前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜 作:オカノヒカル
「各艦、戦闘隊形を維持。敵の大将を探せ! 主砲、射撃用意」
俺が告げると、それまで重なっていた報告や操作音が、わずかに途切れた。
「中央大型艦から、指揮通信が集中しています。敵旗艦と推定」
索敵士の報告に、星図上の中央艦が強調表示された。
「その旗艦に照準を合わせろ」
「目標、敵旗艦。主砲照準、固定」
兵装管制士の声が返ってくる。
姿勢制御スラスターが短く噴き、《アーク》の鈍重な船体がわずかに回った。
艦首を貫く主砲の中心軸が、星図上の敵旗艦へ重なる。
赤い警告灯が明滅し、正面の星図では海賊艦隊を示す赤い点が迫っている。艦首へ集まった力が、床を通じて足の裏に伝わってきた。
艦首側から細かな振動が続いている。補正した支持架と装甲が、主砲の負荷を受けていた。
『主砲、発射シーケンス開始』
青白い箱舟型のホログラムが、艦橋中央で明滅した。ノアの声は妙なほど冷静だ。
『艦首構造材、負荷上昇』
『未登録補正処理、稼働』
セラは端末から顔を上げた。
「司令、本当に撃つんですか。艦首が持つ保証はありません。主砲だけでなく、艦全体が歪みます!」
「持たせる」
「言い方が軽いです!」
「重く言えば持つのか?」
「そういう問題ではありません!」
『未登録動作、稼働』
ノアの報告に合わせ、艦首の外部映像が拡大された。
灰色の艦首を割るように、中央の装甲扉がゆっくりと左右へ開いた。
その奥から、黒く焼けた主砲口が姿を現す。
細い黄金の線は砲口を囲み、船体中央へ埋め込まれた長砲身に沿って走った。光は艦の奥へ巻きつき、深い螺旋を描いている。
前世で杖へ大きな術を通した時と同じだ。力は、ただまっすぐ押し込めばいいものではない。
回し、束ね、先端へ通す。暴れそうなら縛り、割れそうなら逃がす。
古い杖には、古い杖なりの撃ち方がある。
「司令、最後に確認します。これは通常射撃ではありませんね?」
「そうだろうな」
「そうだろうな、ではなく!」
『発射可能。ただし、結果予測不能』
セラが青白い箱舟を睨んだ。
「それを可能と言わないでください!」
俺は正面の星図を見た。
「ノア」
『はい、司令官』
「敵海賊船に向けて撃て」
『司令官に主砲発射許可を申請』
「司令、本当に撃つんですか?!」
「許可する」
『主砲、発射』
発射と同時に、船体の奥で低い音が響いた。
宇宙に砲声は響かない。それでも、船体の内側を走った低い振動が骨まで伝わってくる。
艦首から船体中央まで走っていた黄金の術式が、一斉に輝いた。
光は古い装甲の継ぎ目を伝い、開いた砲口の奥で螺旋を描きながら細く圧縮されていく。
次の瞬間、星の海へ一本の光が伸びた。
ただの熱線でも粒子砲でもない。
黄金の螺旋をまとった光は、星々の間をまっすぐ走り、海賊旗艦へ突き刺さった。
**
「敵旗艦、照準反応!」
海賊旗艦の艦橋で、海賊の頭領であるバルドは笑っていた。
「散開しろ! 前面シールド最大!」
言葉は最後まで続かなかった。
正面スクリーンが金色に染まり、通信士が椅子から身を乗り出す。
「高エネルギー反応、直撃コース!」
「回避しろ!」
遅い。
スクリーンを埋める出力表示を見て、バルドの顔から笑みが消えた。
「馬鹿な……旧式艦の出力じゃ――」
言葉が終わるより先に、光が来た。
前面シールドを貫き、艦首装甲に穴を開ける。艦橋の脇をかすめ、そのまま炉心区画まで一直線に貫いた。
熱が広がるより先に、艦の中枢が沈黙する。
内部で何かが爆ぜ、遅れて裂け目から光が噴き出した。海賊旗艦の艦腹に金色の穴が開き、火と空気と装甲片が宇宙へ散っていく。
バルドは、何が起きたのか理解できなかった。
海賊旗艦は針路を崩し、艦尾からゆっくり折れた。
**
艦橋は静まり返っていた。
誰も歓声を上げない。
正面の星図では、最も大きかった赤い点が消え、代わりに残骸反応が散っていた。
『敵司令艦、戦闘不能』
『本艦艦首、損傷軽微』
『主砲砲身、許容範囲内』
