東方剣創記   作:スペイン

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 士郎との生活を始めた私は昼間を博霊神社での職務、朝、夜の間は士郎の家でゴロゴロしている。

 たまに、掃除なんかをしてやると士郎が笑顔になる。

 帰ってきたときにお茶を淹れてやると、ありがとうって頭を撫でてくれる。

 今日も、昼間の職務を終えた私は士郎が帰ってくるまでに家の前の掃き掃除と、秘かに(おこな)っている料理の勉強をする。

 以前、少し早めに職務を終わらせた時に魔理沙とアリスに頼みこんで知っている料理を紙媒体でレシピにまとめてもらった。

 今日は、アリスが得意としているという『酢豚』を作る。

 レシピを見て、自分で人里に買い物に行ってみたところ、そこで改めて自分が酒のつまみ以外を作れないということに気がついた。

 ついでにお酒も買っていく。私が好きなのは日本酒や焼酎なのだけれども、士郎は「ワイン・・・あとウィスキーも好きだな」と言ってた。

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 士郎曰く、

「昔、師事していた人が日本酒とかよりもワインを飲んでいたって言うのが大体の理由かな、あとは、日本酒よりもワインの方が魔術に合っているっていうのも一つの理由かな」

 何故?その問いに、士郎は3本目(瓶)のワインを飲みながら応えてくれた。

 「えっとな・・・簡単に言うと筋肉の弛緩に似たようなものだ。まぁ、俺の場合はワインの方が飲みなれているし、酔いの周りもワインの方がどこか早いんだ」

 理由は知らないんだけどな、と士郎。

「んで、魔術を扱ううえで無駄な力が入っていない状態って言うのはすごく大事なことでな、人っていうのは生活をするうえで、必ずどこかに力を入れてる。例えば今、俺と霊夢は座っているけど、姿勢を維持するために無意識だけれども背中に力を入れているんだ。それも、最低限ではなく、別に必要のない力まで入ってしまっている」

 そう言いながら士郎はおもむろに手を見せてきた。

「そうだな、手が分かりやすいかも知れんな・・・力を抜いて、自然体になって下さい、なんてマッサージとかの場でよく言われるだろ?あ、霊夢はそういうところ行ったこと無いか、じゃあそうだな、眠るとき、出来るだけ何も考えずに早く眠ってしまおうとした時に俺たちは自然と手を(もも)や、腿の横に置いたりして平たい形を作るだろ?あぁ、もし違っていたらすまない?合っている?それは結構」

 寝ころび、実際に手を床に置く士郎。

「だけど・・・だ。実際のところ、手にとって一番リラックスできてる状態というのはこの形じゃない、次は寝るときじゃない、起きた時を想像してみろ。起きた時、私たちはどんな手の形をしている?意識したことがない?まぁ、それもそうか、ふむ・・・そうだな、それじゃあ肘掛のある椅子だ。肘掛のある椅子に腕を預けた時、その先にある手の形はどうなってる?」

 言われた私は、テーブルに肘をかけてみた。

「・・・丸、でもないわね、握りこぶしと開いた掌の中間ってところかしら」

「そうだ・それが掌の本来の形だ。まぁ、話を戻すと酒ってのは身体の余分な筋肉をほぐしてくれてそういった本来の形ってのに近づけてくれるんだ」

 そう言って投影魔術をして見せる士郎、さぞ素晴らしいものが出来るんだろうと期待していたところで、投影された物は不思議な物だった。

「えっと・・・なにこれ?」

 それはとんでもなく型崩れした剣、な、なんだろうかこれは?と返答に困っていた霊夢に、士郎は笑いながら答えた。

「ははっ、とはいえ飲みすぎると頭の中までほぐされちゃって構成がふにゃふにゃになっちまうのが残念なところだな」

「・・・それ、本末転倒じゃないの」

 そう言いながらも、霊夢も酒を一気に煽る。

 そうしてその日は、二人で飲み明かした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 思い出して、つい笑みがこぼれる。

