~初勤務まで2日~
衛宮士郎は困っていた。
幻想郷に来てから出来た数少ない友人の一人である
いつも・・・がどうなのかは分からないが、前回出会うことができた通りに足を運んでみたがそこにお店はなく、近くで商いをしていた人に聞いてみても・・・。
「あぁ、あのきれいなねーちゃんかぁ?んだども、オラも顔を合わせたことがあるぐれぇで仲良しさんってわけじゃねぇかんなぁ・・・すまねぇだ。他の人ば、聞いてみてくれ」
「い、いや、俺は何も知らねぇ!お、俺にあの女の話をするな!昔、あいつのスカートの中身を覗こうと全力で3m先からスライディングした時にできた古傷が痛むんだ!」
「いやー、知らないっすねぁ、それよりこれどうですか?懐中時計なんですけど・・・お兄さん似合いそうですし!」
と、まるで収穫は無し、こうにも情報がないと打つ手もない。
何か幽香につながるものがあれば、そこから解析をかけることで分かるかもしれないのだが・・・
そこで、思い出す。
思い出したくない記憶を思い出す。
そう、あれは女装をした日のことだ・・・いや、いやいやいや、違う。
そう、違う、その覚え方は嫌だ。変えよう、フラワーショップ幽香に訪れて慧音にお見舞いの花を購入しようとしたが金欠で代替案によってなんとかした日だ
あの花は幽香の知る何処かで育てられたはず。ならばそれを解析して辿って行けば幽香の元に辿りつく・・・。
そうと決まれば向かう先は一つだ。
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天へと向けて白い湯気が昇っている。
上白沢邸の厨房、本日の食事はおうどん
おたまを片手に出汁を作っていた慧音は、昨日のことを思い出していた。
突然の来客、灰色のスウェット、来客が知人、しかも恩人。
「しかも・・・今度から同僚、か」
寺子屋の教師を任せられるということ、それはこの人里で絶対の信頼を得ることに等しい。
それゆえに、教師となるには本来、里の長をはじめとした各責任者の了解をとる必要がある。それを今回は、慧音の一存で決めたということもあって士郎はしばらく試すような扱いをされることになるだろう。
それと同時に新任の教師ということでかかるプレッシャーも大きく、重たいものとなる。
それは、寺子屋で勤めて数年にもなる慧音ですら未だに感じているものだった。
そのプレッシャーに負けて、教師という職を捨てた者を何人も見てきた慧音にとって新しい同僚というのは嬉しくもあり不安なものでもあった。
『また辞めてしまうのではないか』そんな思いが、彼女の胸の内を渦巻いていた。
絶対の信頼とは絶対の安心、任せても平気、意味のある教えが望める。
そうした保護者の方々の
しかし、努力すれども努力すれども、自分が保護者の方の
「ちゃんと・・・私は皆の役に立てているのだろうか・・・」
思考に行動が支配され、調理をしていた手が止まる。
それでも、子供達の笑顔が私を支えてくれる。
眼を閉じて思い出の中に身を投じれば、子供達の笑顔が瞼の裏に映り込む。
「立てているかじゃなくて、常に立とうと努力せねばな」
自身に渇を入れて、小皿に別の鍋で作っていたうどんの汁を味見する。
美味しく出来ていた。
「この味だって、何度も繰り返し思考錯誤して作ったんだ」
教育で間違う事は致命的だ。
けれども、致命的であるからこそ注意して自分を律する事が出来る。
自信が亡くなりそうになる度に自分に渇を入れよう。
「そうやって私も成長していけばいいさ」
流れる時間の中で、慧音は一人確かに成長していた。
そこに、聞き慣れた甲高い音が聞こえた。他ならぬ我が家の来客を告げる仕掛けだ。
慌てて簡単な魔法で点けていたお鍋用の火を消して玄関へと向かう。
「少し待ってくれ、今向かう」
あの仕掛けを使うということは昼時によく訪れる子供たちではない、ともなれば。
・・・もしかして士郎だろうか?
そんな考えが脳裏をよぎる。
ガタイの良いその体躯、まるで錆びた鋼の様な肌、しかしてその肉体はまさしく鋼。
「私を助けてくれた…命の恩人」
口に出したことに意味は無い、意味を持たせる必要も無い。
誰かに聞かれるでも無ければ考えるまでも無い、だからこそ、無意識に言ってしまったその言葉を自覚して頬が熱くなる。
しかし、いくらなんでも2日続けて来るとは思えない。
思いたく無い訳ではない、むしろ願望を曝け出すのならばその逆だ。
それこそ、口実を作って会いに来るという意図でもなければ2日続けてなんて・・・。
士郎なのだろうか?
