東方剣創記   作:スペイン

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 博麗神社から30分ほど歩いたところにある湖、昼間になると霧がかかり、その湖の姿は隠れてしまうことから霧の湖と呼ばれている。

 何故、何を理由としてその霧が発生するのかは分かっておらず、解明しようとするものも特にいないのでこの先もその理由が明らかになることは無いだろう。

 この湖には妖精が現れるというまことしやかな噂があり、それを目当てに来るものも多くいるのだが近くにある博麗神社に足を運ぼうという者がいないのが悲しきことだ。

 そんな湖からさらに20分ほど歩くと見えてくる赤い、いや、それよりもさらに紅い館がある。湖の畔に建つその館に近づくものはおらず、また。近づいて戻ってきた者もいない恐怖の館である。

 いつ出来たのかも定かではないその館は、

『あの館には悪魔が棲む』

 誰が言いだしたのかそんな噂が有名になりつつあった。


第3章 紅
第16話 ある館


 その男は迷い込んでいた。

 

 周りは黒で包まれいてた。それが暗さからくるものなのか、それとも色なのか、はたまた何者かが作り出した闇なのかも男の頭では理解できない。

 

 自分の過去も思い出せず、自分の今も分からない、ましてやこれから先、将来がどうなるかなど分かるはずもない、そんな状況だった。

 

 男は足が動く、そして目の前に道があるという2つの要素から、ただただその道を歩いていた。

 

 歩けども歩けども先の見えないその道は自分の現状に重なるものがあり、終わりはあるのだろうかと心配になりつつもあった。

 

 自分の現状と重ねながらも終わりを求める事がいかに恐ろしいことなのかも理解をせずにだ。

 

 前を見ることも忘れた頃、自分の足を見ながら歩いていたその男は自分の足から影が伸びていることに気がついた。それも、自分の後方にだ。

 

 男は釣られるようにして前を見る。そこには光があった。

 

 男の目が闇に慣れすぎたからだろうか、その光はあまりにも(まばゆ)く、直視するには苦しさすら感じた。

 

 それでも、光を追い求める虫のように男はその明かりの下へと向かっていく。

 

「あ・・・う」

 

 どれだけ歩いたのだろう。どれだけ言葉を喋っていないのだろう。もはや男は口の動かし方さえも忘れていた。

 

「いらっしゃいませ」

 

 声がした。

 

 男はその方向へと向き直る。

 

 銀髪のボブカットの女性がそこにはいた。服装は青と白を基調としたメイド服であり、頭にもホワイトブリムを着けている。裾の長さは膝上丈でスラッとした長くて白い足がそこから覗いている。

 

 可愛いや綺麗よりも、美しいという印象を抱いた。

 

 透き通るような声に安心感を覚えながらも、会釈をして挨拶をする。

 

「貴方はお迷いになられたようですね」

 

 口を開き言葉を返そうと思ったが、喉からは声とも言えない音が出るだけで返答ができなかった。そのため、その言葉に頷いた。

 

「ではこちらへ、貴方に意味を与えましょう」

 

 導かれるままに男の足は歩を進める。光の中へと溶け込むように男の姿は消えていった。

 

 男の視界が白に覆われていく中で意識を失った。

 

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

 

 次に男が目を覚ますと、椅子に座っていた。

 

 椅子というよりも材質が柔らにも聞こえるソファーという表現が正しいだろう。

 

 腰まで深く座っているそのソファーのやわらかさに眠たさを覚えながらも、自分の現状を把握しようと頭を働かせる。

 

 目の前には椅子・・・玉座と呼べそうなほどに豪華な装飾が施されている。

 

 その手前、材質は鉄だろうか・・・黒い色彩に所々が模様として花の形に穴が空いている。

 

 手足は動く、先程は気にしていなかったが、先ほどよりも身体にかかる重さを感じる事から自分が今服を着ているということを自覚する。

 

