あの後、輝きに包まれて気を失った霊夢は目が覚めてから自分の感情に任せた行動について謝罪してくれた。
士郎自身、自分に非があると思っていたのでその謝罪に謝罪を重ねる謝罪合戦となってしまい途中で魔理沙からストップをかけられた。
場所は博麗神社の裏側に建てられている霊夢の住居に移されている。現在は居間で士郎自身が負っていた頭の傷を魔術で治療している。
魔理沙に、
「士郎も魔法が使えるんだな」
と、言われたのだが、魔法と魔術の違いを説明すると長くなってしまうので、
「あぁ、少し特殊な物だがな」
そう、ごまかしておいた。
詳しく説明する日もいつか来るだろうと思いながら、自分が使用している回復魔術を興味深々で見ている魔理沙を横目に見た。
その後、士郎はこの世界についてのあらましを説明された
【幻想郷】
数多の幻想、伝説、忘却の存在が生活をする世界、現と幻、生と死すらも共に暮らす世界、ここに暮らす人々は士郎の知る現実の人々と何も変わりのない生活を送り、ここで生まれ、ここで死ぬ、妖怪も暮らすこの世界ではかつて多くの事件が起きていたが、この幻想郷を守護する博麗の巫女である霊夢の考案したスペルカードルールによってそれも改善されつつあった。
非殺傷戦闘による事案の解決、そのシステムは妖怪に対して人間が勝利する方法でもあり、全ての人が同じ土俵で戦うための舞台でもあった。
「なるほどな・・・つまり、魔里沙の先程使用した魔法というのは…」
頭を抱えながら、霊夢が嘆息と共に言葉を紡ぐ。
「えぇ、私の使ったあの魔法・・・私達はその量から弾幕って呼んでるわ、あれも非殺傷のものだったのよ」
「そうか…」
それを知り、魔理沙を抱きしめたことに少し恥ずかしさを覚えて魔理沙の方をチラと見てみる。
「!」
すると魔理沙と目が合ってしまい、魔理沙は気恥ずかしいのかすぐさま目線を逸らしてしまった。
「ふむ・・・」
士郎は申し訳なさと恥ずかしさを感じながらも、思考を回転させた。
「(それにしても・・・この後どうするか、突然来てしまったから住むところも無ければ金もない、金は・・・まぁアルバイトなり投影した剣を売ったりして)」
そういえば、と士郎は思いついた。霊夢に先ほど受けた説明から、この世界には人が住んでいると言っていた。巫女である霊夢がこの社から離れられないのは仕方ないにせよ、ここ以外に人が住んでいるところがあるという事に違いないと士郎は踏んだ。
「博麗」
「霊夢でいいわよ気持ち悪いわね」
「気持ち悪いとは・・・ならば霊夢、この周辺に人が多く住んでいるところはないか?出来ればその辺りを散策しておきたいんだが」
「今日は疲れているだろうし明日にすれば?とりあえず落ち着くまではウチに泊まっていいわよ、なんならウチの手伝いをしてくれるならずっと居てくれてもいいのだけれど」
思いがけない霊夢の言葉に一瞬安心を覚える士郎だったが、すぐさま気持ちを切り替えた。
「ありがとな、でも・・・その、私が生活するには色々と必要な物があるんだ。だから、ここにずっとってワケには、いかない」
士郎の断りに霊夢はふーんとだけ反応を示し、居間にある茶箪笥から紙片を持ち出すと簡単ながらに地図を書いてくれた。
「その地図があれば行けるわ、私たちは人里って呼んでる。・・・と、あと魔理沙を連れて行きなさい、とりあえず今日は余裕があったら戻ってきてね、無理そうだったら・・・魔理沙、お願いね」
「お願いって、え~ウチに泊めるのか?まぁ別にいいんだけどよ」
「(霊夢も魔理沙も一人暮らしなんだろうか・・・なんだか特殊だな)」
年齢の割に…そう考えを巡らせた所でそれが自分の生きてきた人生を基準に考えている事に思い至った。
「(ふぅ…世界が違うと言うのに別の世界の道理を当てはめようとするとは、私もまだまだ自分の世界が大切に思えている様で何よりだ)」
そんな事を思いながら、士郎は魔理沙に連れられて人里へと向かう。