まずい、これで士郎でなければ軽く落胆してしまう。
「うぅ…」
もしも士郎であったとしたら、
「ふふ」
嬉しさで口元がにやけてしまう。
どちらにせよまずい!
・・・と、というよりも何故こんなに士郎を気にしているんだ?
助けられたから?最近よく会うから?恩を感じているから?
まるで心が渦に飲み込まれたかのようにぐるぐると思考が回転する。
自分の内側に集中してしまう。
と、そこでもう1度甲高い音が鳴り響いた。
「あ、あぁ!すまないすぐに出る!」
私は玄関へと小走りで行き、扉を開けた。
「あぁ、今日はスウェットだけじゃないんだな」
そんな言葉で迎えられた私は、今日という日にエプロンをしていて良かったと心から思った。
…………………
「幽香の家の場所が知りたい?」
衛宮士郎が切り出した話題に、慧音は少しムッとした表情で言葉を返した。
「…何か気に障ったか?」
困惑するのも当然だ。
士郎からすれば友人の家を訪ねたいと思っての行動、咎められる謂われは無い。
「別に…」
複雑怪奇にして千変万化、秋空以上に山の天気以上に予測が付かない乙女の心。
学者が学問として取り扱うのも無理は無い、それほどまでに理解が難しいものだ。
「今、自分の腰を落ち着ける所を探して色々な場所を見て回っていてな」
「あぁ…そういえば今は博霊の巫女の所に居候をしているのだったな」
生まれる感情は嫉妬か驚きか、慧音は腕を組んで「むむむ」と唸った。
「士郎さえ良ければ人里に移り住む事も出来るが…」
魅力的な提案だった。
修行僧でも仙人でも忍でも無い士郎からしてみれば、住まう場所は人との交流が簡単であることは望ましい事だった。
「それも一考に値するが、まだ私はこの土地を何も知らない、まずは色々な場所を見て回りたいんだ」
「それもそうか…そうだな、すまない、少し先走ってしまったようだ」
「いや、こちらを想っての発言だろう、ありがとう慧音」
「(う…うぅ、自分の願望も含まれているから素直に認められない事が恥ずかしい…)」
俯いた慧音は何も言わずに「うむむぅ…」と唸っている。
「とはいえ、これからも何度か寄らせてもらう事になるだろうな、特に仕事に慣れるまでは」
数日後に迫った教員としての初勤務、それを考えるとどうにも緊張してしまう。
戦場、死線、戦争、紛争、動乱、隠密、暗殺、恐喝、恫喝などなど、様々な事を経験してきている衛宮士郎であっても、自身に責任が…それも数人の子供の未来が肩に圧し掛かってくる経験は数度しか無い。
「あぁ、是非来てくれ」
「それじゃあそろそろ行くが…その時はよろしく頼むよ、先輩」
「それでは、少し居間で待っていてくれ、今地図を書き記す」
「む、そうか…地図を用意して貰えると言うのなら喜んでだ」
士郎が家の中に入っていくのを見送って、自身も書斎に足を運びながら慧音は呟く。
「先輩…か、ふふ」
共に働く楽しみを胸に。
~太陽の畑~
人里から険しい道を進んで2時間ほど、生い茂った森を抜けたその先に太陽の畑は存在した。
最初に足を踏み入れた時、士郎は
アインツベルンの宝物庫に忍び込んだ時でさえ、これほどの感動は得られなかった。
間桐の蔵で見た多くの金でさえ、これほどの美しさを持っていなかった。
北方の大地でさえ、これほどの雄大さは持ち合わせていなかった。
そう感じるほどに、心を揺さぶり、美しく、広かった。
太陽の名を冠する花々、
「………」
士郎は言葉を忘れて佇んでいた。それほどまでに美しかったから。
そんな士郎の耳に、この場所では聞きたくない音が聞こえてきた。
――剣戟の音、鉄と鉄がぶつかり合う音――
移動しながら斬り結んでいるのか、その音の位置は変化しつつある。
一体どこから・・・士郎は聴覚を強化してその音の位置を探る。
幸い、音は畑の方からではなく自分が今通ってきた森の中からだった。
しかし、このままの調子で移動を続ければ間違いなくこの畑に到着する。
「散りゆく花は美しいなんて言葉はあるが、生憎とその定めを早めてまで瞬間の美しさを楽しむ趣味は無い」
ゆっくりと自身の内側に働きかける。
「・・・止めさせてもらうぞ」
足に強化を走らせてその位置へと向かう。
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命を刈ることはたやすいことだ。
大半のやつらはあたいの姿を見て油断をする。
女性だから?
