この世界の守護者となるという選択を捨て、独力をもってして100人の命を救った彼は、その後の多くの活躍と類まれなる実力を認められ、英雄と呼ばれる存在となった。
そんな英雄も、老衰には勝てなかった。
英雄として人々に悲しまれながら死にゆく中で、彼は魂が何かに引き寄せられるのを感じていた。
そして、声が聞こえた。
『お疲れ様シロウ』
とても懐かしい声が
『みんなのために、頑張ったね』
自分にとって、決して忘れてはならない存在の声が
『でもね、みんな想ってるの、もっと自分の為にって』
家族の声が
『だから今度は自分の幸せの為に、新しい命を楽しんでね』
姉の、声が
第一話 幻想入り
「あー、暇だわ」
そよ風が木々を通り抜け、小鳥たちが囀り綺麗な音色を作る。
陽は木々に遮られアートの様な影を地面に描いていた。
そんな楽園のような光景の中に一人の少女が佇んでいた。
おおきな紅いリボンを頭に、服装はといえば主に紅色を基調とした巫女装束を着用している。この巫女装束には袖がついておらず、白色の袖を別途、腕に括りつけ、肩と腋の部分を露出させており、下は袴ではなくスカートになっている。
とても整った顔立ちをしており、年の頃は外見だけ見れば14~16程度に見える。
巫女装束を着ているのは何も伊達や酔狂ではなく、彼女が巫女という職業に身を
そして彼女の住まいも神社である。
神社の境内から続く石畳を彼女は今掃除していた。
「そーんな暇暇言ってたら暇じゃなくなった時に忙しいとしか言えなくなっちゃうぜ」
石畳から境内に登る小さな階段に腰掛けている少女がいた。
年の頃は同じくらいか、綺麗な金髪と大きな黒いとんがり帽子、そして傍らに携えた箒が彼女を魔女だと主張している様である。服装は黒を基調としており、西洋の魔法使いを形にしたかのようなファッションだ。
凛とした顔立ちとは裏腹に、口元に浮かべる笑みは幼さを残している。
「霊夢が忙しくなったら私も会いに来る機会が減っちゃうかもしれないだろ?そんなのいやだからな、暇を満喫しようじゃないか」
霊夢と呼ばれた巫女装束の少女は魔法使いの少女の言葉を受けて箒を掃く手を止めた。
眉間にしわを寄せて嫌そうな顔を作り、小声で呟く。
「嫌な予感・・・」
霊夢は箒を右手に携えると、境内から石畳を進んだ先にある大きな赤い鳥居の上へとその場で無重力の空間にいるかの如くフワリと浮き上がり、そのまま一直線にそちらへと飛んで移動した。
空中を飛んだその動作は普段から行っているのか、一切の滞りは見られなかった。
「お、おい霊夢どうしたんだ?」
その急な移動を見て魔法使いの少女は箒に跨り、周囲の葉を散らすかのように風を噴出させて浮き上がり、鳥居の上に着地する。
「魔理沙、たぶん何処かに何か落ちてくるわよ・・・」
「いっ!?」
魔理沙と呼ばれた少女はその言葉に驚きを隠せず、思わず周辺を見回すがどこにもそういった予兆は見られない、
「そ、そうは言っても何もないぜ・・・空には鳥一匹とんでないみたいだしよ」
魔理沙は空を仰いでみるが目を焼かんばかりの太陽光と雲一つない晴れ渡った青空しか目には入ってこない、
「ううん、来る」
確信を秘めたその言葉の直後、
「来た」
言葉が事象を呼び込んだのかと疑ってしまうほどのタイミングだった。
何も告げず、霊夢は境内へと振り返り、鳥居を下りて駆け出した。
「えっ、ま、待てよ霊夢!」
慌てながらも魔理沙もその後に続く。そして、霊夢のそんな様子を見て、魔理沙はふと思い出した。
霊夢の予感は昔からとにかく当たる。
それは、嫌というほどにそれは実感してきた。霊夢が唐突に右からなにか来るといえばカラスが飛んできて魔理沙のトンガリ帽子を奪っていったり、今日は雨が降る気がすると霊夢が言った10秒後に土砂降りの雨が降ってきたりとロクなことは起きないのだ。
そう、そして恐らくは今回も・・・
そこまで思考を巡らせたところで、魔理沙は目の前で始まった光景に思考を止めた。
いや、自ら止めたのではない、止められたのだ。
境内の、そう丁度賽銭箱の上、何も無い空間にだ。
空間が裂け、裂けて覗いた穴から大量の目が見えたかと思うと穴から何かがずるりと落ちてきた。
下にあった賽銭箱をクッション代わりにして、ソレ・・・というよりもそいつは現れた。
人型・・・というよりも間違いなく人だろう。
褐色の肌に白い髪の毛、赤い外套を身に纏い、見る限りでは内側に黒いボディスーツを着込んでいるようだ。