 自己整理をしていても頭の中に靄がかかっているかのように昔の自分のことが思い出せない。

 記憶喪失、そんな言葉が思い浮かんで恐怖が湧き出る。

 

 前方から小さく軋む音が聞こえ、気になって目を向けてみると玉座に誰かが座っていた。傍には先程のメイド服の女性が立っている。

 

「さきほ・・・あ、先程はありがとうございます」

 

 口を動かし、発声が可能であることに少し驚きながらも礼を述べる。

 

 その様子を見守るように眺めていたメイド服の女性は玉座に座る誰かに耳打ちをするとゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。

 

「失礼します」

 

 その言葉と一緒に差し出された手に、犬のお手のような形で自分の手を乗せた。何故だかそうしなくてはいけないように思えたから。

 まるで自分の身体が誰かに操られている様な感覚、先程、自分の記憶が思い出せない時には恐怖を抱いたというのに、今の状況に自分はまるで恐怖を感じていない。

 

 メイドの女性は男の手を取ると、その男の手首をさすった。熱を受けた血管がぷっくりと浮き上がってくる。

 

 そこに、小さな針のようなものを通した。針からはチューブが伸びていて、蛇口のついた機械のようなものに繋がっていて、そこからさらに伸びたチューブがテーブルの上に置いてあるカップへと続いている。

 

 何をするのだろうかと男が疑問に思っていると、先程まですぐ傍にいたはずのメイドさんの存在がいなくなっていることに気がついた。

 

 周りへと目をやってみるが、どこにもその影はない。

 

「こんばんは人間、ようこそ『(こう)()(かん)』へ」

 

 前方、玉座からその声はした。幼さと大人びた雰囲気を持ち合わせた不思議な声だ。男はその声に恐れすら感じていた。

 

 人間離れしているようにすらも聞こえるその声は心の底、自分だけが安心できる空間に落ちてくるようで、気を抜いたらその居場所を奪われてしまいそうで・・・

 

 

 

「ここはお前の心の休まる場所だ」

 

 

 

 音のない世界に響くその声に、自然と耳を傾ける。

 鳥肌が立つような声だ。

 

 それは恐怖を湧きあがらせる声ではなく、あまりにも自然と耳に入ってくる声だ。

 こちらの警戒心を削ぐ様な、そんな声だ。

 

 

「ここはお前が求めていた場所だ」

 

 

 

 暗闇の中、紅い光が自分を見ている。 

 あれは何だろうか、自然と視線が吸い寄せられる。

 

 

「お前はここで、自らの価値を得る」

 

 

 その光に集中しすぎて、先ほどまで自分が何を考えていたのか、それすらも分からなくなる。

 

 

「腕を見ろ、そこに走るのはお前の血液だ」

 

 

 心臓から伸びて、全身に行き渡り、再び心臓に帰ってくるその血液。

 自分自身の物であり、人にとって失ってはいけない物の一つだ。

 

 

「お前は、それを私に献上する」

 

 

 血液を・・・献上する?

 その言葉は献血の様な慈善的活動には聞こえなかった。

 

 文字にするならば、それこそ…服従、とか。

 

 

「お前は私が怖くて仕方がない、献上しなくては殺されてしまうからだ」

 

 

 献上しなくては殺される・・・。

 死にたくない、死にたくない、死にたくないなら…献上しなくては。

 

「殺されないためには献上するしかない、例えそれが死に近づく行為であっても」

 

 

 献上すれば、死に近づく・・・。

 しかし、献上しなくては殺される。

 

 長く生きる為には献上しなくては、献上すれば生きていられるのだから。

 

 

「だからお前は私が怖い、私が恐ろしい、私を畏れている」

 

 

 怖い、恐ろしい、畏ろしい・・・。

 自分の意思とは関係なく、前歯が震えて音が鳴る。

 

 目の前の紅い輝きがスッと細められた。 

 

 

「さぁ、最初の献上だ。自分でその蛇口を回してみせろ」

 

 

 

 蛇口・・・蛇口は、俺の腕から続くチューブの先に。

 

