東方剣創記   作:スペイン

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 ルーミアと手をつなぎ、しばらく進んだところにその湖はあった。

 暗闇を作り出している木々を潜った先に見えてきたその湖は霧が掛かっていた。見えにくい、が確かに感じる水の澄んだ香りと風に乗って運ばれてくる冷たさがその存在を伝えてくれる。

 ルーミアはこの土地になれているのか、士郎の手を引いてここまで連れてきれくれた。

 湖に近づいていくと、段々とその光景が鮮明になってくる。

 ルーミアは士郎と手を離すと湖へと近づき、踝が湖に浸かる程の場所まで行くと水しぶきと踊りながらこちらを振り向いた。

 霧で微かに届いた太陽光がルーミアの上げた水しぶきを照らし、真珠のような光を瞳に映す。

「士郎はどうしてここにきたかったんだー?」

 輝く真珠の中、その輝きに負けない笑顔で質問を投げかけてくるルーミア、士郎は思わず見とれていたその光景から意識を戻す。

 その光景は西洋の絵画に見る天使にも似ていて、とても彼女が御札で封印を受けるほどの妖怪には見えなかった。

「士郎ー?」

 答えを待っていたルーミアは士郎が返してくれないことに疑問を思ったのか首を傾げている。やましいことは一切ないのだが少し申し訳ない気持ちになる。

「あぁ、実は人里で教師をしているんだ」

「教師・・・せんせー?」

 頷き、人差し指を立てて見せる。

「そうだ。それで、子ども達が湖を見たことがないって聞いてさ、見せてやりたいと話が出てな」

「はー、士郎はせんせーだったのかー」

 理由を聞かれて答えたはずが、その過程で説明した教師(せんせー)の方がルーミアの興味を引いたらしい、ルーミアは『せんせー』という言葉を歌うように何度も口にしながら水と戯れている。

 こうしてみれば普通の少女だなと思いながら、ルーミアの踊りにも似た遊ぶ姿を眺める。

 子供の笑顔というのは戦場でも変わらないものだった。

 まるで警告、それを思い出すことで苦痛を得るかのような警告、思考を遮るかのように頭痛が走った。

「(魂に刻まれている故、前世の中でも印象深い物を思い出そうとするとコレだ…)」

 それでも、必死に思い出す。
 痛みなど所詮は一時的な物、士郎は奥歯を 噛み締めて痛みに耐えた。

 忘れもしない、あれは日本がアフガニスタンに派遣したテロ鎮圧の増援部隊に(無断で隠れて)ついていった時のこと・・・。



第18話 まるで予期せぬその出会い ~残り3日~

 アメリカ軍がアフガニスタンの西で行っているテロ鎮圧に増援の形で呼ばれた日本の自衛隊は火器よりも支援物資を多く持っていった。

 

 というのも、火器の調達はアフガニスタンの西に位置するイランから行えるのだが、乾燥地帯ということもあって食物の保存がしにくく、食糧不足による士気の低下が問題になっているらしかった。

 

 近年の野戦食料(レーション)は保存性だけではなく嗜好品としての意味合いを含めて味に関しても質を高めている。

 

 食料は飛行機の空いているスペースを利用して置かれているため、当然兵士が入らなかったスペースも食料品で満たされている。

 

 出来心から、士郎は自らの横に平積みされたダンボールの中から1つの野戦食料(レーション)を拝借してみた。

 

「・・・ん?」

 

 士郎がイメージしていた野戦食料(レーション)はペースト状やブロック状の、カロリーが高めで食べておけば腹が膨れる程度のものだったのだが、実際の野戦食料(レーション)はまるで違うものだった。

 

 中にあったのはレトルト食品と紐を引くことですぐさま温まる缶詰にも似た物だった。中にはカレーにも似た半液状の食べ物が入っている。

 

「おいおい、意外そうな面をしているがどうしたんだ若白髪」

 

「誰だ!?」

 

 隠れ潜んでいた士郎は例え同じ日本人から見ても怪しい人間には違いない、まさか見つかるとは・・・!と歯噛みしながらも戦闘態勢に移行しようとする士郎だったが、声の主があまりにも無警戒の状態でこちらに近づいてくるものだから士郎はすぐさま取ったばかりの戦闘態勢を解除した。

 

「はははは、悪ぃなぁ驚かせたみたいで」

 

「・・・」

 

 無言でいると、向こうはこちらの警戒を解くためなのだろう。自己紹介を始めた。

 

「俺の名前はウェスティアン、ウェスティアン=ヌアーボって言うんだ。一応伍長やってるんだぜ?」

 

 話しかけてきたのはウェステイアン伍長だった。

 

