前日譚を追加しました。
あなたは。
いつものように。
洞窟に向かっている。
日差しは。
まだ高い。
額には。
少し汗。
体はちょっと重い。
でも。
洞窟へ向かう足取りは。
少しだけ軽い。
しばらく歩いて。
草の陰に。
黒い石を見つける。
洞窟の中でも。
よく目にする石。
あなたは。
拾ってみる。
表面は。
つるり。
滑らか。
だけど。
陽の光に照らされて。
少し熱を持っている。
手のひらで。
ころ。
と転がす。
すると。
洞窟の入り口の前で。
いつもの。
黒い姿。
ギデオン。
日陰を選ぶように。
きょろ。
きょろ。
辺りを見回している。
「ギデオン?」
あなたが。
声をかける。
「……あ。」
ギデオンが。
あなたを見つける。
ちょっと。
まぶしそうに目を細めている。
「珍しいね。」
「どうしたの?」
「……さがしもの。」
少し間があって。
ギデオンが。
洞窟の入り口を見る。
それから。
地面を見る。
「寝袋と……。」
もう一度。
辺りを見回す。
「たぶん。」
「クラゲガヴィア。」
「たぶん?」
ギデオンは。
地面に視線を落とす。
「……なんとなくだけど。」
「起きてから」
少しだけ。
言葉を探す。
「しばらく。」
「クラゲガヴィアが。」
「ぼくの寝袋を。」
「つついてた気がして。」
しっぽが。
ゆら。
「違うかもしれないけど……。」
一瞬だけ。
ギデオンと。
目が合う。
あなたは。
少しだけ笑って。
「じゃあ。」
「一緒に探そうか。」
ギデオンは。
ぱちくりする。
それから。
小さく。
うなずく。
「……うん。」
ふたりで。
洞窟の周りを。
歩き始める。
草の影。
岩の隙間。
洞窟の入り口の。
少し上。
寝袋らしいものは。
見つからない。
もちろん。
クラゲガヴィアも。
いない。
ギデオンは。
少しずつ。
洞窟から離れていく。
しっぽが。
ゆら。
ゆら。
途中で。
立ち止まる。
「……。」
あなたも。
ギデオンの後ろで。
止まる。
ギデオンは。
辺りを見回す。
それから。
少しだけ。
息を吸う。
「……。」
なにも言わない。
隣にやってきて。
あなたは首をかしげる。
「呼ばないの?」
「……呼ぼうと思ったんだけど。」
ギデオンは。
少し困ったように。
地面を見る。
「なんて。」
「呼べばいいのかなって。」
「……?」
ギデオンは。
指を折るように。
少し考える。
「クラゲガヴィア。」
「……ちょっと長いし。」
「ガヴィアだと。」
「別のガヴィアもいるし。」
少し間。
「ぷ。」
ギデオンが。
試しに。
小さく言ってみる。
……。
なにも起きない。
ギデオンは。
あなたを見る。
「……これは。」
「名前じゃないよね。」
あなたは。
すこし笑う。
ギデオンも。
もう一度。
考える。
「……もちもち。」
……。
ギデオンのしっぽが。
ぴた。
止まる。
「……違う気がする。」
「うん。」
また。
少し間。
風が。
草を揺らす。
さわ。
さわ。
ギデオンは。
辺りの森に向かって。
少しだけ。
声を張る。
「……クラゲガヴィアー。」
……。
ふたりで。
待つ。
返事は。
来ない。
「……。」
もう一度。
「クラゲガヴィアー。」
少し遠くで。
鳥の声。
ギデオンは。
あなたを見る。
「……やっぱり。」
「これが一番。」
「わかりやすいね。」
その時。
川の方から。
かすかに。
「ぷ。」
ギデオンの耳が。
ぴく。
あなたも。
そっちを見る。
