暗闇の中、夜を生きる紅魔館の主は口元から白煙を漂わせながらつぶやいた。
誰もいないその空間に漂う香りは
幻想郷において娯楽がないと嘆いたこの
「わからないわね、こんなものに人間は依存するというの?」
玉座へと腰掛ける
「お酒、煙草、ドラッグなんてものも依存の危険があるんだったわね・・・」
吐き捨てるように言った
「依存、ねぇ・・・人はもっと依存しているものがあると思うのだけれど、気づいていないのかしら?」
指先に灯った炎、ゆらゆらと揺れるその
「やっぱり貴女の運命に見えるのは闇・・・面白いわ」
「闇に怖がる人間・・・それゆえに光を求める」
『私とは逆ね』と付け加える。
「光は同時に『集める』特性を持っているわ、人が集まればそこには光も多く『集まる』、そしてそれを知ってか知らずか、人は光の多いところへと足を運ぶ」
光とともに生きるのが人間、光とともに生きないのは・・・と、そこまで考えてくだらぬ思考を拭い去る。
「人は光に依存しているわ、光があるから安心できるなんて人間がいるくらいにね」
両の指同士を絡ませながら、
「だから私は面白いと思ったのよ、貴女を・・・」
誰もいなかったはずの闇の中から、秒針を刻む音が鳴りだした。
1秒ごとに正確に時を刻んでいくその音は1つの音しか奏でられないオルゴールにすら聞こえた。
音の元、その場所には十六夜咲夜が立っていた。
その傍ら、まるで眠るようにうつ伏せで倒れふしている
「お嬢様、
寝息をたてるルーミアの姿を認めた
レミリアが指先をルーミアに向けると、ルーミアは紫色の
そして、その
「さぁ、行きましょうか
悲しげな笑みをたたえて、歩く。
歩く。
歩く。
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紅魔館、その・・・地下。
何重にも重ねられた結界のその先、魔力すら、音すら、視界すら遮断する結界のその先に、その部屋はある。
その部屋の周囲には結界や封印は貼られているが、その部屋には一切の結界や封印は無い、もしかしたら、それがせめてもの優しさなのかもしれない。
誰に対して?誰からの?
一人の少女が虚空を見つめて笑みを浮かべた。
しかし、その空間には何もない、その空間には・・・確かに何もない。
その、ほんの一瞬後、まさに一瞬後だ。
十六夜咲夜が、そこに現れた。
少女の笑みが、さらに深くなる。
「やっぱり咲夜だ、どうしたの?」
少女は声をかけた。
名前を呼ばれ、笑顔で咲夜は応える。
「あぁ、そちらにいらっしゃったんですね」
咲夜は傍らに、何かを携えている。
金色の髪、幼さの残る肢体、深い眠りについているあどけない寝顔。
服装を変え、ゴシックロリータ調のドレスに身を包んだルーミアがそこにいた。
その姿に、さも嬉しそうに言葉を並べる。
「あぁ、分かったわ、新しいお友達ね!」
無邪気に、いや、無邪気ではない・・・、
どこの世界に、遊びたいと言いながら自らの八重歯を舌でなぞる少女がいるだろうか。
されども、十六夜咲夜の対応に変化はない。
「はい、
優しげに、いや、フリなどではなくその言葉は優しさに満ち溢れていた。
「うん!だいじょーぶだよ!」
フランと呼ばれた少女は確かに頷いてみせた。
それを見てとった咲夜は、『それでは失礼いたします』と一言述べるとその場から立ち去った。
ルーミアは未だに眠る。
眠る。
眠る。
少女は笑う。
笑う。
笑う。
歪に、鋭く、狂気的に・・・笑う。
「なるほど・・・そこで士郎はその少女を助けたということか」
衛宮士郎が語りだした過去の話、それは上白沢慧音の知らない世界の物語だった。
脳裏に浮かぶ見知らぬ土地、それは時折話のなかに出てきた『軍』という言葉もあってとても物騒に思えた。
「あぁ、後から分かったことなのだが、彼女の仲間は既にその時には全員・・・」
「そうか・・・」
訪れた沈黙に耐え兼ねたのか、突如として慧音が士郎の肩を掴んだ。
突然の行動に頭突きでもされるのかと警戒したが、慧音の口から飛び出した言葉は意外なものだった。
「よし、士郎!飲むぞ!」
・・・飲む?
「あー、慧音、もしかしてなんだが・・・酒か?」
一応の確認、これは衛宮士郎の勝手な先入観だが、上白沢慧音という女性はあまりお酒に強い部類には見えない、それどころか毛嫌いしていそうな程だ。
ところが、彼女は自分から提案してきた。
もしかしてお酒が好きなのだろうか・・・とも考えたが、少し考えを巡らせれば流石の士郎でも気づくことができた。
「(そうか・・・重い話をして盛り下がった気分を変えようとしてくれているのか)」
気の利く女性だと感心した。
「士郎!お酒はどこだ!?」
・・・気の利く、女性なんだよな?