「さて、えっと・・・士郎でいいよな、さっきはなんかありがとな、庇ってもらって」
博麗神社を出て階段を下りていると、唐突に魔理沙がお礼を言ってきた。ぶっきらぼうな言葉遣いながらも礼儀のちゃんとしているいい子だと士郎は思った。
「むしろ私の方こそありがとうだ。霧雨の」
「魔理沙でいいぜ、私も士郎って呼んでるしさ」
遮るように言われ、士郎は頷きを返した。
「わかった。魔理沙の魔法がなかったら私も非殺傷とはいえ怪我とかしたかもしれないからな」
「じゃ、お互い様だな!」
「あぁ」
魔理沙の快活な返事に士郎も気を良くしたのか口元が緩んで笑みが作られた。
「!」
それは先程までまるで表情に変化の無かった士郎が彼女の前で初めて見せた笑みだった。
優しさが滲み出ている様なのに、何処か切なさを感じさせる。
そんな、笑い方だった。
魔理沙はそんな士郎を横目に箒に跨った。
魔理沙の服装とも相まってその姿は人々の想像する魔法使いという格好だ。
「それじゃあ士郎、乗れ」
そこに追加でそんな事を言われるものだから少年心をくすぐられるのも無理はないだろう。
「ま、魔理沙もしかして飛ぶというのか?」
微細な変化だが興味を覗かせる士郎が魔理沙へと顔を寄せて質問を投げかけた。
その食付き具合に魔理沙は何かを悟ったのか口元に三日月を作り、
「聞くよりも、飛ぼうぜ」
箒はまるで重力から解き放たれたかの様にふわりと浮かび上がると、不思議な力が後ろから加わり段々と速度を上げていった。
「お…おぉ…」
段々と上昇する速度と高度に士郎は困惑とも驚きとも歓喜とも付かない声を漏らした。
「へへっ、最初は慣れないかも…にゃ…」
振り返ったつもりの魔理沙だったが、仰け反った形で振りむいた所為か士郎の胸板に肩から寄り掛かってしまった。
バッと前方へ向き直っても顔の朱みはバレバレで、士郎は思わず肩を竦めた。
「とと、飛ばすぜ!」
何処から音がしているのか、甲高い音が周囲に響いたと思えば、箒を包む淡い光が輝きを増して宣言通りに速度が上昇、流れる景色が次々と変化していく。
空を駆けた。
士郎はなびく外套を抑えながら、広く、雄大な空を見た。
陽の光は大地に赤をおとし、眼下に広がる大きな森は燃えているかのようだった。
今に至るまで気づかなかったが既に太陽は傾き、空は赤く燃えた色をしていた。
「綺麗な夕焼けだな、この空は」
そう呟いた士郎に、魔理沙は得意げな様子で返した。
「なら、いつでも見上げればいいさ、そこにはこの空がいつでも広がってるんだから」
「そうだな・・・」
士郎はふと思い返していた。自分の過去の生を、フリーランスとして様々な場所を旅していた。時には青い空に故郷を思いだし、時には赤い空に認めたくない自分を思い出した。時には暗い夜空に寂しさを抱いた事もあった。
いつも、見るのは違う空だった。
この幻想郷で新しい生を得たのに意味があるのかは分からない。
ただ、しばらくはこの土地に居よう。
この土地から見えるこの空を見上げて、美しさを噛み締めよう。
「本当に、そうだな」
感慨深く呟いた士郎の言葉に魔理沙は八重歯を見せた笑みを作ると箒を握る手に更に力を込めた。
「よーし、まだまだ速度あげるぜ!」
言葉が行動を生むかのように箒の速度は上がり、景色を置き去りにする。
艶のある木々の葉が夕日を反射して光を運んでくる。
士郎の視界には光が瞬いては消える。それはまるで流星群を横目に見ているかのようだった。
「まるで、星みたいだな」
「へへっ、綺麗だろ?」
「あぁ」
士郎と魔理沙はつかの間の飛行を楽しみ、人里への道を楽しんだ。
その光景を見せてくれた少女の笑みが、何よりも輝きを放っていた事を士郎は胸中に隠して。
~人里~
人里に着くと、陽は既に落ちて薄暗闇の中で街灯として吊るされている提灯の灯りが暖かく周囲を照らしていた。
見てみると、おでん屋や小さな装飾品を扱う出店が見かけられる。