「お、おいあんた大丈夫か?」
魔理沙が声をかけると、その人間はのそりと起き上がり頭を抱えた。
「ん・・・」
落ちた際に頭でも打ったのだろうか、そいつの下にはバラバラに砕け散った賽銭箱があり、それにはもちろん金具もいくつか使われている。
そんな場所に頭でも打とうものなら流血沙汰は避けられない、
見れば、頭部から一筋の赤い線が流れている、先述の通り頭部を打って流血してしまったのだろう。
「わ、わたしのお賽銭箱が・・・」
霊夢はというと、目の前で怪我をした男性よりも自分のお賽銭箱が砕け散った事の方がショックなようだ。
相変わらずマイペースというか、変わり映えのない親友に魔理沙は呆れながらも目の前にある問題を優先した。
「なぁ、あんた大丈夫か?怪我してるみたいだけど」
言ったあとから怪我をしている人間に大丈夫かと問うことがいかに無駄なことか気づいて魔理沙は少し恥ずかしくなった。が、頭を抱えた目の前の人間は気づいていないようだ。
見れば男、猛禽類にも似た目付きをしているが、険しさは感じられない、優しい目をしていた。
「ふむ…」
その男は深く目を閉じると自己の内面へと意識を集中した。
心よりも深い場所へと、
―――
――身体機能の解析を開始――
――身体機能は衛宮士郎19歳時点の物と判明――
――頭部の損傷を確認――
――治癒術式の発動をもって治療可能――
――魔術回路に変更を確認――
――魔術回路40本を確認――
――40本正常作動――
――無限の剣製の使用可能――
――投影武具はランクが1段階落ちるのみ――
その男、衛宮士郎は驚いた。
自分の性能に、というよりも、この新しい肉体に、
かすかに残る記憶、姉の声、まさか新しい生を成熟した段階から送ることになるとは思いもよらなかったが、慣れ親しんだ自分の体であるということは安心と安定を士郎に与えた。
「だい、じょうぶだ」
小さな痛みを頭部に感じ、身体の重みに少し言葉を濁してしまった。
「本当か?」
それを受けてか魔理沙が訝しむように見つめてくる。
見るからに出血している人間が大丈夫と言ってそれを信じられるのは軍隊のスパルタ教官くらいの物だろう。
「あぁ、大丈夫、私は大丈夫だ」
それは魔理沙に言ったようにも、自分に言い聞かせたようにも聞こえた。
「(…抜けない)」
実際のところ、先ほどの着地・・・というよりも転落の時点で賽銭箱に思いっきりハマってしまい少し困っていたりするのだが、初対面で弱みを見せたくないのか士郎は嘘を吐いた。
魔理沙は元賽銭箱の上にほぼハマる形で身動きの取れていない士郎に手を差し伸べた。
「ほら、手を出せって」
士郎自身、その手を受けて立ち上がる補助をしてもらった。
自己解析の結果体に異常は見られなかった、しかし、どうにも寝起きに近い感覚でうまくちからを込めることができなかったのが理由だ。
それは文字通り生まれたばかりなのだから仕方が無いのだが、生前と同じ感覚で動こうとしてしまうが故に起こる弊害というやつだ。
「すまんな・・・あぁ…」
お礼を言おうとするも、名前がわからず思わず言い淀む。
「私は魔理沙、霧雨魔理沙だ!よろしくな!」
快活に挨拶をした魔理沙に対して、士郎は右手を前にだして応えた。
「私は衛宮、衛宮士郎だ。よろしくな魔理沙」
「あぁ、それでこっちは…」
差し出された右手は握手を求めての物だった。
魔理沙はその友好的な振る舞いに笑顔で答え握手をし、その場にいるもう一人、魔理沙の親友でもある霊夢の方へと向き直った。
霊夢はというと放心状態からまだ返ってきていないようで口をポカンと開けて魂でも抜け出したかのような顔をしている。
「私の・・・私のお賽銭箱・・・お賽銭・・・私のお賽銭・・・」
まるで呪詛のようにつぶやき続けるその姿に士郎はもちろん、親友であるはずの魔理沙ですら近寄り難さを覚えた。
「すまない、私のせいで賽銭箱壊してしまったらしい」
謝罪をしたのはもちろん衛宮士郎である。見事な斜め65度の完全謝罪体勢、いつもならばこれで剥き出しになった矛も納まるのだが、今回は相手が悪かった・・・
「あんたのせい?あんたのせいって言った?あんたのせいなのよね?あんたが悪いのね?あんたが原因?あんたが賽銭箱を壊した?あんたは敵?あんたは誰?敵?敵よね?敵以外の何者でもないわ!」
呪詛は質問へ、質問から断定へと変化した霊夢の言葉は敵意を持って士郎へと向けられた。
「お、落ち着いてくれ!そのくらいなら」