馬鹿な判断基準だ。
『やぁこんにちは』なんて大きな鎌を持っている奴が笑顔で言ってきたらあたいなら警戒する。
挨拶をしたら大抵の奴は挨拶を返すか呆然とするわけだ。
あたいはその間にこの鎌で魂を刈り取る。
身体に傷は付けない、物質を通り過ぎて非物質だけを刈り取る。
それが死神としての能力、あたい自身の能力とは違う。
普段は三途の河で渡し船の船頭をしているあたいに久しぶりに死神の仕事をしろっていうんだから無茶な話なんだけどね。
それも、今回刈らなきゃいけない相手は死神を2度も撃退してるっていうじゃないか。
無茶な話を通り越して無理な話、無謀な話さ。
正面の男を見据えてみる。
「HEY?どうしましたか?鎌って武器は驚いたけどお前、使い慣れてねぇなぁ」
慣れてない?当たり前だ。こちとら
変わった構え方をしているやつだっていうのが第一印象だった。
「おいおいおいおい!?黙っちまってどうしましたか~?」
「ちょっとお茶でも飲もうかと思ってね」
「HAッHA-!余裕な発言いただきましたァ!」
剣を右手に、左手には籠手を、右半身を前方に、左半身を後方に、通常の構えを両足を地面について正面を向いた『人』だとするならば、この男の構え方は体の側面を見せた『1』という数字のようだ。
なによりも厄介なのは、こいつの剣技以上に腕だ。
異常に伸びたその左の腕は予想外の射程からの攻撃を可能にする。
筋肉こそまるでついていない、硬い籠手のみを装備したその左手だが、それゆえに素早い。
こちらが先をとった行動すらもその左手で止められることがある。
先ほどから鎌による上段、中段の左右による攻撃は伸びてきたその左手の籠手によって鎌の軌道を逸らされて避けられてしまう。
こちらの軌道を逸らす時、やつは半回転して左半身を前方にする。
そして鎌の軌道を大振りにさせることであたいと鎌の刃の間に自分の体を入れてくるのだ。
一度目こそ、その行動に驚いて避けるのが間に合わず、腹部を軽く斬られてしまった。
思い出したことで思わず腹部の痛みがぶり返してきた。
「お~やおやぁ?随分と先程の斬り込みが効いてるみたいですねぇ!?」
「今朝の魚に当たったかな?」
「ギャグセンスも完備ってお前はパーフェクト女子かよォ!?」
2度目からは内側に入ってきたところで鎌を引き戻すことで撃退している。が、それすらも容易に避けられてしまう。
そして、その左手の筋肉をまるまる移したのではと思えるほどに発達した右半身。
本来であればバランスの悪い剣士という感想で終わる。だが、この男はそれを利用することで右側に重心を置く戦い方を見つけ出したのだ。
それこそが『1』の正体。
「? なんだ?攻めてこねぇのか?んだよ」
やつが重心を後ろにおいた。
油断――。
隙――。
「(突くならここだ!)」
距離を測り、出来る限り近づいて再度斬りかかる。
「ハァっ!」
下からの角度での切り上げ、これならば避けにくいうえに下からの上昇攻撃ということで止めにくい。
「甘いねェッ!」
やつはまたも半回転、半回転をしながら蹴りだされる左足。
大きく前にでたやつの左半身、その足をもって上昇途中にある鎌の刃の側面を蹴り飛ばされた。
「なっ!?」
大きく軌道が逸れる刃と、その衝撃を受けて姿勢が崩れるあたい。
蹴りに使用した左足が地面を踏みしめると同時、やつはまたも半回転、右足であたいへと蹴りこむがあたいの姿勢が崩れていたのが幸いして避ける結果を生んだ。
既に近すぎるレベルで接近している現状、やつはその蹴り足で地面を踏みしめることによってあたいの左脇を通り過ぎて背中合わせの形となる。
「しゃああああああ!」
そこからさらに追加で1回転、置いてきた左足に勢いをつけてあたいを蹴りに来る。
避けようがない!
