既に、何度失敗したのか分からない。
既に、何度諦めようとしたのか分からない、
所詮は机上の空論、そう諦めれば納得ができる?
出来るわけがない、衛宮士郎はそれを成すと決めた。
ならば、どれだけの困難が付きまとおうとも、どれほどの挫折が行方を阻もうとも、
衛宮士郎はそれを成すだけだ。
修行の内容は投影魔術の自身への投影、正確には投影魔術を概念化し、それを自身に投影するという出鱈目な物だ。
名付けるのであれば、
衛宮士郎が参考とした物に順じるならば、その魔法を習得することはすべてを受け入れるということになる。
己の弱さも強さも受け入れて、なおも強さを求めるからこその魔術、
魔術の概念化など、到底成し得る事が出来る物では無い。
しかし、自身の投影する事が出来る剣であれば、そして、剣に親和性を持つ自身であれば…。
全てを受け入れる…それは過去の人生で抗いを続けたこの身にとって、挑戦でしかない…胸の内で吐き捨てた。
「やるか…」
今日で、既に23回目の挑戦になる。
己の肉体を酷使する。それは全てのことにおいて強くなるための条件だ。
生を受けたその日から、人間は戦うことをやめてはいけない、そんな言葉を誰かが言っていた。
ならば戦おう、この生ある限り、ならば臨もう。
――より高みへ!
術式の失敗から既に皮膚は張り裂け、剣による修復が行われている。
この技術に失敗すれば、自身の内に投影を行う形になり、身が文字通りに張り裂ける思いをすることになる。
その痛みが、衛宮士郎を冷静にした。
「――撃鉄を、引き起こす――」
目を閉じて、心を張り詰める。
一筋の線をイメージする。
そこに、波を走らせる。
心拍のリズムに合わせて、
トクン、トクンと――
――右手を前に
「――
――竜の住処より見つかりし剣。
――古は北欧、その剣はただ殺害のためにあり、ただ突き通すために存在した。
文字に込められた意味は――突き刺すもの―ー
その名を――刺突剣フロッティ――
士郎の思考の内に、無骨な、何も装飾のない青銅の柄をした異常なまでに先端が鋭い剣が現れる。薄く透けた青白い刃、ただ対象を刺す事だけに特化した剣、宝具としてのランクはC-といったところ。
次に必要なのは、この剣を収束させ、
形にこだわるな、
ただ、収束させろ。
その歴史を、刻まれた年月を、大いなる神秘を、
概念という形の無い物へと―――。
「――概念化《コンセプティション》――」
―――もとより神秘の塊である宝具を、収束させ、より密度の濃いものとする。
それは、宝具に刻まれた歴史への挑戦といえよう。
腕に、筋肉に、神経に負担がかかる。
血管、そこに通る血液が痛いほどに熱くなる。
「ぐ、あ・・・あぁああぁあぁああ!」
思考を一つに、先のことなど気にするな!何が起きようともそれが結果、あがくのではなく過程とせよ!そこに求めるものは強さ!そこに求めるのは是!
宝具に宿りし神秘が、魔力が、その存在が、
収束、凝縮、
異常なほどの熱が衛宮士郎を包み込み、周囲の水分と反応して蒸気が生まれる。
その大量の蒸気のなか、男は立ち、その身の内に確かな物を発現させんと歯を喰いしばる。
衛宮士郎の体内に、確かな何かが芽吹いた。
それを生み出したうえで、
「
その力の奔流を、
「
その内へと宿す!
自らに内から広がらせる様にして神秘を、魔力を、概念を、その力を
心臓が剣で刺されたのではと錯覚するほどの痛み、
全身が痺れ、痛み、血管の至るところから血が吹き出る。
その痛みすら、その苦しみすら、その神秘の重みすらも噛み締める
自分に言い聞かせるのではなく、自分が世界に呼びかける。
受け入れよう!この痛みを!
受け入れよう!この体で!