 そんな思い出に浸りながら、思う。

「はぁ・・・士郎、まだかなぁ」

 料理も作り終えてしまったので、サランラップをして士郎お手製の冷蔵庫の中に入れておく。

 一息ついて、空いた時間を修行に使おうと外に出る。

 士郎から言われ、意識して戦術のうちに取り入れた格闘術、とてもじゃないけれど、これまでの発想からは生まれようもない物だった。

 結果術と封印術、そして言霊を使用した戦闘方法でもある。

 そして、そこにちょうど良く・・・。

「お、修行か霊夢?」
 
 魔理沙が衛宮邸を訪れた。

「あら、魔理沙・・・付き合いなさいな」

 護符と御札、霊札を取り出して魔理沙へとつきつける。

「なんだ本当に修行してたのかよ、まぁ士郎が来てから本当に力の差を思い知らされてるからな…」
「あら、魔理沙だって色々としてるみたいだけれど、勘違いだったかしら」

 それに対して、魔理沙は返事をするかのように『ビー玉』を取りだした。

「いいや、喜んで、ダンスの相手にゃちと私はじゃじゃ馬だぜ?」

 言うやいなや、魔理沙はそのビー玉を霊夢に向かって投げつける。

 大きさ、輝き、それらは普通だ。しかし、込められた『何か』があると確かに分かる。

 急ぎ、護符の一枚に霊力を通してその場に簡易的な盾を作る。蒼い色のヘキサゴン型の極薄の盾がその場に現れる。

「おいおい、霊夢なんだその軽そうなのは!」

「即席の盾よ!あらかじめ護符に書き込んでおいて霊力を流せばすぐに作れるっていうね!」

 答えを返し、盾を前に姿勢をかがめる。
 (きらめ)き、ビー玉が光の破裂を起こす。

 陽の光には程遠い、それでも輝きは確かに目を眩ませるには充分な物だった。

「なるほど、眼潰しのための道具というわけね!」

 言い、答えを待つよりも早く展開した盾に手をかざす。
 それによって、掌から10cm程のところに盾が張り付いたかのようについてくる。

「いや、実はそうじゃないんだなこれが」

 光に紛れ、魔理沙がいつの間にか背後へと、

 その手から新たに2つのビー玉が投げられる。しかし、その方向はまるで見当違い、ビー玉は霊夢の左右にある空間へと投げられた。

「(狙って…ということは今ここにいることは危険ね)」

 当然、狙いに気付く霊夢、恐らくは挟撃、そう考え、取り出していた霊札を上空に投げる。

 霊札が輝き、エメラルド色の光を放ち不思議な風が降ろされる。

 結果、風を受けたビー玉は本来の狙いとは逸れた場所、霊夢を挟まぬ位置、詳しくは霊夢の背後へとずれた。

「チッ、また新しい技か?」

「えぇ、身の回りの自然の流れを増大させるってだけの物だけどね」

「ならこうだ!」

 2つのビー玉が輝き、上空へと一本の柱が伸びる。霊夢の背後に現れたその柱は簡易的ではあるが霊夢の行動を封じる檻となった。

「そんで、こうだ!」

 突き出された拳、霊夢は一目でその拳に魔力が練り込まれている事が分かった。

 咄嗟に、霊夢は先ほどの盾を前に出して防御の姿勢を取る。同時に、もう片方の手で何枚かの符を取りだす。

「ブチ抜けェ!」

 盾と拳が接触、同時に魔理沙がその拳を開く。

 拳の威力から盾が壊れ、霊夢は無防備になるものの魔理沙の足元へと護符を投げつける。

「なんの!こっちだって!」

 叫んだ霊夢が何かを発動させるよりも速く、魔理沙が開かれた拳から大量の星を撃ち出す。
 見ればその手にはビー玉が握られており、そのビー玉が魔理沙の魔力の射出を助けると共に含まれているを吐きだしている事が見て取れた。

「(充電と増幅が出来る小道具って所かしら…これは、避けられないわねッ!)」

 腹部へ直撃、吹き飛ばされた霊夢はそのまま先ほど出現した柱へと背中をぶつける。

 口から空気を吐き出しながらも、先ほど仕掛けた護符へと霊力を流す。

「その手は食わないぜ!」

 護符が展開されるよりも速く、魔理沙はバックステップで護符から位置を取る。

 悲しくも何もない空間に展開された2つの簡易盾だったが、そこに走る影、霊夢だ。

「だぁあぁあらっしゃぁ!」

 振り上げた足をそのままに、遠心力をもって盾を蹴り飛ばす。護符と霊符を取り出し、霊札を少し先へ投げつけ、風を発生させて蹴りつけた盾を少し上昇させて魔理沙の顔へと飛来させる。