『私が直すから』、その言葉は届く訳もなく。
「そのくらい?そのくらいって何よ私にとっては大切なお賽銭箱だったのに、えぇそうね確かにあなたからすれば何の思い入れもない汚い箱だったかもしれないけど私にとっては大事だったのよ!そんなに人の気持ちを踏みにじるのが好きなの?もしもそうなら・・・!」
「れ、霊夢落ち着けって!士郎も謝ってるだろ!」
届かなかったハズの言葉に返されたのは、
「謝罪っていうのは自らの非を認める行為よ、なら、倒しても構わないわよね!」
眩い光の雨だった。
「なっ!?」
それはまるで花火の様に、それでいて花々しさ以上に訪れる恐怖の物量、霊力に物を言わせた極彩色の弾幕が向けられた。
スペルカードルール、博麗霊夢が発案した揉め事を穏便に済ませるそのルールは、穏便に済ませるために威力はもちろん非殺傷、美しさと心の隙間、それを曝け出し相対するのがスペルカードルール、けれどもそんな事を知らない士郎からすれば唐突に殺されそうになっているのと変わりない。
さらに、自分の隣には先ほど自分を起こしてくれた魔理沙という少女がいる、となれば避けるわけにもいかなかった。
「くっ…!」
士郎は自分の身をもって魔理沙を抱きしめると魔理沙に弾幕が当たらないように包み込んだ。
「な、え!?」
大量の弾幕が士郎へと叩き込まれ、腕の中の魔理沙にも微弱ながら衝撃が走る
何発あたっているのか数える余裕もない、まるで機銃、途絶えることのない津波、恐ろしきはその威力以上にやはり物量だ。
振り返れば正面に喰らう、荒れ狂う光の暴流は士郎の身体に痛みを与え続けた。
「なっ、なんで避けないんだよ!」
「(避ける?避けない?)」
魔理沙の訴えが聞こえるが、今の士郎には現状をうまく把握することすら出来ておらず、魔理沙を守ることで精一杯だった。
「(その様な選択肢、私は持ち合わせていないな)」
「ぐっ・・・!」
痛みはまるでないのだが、揺れを引き起こすような衝撃が士郎の背から押し寄せていた。
士郎から見た魔理沙は活発な少女で、こんな弾幕の嵐を避けられるとは思いもしなかった。
「あーっはっはっは!私が貧乏なのもあんたの所為よ!」
霊夢はといえば、もはや完全に日頃の鬱憤をぶちまけているだけだった。どこか楽しそうにすら見えるその表情は明らかに正気のものではなく、目の焦点が合ってないようにすら見えた。
正直、理論も理屈も一切ない、それでいて話を聞く様子もないと来たら面倒そのものだ。
「あーもう、士郎!どけ!」
途絶えることのない嵐の中、その声は響いた。
唐突に腕の中から聞こえたその声に士郎は戸惑った。
「!?」
『どけ』と言われてもと士郎は狼狽した
魔理沙は士郎の腕を掴んで自分との立ち位置を交換すると、懐から六角形の小さな筒のようなものを取り出した。
わずかながらも魔力を帯びたその筒は魔理沙の掌にすっぽりと納まっている。
「こんの・・・」
言葉と共に狙いをつける。
士郎はその瞬間、魔理沙から魔力がほとばしるのを感じた。
魔理沙の足元からまるで暴風のように荒れ狂うその魔力の本流は青白い光を帯びて目に見えるほどだった。
そしてその魔力は、彼女がその手に持つ小さな筒へと集中した。膨大、その一言に尽きるその魔力が、筒の中でさらに圧縮され今にも飛び出さんと暴れまわっている。
「頭を・・・冷やしやがれ―――!」
―――恋符・マスタースパーク―――
星の光にも似た、しかしそれよりもどこか身近に感じる極彩色の輝きが弾幕をかき消し一直線に発射された。
音さえもかき消すその一撃、昼の明りさえもさらに照らし出す星の光、
天へと昇らんとする一筋のほうき星、輝く以上に煌き、煌く以上に光る。
「綺麗だ・・・」
士郎は記憶の奥底にある星の光にも似た一撃を思い出していた。
そして、その一撃を放った王を、
「本当に、綺麗だ・・・」
そんな事をおもわず士郎が呟く中、一人の巫女が輝きに包まれた―――
改訂箇所報告!
1.精神的にはほぼアーチャーですが、甘い部分も残っています。
一人称は『私』(以前は『俺』)
2.文末に句読点を追加。
3.感想で頂いていたネギ魔要素をFate風に置き換えての再構築。
4.文章の追加
5.文章間の空白の調整、幾つかの箇所で変更がされています。
大変お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。
牛歩での改訂更新となりますが、章ごとにやっていきますのでご容赦頂きたいです!