「あぁ、よろしく頼む・・・君の名は?」
「私は紅美鈴って言います」
「よろしく頼むよ美鈴」
「はいー」
・・・整理しよう。
確か、確かだ。俺はルーミアと一緒に湖の周りを散策していたら大きな・・・というよりも魔力の塊のようなものを感じたからそちらへと足を運んだ・・・。
すると、大きな館とその門らしきものが見えてきて、ルーミアに言われて門の手前へと意識を集中してみると女性がいた・・・。
そして、現在に至るわけだが・・・
「いやー、今日も暑いですねー」
おかしい・・・色々と、いや、彼女が敵だというつもりはない、だけれども、なんだろうか、何か違和感が・・・。
「士郎さん・・・でしたよね、何か紅魔館にごようですか?」
「あ、ここ紅魔館って言うのか」
思ったことをただ言っただけだったのだが、
「あっ」
「えっ」
・・・どうにも、知っていることを前提で話されていたようだ。
「えっと、お知りにならなかったんですか?」
何より、知っている事を前提で話したという事は、知らない事の方が異常と取られると考えた。
「いや、知っていたよ、ただ噂に聞いた程度だったんでね、場所が定かではなかったんだ」
「あぁ、そういうことなんですね、では、一度ここに訪れたことがあるというわけではないんですね」
悪寒、何故感じたのかはわからない、しかしその時確かに口元が乾き、意識していなかったはずの手の先、つまりは自分が今、掌をどういった形にしているのかが気になった。
まるで、すぐに迎撃できるのかを心配するかのようにだ。
乾く口を開いて、それでも平静を装って応える。
「あぁ、もちろん来るのは初めてだ」
時間にすれば1秒にも満たない、しかしそのわずかな時間で幾度の変化があっただろうか、目の前にいる紅美鈴という女性の瞳が刃物の先端を思わせるほどに鋭くなり、手の位置を僅かに変えた。
目・・・というよりも
首元、手首、頬、唇・・・そこに『見られた』結果を感じた。
「そうですか、それは良かったです」
柔らかな笑顔で返され、思わず安心する。
間違いない、今のは首元と手首で『血管を走る血液の速度』を、頬の赤らみ具合から『緊張』を、唇から『発言の迷い』を
「へぇ、色々と事情があるんだな」
声色は一定、なんてことはない世間話をするかのように軽く切り出したその言葉に、美鈴が面食らったかのような表情を見せた。
「えっと、もしかして今の気づいてたり・・・?」
大きく
意趣返しとは自分でもいい趣味ではないと思いつつも先程美鈴が自分にしてみせた『観察』をそのままやって返す。
なるほど、確かにこれはわかりやすいものだ。
まずは『手』、血管の膨らみから流れの速さを見る。また、人は警戒すると意識的にしろ無意識的にしろその手、強いては指の関節を曲げる。
そして次に『首』、筋肉の緊張からも警戒具合が見て取れる。そして、それに加えて血管も『観察』の対象となる。
『頬』を見てみると赤みを帯びている。
最後に『唇』・・・美鈴の唇は口紅のような化粧の跡は無いのだが、それでも荒れている様子は一切なく、程よい膨らみをした唇が魅力的だ。
「(違う・・・見るところはそこではなくて、私はこんな時に何を…)」
ついつい、その魅力的な唇に眼がいってしまう。
桜貝の様な綺麗な桃色が輝いている。
「・・・あ、あの、そんなに
言われ、自分が唇を凝視することを続けていたことに気づく。頭では何をしているんだと思いながらも眼が離せなかった。
「すまない、いや、悪かった」
「い、いえ、私も気にしすぎました」
どちらとも、下を向いて目を合わせることも出来なくなってしまった。
こういう時、太陽という物は煩わしくなる。なにせどんな時でも自分の真下で行われる細事大事を観察する事が出来るのだから。
「でも、まぁ、わかりました。確かにあぁも見られると困ってしまうものですね」
「いや、私もイタズラが過ぎた」
本来なら気づかれることはないんですけどね・・・と続ける美鈴、確かにそうだろう。現に、先程チラリと眼を向けられたルーミアは気づいていない、それどころか先程から士郎と美鈴が何を話しているのかすらわかっていない様子だ。
そこでふと、士郎の嗅覚を刺激する何かの香り、花だ。