 極薄の盾はその薄さから、刃物のような鋭さをもって魔理沙へと飛来する。

「はぁ!?」

 驚きながらも、大きな星を出現させて盾にする魔理沙。自分は前を見えなくなるが、それは(れいむ)からしても同じこと。

 今の内に、と魔力を練って強力な塊を創り手にそれを固定させる。

 星の向こう側から1つの衝突音がした。ローリングをしながら星から飛び出してその先にいるであろう霊夢を狙う。

「いない!?」

 狙いはつけられず、どこにいるのかと探すが見当たらない、

「こっちよ!」

 声のした方へと振り向けば、そこにあるのは魔理沙が出現させた大きな星、まさか背後に廻られたのか?ともう一度星の裏へと廻ってみてもそこに霊夢はいない、

「上か!」

 見上げれば星の上、頂に霊夢、片足に・・・盾!?

「(なるほど、風で飛ばした盾に乗って移動したってことか!)」

「察した様ね、そういうことよ、さぁくらいなさい!」

 背後に霊札を、そして魔理沙に向かって護符を投げつける。霊札がエメラルド色に輝き、暴風によって護符がさらに加速する。

 護符が輝き、盾が展開され、回転しながら魔理沙へと迫っていく。しかし、霊夢の攻撃はこれでは終わらない、

「まだよ!結界術・五角降軍(ペンタフォール)

 盾を蹴り飛ばした時に取り出した幾枚かの護符が、同じく盾を蹴り飛ばした時に使用した霊札の風に乗って空中で停滞していたのだ。今、それが一斉にヘキサゴン型に展開され、降り注ぐ!

