前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜 作:オカノヒカル
勝った。
艦橋ではまだ救難信号の整理が続いている。投降した海賊艦への警告、逃げた艦の追跡ログ、主砲砲身の冷却、艦首構造の歪み確認。通信卓の上では、赤や黄色の表示が忙しく明滅していた。
『投降艦一隻、武装停止を継続。反応炉出力、低下中』
ノアの声が、艦橋に響く。
『戦闘継続意思を示す敵艦影、現在なし』
「そうか」
俺は星図を見た。
海賊旗艦を示していた大きな赤点は、もうない。副砲で足を止めた二隻は、まだ宇宙の闇に小さく残っている。逃げた艦は遠ざかっていた。
追わない。
逃げる背中まで焼く趣味はない。
「主砲は?」
『主砲、冷却および艦首構造の点検完了まで再射撃不能』
古い杖に大きな術を通せば、芯に癖が残る。砲身も、無理に二度目を撃てば割れる。艦も同じだ。
この船は、よく耐えた。
「そうか。休ませろ」
『死亡者および重傷者なし。急加速時の転倒、打撲、裂傷による軽傷者あり。第二艦隊全体で軽傷者は二十三名。医療区画にて処置中。ただし、医療品在庫は基準値を下回っています』
「部品は?」
セラが端末を操作する。
「艦首補修材が足りません。放熱板の交換部品も足りません。副砲の冷却管も二本ほど寿命です。あと、主砲制御系に刻まれた未登録の発光パターンについては、私の胃に悪いので、あとで詳しく問い詰めます」
「胃薬が必要か?」
「もう飲んでます」
戦闘が終われば、次は傷を塞ぎ、弾を数え、兵を休ませなければならない。
前世でも、そこを間違える指揮官は兵をよく死なせた。
戦いが終わったあと、震えている若者に温かい汁を飲ませる方が難しい夜もある。
俺は艦橋を見回した。
操舵席の若い兵は、まだ肩に力が入っている。通信士は同じ報告を二度聞き返した。砲術席の男は、手袋越しに指を揉んでいる。緊張で固まった手が、今になって震え始めたらしい。
後処理を急がせた方がよさそうだ。
「揚陸部隊を出せ。投降艦を制圧。機関を止めた二隻は、救難反応を確認してから接舷しろ」
「捕虜の武装解除と負傷者の収容を優先します」
通信士が命令を各部署へ送った。
「逃走艦は追わない。各艦は周辺警戒を続けろ」
**
数時間後。
「セラ」
「はい」
「食堂は使えるか」
「……食堂、ですか?」
「そうだ」
セラが警戒した顔になった。
妙だな。俺は主砲を撃つとは言っていない。
「炉心を立て直してから、加熱設備の一部は復旧しています。ですが、まともな調理設備ではありませんよ。標準合成食の再加熱と配膳が限界です」
「十分だ」
「何をする気ですか」
「飯を食わせる」
セラは一瞬、言葉を失った。
ノアの青白い箱舟型ホログラムが、艦橋中央でゆっくり回転する。
『提案。司令官の発言意図を確認してください』
「意図も何もない」
俺は席を立った。
「腹が空いたままでは、兵は勝ったことも実感できん」
艦橋を出ると、通路には焼けた絶縁材と冷却剤、焦げた金属の臭いが残っていた。医療区画へ向かう担架の車輪が、床の継ぎ目を越えるたびに鳴っている。
壁際では、軽傷の兵が腕に包帯を巻かれていた。別の兵は、端末を抱えたまま床に座り込んでいる。戦闘が終わっても、兵たちの肩から力は抜けていなかった。
俺が通ると、兵たちは慌てて姿勢を正そうとする。
「そのままでいい」
そう言って、俺は先へ進んだ。
艦内表示に従って、居住区画の横を抜ける。細い通路を曲がるたび、古い船体が低く軋んだ。炉心を立て直したおかげで照明は戻っているが、壁の継ぎ目や配管の古傷までは隠せない。
古い船は、傷が見える方がいい。