近頃は幽香と会うことも増え、段々と花の知識が付いてきた士郎は思わずそれが何の花なのか気になった。
「この香りは・・・近くに花畑があるのか?」
思わず口に出た言葉に、美鈴がその顔を満開になった花のように笑顔へと変えた。
「そうなんです!士郎さん、もしかして花にお詳しいんですか?」
「いや、知り合いに詳しい
自分で言って、恥ずかしさを覚えながらも言葉を綴る。
その言葉に、美鈴は優しく微笑んだ。それは先程の花のような笑顔とは違う、まるで風にそよぐ草花のように柔らかな微笑みだった。
「いえ、わかりますよ、それに・・・その表現、なんといいますか、素敵です」
率直な感想に、嬉しさを覚え口元が緩む士郎を見て、美鈴が「そうだ!ちょっと待っててください」と言って門の奥へと消えていった。
「士郎ー、この奥なんだかおかしいの」
「おかしい?」
「怖いっていうか、懐かしい・・・っていうか、うーん分かんない」
「怖いか、大丈夫だぞルーミア、私が居る」
そう言って、ルーミアの頭を撫でてみせると、ルーミアは士郎に撫でられた部分に手を当てて不思議そうな顔をした。
まるで驚いているような、それでいて笑顔にも似た、そんな表情だった。
「なんだろな、士郎に撫でられたところぽかぽかする」
「涼しくなってきたとは言っても夏だからな、熱中症には注意しろよ?」
「ねっちゅーしょー?」
「あぁ、熱中症っていうのはな・・・」
そんな風に、何かを話してはルーミアが疑問を抱いて、それに士郎が応える。なんてやりとりを繰り返していると、門の向こう側に人影が現れた。
しかし、無言である。何故だろうかと疑問を抱きながらも、さらなる違和感に気づく。
「(・・・花の香りがしなくなった?)」
ちらとルーミアの方へと目をやってみると、口を開けて何かを言おうとしているのだが、一切動いていないようだ。
それも、自分の意思ではなく、そうさせられているようだ。
つまりは、『止められている』。
門の奥から現れた影が、こちらへと歩み寄ってくる。
「(まるで警戒していない、おそらくは・・・俺も『止められている』と考えているな)」
ならばそれに付き合ってやろうと、士郎はあたかも自分が停止しているかのように演技を始めた。
「・・・」
士郎は瞬きすらしない、いや、正確には魔術を使用しているのだが・・・。
眼は動かせないので、その姿を確認することは出来ないのが辛い。
「何だか随分と長い話声がするから来てみれば・・・美鈴はどこにいったのかしら」
声、女性のものだ・・・美鈴の名を知っていてなお門の奥から来たということはおそらくこの館の人間だろう。
「それにしても・・・いったい誰なのかしらこの男は」
『睨まれた』と、感じたことを悟られるわけにはいかない、息を殺すのではなく、今は己を殺す。
近づいてきたその女性は士郎の身体を観察するように見ていく、と、思いきやだ。
「へぇ・・・結構鍛えてあるじゃないの」
「(なん…だとッ!?)」
女性が唐突に士郎の身体を触り出す。いやらしさはない、筋肉の筋をなぞるように触っている。
胸筋から人差し指が段々と腹筋の方へと下がっていく、まるで流れるかのような指の軌道がくすぐったさを誘発する。
「あら・・・?」
そこで、女性は気づいた。筋肉だから確かに硬いのは当然のことだ。しかし、『止めた世界』では温度の変化は有り得ない・・・いつもと違うことが起きていた。
ふとももに巻いたバンドに刺したナイフを取り出す。
それを士郎の首元に当てることで、なにか反応が見られないかを試す。
「・・・おかしいわね、常人ならなんらかの反応を示すはずなんだけど、気のせいだったのかしら?」
「(危ない・・・さっき美鈴が首を観察していたことで警戒できたけど、それが無かったらまずかったな)」
女性は士郎を後に、門の中へと消えていく。
「まぁいいわ、お嬢様に報告するまでもないことね」
「(去ってくれたか・・・それにしても何故『止まって』いるんだ?あの女性の仕業なんだろうか?)」
そんな思考に対して、銀色の流星が現実へと引き戻す。
視界にその流星を捉え、すぐさまそれが刃物だと理解する。
軌道は首へ、避けるか防がなければ間違いなく・・・!