 極薄ゆえの刃物、その雨、嵐、猛吹雪。

「おいおい、冗談だろ・・・」

 弾幕のように軽い魔力でつくった物ではなく、間違いなく巫力で作成された『倒す』ための攻撃、

 その物量に冷や汗を浮かべながらも、魔理沙は笑う。

「これを使うことになるとはな!」

 手にした魔力塊を頭上に掲げると、その魔力塊が6つに分かれ、魔理沙の周りを回転しはじめる。

「天儀・オーレリーズソーラーシステム!」

 魔理沙を中心として回転する6つの魔力塊、色鮮やかなその玉たちは魔理沙の頭上に降り注ぐ五角形(ヘキサゴン)をことごとく削り消す。

「魔理沙、あなたいつの間にそんな魔法・・・」

「へへっ、士郎にせっかくの魔力量を活かした何かを考えてみろって言われてな」

 そう、これは魔力量に物を言わせたごり押し魔法だ。しかし、その魔力量にあった効果がある。

「はぁ・・・あのお人好し」

 呆れながらも、自分の盾や風に関しても士郎の助言からのものだから何とも言えない、

「へへっ、まだだぜ!」

 魔理沙はどこからか箒を取り出すと、前後に足幅をある程度開いて腰を据えた。

 身体を半捻じりして、バッティングフォームを作る。

 オーレリーズソーラーシステムの6つの魔力塊の1つがちょうど、魔理沙から1m程離れた場所に移動する。

 そして、片足になっての一本足打法で以て打ち出す。

「ちょっと、それ・・・どんなアイディアよ!」

 星の上から飛び降りて避難を図る霊夢だったが、そこに衝撃音に乗って魔理沙の第1打が飛来する。

 超圧縮の魔力塊が擦れ擦れで霊夢の横を通り抜ける。

「(じょ、冗談でしょ?横を擦れただけで意識が一瞬とんだわよ!?魔力酔いにも似たような・・・あんなの直撃したらいくらなんでも・・・)」

 避けたという安心、当たるまいという警戒、2つをもちながら霊夢も御札を取り出し て巫力によって展開する。

 攻撃に転じようかとしたその時だ。

 魔理沙が出現させた星にぶつかった魔力塊は星の大爆発を起こした。まるで手榴弾、まるで花火、そんな爆発だった。

 安堵の隙間を縫って背後から襲い来るその星の大群に霊夢は攻撃への転じを一度やめ、展開した御札を利用して攻防一体の戦法へとシフトする。

 それすらも許すまいと、第2打を撃ちこむ魔理沙

「オォッ・・・ラァ!」

 今回は打った時点での爆発、いや、爆発というよりも星の流れる方向が一方向であることを考えればそれはショットガンの銃撃と呼んだ方が的確か。

 しかして霊夢は、その大量の星すらも遮断する。
 
 霊夢を中心に蒼い竜巻が生じる。静電気が弾けるにも似た音が辺りに走る。

 目に見えない壁、壁にも似た風、風にも似た魔力、それぞ結界。

 幾重もの阻みを感じさせる。それでいて、それは阻むための物ではなく。

「『夢符・二重結界・転』」

 守るための結界術、本来の二重結界は攻撃の結界術、しかしこれはそれを反転させ、内部への攻撃を遮断、外部への攻撃を特化したものだ。

「おいおい、随分と攻撃的じゃないか?」

 外側へと吐き出されるいくつもの弾を避けながら2つの魔力塊を両手に持つ。

「こう見えても私だってどっかのお人好しと模擬戦結構してるのよ!」

 努力なんて似合わないと自分でも思いながら、それでも何故だか己を高めた。

 そんな、これまでとは違う霊夢に魔理沙は嬉しさを覚えながらも、努力する天才という恐ろしさを感じてもいた。

 しかし、魔理沙も負けはしない、

「へへっ、そんじゃあそろそろ、一発ぶっ放すぜ!」

「いいわ、来なさい!」

 互いに、今の自分が持つ最大の威力を持つ『必殺』を放たんとする。

 高まる魔力と、高まる霊力。

 今、ここに最大火力――

「恋符――!」

「霊符――!」







「こっのバカ共がァ!」









 ――の、拳骨が二人の頭上から降り注いだ。


第20話 争宅 ~残り3日~

 衛宮士郎は焦っていた。

 

 紅美鈴と別れ、衛宮邸への道を歩いていた士郎とルーミアは遠くからする爆音に疑問を抱いた。何処からだ?と考えるのも馬鹿らしい、衛宮士郎はすぐさま自分の家の方向だということが分かった。

 

 さらに、天を貫く光の柱・・・

 

「(あぁ、あれって確か魔理沙の・・・はぁ、ってことは確実にうちじゃないか)」

 

 ・・・まさかとは思うが、何か事件に巻き込まれてるんじゃなかろうな、

 

 ・・・まさかとは思うが、いや、こちらの可能性は考えたくないが、私の家で遊んでるんじゃなかろうな、

 

 どちらにせよ、あのままヒートアップして彼女達の最大火力で撃ち合いなんかしたら怪我をする。

 怪我をするならともかく、下手をすれば自宅の倒壊すら有り得る…。

 

「(速く止めないとな・・・むぅ、少し急ぐか)」

 

 頭痛を感じながらも、急がねば人里にまで音が届き、無用な心配を生んでしまう。

 

「あー、ルーミア・・・すまないが、少し担ぐぞ」

 

「おー?」

 

 答えを待つつもりはない、ルーミアのひざ裏と背中に手をまわして抱き上げる。俗に言うお姫様だっこなのだが、なに、ルーミアがそれを意識するような妖怪(ヒト)でもないだろう。

 

 足に強化を走らせると同時、足に魔力を纏い、魔術とこの世界での魔法で強化を行う。

 

 これは最近気付いたのだが、肉体そのものを強化する魔術と、その肉体に纏う魔法は併用するにおいて非常に相性がいいのだ。

 

 纏う魔法は肉体を圧するようにして強化が行われる。ゆえに、肉体への負担がかかる。そこで、魔術による強化だ。魔術による強化は肉体そのものを強める。よって、魔法によって肉体にかかる負担が軽減されるのだ。

 

「くそ、このままだと真っ直ぐいけないな・・・」

 

一度、立ち止り・・・

 

――投影(トレース)開始(オン)

 