どこを直せばいいか分かる。
ただ、食堂に近づいても、飯の匂いはしなかった。
そのことが、少し気に入らなかった。
食堂は、勝った艦とは思えないほど静かだった。
壁際の古い配膳ラインには、灰色の合成食ブロックが並んでいる。四角く、湿っていて、湯気がない。皿というより、補給箱に入れた方が似合う見た目だった。
兵たちはそれを黙って口に運び、噛み、飲み込んでいる。食事というより、決められた補給を済ませているようだった。
合成食そのものは、俺も知っている。
ロズベル家の食卓が、毎日まともだったわけではない。帝国貴族の映像に出てくるような焼きたてのパンや、香りの立つ料理など、下級貴族の家でもそうそう口にできるものではなかった。
地上にいた頃から、灰色の合成食は何度も食べた。
栄養はある。
腹も膨れる。
保存も利く。
便利ではある。
だが、戦の直後に食わせるなら、せめて温めるべきだ。
俺は一つを手に取った。
見慣れた灰色の塊だ。
この艦のものは特にひどい。温度も香りもない。水気を含ませた土のような色をしている。前世の干し肉の方がまだ愛嬌があった。あれは硬かったが、噛めば塩気くらいは出た。
「これが、普段の食事か?」
「標準合成食です」
セラが後ろで答えた。
「栄養価は規定を満たしています。保存性も高いです。戦闘後の簡易食としては、これが限界で……」
そこで彼女は言葉を止めた。
食堂にいる兵たちへ目を向けている。
誰もうまそうな顔をしていなかった。
「ただの燃料だな」
何人かが食べる手を止め、こちらを見た。
怒っているのではない。乾いた笑いを浮かべた顔だった。
俺は合成食ブロックを皿へ戻す。
「勝った兵には、温かいものを食わせろ」
『訂正。標準合成食は人体摂取用に調整された栄養食品です』
「なら、なお悪い。食える形にしていない」
ノアが沈黙した。
セラも、反論しなかった。
俺は配膳ラインへ歩く。
加熱口の縁は焼け、成形機のパネルは何度も交換されている。水分調整ユニットは低い唸りを漏らし、香味添加装置らしい小さな箱は半分眠っていた。排気口には、長いこと油の臭いが染みついていない。
それでも、加熱口と水分調整ユニットには電力が通っている。
「司令」
セラの声が硬くなる。
「そこは調理設備ではありません。合成食の再加熱と配膳用です。料理を作る場所ではありません」
「熱が通って、水が使えて、食材が流れる」
俺は加熱口の金属板に手を置いた。
「十分だ」
「十分ではありません」
『補足。食堂第二区画再加熱ライン、老朽化率七十二パーセント。調理用途への転用は非推奨』
「壊れてはいない」
『訂正。壊れかけています』
「なら、直しがいがある」
セラが額を押さえた。
「司令、その言い方をすると、本当にやる気ですよね」
「飯を作るだけだ」
「その『飯を作るだけ』が信用できないんです。炉心と主砲の前でも似たようなことを言っていましたよね?」
失礼な。
炉心も主砲も、爆発はしていない。
俺は配膳ラインの中を流れる熱と水の道を探った。
この世界の食堂設備は便利だ。合成食素材を量り、水分を足し、熱を通し、決められた形に押し出す。使用者は、仕組みを考えなくていい。押せば出る。食えば栄養になる。
だが、火の通りや水分、油のなじみ方まで気を配るようにはできていない。
噛んだときの抵抗。
飲み込む前に鼻へ抜ける香り。
そういうものは、規格では後回しにされるらしい。
「合成食ブロック、保存タンパク、油脂、水、穀物系の栄養素材。香辛料代替素材もあるか?」
セラが端末を見た。
「少量ならあります。主に士官用の嗜好調整材です。ただし在庫は多くありません」
「全部は使わん。今夜の分でいい」