激しい衝撃に身体が浮く感覚、強い蹴りをうけて後方へと勢いよく飛ぶ。
人間のレベルを遥かに超えた技量と筋力だ。
「はは・・・これは、まずいかもわからんね」
すぐに追撃がくる。そうすれば避けることはまずできない。
魔力制限解除の申請を出していなかったことをいまさらながらに後悔する。
こんなつまらない死に方をしたら他の死神に何を言われることやら、
「こいつでゲームセットだァッ!」
奴が右手を身体の後ろへと引き、突きの姿勢に入る。
喉元を空気が通り過ぎない。
酸素を求めて開いた口には渇きが満ちている。
眼を閉じたら楽に死ぬのを待つだけなのに、眼を閉じることが出来ない。
恐怖で身体が硬直しているからだ。
『死』
感じた。
感じたくないものを、
いやだ。
終わりたくない――
―――――――瞬間。
「悪いな、延長戦だ」
音が響いた――。
鉄の音だ――。
何かが弾かれた?
いや、そもそもあたいはなんで無事なんだ?
目の前に、紅い背中が見える。
「すまんな、きっと見ていて気持ちのいいものじゃなくなる」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――
目の前にいる男を見据える。
異常に長い左腕、手には鉄の籠手を付けている。
不気味な雰囲気が漂っている。
「HA?誰だお前?」
「俺が誰かでお前の対応は変わってくるのか?」
「HA!変わらねぇな!死ねェッ!」
男が突きだしてくる剣、その軌道は士郎の心臓へと一直線に向かっていた。
分かりやすい軌道だ。人を殺すために特化したあまりにも実直な剣。
通常であれば達人の域にある剣だ。しかし、この身には遅くさえ感じる。
フェイントを含めずにその軌道は、あまりに剣技と呼ぶには単純すぎる。突きだけを極めたとでも言うのだろうか。
いや、それもまた剣技、何を剣技とするかはその人次第…私の場合は、いかにして敵を屠るかを剣技とする。
身体を横にすこしずらし、紙一重で避ける。
男はすぐさま避けられた剣を戻し、薙ぐ形で次の攻撃を放ってくる。
ただしゃがむだけ、そうすることで見えてくるのは男の無防備な足元だ。
「すまないな、少し痛むぞ」
男の足を手に取る。
――
筋組織や骨の位置、相手の足を確実に解析していく。
構造さえ理解できていて、その構造に直接触れることができているのであれば、そこに付け足すことは簡単だ。
相手の筋肉と骨の間に無銘の剣を投影する。
「ぐっ、ぐああああああああああああああ!」
男が自らの足を抱えて痛がる。
「痛いだろうな、お前の体の中に剣を投影した」
剣が己の内から突きささる感覚、それを知っている士郎は同情をした。
それを投影したのが自分であることを皮肉にも思いながら、
「この程度ォ!」
その痛みすら無視して、男は攻撃をしてくる。
壊れている。
この男も自分と同じように壊れている。
「この程度、いい目覚ましだ!」
男が踏み込んで右の剛腕による突きをもう一度放ってくる。
先ほどよりも速さが増している。
おそらくだが脳が痛みに耐えるために出したアドレナリンによって身体が限界を超えた動きを可能にしているのだろう。
しかし、先ほどと同じように避けてしまえば、
「ッHA!」
即座に腕を引いたのだろう、見れば男は再度突きの姿勢に入っていた。
「(速い、しかも)」
その2度目の突きを避けると、後ろにあった木が弾け飛んだ。
「(破壊力もある!)」
「おやおやおやぁ!?俺様ってばもしかして強くなってます?」
男は早くも3度目の突きの姿勢に入っている。
自分の身体能力の向上を自覚されたことは非常に厄介だ。
3度目の攻撃をかわしながら、男に問う。
「どうしてお前はあの女性を襲っていた!」
男はバックステップをして士郎と距離をとり、自らの足に手を突っ込んで剣をとりだした。
おそらくは筋組織からボロボロになっているはずだ。それなのに、
「HA~♪そりゃあいつが死神だからだよ、俺はあいつに命を狙われて逆に倒そうとしてたってだけだぜ?むしろ無慈悲に命を刈り取られようとしたのは俺の方ってわけだよ!」
たのしそうに。
その言葉に、先程助けたばかりの女性の方をちらと見る。
赤髪をトップでツインテールにしており、赤い瞳が印象的だった。
服装は袖のない青い着物を白いロングスカートの上から着用しており、腰巻をしている。スタイルは抜群としかいいようがないだろう。傷つき、いたるところが破れた服装は肌色成分が強く、彼女のグラマラスな身体を披露している。
彼女の外見のほか、目に入るのは鎌だ。目視による解析をしてみれば、それが魂を刈り取る目的で造られたことがわかった。
男が言っている事は事実になるわけだ。
しかし、何故だ?