――生まれは9世紀、プラハの初代の王ヴァ―ツリフが手にしていたという剣、ヴァ―ツリフが死してなお、プラハを守り続けたという伝説の剣、言葉一つで敵を殲滅する魔法の剣、国民と外敵を区別して外敵のみを傷つける守りの剣

 

――百塔の街守りし魔法の剣(プラハノツルギ)

 

 投影されたのは柄だけの刃のない剣、そしてそれは、何かを待ちわびる様に震えている。

 

 あまり使用したことはない宝具だがそれには理由があった。

 

 この剣は必要に応じて姿を変える。長さも、重さも、必要な魔力量も・・・

 

 しかも発動に必要なのは言葉だけ、ゆえに生前・・・とでも言うのだろうか、昔はあまり使用できなかったのだが、今の自分であれば可能である。

 

「『プラハを守りし我が剣よ、我が目前に立ち塞がりし木々を薙ぎ倒せ』」」

 

 士郎の手を離れ、ゆっくりと前方に移動、そして下方へと降下、少し位置を調整するかのように左へと移動・・・そして、柄からとてつもなく長く細い刃が出現した。

 

 その長さはとても人に扱えるとは思えぬもの、800mはあるであろう頭のおかしなサイズだ。刀身の先は既に森の奥深くに隠れて見えなくなってしまっている。

 

 そして、刀身が固定化されると同時に、士郎の身体を猛烈な虚脱感が襲う。

 

 瞬時に、外部から魔力を取り入れ、生命力に変換、再度生命力を自分の体内で使用可能な魔力へと変換する。

 

 この流れにも慣れたものだ。最初こそ、慣れ親しんだ魔力と、新しい魔力の質の違いに苦しんだものの、結局はどちらも体内で管理をするもの、慣れてしまえば大丈夫だ。

 

 おかげで、魔力のタンクの底も随分と深くなった。

 

 今ならば赤い悪魔が得意としていたガンドの連射も行えそうだ。

 

 そんな思考を遮る。静かな音、違いない、それは百塔の街守りし魔法の剣(プラハノツルギ)がゆっくりと横に2m動いて起きた音だった。

 

 士郎の目の前に出現した百塔の街守りし魔法の剣(プラハノツルギ)がただ横に動いただけ、振るっては無い、士郎の目前を左から右へ、なんの突っかかりもなく移動したかと思えば、目の前の森が消え去った。その光景は、『恐ろしい』と『爽快』の2つの感想を士郎に与えた。

 

 百塔の街守りし魔法の剣(プラハノツルギ)がゆっくりと小さくなり、虚空に消えた。

 

 士郎の目前、多くの木々は切り株を残して倒れ、簡易的ではあるが道が出現した。

 

「よし・・・急ぐぞ」

 

 再びの超加速、ルーミアが腕の中で先ほどから「おー」だの「はー」という感嘆?なのだろうか、声をあげている。

 

 そんな声に少し誇らしくなりながらも、士郎は足を緩めずに前へと進んだ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 衛宮邸に辿りついた時、思わずその状況の把握に時間がかかってしまった。

 

 まず、近くに来た段階で花火が家の中で上がったのにも驚いたが、次にはショットガンのような星の激流、衛宮邸の庭へと目を向けてみると、大量の五角形(ヘキサゴン)が突き刺さってもはや何が何だか分からぬ状態、新進気鋭の芸術家(アーティスト)の庭とでも言えばごまかせそうだが・・・うん、嫌だな。

 

 さてはて、状況をまとめよう。

 

 1.魔理沙と霊夢が戦闘(模擬戦?)を行っている。

 2.せっかく手入れした庭が荒れている。

 3.今まさにさらに荒れようとしている。

 

 ふむ・・・さてと、

 

 足の強化をさらに強く・・・拳を握りしめ、魔力を纏わせる。

 

 最近会得した移動方法、縮地や瞬歩、瞬動なんて呼ばれ方をする物だ。技術としては簡単なもので、一足の踏み込みを強くして、瞬時に移動をするというものだ。

 

 技術が簡単なだけに、その奥深さも並大抵ではないのだ。

 