 迷彩服、黒の部分が目立つ物で間違いなく何処かの軍隊の物だろう。

 階級章を外して、おまけに首に何かが掛かっている様子も無いことからドックタグも外している。

 

 自称伍長…おまけに個人で乗り込んだと見える。

 

「(俺と同じ訳有りか…)」

 

 話によると、彼は日本に駐屯しているアメリカ軍の一人なのだが、向こう(アフガニスタン)で活躍している部隊からお呼びがかかったのだが悠長に国際航空の飛行機に乗って向かうのも面倒くさいということで、今回、士郎と同じく飛行機に(隠れて)乗り込むことにしたのだとか・・・

 

「みんなは頭文字のW(ダブリュー)をさらに略してW(ダブ)って呼んでるぜ、ったく人の名前をなんだと思ってるんだかな」

 

 軽口を叩きながらも、確実にこちらが相手に抱える警戒心を緩めてくる。出来る男だ。おそらくは社会的な部分だけではなく、戦闘の面においてもだ。

 

 まるで緑帽(グリーンベレー)のような男だ。

 

 とはいえ、この狭い部屋の中では戦闘を起こそうなどとは考えていないだろう・・・こちらからも歩み寄り、相手の警戒を解く目的で自己紹介をする。

 

「俺は衛宮、衛宮士郎だ。士郎って呼んでくれ」

 

OK(オーケー)、シロだな、よろしく頼むぜ」

 

 なんだか少し発音に難を感じたのでそのまま何もツッコミを入れずに流すことにした。

 

「よしっ、互の挨拶も終わったところで本題だ。シロ、お前一体何を怪訝な顔をしてやがったんだ?」

 

 怪訝な顔・・・というと先ほど疑問に思った野戦食料(レーション)の件だろう。

 

「いや、ちょっとこの野戦食料(レーション)ってのに興味があってな、俺はてっきりドロドロの液状カロリー飯みたいなものを想像していたものだから面食らっちゃってさ」

 

「あ~なるほどな、確かに昔はそういうのもあったみてぇだな、ドロドロ・・・ってのは知らねぇが第2次大戦中にクッキーみてぇな形のやつとか干し肉、場合によっちゃ角砂糖なんてものまであったらしいぜ、今はもっぱらレトルト食品とかフリーズドライ加工のされたものだけどな」

 

 時代の進歩で変わるのは武器だけじゃないってことだな、と続けるW(ダブ)。喋りながらもちゃっかり野戦食料(レーション)を1つくすねているあたりちゃっかり・・・いや、しっかりしている。

 

 これまで、様々な戦場へ行くことはあったがその度に現地で食べ物を調達していたので士郎はここで初めて軍の食料に触れる機会を得たのだ。

 

 衛宮士郎にとって、戦場で仲間と呼べる存在はいなかった。

 

 結果的に全ての人を助けられているから後悔はない、だが、それでも仲間のいない戦場というのは士郎にとっていつまでも慣れないものだった。

 

「その話ぶりだと、W(ダブ)は戦争・・・というよりも戦場が慣れているのか?」

 

「慣れ?」

 

「あぁ、俺は、自分ではそれなりに戦場に出たつもりでいるんだ。でも、未だ慣れないんだ。それで、W(ダブ)はどうなんだろうと思ってな」

 

「バカヤロウ」

 

 答えはすぐさまえってきた。

 

 まさかの罵倒に驚きながらも、息を吸う音に、反論をやめて言葉を待つ。

 

「いいかシロ、お前がこれまでどんな戦場に行ってどんなやつと戦ってどんな結果を得てきたのかは知らねぇ、けどな」

 

 これまでの戦場が思わず脳裏をよぎる。

 

 何度恨まれただろうか、何度憎まれただろうか、それでもそれらと引換えに士郎は争いを止めてきた。

 

 この時の衛宮士郎はまだ知らない、己の行いの全てが未来、報われるということを、

 

 それでも衛宮士郎は動く、救う、戦う。

 

「シロ、戦場に慣れはない」

 

「・・・それは」

 

 どういうことなんだ?と続けようとするも、遮られる。

 

「どういうこともクソもねぇ、歩くという行動に慣れるのはわかる。同じ行動を繰り返しているからだ。だけどな、戦場ってのはそうじゃねぇ、命のやりとりで奪うのは毎回違う命だ。たとえ、お前が戦う立場じゃなくてもだ。たとえ、その戦場で失われる命がなくてもだ。その戦場で賭けられる命ってのは同じじゃねぇんだ」

 

