

 

 首を横へ振る。

 

「疑っただけだ」

「じゃあ、どうして聞かなかったんですか?」

「何を?」

「父のことです。もしかしたらって」

「間違っていたら迷惑だろう」

 

 エルゼが瞬きをする。

 

「……それだけですか?」

「まだ子どもの君に『もしかしたら領主の隠し子かもしれん』などと聞いて、間違いだったらどうする」

「それは……」

「嫌だろう」

「かなり嫌です」

「だから、こちらで調べられることを先に調べた」

 

 今回の確認に、エルゼ本人から何か採取したわけではないことも伝えた。残っていた記録だけで確認できたらしい。

 

「そうだったんですね」

 

 エルゼの肩から、少し力が抜けた。

 

 そのまま何か考えていたが、やがて顔を上げる。

 

「レオンさんって……私のこと、知らなかったんですよね」

「ああ」

「アンナを助けたときも?」

「もちろんだ」

 

 何を確認したいのか、少し分からない。

 

「あの時は、君が誰の娘かなんて考えていなかった」

 

 そもそもアンナが倒れている時に、友人の家系など調べる暇はない。

 

「でも、アンナの治療までしてくれました」

「緊急事態だったし」

「お金も取らなかったですよね」

「俺は医者じゃないからな。単なる応急措置だし」

 

 エルゼは少し黙った。

 

「何か分からないことが出たら、領主府へ連絡してくれ」

「……はい」

「この件は誰にも話さないほうがいい。話したら外野がうるさくなって、メディアに追いかけ回される」

「それは嫌ですね」

「まあ、今後どうしたいかは急いで決めなくていい。こちらから勝手に公表もしないから安心しろ」

「分かりました」

 

 これで話は終わったと思い、ソファから立ち上がろうとした。

 

「……それだけですか?」

 

 エルゼに呼び止められる。

 

「他に何かあるのか?」

 

 今度はエルゼが困ったようにこちらを見る。

 

「普通……もっと何かありません?」

「何が?」

「妹だったんですよね?」

「ああ」

「それで、本当に『好きにしていい』で終わるんですか?」

「駄目なのか?」

「駄目というか……」

 

 エルゼも、その先を言わなかった。

 

 俺も少し考える。

 

 今日からロズベル家へ来い。学校も生活も変えろ。

 

 そんなことを言われて喜ぶようには見えない。

 

「俺も、妹ができた時に何をすればいいのか知らん」

「……そうなんですか?」

「初めてだからな」

 

 エルゼが少しだけ笑った。

 

 ようやく、さっきまでの硬さが消えた。

 

「ガレス兄上やユリウス兄上にも、俺から話しておく。君が会いたいと思ったら、その時に会えばいい」

「ユリウスさんも……お兄さんなんですよね」

「ああ」

「ガレスさんも」

「ああ」

 

 ガレスの話は少し面倒だが、今ここで説明する必要はない。

 

 エルゼはしばらく膝の上の手を見ていた。

 

 それから顔を上げる。

 

「ロズベル家って……どんなところなんですか?」

「……」

 

 難しい質問だった。

 

 ガレス。

 長く病床にいたユリウス兄上。

 俺。

 

 領主府に、第一艦隊と第二艦隊。古い港と、改装中の《アーク》。

 

 まともに最初から説明すると、かなり長い。

 

「説明すると長い」

「そんなにですか?」

「最近いろいろあった」

「それは……ニュースで少し見ました」

 

 共同治安艦隊まで来たのだから、「少し」で済む話ではないかもしれない。

 

「知りたいのか?」

 

 エルゼはすぐには答えなかった。

 

 今まで知らなかった家族だ。

 別に知りたくないと言われても、それはそれで仕方ない。

 

 少し迷ったあと、エルゼが顔を上げる。

 

「……はい」

「少し、知りたいです」

「そうか」

 

「今度、見に来るか? そのときにいろいろ教えてやる」

「領主府のお屋敷をですか?」

「あそこはあまり面白いものでもない」

 

 嫌な思い出ばかりだ。

 

「宇宙船ドックだ」

「ドック?」

「俺の船もある」

 

 エルゼが少し興味を示した。

 

「船……」

「今は改装中だがな」

「見てもいいんですか?」

「そのために誘った」

 

 エルゼが笑った。

 

「レオンさんの船とか、仕事とか……見に行ってもいいですか?」

「構わん」

「アンナも一緒でいいですか?」

「もちろんだ」

 

 そこで話は終わると思った。

 

 だが、エルゼは少し迷ってから、もう一度こちらを見る。

 

「それまでに……また連絡してもいいですか?」

「ああ」

「父のこととか、ロズベル家のことで、聞きたいことが出てくるかもしれないので」

「そうだな……それ以外でも相談事があれば連絡してくれ」

「はい」

 

 そこで一度頷いたあと、エルゼは首を傾げた。

 

「……父の件じゃなくても、連絡していいんですか?」

「構わんぞ」

 

 そこで遠慮する理由が、俺にはよく分からない。

 

「俺も兄として何をすればいいのか、まだよく分かっていない。だから、何かあれば言ってくれ。何もなくても別にいい」

 

 エルゼは少し驚いたように俺を見た。

 それから、小さく笑う。

 

「じゃあ、少しずつ教えてください」

「何を?」

「レオンさんのことも、ロズベル家のことも」

 

 少し間を置いて、付け加える。

 

「せっかく兄妹だって分かったので」

 

 そう言って、少し照れたように笑った。

 

 妹と言われても、俺にはまだ実感がない。

 

 次に会った時には、少しは変わっているのだろうか。

 

 

 





次回、『第44話 レオン・ロズベルを殺すな』の投稿は10/30となります。
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