『熱量収支、不一致。反動計算、不一致。再計算を推奨』
セラは端末を握ったまま、外部映像を瞬きもせず見つめていた。
「……今のを、撃ったんですか?」
「撃ったな」
「この艦で?」
「この艦でだ」
「この主砲で?」
「この主砲でだな」
セラは口を閉じた。
俺は主砲を通った力の感触を思い返す。
流れは悪くなかった。砲身も耐え、反動も艦首全体へ逃げている。
ただ、最後の集束が少し右へ流れた。敵艦の中枢は抜いたが、狙った中心を正確に通ったわけではない。
「照準が少し甘いな」
セラがゆっくりこちらを見た。
「今のを、甘い、で済ませるんですか……?」
「次はもう少し真ん中を通す」
「次を撃つ前提で話さないでください!」
『同意。主砲再射撃は非推奨』
「必要なら撃つ」
「必要にならないようにしてください!」
艦橋の兵たちは、まだ動けずにいた。
若い操舵士は口を開けたまま星図を見つめ、索敵士は自分の端末と外部映像を何度も見比べている。
やがて、誰かが小さく呟いた。
「勝った……のか?」
「敵艦は沈黙した」
「この棺桶で……?」
先ほどまで俺を値踏みしていた視線が、外部映像と俺の間を行き来していた。
侮るような色は、もうない。
代わりに、どう扱えばいいのかわからないものを見る目が増えていた。
『敵艦隊、統制崩壊』
ノアの報告を受け、索敵士たちが端末へ目を戻した。
『調査艦より航跡分析を受信』
乱れていた赤い予測線が、三つの進路に分かれた。
『敵二隻、外縁方向へ離脱』
『一隻、推進停止』
『残る二隻は進路変更。うち一隻は《アーク・ロズベル》、もう一隻は後方艦群へ接近中』
「逃げるものと、襲うものを分けてくれたか」
『調査艦の観測機器は旧式ですが、噴射プラズマの航跡分析には使用可能です』
星図上の赤い点が乱れている。司令艦を失った海賊艦隊は、隊列を保てなくなっていた。
ノアが、敵の通信を拾う。ノイズまみれに海賊たちの声が流れてきた。
〈旗艦沈黙!〉
〈バルド船長の応答なし!〉
〈何を撃たれた!?〉
〈第二艦隊の旧式主砲じゃなかったのか!〉
〈逃げろ!〉
〈散開しろ! 直線上に並ぶな!〉
〈拿捕は中止だ、沈めろ!〉
すべて逃げるわけではないらしい。
赤い点のうち二隻が距離を取り、一隻がこちらへ砲口を向けた。残りは進路を決めかねている。
逃走する艦と、こちらへ向き直る艦が星図上で分かれていく。
これなら、戦うつもりの相手だけ見ればいい。
「追撃できます」
セラの声はまだ震えていたが、目は端末から離れない。
「敵艦隊は統制を失っています。今なら――」
『主砲、再射撃不能。砲身冷却および艦首構造の点検が必要です』
「主砲は使わん」
セラが目を瞬いた。
「え?」
「通信士、全周波数を開け。降伏勧告だ」
「全周波数、開放します」
「逃走艦も追わないんですか?」
「逃げる者まで焼く必要はない」
俺は星図を見たまま告げた。
「こちらはロズベル第二艦隊司令官、レオン・ロズベル。武装を停止しろ。離脱するなら追わん。こちらへ砲口を向けるなら、次は機関部を潰す」
セラが小声で呟く。
「海賊相手の降伏勧告としては、ずいぶん大雑把ですね」
「伝わればいい」
『通信到達を確認。敵艦隊、反応分岐』
赤い点が二つ、こちらへ背を向けた。一つは推進を止め、残る二つは砲口をこちらへ向ける。
『敵二隻、攻撃意思継続』
『中型艦一隻、本艦へ接近』
『小型艦一隻、後方の補給工作艦へ針路変更』
「支援艦を狙ったか」
旧式軽巡洋艦から通信が入った。
艦長のマルク・ハイゼン中佐だ。
〈後方艦群はこちらでまとめます。フリゲート二隻を迎撃位置へ〉
「任せる。沈める必要はない。後方へ近づけるな」
〈了解しました、司令〉
俺は艦橋の前方席にいる兵装管制士へ指示を出す。
「兵装管制。敵艦の推進器を狙えるか」
「この距離なら可能です」
「機関部だけ止めろ」
「了解。副砲、照準固定」
「撃て」
副砲が火を噴いた。
一拍遅れて、海賊艦の推進器が片側だけ弾け、船体が姿勢を崩して回転を始める。
『左舷フリゲート、敵小型艦の進路前方へ警告射撃』