 一足の踏み込みに関しても、『踏み込み方』がいくつもあり、なおかつ踏み込んで移動した先で止まる必要がある場合には止まるための『踏み込み方』もある。

 

 理想とされるのは最初の『踏み込み』で移動先に減速無しで羽が地面に着地するかのように・・・というものだ。または、減速を必要とするものの、減速の際に蝶が自らの行く先を悟らせずに変えるのと同じようにまるでいつの間にかそこにいた。となるのも理想とされるものである。

 

 そして、この衛宮士郎、距離の観測においては鷹をも超える。

 

 そのような男がこの技術を磨けば・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 博霊霊夢と霧雨魔理沙(ふたりのしょうじょ)は後に語った。

 

 『影から出てきたのだ』と、

 

 『何処から来たのか、いつの間にいたのか、分かりもしなかったのだ』と、

 

 それほどまでの完成度、それが衛宮士郎の縮地の技量だった。

 

 あとは握り込んだ拳をただ降ろすだけ、それだけで二人の少女は後悔をしたという。

 

 そして現在、衛宮士郎は料理を、ルーミアはそれを横で眺め、霊夢と魔理沙は荒らしに荒らした庭の手入れを行っている。

 

「(・・・やっぱり、か)」

 

 料理を作りながら、衛宮士郎は悩みに苛まれていた。

 

 ひとしきりの説教を終えて、ルーミアの事を紹介したところで霊夢の目つきが変わった。

 

「士郎・・・その子」

 

「あぁ、やはりというか、うむ、了解した」

 

 霊夢のあの目・・・『仕事』の時の目つきだった。

 

 魔理沙は、

 

「おーよろしくよろしくー!金髪に悪いやつはいないぜ!」

 

 なんて言っていた。きっと魔理沙にとって妖怪だとか人間だとかは細かいことなのだろう。

 

 料理の味をみながら、じゃれついてくるルーミアの頭を撫でてやる。

 

「んー」

 

 猫のように目を細めるルーミアを見ながら、自分自身にも問いを投げかける。

 

 『妖怪』と『人間』、

 

 ルーミアは最初、士郎にたいして『食べてもいい人間なのか?』と聞いてきた。

 

 はたして『人間』は、動物の命を狩り取るときに、植物の命を刈り取るときに、そんなことを考えるか?

 

 そこまで考えて、ふと手を止める。

 

 頭を撫でられていたルーミアの表情が少し曇っていたからだ。

 

「どうした?」

 

 問うてみるも、答えは望めず。

 

 ただ、なにやら顔を少し赤らめている。

 

 恥ずかしさ?怒り?困惑?

 

「なんでもないよ、なんでも」

 

 そう言ってルーミアは一歩、後ろに下がって士郎から距離を取る。

 

 頭に置いていた手が、置き場所を失ってさみしさを覚えた。

 

 どうしたんだ?なにかしてしまっただろうか?

 

「お腹が減っただけだから、気にしないで」

 

「あぁ、もうすぐ料理も終わるから待っててな」

 

 そうか、そういえばもう時間的にも夕餉の頃だ。

 

「うん、すわってまってる」

 

 返事をして、ルーミアは居間の方へと駆けていった。

 

 そうだ、もうすぐ料理ができる。そろそろ霊夢と魔理沙も家の中で休んでもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、居間にいたはずのルーミアの姿がいつの間にか消えていた。

 

「ルーミアってあの妖怪の子よね・・・ご飯を食べずに帰った。なんて変な話ね、少し私も気になるわ、私も探してみる」

 

「ん?なら私もちょっと手伝うぜ!」

 

 二人の協力を得て、再度森の中へ・・・、

 

 探せども見つからず、

 

「いくらなんでもここまで見つかりにくいって言うのはおかしな話だな・・・」

 

 疑問が生まれ、心を靄が支配する中、その日は眠りに就くことにした。

 

「ルーミア・・・」

 

 呟けど、姿はあらず。

 

「何処にいったっていうんだ・・・」

 

 ただ、言葉が夜の闇に溶けて消えた。




 これからは、型月世界での魔法は『魔法』と、東方世界の魔法はそのまま魔法と記していきます。

―――――――――――

2017/01/09 改訂作業完了

戦闘描写の追加と士郎の一人称を変更。
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