人が住んでいる。そのことが実感できる光景だった。
「ここが人里か、木造建築ばかりで落ち着く雰囲気だな」
木の香りに包まれる・・・といった程ではないが、士郎の知っている冷たい鉄製の建物に比べると外観は優しさを感じるものがある。
「あれ?そういえば士郎ってどんな場所に住んでたんだ?」
ふと気になった魔理沙が訪ねてみると、士郎は柔らかな笑みを作り応えた。
「私の住んでた場所か・・・そうだな、住んでいたというよりも私は色々なところを旅していたからな、それだけ多くの国があって、多くの文化と多くの人が暮らしている世界だった。時には争うこともあれば、何か一つのために国同士で協力したり競ったりすることもある。そんな場所だよ、私にとってあの世界は」
「思い出が多いんだな」
「あぁ・・・そ、それより魔理沙、この人里をざっと見てきてもいいか?」
このまま話が続くとなんだか恥ずかしいことを言ってしまうと察して急いで話を逸らした。
「ん?あぁ!見てくるといいぜ、私は三ツ星っていう団子屋にいるから」
そう言うと魔理沙は慣れ親しんだ道なりを行くように・・・というよりも実際に慣れ親しんでいるのだろう。足取り軽やかに夜の町に消えていった。
「さて・・・私も見て回るか」
人里は様々な店があった。宿屋はもちろん、花屋や家具屋、夜間のため開店していなかったが喫茶店のような外観の店もあった。和風な雰囲気の町並みからは異質な外観でこそあるがその場所だけが特別な様にも見えて魅力的だった。
町自体は大きくはないのだが、入り組んだ造りをしている点と多くの建物が存在していることから本来以上の広さを感じさせる。
町を見回っていると何人かに話しかけられたり困っている人がいたので助けたりをしていたらある程度の時間が経過していた。
そろそろ魔理沙の言っていた三ツ星という団子屋に向かうかと考えていたら、目の前から一人の少年が駆けてきて士郎に衝突した。
「おっと、大丈夫か?」
士郎は少年の肩を抱いて安否を確認してみるが、少年の顔を見るに何かに怯えていることが分かった。それは士郎に対しての恐怖の感情ではなく、むしろ何かから逃げてきて士郎にすがるかのような表情に見えた。
「・・・どうした?」
士郎は落ち着いた声で少年に問いただすが、少年は士郎に何かを伝えようと口をパクパクと動かすだけで具体的な言葉は出てこない、
士郎は少年の来た方に視線を向けてみるが、そこには町の外へと・・・正確には森へと続く道があるのみだった。
「森に・・・何かいたのか?」
士郎の言葉を受けて少年は頷きを繰り返し、ようやく言葉を紡いだ。
「もうひとり、先生と一緒だったんだけど・・・先生が」
見れば、士郎の掴んだ少年の肩からは血が見られた。士郎は少しの魔力の消費を持って包帯を投影した。それを少年の肩に巻いてやると今の状況を整理した。
少年が何かに襲われたということはまず間違いないだろう。
そして、この少年の反応から見て先生と呼ばれる存在がひとりでおいてけぼりをくらっている。
問題は何に襲われたかだ・・・と士郎が思案していると、少年がさらに口を開いた。
「妖怪が出て、それで!」
涙を携えた少年の言葉を受けて、士郎の足は走り出した。
考えるよりも早くその足は踏み出されていた。行動の理由はただ人のため、それが衛宮士郎が衛宮士郎である何よりもの証明だった。
「そこで待っていてくれ!」
少年は士郎が走り出すのを見て止めようと手を伸ばしたが、すぐさまその手を収めた。
「必ず連れて帰る」
走り去る衛宮士郎のその背中が、
あまりにも頼もしかったから――。
~人里・離れの森~
士郎は先ほど逃げてきた少年の肩から流れ出たであろう血の跡を追って森の中を駆けた。
暗く、鬱蒼と茂った森の中は進みにくくもあったが空から照らされる月明かりがおのずと道を教えてくれた。