『右舷フリゲート、側面から射界を確保』
星図上で二隻の旧式フリゲートが、補給工作艦へ向かう小型艦を左右から挟んだ。
速さでは敵に劣る。火力も強くない。
それでも、二方向から撃たれれば、まっすぐ支援艦へ近づくことはできない。
『敵小型艦、進路変更』
『後方艦群から離れます』
敵艦の砲口に白い光が集まった。
『敵艦、射撃準備。着弾予測、本艦右舷外縁』
「避けられるか?」
若い操舵士が操舵桿を握り直した。
「推力は戻っています。やれます」
操舵士が口元を上げた。
「なら任せる」
「任されました!」
《アーク・ロズベル》が鈍く傾いた。
古い船らしい重い動きだ。それでも、敵の照準から外れた。
敵の光は右舷装甲をかすめ、そのまま星の海へ流れていく。
『被弾なし』
ノアからすぐに報告が入る。
「副砲、もう一度」
「照準、敵艦武装制御区画」
兵装管制士が復唱する。
セラが目を細め、こちらを向いた。
「待ってください。そこでは撃沈しません」
「沈める必要はない。撃て」
副砲が火を噴き、敵艦の砲塔群を砲弾が貫いた。火花が散り、推進器の出力が落ちる。
二隻目も戦う力を失った。
「退け。俺は無駄な戦は好まん」
俺の声が通信へ乗る。
残った海賊艦は、もう撃ってこなかった。
一隻は損傷して停止。二隻が投降。二隻が逃走。旗艦は戦闘不能。
追うつもりはない。
戦う意思を失った相手まで追い回す必要はない。
『戦闘継続意思を示す敵艦、なし』
『交戦終了と判断』
「逃走艦は追うな。投降艦を監視する」
俺は星図上の各艦へ指示を振り分けた。
「ハイゼン艦長。軽巡洋艦で降伏した艦との通信をまとめろ。フリゲート二隻は左右から武装区画を監視」
〈了解しました。後方艦群はこちらで引き受けます〉
「調査艦は逃走艦の航跡を記録。補給工作艦は《アーク》の点検準備だ」
通信士が各艦へ命令を送る。
「軽巡洋艦、投降艦との通信を引き継ぎ」
「フリゲート二隻、監視位置へ移動」
「調査艦、逃走航跡を追跡中」
「補給工作艦、外部修理ドローン準備」
ばらばらに散っていた旧式艦が、それぞれの仕事へ動き始めた。
艦橋では、誰もすぐには声を出さなかった。
若い操舵士は両手を膝へ置いたまま固まり、通信士席の兵は何が起きたのかわからない顔をしている。
古参兵らしい男がこちらを見て、敬礼しかけた。だが、途中で手を止めた。
それでいい。
全員、生き残っただけでも十分なのだ。
「艦の損傷具合は?」
「主砲砲身、温度高止まり。冷却系は稼働していますが、再射撃可能値まで下がっていません」
兵装管制士が表示を切り替える。
「砲身内壁に局所的な摩耗を確認。副砲二門も冷却中です。現時点で主砲は使用不能」
続いて、艦橋の通信装置から損害管制担当の声が流れた。
〈艦首構造に微細な歪みを確認。主砲動力配管の支持架に亀裂があります。放熱板の一部も限界温度へ接近しました〉
〈補給工作艦より、応急修理支援の申し出〉
〈修理ドローン二機、艦首点検用に準備完了〉
セラが即座に答える。
「主砲系統の残留熱を確認してから接近させてください。冷却材と支持架用の補修材もお願いします」
〈補給工作艦、了解〉
「気密破損と火災は?」
〈ありません。船倉、兵員区画、烹炊所にも損傷なし。ただし、艦首側の空調系統に不具合が再発しています〉
艦内に大きな破損はないらしい。
「各艦、死亡・重傷報告なし」
通信士が僚艦から届いた報告を読み上げた。
「補足。艦首表面の未登録発光パターン、一部途絶」
ノアの箱舟型ホログラムが明滅する。
『射撃時の熱量収支および反動計算は、引き続き不一致。本艦主砲の安全な再射撃条件を算出できません』
セラは各部署から届いた数値を端末上で確認した。
「主砲は砲身冷却、艦首構造の点検、支持架の補修が終わるまで使用禁止です。次に同じ出力で撃てば、今度こそ艦首が持ちません」
「軽微というには、いろいろ壊れたな」
「これで済んだこと自体がおかしいんです!」
「次は、もう少し丁寧に力を逃がす」
「次の撃ち方を考えないでください!」
『同意。主砲再射撃は、現時点で不可能です』