 浅慮だった。W(ダブ)の言うとおり、戦場に慣れるということは勝利か敗北か、そこに賭けられる命に慣れるということになる。そんなものに、慣れてたまるか。

 

「そうだな、すまないW(ダブ)

 

 士郎は背中に感じる鉄の冷たさに身を預けた。

 

「いや、謝る必要はねぇ・・・分かっていても望んじまうもんだからな」

 

 慣れちゃいけねぇけど、慣れることが出来るってんなら・・・

 

 そこまで続けて、W(ダブ)は押し黙った。

 

 W(ダブ)は伍長だといった。彼がどのような経緯でその地位を手に入れたのかはわからないが、かつて士郎が出会ったある兵士が彼に言った言葉がある。

 

『少尉以下の階級ってのは大体が戦果に応じて昇級していくもんだ。もちろんそれだけだとは限らない、ひょんなことから昇給する奴だっている。けどな、俺は違った。俺は作戦に参加して、成功した分だけ昇給してきた。つまりは、それだけの人間を殺してきたんだよ、俺は・・・』

 

「ままならねぇな・・・戦争ってのはよ」

 

 その言葉は空虚な空間に溶けていった。

 

 途切れた会話を、どちらともが続けようとはしない、無言、静寂が空間を支配する。

 

 外からの風切りの音が嫌に聞こえた。高く、長く続くその音はどこか悲鳴のようにも聞こえた。

 

 風に揺れる軍用機の中で、2人は静かに、しかし力強く拳を握った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 軍用機がゆっくりと減速することでかかるGに、士郎は目を覚ました。

 

 眠りについていたという現実に、自らの油断を恥じる。

 

 見れば、W(ダブ)はまだ眠りについていた。

 

 しかし、眠りながらもその手には銃器を持っている。それも、安全装置(セーフティ)に指をかけた状態で眠っているものだから恐ろしくて仕方がない。

 

 もしも寝ぼけて安全装置(セーフティ)を外そうものならばすぐさまあの銃を奪うとしよう。

 

 小さな衝撃が下から腰を浮かす。おそらくは軍用機の車輪が出されたのだろう。今の衝撃で起きたのだろう。W(ダブ)が眼をこすりながらこちらへと視線を向ける。

 

 目を向けることで挨拶をして、士郎自身も到着に備えて魔術回路の確認や身体の調子を確かめる。

 

 問題ない、これならば3日間は動き続けられる。

 

 足に、腕に、身体に魔力の流れを馴染ませる。いつでも強化をかけられるように、いつでも投影魔術を行使できるようにだ。

 

 段々と高い風切りの音から低い、唸るような音へと変わってきていた。着陸が近いことをその音が予感させる。

 

 着陸、そして摩擦音、どうやら機体は無事に到着したようだ。

 

 手荷物のバックパックの中に野戦食料(レーション)を2つ入れて認識阻害の魔術を使用する。W(ダブ)の方を見てみると、彼は手に持った磁石のようなもので軍用機の天井に張り付くことで搭乗者の目をごまかそうとしていた。

 

 聞いたことがある。スイッチを押しているあいだだけ磁力を発生させる機械があるということを、本来の使用用途は知らないが、W(ダブ)が使用しているのはソレだろう。隠れるのに慣れている。あれならばおそらくは隠れ通せるだろう。

 

 荷物を下ろそうと、軍用機後ろのハッチが開かれる。

 

 W(ダブ)の未来に幸せがあることを願いながら、士郎は軍用機を後にした。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ここから5km先がアフガニスタンのヘラートか・・・思っていたよりもずっと緑もあるな、だけど、戦争の傷跡が多いな」

 

 士郎がたどり着いた土地ヘラートはアフガニスタンの西に位置する都市で、イランとの交易の際に中継地点として使われることが多い場所だ。

 

 ゆえに商品が集まりやすいのだが、その反面ここを狙う者も多くいる。

 

 アメリカの発表によると、ちょううど3日前、この場所で休憩をとっていたアメリカの演習部隊が襲われ、武器を奪われて人質にされるという事態が起きた。

 

 それに対してアメリカ軍はすぐさま軍隊を派遣、確認をしたところ、既に人質とされた演習部隊は殺害されており、街全域を支配していることもわかった。以上がアメリカの発表である。

 

 現在士郎は街の外にいて、近くにはアメリカ軍の物と考えられるキャンプもある。

 

 おそらく・・・というよりも間違いなくアメリカ軍のテロ鎮圧部隊だろう。

 

 傷つけることは厭わない、必要とあらば殺しもする。

 

 だが、選択はしない、テロも鎮圧も、どちらかの勝利なんてものは望まない・・・。

 

 と、なれば・・・。

 

「鎮圧もテロもどっちもやめさせないとな・・・さてと」

 

 街へと歩を進める。

 

 平屋の石造りの家屋が多く並んでいる。用水路が街の至るところに引かれている他にも、地下通路のようなものもあるようでかなりの入り組んだ構造になっている。

 

 至るところに歩哨がいることからも、既に外にいるアメリカ軍が警戒されていることが分かる。

 

 歩哨の一人をつけて彼らの装備を見てみると何故かフランス軍が正式採用しているFA-MAS(トランペット)のG2モデルを使用していた。士郎はそこで疑問に思った。アフガニスタンという土地に何故フランスの装備を持ってきているんだ・・・?