何故、男は死神に狙われた?
「俺はよぉ、自分のしたいことをして過ごしていられたんだよ!なのにあいつら死神が俺の趣味を邪魔しやがる!おかげで最近はめっきり収穫もゼロだ!」
「趣味・・・趣味をしていたら殺されるのか?」
もし本当にそれだけならば、この世界、幻想郷における死とは?
そこで、士郎の後方、死神と呼ばれた女性が動いた。
「そいつは、連続殺人犯だ・・・元々、妖怪の山に幽閉されていたところを脱走して、人里にいる人間を何人も殺害していたんだ。その結果、私たちの上司に目をつけられて命を狙われているんだ」
「それは、本当か?」
「本来発生しえない死は、世界の混乱を招く、だから狙われているんだ」
事実ならば、それは許せない。
この世界に人しか食べれない生物がいるのならば、それは人を襲うことに納得はできる。生きるために取る行動なのだから、もちろん、その存在がいた場合自分は敵に回るだろうけれども・・・。
しかし、この男の理由は違う。
なんと言った?趣味?納得できるわけがない。
「HA?いやいや、しらねぇよ、俺は迷ってた人の道案内をしていただけだぜ?」
そこで、男は高笑いをする。
「ヒャーッハッハッハッハ!面白かったぜぇ?中には頑丈な奴もいてよ、死なせてくれって泣きながら俺にすがりついてくるんだよ!蹴り飛ばしたなぁ、蹴って蹴って頭を踏んで、ほんっとーにたのしかった!」
気分がよさそうに、まるで自慢話をするかのように。
「なら、道案内って言うのは・・・」
士郎の怒りが、体中の血液の流れを速める。
「もちろん!地獄への道案内だよォ!」
語る言葉はなかった。
足に強化を走らせ、男の目の前まで移動して鋭い正拳突きをする。
正拳突きがギリギリ当たらないところで避けられる。
「(避けた・・・だと!?)」
明らかに、身体の限界を超えた動きだ。
「お前も送ってやるよ!」
そう言って長い左腕を振るい、頭部へと攻撃をしてくる。
速度、角度、威力、申し分のない攻撃だ。
避けなければ頭部が弾け飛ぶ程の威力だろう。
だが、通常の人間であれば、だ。
「悪いが、送られるのはお前の方だ」
倒してやろう、本来こいつが倒されるべき倒し方で、いいや、送ってやろう。
道案内だ。
「――
――基本骨子、解明――
――
――
「
漆黒、柄はそう表現するほかないだろう。
続く刃に綺麗な刃紋、大きな刃の部分に流れるようなその紋様。
違えることがあるはずもない、小町は叫んだ。
「あ、あたいの『鎌』!?」
――否、もちろん否。
これは贋作、されども、その手に握るのは生死を司る者の鎌。
刈るは魂、
望は命、
防ぐも命――。
振るわれた男の左手を、強化を走らせた腕で受け止める。
なんてことはない、痛みも衝撃も全てを受け止める。
「(今必要なのは・・・距離ッ!)」
鎌を薙ぐ形で振るい、男との距離を取る。
そこで、さらに投影――。
追加で、手に対して強化をかける。
この鎌を振るうのに必要な筋力を魔力で補う。
そう、両手に『死神の鎌』。
「刈り取らせてもらうぞ、その命」
腰を低く、脚に力を入れやすくする。
「無駄無駄無駄無駄無駄ァ!鎌の動きってのはわかりやすいんだよ!無駄に決まってんだ」
恐ろしきは速度、男の右手、短く、あまり警戒をしていなかったがそこから放たれる魔法。
「左手にばかり注目されてたんで右手が寂しいと嘆いてなぁ!」
蒼い炎、鬼火のようなものが放たれた。
「そいつを斬れるかな!?そいつは魔法、とはいども少し特殊でな!」
――
――魔法と判明、魔力を元に、そこに織り込むように魂
「俺が殺してきた人間や生き物の命を使っているんだよ!」
半歩、その場から動くことによってその鬼火を避ける。
着弾、地面へと衝突したその鬼火から、嘆きにも似た声が上げられた。
怨嗟の声、悔恨の声、どれもが悲しみや恨みに満ちている。
「まさか、魂の声だとでも言うのか!?」
驚きの声をあげる士郎に、
「その通ォーーーりッ!バカだよなぁ!死んでもなお利用されて悲しそうな声を上げるんだぜ?笑い話にもなりやしないぜ!」