出血の量はそうでもないが、失われた血液の量は少年の身体から比較すると明らかに多い量だと思われた。早く戻り、彼の手当を本格的に施さなければいけないということが見て取れた。
しばらく走ると、小さくではあるが叫び声が士郎の耳へと届いてきた。
女性の、明らかに暴行を受けている悲鳴。
感情が表にでそうになるのを抑え、務めて冷静にその声を聞く。
士郎が声のする方へと駆けつけると、そこには美しい蒼と白の髪を伸ばした女性と、その佇まいが明らかに人間離れしている獣耳の狼男と見られる者がいた。
「くぅっ・・・」
月明かりに照らされた狼男の口元から捕食者の涎が流れ出ている。吐息は荒く、目元は充血していて今にも女性に食いかからん勢いだ。
女性の口元や膝からは血が流れ、狼男から暴行を受けたであろうことは容易に見て取れた。
狼男はその強靭な腕で女性の首元を掴み、女性を空中に拘束していた。
女性の口元から漏れる嗚咽には苦しさしかなく、体力的にも辛いであろうことと悔しさのようなものが感じられた。
「面倒くサい抵抗をしやガって、弱い女のクセしやがって」
その言葉に、女性が眼に涙を浮かべた。
悲しさと悔しさで口元からさらに嗚咽がもれている。
「ふざけるな」
衛宮士郎は、頭の中で撃鉄を引き起こした。
自分の身に流れる魔術回路のスイッチが入り、体中に力が漲る。
「
口から漏れる怒りの言葉に、狼男がこちらを見る。
「はぁ・・・?なンだお前?」
女性は、逃げてくれと言わんばかりの視線を送ってくる。
「(この状況において他人を心配することができるというのか・・・ッ!)」
その優しさに、誰かの面影を見た。
その優しさに、自然と決意の炎が灯った。
あぁ、逃げるわけにはいかない、
この世界の妖怪という存在がどれほどの強さを持っているかはまるでわからない、
だが、それが彼女を見捨てるという理由にはつながらない、
それが、あの少年と交わした約束を違える理由にはつながらない、
「私が誰かなんて関係ない・・・ともかく貴様は」
士郎は足へと強化を走らせる。
踏み出されるはただ一歩、されどその一歩は瞬時に狼男との間合いを詰める。
踏み出した一歩をそのまま軸足に狼男が女性を掴んでいるその腕にアッパーカットを繰り出す。
関節を捉えたその一撃に狼男は思わず女性を離すも、すかさず士郎を撃退するためにその腕を振るい士郎の脇腹を狙いに来る。
殴ったのとは逆の腕で女性を掴み抱き寄せ、その時に生じた運動をそのままに体を半回転させて狼男の腕を避け、軸足はそのままにもう一方の足でもって後ろ回し蹴りを繰り出した。
「ガぁッ・・・!?」
蹴りをモロに受けて後ろの木へと衝突した狼男を見て、士郎は佇まいを整えて哀れな獣に呟いた。
「貴様は、これ以上この人を泣かせるな」
狼男は木に体を預け、白目を向いて泡を吹き、これ以上の戦闘が無理であることは一目瞭然だった。最も、今の瞬間を戦闘と呼ぶか舞と呼ぶかは人によるのだが、
「勇気ある少年が教えてくれてな、貴女が先生で間違いないかな?」
抱きとめた女性が何かを言おうとして気絶する中、最後に笑みを浮かべていたことを士郎は見逃さなかった。
弱い女性?そんなことがあるものか、なんと強い女性だ。
「覚えておけ狼、女性は強いぞ」
獣の世界でソレが当て嵌まるかは別としてな…と吐き捨てて、士郎は腕の中で眠る強い女性を見た。
銀色の頭髪に、一部蒼のカラーが入っている。
眼を閉じ、笑みを浮かべた口元、涙の痕が残っているその頬を拭えば美貌も増した。
「…特に、美しい女性はな」
確かな事実はひとつ、
衛宮士郎はまた一つ、悲しみに流される涙を止めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「女性は・・・ほんと、強いぞ」
自分で言った言葉に過去を思いだし頭を抱えたくなる士郎であった。
改訂作業中の愚痴
Wordでスペース開けた所が貼り付けると偶に左詰めになってるの泣きたい。