刺突剣フロッティの神秘性が、己の起源、属性と混ざり合う。
すなわちは剣、体が、魂が、剣の意思ともいうべき何かと融合を果たす。
受け入れた。
「ふ…ぅ、くっ」
そこに衛宮士郎は強さを得た。
『
その結果、衛宮士郎は姿を変えた。
まるで剣の本質を体現したかのような姿へと、
その指先は一本一本が剣のよう。
指を揃えればそこには刺突剣フロッティを思わせる刃が現れる。
それも、その鋭さは見る者の心に突き刺さるかの様、
瞳は純度の高いサファイアのように蒼く、溢れ出る魔力の奔流は蒼炎を思わせた。
己が術を身に纏う、その術の系統は『術式兵装』、
そして、この誰も成し得ぬ刺突剣フロッティによる術式兵装に名をつけるのなら、
――――
恐るべき突破力を持つその姿は、まさに『剣』と呼ぶに相応しかった。
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その後、貫刺穿道を解除した士郎はいくつかの宝具でも試してみた。
出来たのはせいぜいがBランク宝具まで、
Aランク以上の宝具に至っては概念化させることすら難しい、
それでもいつかは・・・、
士郎は空を見上げた。
月が夜の闇を切り裂くように輝いていた。
数多の星がそこにはあった。
ふと、星の輝きからあの日、あの土地で共に戦った『女性』を思い浮かべる。
届くのだろうか、あの輝きに、
「いや」
衛宮士郎は決めたのだ。
「届いて見せるさ」
待っていろ、
私はまだ、強くなる――。
眼が覚めると、私は布団で眠っていた。
いつの間に布団に移動したのか、記憶がなかった。
確か、部屋の隅で眠って・・・それから、
ぼんやりと記憶を思い返してみていると、耳に、確かに残る声が、
『ただいま』
あぁ、そうだ。
士郎が帰ってきて、それで私を布団まで運んでくれて、
そっと、士郎が運んでくれたときに触れられた箇所に手をあてる。
もう、手の感触なんて覚えていない、
ただ、そこには不思議な熱だけが残っていた。
「あ…」
ふと、残念に思った。
「おかえりって、言えなかった」
呟いて、気がついた。
ふわりと漂ってきた味噌の香り、
きっと彼は、厨房にいる。
寝ぼけた頭で、考えたことは1つ、
「おかえりって、言いに行こう」
結果、調理場手前に来てようやく自分の髪の毛が寝ぐせで少しボサついているのに気が付く霊夢であった。
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下ごしらえをしておいただけあって、夕食はすぐに完成した。
魔理沙からもらったきのこを使用したきのこごはん、豚肉のニンニク生姜炒めのキャベツ添え、そしてお味噌汁という簡単な品揃え、
アリスからもらった特製のハーブティー、とはいっても味は烏龍茶に近いものを一緒にいただく。
今日、魔法の森を見た感想としては『住み心地がよさそう』だった。
もしもあの場所に住めば、魔理沙とアリス、もしも他にあの森に住民がいるのならその人とも仲良くなって、狭い界隈ではあるが友好な関係が作れるだろう。
しかし、違うのだ。
違う、うまく言葉にできないが、衛宮士郎は『あの場所ではない』そう思った。
効率や秘匿性、生活などを考えればあの場所は素晴らしい場所だろう。
だが、『住みたい』と思わなかった。
こんなことを想うのは魔理沙やアリスに失礼か…そうも感じたがあの森にいるとき、頭をよぎったのはこの神社だった。
何故だろうか、この神社には参拝客もいれば、霊夢もいる。
どう考えても何かを秘匿するのに向いている場所では無い。
そしてその霊夢には、もうこれ以上迷惑をかけられない、
なのに、『住みたい』と思うのはこの神社なのだ。
「・・・出ていく、か」
その必要は、本当にあるのだろうか、
もしも霊夢が許可をしてくれるのなら、このままここに・・・。
そこまで考えた思考を、遮るものがあった。
「お、おかえり」
声の方を向くと、居間と厨房を隔てる一枚のふすま、そのふすまから半身だけ覗かせる霊夢がいた。
何故そんな不思議な構図をとるのだろうと思いながらも、その言葉が嬉しかった士郎は、自分でも気がつかないうちに顔をほころばせた。
「あぁ、ただいま」
思考が中断されたことで、士郎は開き直った。
今、考えることはよそう。
今はただ、帰ってきたこの家で食事を、
心休まる時間を大切にしよう。
「さぁ、夕餉にしようか」
一人は、ある言葉を言えた嬉しさに、一人は、ある言葉を返せた嬉しさに、お互いに相手の嬉しさには気づかずに席に着いた。
されども二人の距離は遠くない、されども二人の距離は近くない、アンバランスな位置関係、アンバランスな心の距離。
今の二人はそれでよかった。
その距離が不思議と、心地よかった。
第二次改訂作業中
寒気が酷いので一度寝ます。
明日の朝起きたら第2章部分の改訂を終わらせます。