再度放たれる鬼火、
「オラァ!」
連弾、避けようとも当てられるだろう。ならば、
――閃――
一文字に薙いだ鎌の軌道、そこにあった鬼火が掻き消えた。
「魂だというのなら、こんなに丁度いい事はない」
続けて襲い来る鬼火、それらをも士郎は鎌でもってかき消した。
「この鎌は魂を刈り取る鎌、迷いし魂を正しい場所へと送るためのものだ」
なればこそ、この鬼火はこの鎌でもってかき消そう。
「右手だけじゃないって忘れてねぇだろォな!」
近づいてきた男、振るう左を鎌の柄の部分で防ぎ後方へと距離を取る。
「お前はこの鎌を恐れないんだな」
「ハァ?さっきも言ったろ!鎌の動きはわかりやすいんだよ!」
「なるほどな・・・なら覚悟しろ」
あぁ、鎌の動きならわかりやすいだろうな。
だが、
「今から俺がするのは、『死神』の『鎌』の動きだ」
投影の過程、その中に含まれる経験憑依、それは投影する物のたどってきた歴史を共感すること、つまりは、
「この『鎌』がどう振るわれてきたのか、身をもって体験しろ」
一振るい――。
男の右の剛腕を切り裂く、切り裂かれるのは魂のみ。
二振るい――。
痛みでたたらを踏んだ隙だらけの足元を強烈に刈り取る。
三振るい――
足の感覚を失い、動くことすらままならない男を下からの掬い上げる攻撃で切り裂く。
「ガッ・・・あ、あぁ?」
切り裂かれたはずの男は、疑問を抱いた。
「な、なんだ?今俺は切り裂かれたんじゃ・・・」
足の感覚も、手の感覚も、身体の感覚すらロクにない。
あるのは思考できる事実と、自分が生きているという現状。
「あ・・・?うご、けない?」
そう、動けない。
足の感覚も、手の感覚も、身体の感覚さえ無い男は動けない。
腕や脚、そこに宿る魂を切り裂いたのだ。
それでも男の根幹、生死に関わる部分は残してある。
だから生きている。
動けず、生きている。
いや、生かされている。
「あとは、あの死神に任せる」
死神の鎌を持っているのだから彼女も死神なのだろう、そう推測した。
士郎は冷たく告げた。
「私は死神では無いのでな、お前の命はあの人に託す」
その言葉に、男の顔に怒りの色が生まれる。
数少ない動かせる箇所の目をもって、士郎を睨みつける。
憎しみのこもった、士郎が時として向けられてきた瞳だ。
だがそれすらも、衛宮士郎は乗り越えてきた。
「人は、死ぬべき時に死ぬものだ。それを変えてしまったら、それは『人の生』とは呼べないものになる」
「ふ、ふざけんな!ふざけんじゃねぇ!俺を殺していけ!なんで生かす!」
その質問に、士郎は怒りを覚えながらも、冷静な口調で答える。
「死にたい時に死ねなかった。そんな、お前の殺した人たちの気持ちが分かったか?」
士郎は静かに、太陽の畑へと踵を返し歩いて行った。
去り際に、死神から言葉を投げかけられた。
「ありがとな、あたいは小野塚小町、『死神の鎌』のことは・・・うん、聞かないことにする」
「そうしてくれると、助かるよ」
「ただ、いつかあんたに礼をする。これだけは覚えておいてくれ」
そんなことを言われた。
明確な感謝の言葉に、士郎は胸中の嬉しさを隠しながら返した。
「俺は衛宮士郎、聞かないでくれるとありがたいよ、それと、お礼だったな」
その言葉に、小町がびくっと反応する。
見れば、服のいたるところに傷を作って、見るに堪えない事になっている。
あぁ、確かにこの姿で『お礼』なんて言葉を使ってしまったら後悔もする。
『お礼』ができるようには到底見えないどころか、むしろ助けを必要としている格好なのだから。
ならばと、士郎は小町が着られるような、しかしどこか彼女がに身に着けるには幼いような、可愛らしい着物を投影した。
「これを着て、もっと自分を大切にしてやってくれ、それが俺が小町に求める『お礼』だ」
何かを言おうとする小町をよそに、
「それではな」
衛宮士郎は歩き去っていく。
いや、向かうのだろう。
太陽の畑へ。
昨日の夜寒気がしていたので朝起きて真っ先に病院に行きました。
アデノウィルスでした。
現在39.4あります☆