「……今。」
「聞こえたね。」
ギデオンは。
川の方へ。
少しだけ。
声を張る。
「クラゲガヴィアー。」
少し間。
「ぷー。」
今度はちゃんと。
返ってきた。
「……いた。」
あなたとギデオンは。
声の方へ。
歩いていく。
茂みを抜けると。
小さな川。
その浅瀬に。
茶色くて。
もちもちした姿。
クラゲガヴィア。
「ぷ。」
水の中で。
もち。
もち。
している。
そして。
そのすぐそば。
岩に引っかかっている。
ギデオンの寝袋。
びしょびしょ。
水をたっぷり吸って。
少しだけ。
重そう。
ギデオンは。
立ち止まる。
「……あ。」
寝袋を見る。
クラゲガヴィアを見る。
もう一度。
寝袋を見る。
「……見つかったね。」
あなたは。
少し笑う。
クラゲガヴィアは。
あなたたちに気づくと。
浅瀬から。
ぽて。
ぽて。
近づいてくる。
「ぷ。」
ギデオンは。
少しだけ。
しゃがむ。
「……まいごだったの?」
クラゲガヴィア。
「ぷ。」
ギデオンは。
少し待つ。
……。
それ以上は。
何もない。
「……そっか。」
その時。
川の中を。
きら。
小さな魚が。
泳いでいく。
クラゲガヴィア。
ぴた。
魚を見る。
じー……。
「ぷ。」
くるっと。
あなたたちに。
背中を向ける。
ぽて。
ぽて。
そのまま。
川へ。
ずん。
ずん。
入っていく。
「……あ。」
水は。
少しずつ。
深くなる。
でも。
クラゲガヴィアは。
流れに押されても。
もち。
もち。
少し形を変えながら。
魚についていく。
魚は。
まだ。
すぐそこ。
きら。
きら。
クラゲガヴィアも。
ずん。
ずん。
その時。
ひら。
一匹の蝶。
クラゲガヴィアの。
すぐ横を。
横切った。
ぴた。
体は。
まだ。
魚の方を向いている。
でも。
目だけ。
蝶を見る。
「ぷ。」
魚は。
まだ。
泳いでいる。
蝶も。
ひら。
ひら。
岸の方へ。
クラゲガヴィア。
魚を見る。
蝶を見る。
もう一度。
魚を見る。
……。
蝶を見る。
少し間。
くる。
今度は。
岸の方へ。
ずん。
ずん。
戻ってくる。
ぽて。
ぽて。
そして。
そのまま。
蝶の方へ。
……と思ったら。
その途中で。
あなたたちを。
見つける。
ぴた。
「ぷ。」
蝶は。
まだ。
すぐそこを飛んでいる。
でも。
クラゲガヴィアは。
今度は。
あなたたちをみる。
ぽて。
ぽて。
こっちへ。
戻ってくる。
ギデオンは。
近づいてくるクラゲガヴィアを。
じっと見る。
「……。」
クラゲガヴィア。
「ぷ。」
ギデオンの足元まで。
やってくる。
その時。
川の中で。
きら。
さっきの魚。
クラゲガヴィア。
ぴた。
くる。
「ぷ。」
また。
魚を見る。
ギデオンも。
魚を見る。
それから。
クラゲガヴィアを見る。
「……さっきの。」
少し間。
「魚だよ。」
クラゲガヴィア。
「ぷ。」
一歩。
魚の方へ。
ぽて。
でも。
その足元に。
小さな石。
ぴた。
じー…。
魚を見る。
石を見る。
もう一度。
石を見る。
「ぷ。」
今度は石の方へ。
もち。
もち。
ギデオンは。
その様子を。
しばらく見ている。
しっぽが。
ゆら。
「……まいごって。」
ぽつり。
「行きたいところがあるから。」
少し間。
「迷うのかもね。」
あなたは。
クラゲガヴィアを見る。
クラゲガヴィアは。
そんなことを聞いているのか。
いないのか。
小さな石を。
じー…。
「ぷ。」
もち。