瞬間、2本の指の間に挟むことでその
「やっぱり・・・あなた、動けるのね」
先程の声・・・なるほど、試されたわけだ。
目線をそちらへ向けると、メイド服に身を包んだ銀髪の女性がいた。
「あぁ、どうもそうみたいだ・・・でも、俺自身なんで動けるのかは分からないんだけどな」
とは言いながらも、実はある程度の予想はついていた。
少なくとも、それ以外に要因が思いつかない・・・いや、今はそういうことはどうでもいい、問題は・・・、
「あらそう・・・私の能力が何なのか、ようやくわかるかもしれないとおもったんだけどね」
言葉はオマケ、地をしかと踏みしめた女性はヒョウを思わせる低さでこちらへと
同時、この世界の魔法なのだろうか、女性を中心に何百もの短刀が出現した。刃の切っ先が向く方向はもちろん士郎だ。
「まぁいいわ、危険分子として貴方を排除する!」
地を滑るように走りながら姿勢をより低くする女性、まるでシューティングゲームのオプションパーツのように女性と並走してくる大量の刃、その一本を女性が掴み、
「この状況で冥土に送られたのではあの世の笑い話にもならんよ」
士郎の足めがけて斬りかかるも、バックステップでそれを難なく避ける。
しかし続いて、女性と並走していた短刀の群れが後ろへ下がった士郎を追撃するかのように飛んでくる。見れば、女性が指先で触るだけでまるでエンジンがかかったかの様に短刀が走り出す。
横一列、地上に逃げ場を無くさせる短刀の一斉掃射が士郎を襲う。
「メイドとかけたつもり?ありきたり過ぎて洒落て無いわよ!」
「君がずっと難しい顔をしている物だったのでね」
返答をしながらも唯一の逃げ道、上空へと飛び上がる。
「(あまり手の内を見せるのは得策じゃないな・・・となれば)」
無論、それを待っていたかのように女性が先程から手に持っていた短刀を振りかぶり空中へと追撃をかける。
士郎は咄嗟に懐に手を隠し、まるで何かを取り出すような仕草で懐の内で投影した果物ナイフを手にそれを迎撃する。
「食器で私に勝てるとでも?」
言葉に違和感を覚え、気付く。
落下地点には先程避けた短刀がある。そして、それらが全て士郎目掛けて刃先をきらめかせているのだ。つまりは、避けて、転がり、役目が終わったと思っていた短刀達が今もなお士郎へと切っ先を向けているのだ。
予測、このまま落下すれば足に短刀が刺さるだろう。
空中で浮こうにも、未だ士郎はその技術を行うためには集中が必要になる。
「(面倒だけど、仕方ないか)」
右手に握った果物ナイフを魔力の塊へと変換する。
即席の超高密度の魔力弾となった『果物ナイフ』を足元へと投げつける。
足元、無造作に散らばっていた短刀が魔力の暴風に煽られその場から離れていく。士郎は安全に着地した。
「へぇ・・・なかなかいい動きをするわね」
「お褒めにいただき光栄・・・と、だが、そちらも本気を出してないみたいなので褒められてもあんまり嬉しくはないんだがな」
「あら、いい
警戒をされたか・・・とはいえ、こちらの手の内を見せるつもりは毛頭ない。
背中に手をやり、後ろから何かを取り出す仕草の中で木刀を投影して構える。
「木刀なんかで私の相手をしようというの?」
その手に持ったままだった短刀をこちらに投擲してくる。
「俺に敵意はないんでね、傷つけようとは思わないからな・・・」
言いながら、その眼をもって刃の横部分を叩いて短刀を落とす。
「いつまで余裕でいられるかしら?」
女性は再度身を屈めたかと思うと足に魔力を纏わせた。思うに、少し本気になったということだろうか?