俺は術式を細くした。
炉心に刻んだものより、ずっと小さい。
主砲に通したものより、ずっと柔らかい。
前世の野営で使った生活魔法に近い。濡れた薪に火を通し、硬い豆を戻し、干し肉の塩気を汁に逃がす。鍋底を焦がさず、火を強くしすぎず、腹に入る形へ整える。
ただ、それを鍋ではなく、金属の配膳ラインに通すだけだ。
黄金の光が、加熱口の縁を走った。
細い線が、成形機の古い継ぎ目に沿って伸びる。水分調整ユニットの配管へ入り、香味添加装置の割れた外装をなぞり、排気口の奥で淡く揺れた。
食堂の兵たちが息を呑む。
セラが一歩前に出た。
「待ってください。いま、食堂設備に何を刻みました?」
「火加減だ」
「それは食品加工規格に存在する制御ではありません」
『警告。食堂第二区画に未登録エネルギー干渉』
ノアの箱舟が、食堂の天井投影機に小さく映った。艦橋からこちらへ表示を移したらしい。
『加熱、水分調整、成形制御に規格外の変動を確認』
「また記録が増えましたよ、司令」
「よかったな。仕事が増えた」
「よくありません」
配膳ラインが、低く唸った。
最初に、穀物系の栄養ペーストが流れ込む。いつもなら固められ、灰色の板になるだけの素材だ。そこに少量の油脂と水を混ぜ、空気を含ませる。
膨らませすぎない。贅沢な宮廷パンではない。旅先で焼く、小さな丸パンでいい。
表面には薄く熱を通す。
中は固すぎず、崩れすぎないようにする。
続いて保存タンパクをほぐす。繊維を少し戻し、丸め、スープの中でほどけない程度に固める。肉ではない。だが、噛んだときに歯が何かを押し返す感触くらいは作れる。
水に油を少し落とし、香辛料代替素材をひとつまみ。
豆に似た栄養粒を入れ、塩気を整える。
配膳口の奥で、何かが焼ける音がした。
じゅう、と小さく。
それだけで、食堂の空気が変わった。
誰かが鼻を鳴らした。
別の誰かが、皿を持つ手を止める。
セラまで黙った。
配膳口から、小さな丸いパンが出てきた。
不格好だった。
形はそろっていない。表面にも少し割れがある。だが、割れ目から白い湯気が上がっていた。
その次に、深めの器へスープが注がれる。
薄い琥珀色の汁。
保存タンパクの肉団子が二つ。小さな栄養粒がいくつか。油が薄く輪を描き、香草に似た匂いがふわりと広がる。
食堂にいた兵たちは、誰も動かなかった。
当然だろう。
さっきまで海賊艦を撃ち抜いていた司令官が、今度は食堂設備を光らせて、見たことのないものを出したのだ。警戒するのも無理はない。
若い兵が、かすれた声でつぶやいた。
「パン……ですか、これ」
隣の古参兵が、配膳口を見た。
「映像でしか見たことがないぞ。帝国の貴族が食うやつだろう」
「本物の高級パンではありません」
セラが、端末で成分を確認しながら言った。
「材料は合成穀物ペーストと保存油脂です。保存タンパクも通常在庫から出ています。食材供給量に異常な増加はありません。ありませんが……」
そこで彼女は、パンを見た。
湯気が上がっている。
香りもある。
セラの眉間に深い皺が寄った。
「……なぜ、焼きたての香りがするんですか」
『揮発性香気成分、通常再加熱時の四・三倍。加熱分布および生成効率、既存制御ログと不一致』
ノアが淡々と告げた。
『食材供給経路、変化なし。未登録熱制御および食品加工現象と推定。ただし、調理過程の一部は記録不能』
「ノア、食べても平気か?」
俺が聞くと、少しの間があった。
『成分分析。人体有害物質、検出されず。総熱量および栄養成分、投入素材量と一致』
「なら、食える」
『補足。観測可能範囲では』
セラが小声で言った。
「その一言を付け足すの、やめませんか」