 男はチューブがつながっているのとは別の手で、その蛇口をわずかに回した。

 

 瞬時に訪れる感覚、自分の体から何かが抜けていくという恐怖、何が抜けているかというのはその瞳に映る。チューブを流れる赤い、いや、紅い血液がチューブの先、不思議な機械へと到達する。

 

 その光景が自分の体からまるで魂が抜けていくようにも見えて、そして、それを止める権利を自分が持っていないという現状を視て、男の感情はついに悲鳴を上げた。

 

 

「あ・・・あぁあぁあ、あぁああぁあああああ!」

 

 

 蛇口を締めようと手を伸ばそうとするが手が動かせない、体がもはや自分のものではないかのようだった。

 先程感じた感覚とか、そういう問題じゃない、これは実際に自分の意識で身体が動かせていない。

 

「ああぁあぁあぁぁあああ!!」

 

 なのに、なのに怖くない。

 自分の血が失われていく寒さが、心地良い。

 

 声を上げる。そうすることでどうにかなるわけでもないというのに、むしろ、声を上げたことで、息が乱れ、血流の流れが速くなりチューブを通して流れる血液の量が多くなる。その光景がまた、男の恐怖を助長させる。

 

 

 恐怖を感じているのは何に対してだ。

 

 死?

 

 目の前の誰か?

 

 

「うわああぁああぁあぁあああ!」

 

 

 一定量がその機械に送られたところで、

 

 

「よし、止めていいぞ」

 

 

 すぐさま手を伸ばし、蛇口を絞める。

 

 そして、そこで気が付いた。

 

 男は気が付いた。

 

 自分自身が感じていた恐怖の正体を。

 

 男は、血が失われて行く事で献上する事が出来る量が減る事に恐怖していたのだ。

 

 もう流れない、その安心感が男の精神に余裕を生んだ。結果として、男は気を失ってしまった。

 

「ふふ、いい恐怖だ・・・お前の血液は私に恐れを感じれば感じるほど美味な物となる」

 

口元を三日月に、声は高らかに笑い声を上げた。

 

「お嬢様、紅茶が入りました」

 

 いつの間に現れたのか、メイド服の女性が傍に立ち、声の主をお嬢様と呼んだ。

 

 手には紅茶、紅茶よりももっと紅い、血を落としたかのような紅茶だ。

 

 見れば、先程の機械に溜まった男の血液が少し減っている。

 

 そう、恐らくは・・・。

 

「咲夜、ご苦労様・・・その男はいつもの部屋に運んでおいて頂戴」

 

「かしこまりました。レミリアお嬢様」

 

 咲夜と呼ばれたメイド服の女性は男を腕に抱えるとまるで重い様子も見せずに運んでいった。

 

 残ったのはレミリアお嬢様と呼ばれた先程からの声の主だ。紅い瞳を閉じて、先ほど咲夜が残していった紅茶を口元へと運ぶ、ほのかに香る血の香りが鼻腔を刺激する。

 

 口に広がる味は美味そのもの、心地よさが全身を駆け抜ける。

 

「あっあぁ・・・んっ、ふぅ」

 

 快感にも似たその衝動を受けて身が震え、思わず声が漏れる。

 

 赤みがかった頬に指を走らせ、唇にわずかに残った紅茶の滴を舌ですくい取る。

 

「準備は整ったわね・・・魔力も十分」

 

 レミリアが指を鳴らすと、その部屋にあった厚いカーテンが開け放たれた。外に広がるのわ先の見えない暗闇、無限の闇だ。

 

「3日後・・・始めてあげるわ」

 

 紅い瞳がその暗闇へと向けられる。

 

 暗闇の中、何かを睨みつけているようだ。

 

 

 

 

「忌々しい・・・待っていなさい」

 

 

 

 

 それから3日後、

 

 

 

 

 紅い霧が訪れる。

 

 

 

 

 

 

 




第3章 紅の始まりです!

どうかお楽しみに!

2017/01/05 改訂作業済み
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