元々いた場所から士郎を囲むように円を描いて移動する。
そして、その移動した跡に短刀が並べられている。
「(彼女は何かを創造する能力を持っているのか…?それとも、自分の空間を持っているタイプか…)」
「次は私が触れなくても貴方を襲うわよ、さぁ、どう捌くのか見せてみなさい!」
囲んだ短刀が一斉に士郎に襲いかかる。その光景は絶体絶命に見えなくもないが、士郎はなんて勿体無い攻撃をするんだと呆れていた。
軽く、屈むで避ける。
「今のは一斉に撃ち出すのではなく私の行動に合わせて順次撃ち出せば良かったのに・・・」
「あら、ならそうさせてもらうわ」
そう言うと、士郎に避けられて地面に転がった短刀が再び士郎へと切っ先を向ける。
それだけではない、先程魔力弾によって吹き飛ばした短刀までもが士郎へと向き直っている。
なるほど、先程も一度撃ち出した短刀を着地地点のトラップに使っていたことを考えるとこれが彼女の主戦略と捉えるの正しいかもしれない。
「ふむ、応用性がある訳だ」
でもそれなら、私も少しだけ手の内を見せるとしようか・・・。
足に力を入れる。まるで活用していなかった筋肉が膨らみを見せる。
「(『強化』の魔術を使用するまでもないな、まずは)」
破裂音、女性が何事かと目を見張れば、地面にばらまかれていた短刀が消えている。
困惑、次いで見れば先程から相対していた男はいない、どこに行ったのかと探してみれば見当たらない、もしやと思い上を見上げるも姿は確認できず。護身の意味も込めて太もものバンドから銀製のナイフを1本取り出す。短刀以上に使い慣れた本当の愛武器だ。
閑・・・。
『止められた』空間内を静寂が支配する。いや、正確には静寂ではない、何かが動く音だけが常に静寂を妨げている。
女性は、自分の息遣いだけが段々と荒れていくのを感じていた。
最初は無意識に、しかしその荒れを意識してしまった事で変に呼吸を正そうとして肺に負担がかかる。
「借りるぞ」
――ッ声がした。かと思えば自分の手に持っていた銀製のナイフが消えていた。しっかりと握りしめていたはずなのに・・・
気づけば、先程までしていた移動音・・・とでも呼ぶのだろうか、相対する敵が発していたであろう音が消えていた。
それでも
振り向いて、もしもいたら・・・どう対処すればいい?
振り向いて、もしもいなかったら・・・背後ががら空きになる。
振り向かずに、このまま警戒を続けていたら・・・強襲に対処できるか?