兵たちはまだ動かない。
俺は最初の皿を取り、近くの卓へ置いた。
「熱いぞ」
「……司令」
声を上げたのは、拿捕作業から戻ったグレッグ・ハルト准尉だった。
第二艦隊揚陸部隊の隊長で、顔や腕には古い傷が残っている。着替える暇もなかったのか、作業服の肩には海賊艦で付いた煤が残っていた。年齢はたぶん四十手前くらいだろう。
「毒味なら、俺が」
「毒ではない」
「分かっています。ですが、若い連中よりは俺が先でいいでしょう」
食堂にいた兵たちが、止めるような顔をした。
グレッグは皿を受け取り、パンを手に取った。
指で割る。
表面が、パリッと小さく鳴った。
中から湯気が立つ。
それだけで、何人かの兵が喉を鳴らした。
「この艦でパンの匂いを嗅ぐ日が来るとはな」
グレッグはパンをスープに浸し、口に入れた。
食堂が静まり返る。
噛む音だけが聞こえた。
一度。
二度。
グレッグは肉団子をひとつ口へ運び、器を両手で持ってスープをすする。
長い沈黙のあと、彼の肩がわずかに落ちた。
「……温かい飯なんて」
声が震えていた。
「何年ぶりだ」
誰も笑わなかった。
グレッグの目元が濡れているのを見ても、誰もからかわなかった。
兵たちは、それぞれの皿を見た。
冷えた合成食ブロックではない。
湯気の上がるパンとスープ。
高級料理ではない。形は不ぞろいで、手で持てば熱い。疲れた兵が黙って腹に入れられる飯だった。
若い兵が一人、恐る恐る配膳口へ進んだ。
次に、もう一人。
それから、列ができた。
皆、黙って受け取る。
席へ戻り、パンを割り、スープに浸して口へ運ぶ。
食堂に、少しずつ音が戻った。
器の触れる音。
息を吐く音。
誰かが小さく「うまい」と言った。
その声を聞いて、別の誰かが笑った。ほんの少しだけだったが、確かに笑った。
湯気の向こうで、兵たちの強張った顔が少しずつほどけていく。
前世にも、こうして温かいものを食わせてやりたかった者たちがいた。
だが、その後まで見届けることはできなかった。
飯を食えたのか。
眠れたのか。
無事に朝を迎えられたのか。
それは今も知らない。
だから、今は見る。
目の前では、兵たちが湯気の上がる飯を口に運んでいる。
「司令」
セラが隣に立っていた。
彼女の手には、成分表示の端末がある。
「これ、元は合成食ブロックですよね」
「そうだ」
「保存タンパクが、肉団子みたいな繊維構造になっています」
「噛み応えは大事だ」
「同じ栄養素材のはずなのに、なぜ香りが出ているんですか」
「飯だからだ」
「説明になっていません」
ノアの声が、天井から響く。
『士気関連指標、上昇。食堂内会話量、増加。心拍および呼吸パターン、戦闘緊張状態から回復傾向』
「ほら、効いている」
「そこは否定しません。否定しませんけど」
セラは、配膳口から出てきた小さなパンを見た。
危険物を調べる時と同じ目だった。
「……食べても?」
「食え。話はそれからだ」
「司令、その台詞を言う側なんですね」
セラはパンを割った。湯気に触れ、わずかに目を細める。
スープに浸し、口に入れた。
セラが黙る。
珍しい。
「どうだ」
「……悔しいですけど」
彼女は小さく言った。
「おいしいです」
『セラ技術士官の心拍数上昇を確認』
「ノア、食事中に測定しないでください」
『記録項目です』
「消してください」
『拒否。貴重な比較データです』
俺は少し笑った。
食堂が温かいというのは、いいものだ。
ただし、これで終わりではない。
俺は配膳ラインの在庫表示を見た。
合成食ブロックの残量は減っている。保存タンパクも減っている。香辛料代替素材は、元から多くない。油脂も十分とは言いがたい。