 

 考えられることはいくつかあるが、自国生産でやっていけるフランスが他国を利用しようとする理由は無いはずだ・・・。

 

 さらに、アフガニスタンを利用する意味も分からない・・・

 

「ダメだ・・・悩んでも見えてこない」

 

 一度休もうと思い、近くの民家の中に誰もいないことを確認し、高いところに作られた四角形にくり抜かれた窓を潜って着地する。

 

 どこか座れる場所はないかと探してみるが無造作に積まれた木箱があるだけだ。

 

 仕方ないので、その木箱に腰掛けて神経を張り巡らせながらも目を閉じる。

 

 思考を回転させてみるが、何故フランスがこの件に関わっているのかがまるで分からない・・・。

 

 まず大前提として、これまで目立った動きはなかったにも関わらず何故この地で演習していたアメリカ軍の部隊が襲われたんだ?

 

 いや、そもそも何故アメリカ軍はこのアフガニスタンを演習の地点に選んだんだ・・・?

 

 いくら考えてみても、答えが見えてこない、もしかしてこのテロ鎮圧は自分が考えているよりもずっと大きな何かが後ろにあるのかもしれない・・・

 

 考えを巡らせていたその時だった。砂をこするような、靴と砂の摩擦音がした。

 

 足音を気にせずに歩いているところから考えても、士郎の存在には気づいていないようだ。

 

 敵なら騒がれると面倒だ・・・悪いけど気絶してもらうかな。

 

 足音が段々と近づいてくる。あと5歩、4歩、3歩・・・、

 

 2歩・・・1歩・・・

 

 閃光、光が放たれたのではと思えるほど瞬間的な攻撃、それは衛宮士郎の放った突きだった。

 

 ちょうど横を通り過ぎる相手の顎を正確に打ち抜いたその攻撃は、相手の顎にかすらせるだけの攻撃だ。

 

 そして、それを受けて崩れる敵、このままでは顔から地面にこんにちはをしてしまうので抱きとめる。

 

「(すまないな)」

 

 心の中で謝ると同時に、抱きとめたときに感じた軽さに驚き、思わず敵の顔を見る。

 

 最初に湧いたのは疑問、理解して湧いたのは怒りだった。

 

 白い、まるで陽の光を知らないかのように白い肌をしていた。

 

 金の髪は透き通るようで、一本一本が微風に煽られて舞っている。

 

 まるで西洋人形、なんと美しい少女か、何よりも悲しいことは、この少女が武装していることだ。

 

「・・・」

 

 歯噛みする。

 

「(こんな少女まで武器を持っているだと・・・?絶対におかしい、これは、ただのテロでも、鎮圧でもない・・・!)」

 

 それが、俺とその少女の出会いだった。

 

 大きな、非常に大きな事件の欠片にすぎないこのテロ鎮圧への本格的な関わりの始まりでもあった。

 

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

 

 途中まで思い出して、我に返る。

 

『私を救わないで』

 

 ふと、耳にあの少女に言われた言葉が蘇ってくる

 

『犠牲が無くて救えるものなんてないのよ!』

 

 なぜこうも思い出すのか、そんなことを思いながらも、本当は分かっている。

 

 背格好が似ているのだ。ルーミアと、その少女の・・・

 

「どうしたー士郎ー?」

 

 ルーミアがこちらを覗き込むようにうかがっている。とても心配そうだ。

 

 似合わないな、そう思う。

 

 似合わない・・・いや、それもあるかもしれないがそれ以上に、笑顔でいて欲しいんだ。

 

「あぁ、なんでもないさ、ちょっと思い出に浸っていただけだよ」

 

「そーなのかー」

 

 きっといつか、思い出す機会がほかにもあるだろう。その時は、じっくりと振り返ってみよう、あの事件を、あの事件で得たものを・・・

 

「さて、霧が深くて少し心配だけど、ちょっと湖の周りでも歩いて周るかな」

 

 あの時歩いたアフガニスタンの土地とは違う場所、それでも、いつもどおりの一歩を踏み出す。

 

 ルーミアとの手のつながりを確かめて、今という時を実感する。

 

 心の中で、戦友(とも)に語りかける。

 

 なぁ、W(ダブ)、平和に慣れるのは、ダメなことかい?