振り向かずに、負けを認めれば・・・いかに楽なのだろうか
否、その思考を全て捨て去る。
「認めるわ・・・貴方は強い、それも、私がもしも全力で戦ってもかなわない程に」
言葉を聞き届けたのか、唐突に士郎が姿を現す。
「諦めてもらえるか?」
「えぇ、ただ・・・この一撃を全て避けることが出来たらね」
明らかに、雰囲気が変わった。
先程までの女性とは、どこか違う。
そして女性は動き出した。士郎も、それに合わせて動こうとする。
だが、動けない・・・いや、正確には自分の見ている女性の動きと自分の動きが噛み合わないのだ。
女性が動き始めたのを見て、士郎はすぐさま脳から筋肉へと動く指令を出した。その頃には、女性の足は既に地を離れていた。
速すぎる。いや、疾いが正しいのだろうか。
「―――ず―――――け―――ら?」
女性が口を動かして何かを言っている。しかし、随分と高音で発せられたその言葉は聞き取ることが出来ない物だった。
気がつけば、士郎の上空、まるでしだれ桜のように何本ものナイフが士郎へと切っ先を向けていた。
「―――さ―――――よ!」
一斉にではない、数本が士郎の脳天めがけて落下を始める。
「(ナイフの速度がさっきよりも疾い!)」
右方向へと跳ねて避けるも、まるでそれを追いかける機銃のようにナイフの嵐は弱まることを知らない。
それでも士郎は駆けて這って避けて転げて一度もナイフの直撃を許さない、避ける傍ら、一本のナイフをキャッチする。
―
――構成物質、解明
――蓄積年月、読了
――存在の加速を確認
「(なるほど・・・物体の速度ではなく物体の時間そのものの加速か・・・)」
つまりは、これらのナイフはほかのナイフと比べて何もかもが疾くなっているのだ。
このナイフと、もう一本同じ製法で、しかし存在の加速を掛けていないナイフを用意して板に突き立て、どちらが先に朽ちるかを試すとする。すると、存在の加速を受けているナイフはもう一本よりも先に朽ち果てる。内外からの干渉の全てが加速しているからだ。
仕掛けさえわかれば驚くことはない、士郎は襲い来るナイフ達を余裕をもって避け続ける。
避けて跳ねて逸れて擦れて華麗に舞う。まるでナイフは演出か、殺陣の舞台はいつの間にか衛宮士郎の舞踏の場へと変わっていた。
その様子に、いつしか女性は攻撃の手を止めていた。
見とれたわけではない、自分が引き立て役になった気がして悔しさを覚えたのだ。
「嫌になるわね、反撃のチャンスはいくらでもあったでしょうに」
そう言いながら、舞を終えた士郎に向かってナイフを一本投げる。
「ふぅ・・・とはいえ、私は別に敵意はない、まずこの館がなんなのかも知らないしな」
士郎はそれを足先で弾くと、落下してきたそのナイフを再びキャッチしてみせた。
「紅魔館・・・名前くらいは聞いたことがあるんじゃなくて?」
既に女性からの敵意は感じられず、落ち着いた対話の雰囲気が場に満ちる。
・・・どう答えたものかと悩む、もしもこの女性が美鈴と同僚なのだとしたら二人の認識に齟齬が発生するのはまずい・・・
そうとなれば答えは決まる。
「あぁ、ここが紅魔館なのか・・・色々と高名な噂は聞いてるよ」
「・・・へぇ」
また『
「えっとだ・・・もしよければ今度紅魔館の接客マニュアルでも見せてもらえないか?こうも同じことを何度もされたんじゃいい気分はしないものでな」
疑問の表情を浮かべる女性だったが、何か合点がいったのか口を結ぶと少し居心地の悪そうな表情へと変わった。
「まぁ・・・それは悪かったわ、それに、貴方もどうやら本当に敵意をもっていないみたいね」
「最初も言っただろ・・・まぁいいか、私は衛宮士郎だ、人里の寺子屋で教師をしてる」
「私は
これでメイド長か・・・戦闘に特化したメイドってわけでも無さそうだ。
「まぁ、貴方が
言われ、ルーミアの近くへと移動する。しかし、士郎には一点気になることがあった。
「咲夜だったな・・・あの時間をどうこうするのは、やはり魔法なのか?」
単純な疑問からだったのだが、咲夜はこちらを一瞥した後に、答えを告げずに去っていった。
現実時間にして1秒にも満たない顔合わせがここに終了した。
私が戻ってくると、士郎さんとルーミアちゃんは門の前で何やらお話中のようだった。
そういえば、あの二人はどういったご関係なのだろうか?士郎さんの娘・・・にしてはあまりにも似ていないし、お友達ってところですかね?