材料は在庫から使っている。火と水の通し方を変えただけで、量が増えたわけではない。
「セラ、在庫は?」
「減っています。通常食よりは少し効率よく使えていますが、無限ではありません。今夜は本艦の乗員分なら回せます。でも、毎食これを続けるなら補給が必要です」
「医療品は?」
「足りません」
「部品は?」
「もっと足りません」
「給料は?」
セラが嫌そうな顔をした。
「遅れています」
「そうか」
飯だけでは艦隊は動かない。
兵には食事がいる。薬も寝台も給料もいる。艦には部品が必要で、砲には冷却管がいる。
正規の補給路がなければ、いずれまた冷えた合成食へ戻る。
「司令?」
セラがこちらを見る。
「今夜の分はどうにかなった」
「はい」
「明日からの分は、別に考えんとな」
セラは少し目を見開き、それから食堂の兵たちを見た。
俺を見る目から、疑いが消えたわけではない。
それでも、列の最後の方では、若い兵がパンを嬉しそうに両手で包んでいた。落とさないように、必死である。
「ごちそうさまでした」
ぽつりと、誰かが言った。
それに続いて、別の声が上がる。
「ごちそうさまでした、司令」
「ごちそうさまでした」
声は大きくないし、そろってもいない。
だが、さっきまでの敬礼より、よほど重かった。
俺は少しだけ頷いた。
「食ったなら寝ろ」
兵たちが、ぽかんとする。
「寝不足の兵は、腹を空かせた兵の次に危ない」
「……了解しました」
グレッグが苦笑して敬礼した。
その敬礼は、最初に艦橋で見たものより少しだけ真っ直ぐだった。
食堂から兵たちが引き上げていく。
残ったのは、湯気の薄れた器と、配膳ラインの低い唸りと、端末を睨むセラ、それから天井近くに浮かぶノアの小さな箱舟だった。
『食堂第二区画、処理完了。未登録媒質反応、局所加熱制御の規格外変動。すべてログに保存』
「保存するなとは言わんが、壊れていないことも記録しておけ」
『記録済み。食堂設備、通常稼働範囲を逸脱しつつ安定』
「安定ならいい」
「よくありません」
セラは端末を閉じなかった。
記録を何度も遡り、炉心と主砲と食堂のログを並べている。
「司令」
「何だ」
「炉心で起きた異常出力。主砲へ刻まれた発光パターン。それから、今の食堂設備」
彼女は指を一本ずつ折るように言った。
「どれも既存科学では説明できません」
「そうなのか?」
「そうなのか、ではありません」
『同意。既存分類に該当しない現象が連続発生しています』
ノアが続ける。
『未登録媒質反応。エネルギー収支不一致。艦内素材再構成現象。いずれも司令官の接触、または指示後に発生』
「よく記録しているな」
『職務です』
「偉い」
『評価を受領。ただし、説明要求を継続』
セラが一歩近づいた。
食堂の照明が、彼女の目の下の隈を照らしている。戦闘から応急処置、解析まで、ほとんど休まずに動いていたはずだ。
それでも、彼女は引かなかった。
「司令。あなたは、いったい何者なんですか?」
俺は答えようとして、少し考えた。
ロズベル家の三男。
第二艦隊の司令官。
そして前世では、大魔道士。
どれも間違ってはいない。
だが、どれを言っても、この技術士官は納得しないだろう。
俺は器の底に残ったスープを見た。
湯気はもうほとんど消えている。
「ただの司令官だ」
セラの眉が跳ねた。
「それで説明がつくと思っていますか?」
「少なくとも、今はな」
『提案』
ノアの声が、食堂に響いた。
『司令官に対する事情聴取を実施してください』
俺は天井の箱舟を見る。
「今度は医療区画ではなく事情聴取か」
「私はノアに賛成です」
セラが真顔で言った。
どうやら、飯を食わせただけでは済まないらしい。