 

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

 

「・・・ルーミア、立ちながら寝てる人を見たことあるか?」

 

 士郎の唐突な質問、脈絡も無ければその質問の意味もわからないところなのだが、ルーミアはその質問を何故士郎が投げかけたのか理解ができた。それどころか、ルーミアこそ士郎にそういう人間がいるのかを聞いてみようと思っていたところだった。

 

「ないのかー、人間だけじゃなくて妖怪でも見たことないよー」

 

 だよな・・・と相槌、士郎は目の前にある光景に素直に驚いていた。

 

 湖の周りを回っていたら・・・だ。唐突に頭の弱そうな少女が背中に氷の羽根を身につけて「お前強いか!?」と聞いてきたり、返答する前にその少女がどこかに行ったかと思えばあとから来た薄緑色の髪をして、これまた薄い羽をした少女が後からやってきて「すいませんご迷惑おかけしました!」と言って飛び去っていった。

 

 不思議な子供・・・というよりもあの人外の魔力の質、さらに容姿からするに妖精(フェアリー)の類だろうか・・・。

 魔力の量自体は脅威では無かったが、呪いにも近い輪廻の連鎖を彼女達からは感じた。

 

 それにしても青と緑で対照的な二人だった。

 胸囲に関しても対照的な二人だった。

 

 そこからしばらく歩いて、湖を円の形と考えて半分ほど行ったところで、恐ろしい程の魔力を感じた。人外とか、膨大なとかではない、魔力という物を感じた。まるで魔力の塊がそこにいるかのような雰囲気だった。

 

 今の私でも全力を出して追い縋れるかどうか、それ程の強さを感じた。

 

 ルーミアを見ると、無意識なのか、意識的になのかそちらの方を見ないようにしていた。

 

 申し訳なくも思いながら、ルーミアの手を引いてその魔力の方へと向かう。

 

 遠くから見えてきたのは大きな館、霧に隠れてもなお分かるその紅さ、そして大きな魔力・・・。

 

 やがて、門が見えてきたと思いきやだ。

 

「士郎ー、誰かいるぞー」

 

 ルーミアに言われ、前方へと意識を集中してみる。

 

「ルーミア、一応静かに、な」

 

 相手は気づいていないのか、殺気やこちらに対して向けられる意識は感じられない

 

 そして見ることになったのがこの景色というわけだ。整った顔立ちをしている女性だなと思った。中華様式の服に深緑色のチャイナエプロンを身にまとった紅い髪をした女性、星型に龍と書かれたピンバッジをした深緑色の帽子をかぶっている。

 

 ただし、眠っている。

 

 服の上からでもわかるほどに豊満なバストと、スラリと伸びた手足についた無駄のない筋肉、ただ膨れた筋肉ではなく、絞られ、練られ、まとめられた筋肉だ。

 

 ただし、眠っている。

 

「(魔力の塊みたいな化物・・・ではないみたいだな、だけども筋肉のつき方からしてこの女性、かなりやり手の様だな)」

 

 そう、強さを決めるのは何も魔力だけではない、確かに魔力で体を覆うことができればそれは強さにつながる。衛宮士郎が目指した星の光はそうした魔力に物を言わせた力押しさえも得意としていた。

 

 だが、この女性から感じるのは魔力以上に・・・もっと内側に存在する・・・生命力、違う。なんだろうか・・・。

 

 衛宮士郎が思案していると、それを察したのか、それとも眠気が吹き飛んだのか、目の前の女性が目を覚ました。

 

 開かれた(みどり)の双眸が士郎を映す。ゆっくりと、ゆっくりと口が開かれる。

 

 何を言う・・・?衛宮士郎のその身が硬直する。

 

「おはよう・・・ございます」

 

 思わず、言葉を口にすることを忘れた。

 

 それでも士郎は、口にした。

 

 

 

「おはよう・・・ございます」

 

 

 

 どこにもないような場所で、どこにでもあるような挨拶で、どこでもないこの場所で出会うべき二人が出会った。

 

 それが、衛宮士郎と(ほん)美鈴(めいりん)の出会いだった。




花粉症で目が痛い!!!

ちなみに士郎の過去編は結構引っ張ります。

―――――――――――――――

2017/01/07 改訂

 なんだかんだで好評だった過去編、少し修正を加えていますが大筋は変わっておりませんのであしからず。
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