先程、咲夜さんから常日頃『初対面の相手は疑いなさい』と言われているので人が嘘を
ですので、せめてものお詫びにと私は花園からダリアと山丹花を摘んで持ってきました。どちらも、紅い花弁を咲かせる花で、私が好きな花の一つでもあります。
そして、私の仕えるお嬢様の妹様も、この花の色を好きだとおっしゃってくださいました。
花の香りを感じて、心が穏やかになりま・・・
違和感――どうやら、咲夜さんが能力を使用したようですね、ということは恐らく士郎さんに危険がないかを見に来たといったところでしょうか?
士郎さんが普通に笑顔でいるところを見ると、特に危険もなく干渉もなかったということですね、良かったです。
私の目で見てもわかるとおりに、士郎さんは強い、それも、人間という枠には収まりきらないレベルの強さを持っています。鍛えられた筋肉とかではなく、身に纏っている経験が織り成す気配が違うのです。
まるで、人生に一度の死線を何度も経験したことがあるかのような・・・、ですが同時に、彼からは
死線を超えてなお
それに、ルーミアちゃんも・・・ルーミアちゃんからは、明確な
ですが、ルーミアちゃんというよりも、ルーミアちゃんの底から漂うものという表現の方が近い気がします。
それは、妹様にもどこか似たもので、二人ならもしかしたらいいお友達になれるのではないでしょうか・・・なんて、期待するのは自由ですよね。
門を開くと、士郎さんが私の手元の花を見て嬉しそうな表情を浮かべてくださいました。
なんだか、こちらまで嬉しくなってしまいます。
ルーミアちゃんも綺麗と言ってくれました。
お詫びにどうか受け取ってくださいというのは私の言葉、士郎さんは何故か『むしろ申し訳ない』と言いながらも、その花達を受け取ってくださいました。
士郎さんはお礼に、と言って、右手を前に出して何か力の流れを感じたかと思うと、その右手に一本の大剣が握られていました。
私のように妖怪であれば片腕で持つことも納得できますが、士郎さんが持つには明らかに違和感を覚える。それほどに重量感のある大剣でした。
士郎さんは、何の変哲もないただの大剣だと言いましたが、私はその大剣の持つ存在感に一目惚れしていました。
士郎さんはそれを察してなのか、同じような大剣を何本か出してみせると、それに手を当てて何かの呪文を唱え始めました。
なんだろうか?と私が疑問に思っていると、いつの間に取り出したのか士郎さんが持っていた御札にその大剣が吸い込まれていきました。
結界術の初歩の1つだ。と士郎さんは言っていましたが、一体どなたから習ったのでしょうか・・・
その後、12本の大剣を御札にしまった士郎さんはそれらに番号を振り分けて、それら全てを私にくれました。番号をイメージしながら『
その後、士郎さんと世間話に興じて、陽が傾いてきた頃に士郎さんが家路につきました。
変わったところもありましたが、いい人でした・・・。
ですので、これから私達が行うことで迷惑をかけると思うと心が痛みます。
ですが、退けないのです。
すいません士郎さん、ごめんねルーミアちゃん・・・、今はこの、朱色の夕焼けを楽しんで…。
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優しい女性だった。
優しく、そして己を持っている。
強さとは人によって何が支柱となっているか変わってくる。
彼女の場合は、きっとあの門にある。
見る限り、彼女は門番だった。
門番を司る者はそれ相応の強さを持っている。
私も既に見つけている…負ける訳にはいかぬ理由を。
守る者がいる同士、強くなれればと思うよ。
2017/01/08
改訂作業完了。
知り合いがドミノ倒しを卒業制作として作ろうとして倒したらしい。
合掌。