「直せば撃てるな」
「そういう結論に持っていかないでください!」
セラの声が艦橋に響いた。
これだけ怒鳴れるなら、まだ大丈夫だろう。
**
戦闘が終わると、やるべきことが多すぎて忙しくなった。
軽巡洋艦は投降艦との通信を引き受け、二隻のフリゲートが左右から武装区画を監視している。
補給工作艦からは修理ドローンが飛び、《アーク》の艦首へ慎重に近づいていた。
調査艦は遠ざかる二隻の航跡を追い、戦闘中の通信と武装反応を記録し続けている。
《アーク》の艦橋でも、救難信号の処理、投降艦への警告、自艦の応急修理、戦闘ログの解析が同時に進められていた。
セラは三つの端末を並べていた。目の下の隈はさらに濃くなっているが、指は止まらない。
青白い箱舟型のノアが、その横でゆっくり回転している。
『主砲射撃ログ、解析中』
セラは表示された数値を追いながら、早口で言った。
「出力、反動、熱量、燃料消費。全部、計算が合いません。でもログは残っているし、観測もできています。なら、現象としては存在している」
『結論。既存物理法則データベースでは説明不能。ただし、誤報ではありません』
「誤報であってほしかったです」
「撃てたならいいだろう」
「よくありません!」
返事が早い。
「司令、これは主砲が強くなった、で済む話ではありません。反動が消えたわけでもないのに艦首が持っている。熱量が出ているはずなのに、放熱が計算より少ない。燃料消費も少なすぎます。しかも、砲撃の軌跡に観測不能な反応が残っています」
「残っている?」
「はい。ここです」
セラが投影画面を拡大した。
主砲の光が通った軌跡に、薄い波が残っている。肉眼では見えず、計器上でもノイズに近い。だが、砲撃の軌跡と完全に重なっていた。
『観測不能媒質反応、砲撃軌跡上に残留』
『真空中における媒質揺らぎの可能性』
「真空中に、媒質……?」
セラの声が低くなる。
俺には、何を不思議がっているのかわからない。
「あるだろう。外に満ちている」
セラがゆっくりこちらを向いた。
「司令」
「なんだ」
「真空に、何かがあるんですか?」
「ある」
「何が」
「前から、俺はエーテルと呼んでいる」
セラが額を押さえ、ノアの箱舟が一瞬だけ停止した。
『「魔力」に該当する分類はありません。「エーテル」は、旧物理学上の仮説名称と一致します』
「なら、新しく作ればいい」
「簡単に言いますね……」
分類名は後で決めればいい。
そこに力があり、使えることが分かれば十分だった。
セラが何か言いかけた時、別の警告音が鳴った。
『戦闘中に傍受した敵通信ログの解析を開始』
青白い箱舟の周囲に、暗号化された通信断片が浮かんだ。
『暗号強度、民間海賊標準を超過』
セラの眉が寄る。
「海賊の暗号ではない?」
『暗号強度、民間海賊標準を超過』
『補給記録、一部削除済み』
『調査艦より追加観測データを受信』
『敵中型艦および小型艦の砲撃波形に、共通する出力制御を確認』
『異なる船体へ、同一系統の武装改修が行われた可能性があります』
セラは端末を操作し、表示を切り替えた。
「寄せ集めの海賊船に、同じ改修業者が武器を載せた……?」
「海賊にも切れ者はいるだろう」
「そういう話ではありません」
『司令。通信ログの復号を提案』
「わかった。許可する」
俺は正面の星の海へ目を向ける。
海賊は退き、第二艦隊は生き残った。主砲は撃てたし、艦も吹き飛ばなかった。
だが、兵たちは疲れ、腹も減っている。
戦の後に冷えた合成食をかじらせるのは、やはりよくない。
まずは飯だな。
そう考えた時、セラがまだ砲撃軌跡の記録を見つめていることに気づいた。
「エーテル……まさかね」
ほとんど独り言のような声だった。
『セラ。【エーテル】は、既存物理学では棄却された歴史的仮説です』
ノアの回答を無視するかのように、セラは端末から目を離さなかった。
その画面には、黄金の光が通った跡に残る薄い波が映っていた。
■あとがき
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