もち。
している。
ギデオンも。
その様子を見る。
それから。
川を見る。
魚はもう。
どこかへ行ってしまった。
蝶も。
草の向こうへ。
消えている。
でも。
クラゲガヴィアは。
困っていない。
「……クラゲガヴィアは。」
「行きたいところが。」
「そのたびに。」
「変わるのかな。」
あなたは。
少し考える。
クラゲガヴィアは。
もう。
石のとなりに生えた。
小さな草を。
見ている。
「ぷ。」
ギデオンは。
少しだけ笑う。
「……やっぱり。」
「迷ってないのかも。」
川のそばでは。
びしょびしょになった寝袋が。
まだ。
岩に引っかかっている。
ギデオンは。
それを手に取って。
じー…。
「寝袋は。」
「まいごだったけどね。」
あなたは。
少し笑う。
ギデオンも。
ほんの少し。
笑った。
それから。
足元を見る。
……。
クラゲガヴィア。
もういない。
「……あれ?」
ギデオンが。
川を見る。
岸を見る。
草むらを見る。
さっきまで。
そこにいたはずなのに。
もう。
どこにもいない。
「……行っちゃった。」
あなたも。
辺りを見渡す。
魚も。
蝶も。
クラゲガヴィアも。
もう。
見えない。
ギデオンは。
少しだけ。
立ち尽くす。
それから。
びしょびしょの寝袋を見る。
「……帰ろうか。」
あなたは。
うなずく。
ギデオンは。
水を吸って重くなった寝袋を。
両手で持ち上げる。
ずし。
「……重い。」
ふたりで。
洞窟へ。
戻っていく。
帰り道。
あなたは。
濡れた寝袋を持っている。
ギデオンは。
何度か。
後ろを振り返る。
でも。
クラゲガヴィアの姿は。
ない。
しばらくして。
洞窟の入り口。
中へ入ると。
ひんやり。
いつもの温度。
あなたは。
寝袋をそっと下ろす。
ギデオンは。
洞窟の奥を見る。
「……あ。」
いた。
水辺。
クラゲガヴィア。
もう。
帰ってきている。
「ぷ。」
しかも。
アライグマくんに。
洗われている。
しゃか。
しゃかしゃか。
クラゲガヴィアは。
もち……。
もち……。
気持ちよさそう。
ギデオンは。
しばらく。
その様子を見る。
それから。
あなたを見る。
「……先に帰ってたね。」
「そうみたい。」
しゃか。
しゃかしゃか。
「ぷ。」
少しして。
洗浄完了。
クラゲガヴィア。
つるん。
ぴかぴか。
クラゲガヴィア。
「ぷ。」
その時。
どこかから。
ぴょん。
小さな。
緑色。
カエルさん。
クラゲガヴィアの頭に。
ちょこん。
「……けろ。」
クラゲガヴィア。
少しだけ。
上を見る。
「ぷ?」
でも。
そのまま。
ぽて。
ぽて。
歩き始める。
カエルさんを。
乗せたまま。
ギデオンは。
ふたりの後姿を見る。
しっぽが。
ゆら。
「……まいごじゃなくても」
少し間。
クラゲガヴィアは。
もう。
洞窟の奥へ。
ぽて。
ぽて。
「帰る場所が。」
「あるといいね。」
あなたも。
その後ろ姿を見る。
水辺では。
アライグマくんが。
もう。
寝袋を洗っている。
しゃか。
しゃかしゃか。
ギデオンのしっぽが。
ぴた。
止まる。
「……それは。」
「……もう濡れてるよ。」
洞窟の奥から。
「ぷ。」
「……けろ。」
洞窟の中の。
みんなの様子を見て。
あなたは。
何気なく。
ポケットに手を入れる。
指先でなにかが。
こつり。
あたる。
あの暑さの中にあった。
まいごでもなかった小さな石ころは。
少しだけ。
ひんやりとしていた。