ふと浮かんだ疑問を振り払い、せっせと酒飲みの準備を始める慧音を手伝うべく士郎もその足を動かした。
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――ラミア②――
冷たい通路、その温度の原因は目の前に流れる汚水にほかならない。
『拠点』で襲撃を受けた士郎とラミアは増援の危険性を考慮して数ある迷宮の出口の1つから脱出、もうこれ以上『拠点』は使わない、そう話したラミアの意思を尊重して士郎は火薬を仕掛けておいた。
火薬の爆破スイッチ、それは今ラミアの手に握られていた。
「さぁ、押すんだ」
「―――ッ!」
促す士郎に、ラミアはその手に握った『壊すためのスイッチ』に目をやった。
辛いのだろう・・・士郎にはラミアの思考が読み取れた。
たとえそこが他の誰かにとって大切な場所や特別な場所でなくとも、
そして、仲間の生死は未だ知れず、もしかしたら
ダイナマイトが開発されたとき、ある作業員がこんなことを言ったという。
『壊すのは簡単だ。難しいことは作ることだ』
それは間違っていると士郎は思った。
作ることが難しいものを壊すことは難しいのだ。それは戦争の中にすら存在する事実だ。
第2次世界大戦中、アメリカは日本の心、和の都である京都には爆撃を行わなかった。
理由は諸説あると考えられているが、全てにおいて触れられることは『貴重な文化遺産であり、そこには先人たちの思いがあるからである・・・』ということだ。
人が見るのは作りはじめてからの歴史ばかりだ。
作るに至るまでにどのような経緯があったのか、どのような考えでどのような人間がその作成を決めたのかということにあまり目をやる者はいない。
壊すのが難しいということ、それは建物だけでなく空間にも言える。
サークルやグループ、そうした場で求められる雰囲気を壊すことは容易ではない、軍隊においてそれは顕著だ。
先人が残してきたその軍隊特有のノリ、そうしたものは代を超えても受け継がれる傾向にある。
優秀な軍小隊は時を経ても優秀であるように、大切な空間というのもどんなに時を経ようとも過ごした人々からしてみれば大切なものなのだ。
そして、その大切だと思う当事者であればこそ、その空間を壊すことは・・・辛い。
「シロー・・・私は強くなるわ、自分の手を汚す覚悟だってもちろん持ってる。でも、私はまだ自分を支える強さっていうのを持っていないみたいなの・・・」
初対面で、それも、信頼さえおいていない貴方にこんなことをいうのはおかしな話なんだけどさ、
「今だけは、私を支えてもらってもいいかしら」
前を向く彼女に、士郎は自らも目を前に向けることで目を合わせた。
泣いてなどいない、決意に満ちた瞳は年齢に見合った
泣いてなどいないのだ、瞳から流れるモノはあれども、きっとそれは涙ではない。
――強さの証
衛宮士郎は正義の味方だ。
ただ、その生き方は万人にとっての正義ではない、そんなことは衛宮士郎が最も良く知っている。
しかし、それでも衛宮士郎は万人の正義であろうとする。
そのためには己の身をいくらすり減らそうとも構わない、その道に苦しみがあることは覚悟の上、その道が正解であると信じて突き進む。
己の苦しみを伴った過程などどうでもいい、罪も被ろう、苦しみも受け止めよう。
その代わり俺は結果として周囲を救う。
だから――
「支えはしない、俺はお前の先を行く・・・お前の障害を取り除き、一刻も早くこのふざけた紛争を終わらせる」
冷たい言葉だろうかと思いながらも、奮い立たせるために言葉を選んだ。
きっと、それが
それが、
「さぁ、ついてこれるか?」
数秒の後、確かな爆音が地上にすら届いたという。
それも、強さの証のカタチの1つだった。
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「じゃあ、話すわ、私が持っているこの紛争を終わらせるためのものを・・・」
地下を脱出した士郎とラミアは、追われるという立場でありながらも街の一角、始まった紛争に逃げ遅れた人々で形成されたスラム街に身を置いていた。
スラム街は安全ではない、しかし、それゆえに逃げている身である士郎達にとっては安全なのだ。
危険とされるスラム街には、フランス軍兵士の見回りも来ないのだ。
「まず・・・そうね、フランスという国は自国生産率が100%を超える国だっていうのは知っているわよね?」
もちろん知っている。
肥沃な大地を持つフランスは自国の農業を大切にしている。
なので、他国に輸出しなければ外交などをせずともやっていけるのだ。
外交の理由は車や他国の文化を取り入れることで金銭の廻りを円滑にすることだ。
なおかつ、国際社会において有利な立場を取ることもその目的にある。
「最近、フランスが自国内に他国から工場なんかを誘致しているのは知っているかしら?」
無論、知らない、自国の生産を大切にしてきたフランスがなぜそんなことを・・・?
「じゃあ、次・・・最近になってフランスの軍事力が向上したことも知らないわけね」
・・・きな臭くなってきたな、軍事力の向上と他国の工場を誘致することが関係しているとなれば工場における武器の作成方法や技術を盗んで自国の生産ラインに反映していると考えるのが妥当、だが、それは誘致に賛同した国家も承知の上だろう。
ともなれば、考えられるのは別の要因となる。
軍事力が向上する要因とは・・・?
「他国の工場はカモフラージュ、その実、地下に作られたもう一つの研究機関が本命よ、更にはフランス国内の研究機関同士を結ぶパイプが通されて、『あるもの』の開発に着手しているの」
ラミアが一度口を閉ざした。
「わたしは研究員としてそこに潜入したわ、なんとなく予想はついていたの、ただ、この目で見るまでは認めたくなかった」
言葉にすることをためらうかのような動作だった。
「でも、わたしは見たの、フランス軍が秘密裏に開発、研究、改良を加え続けている『あるもの』を」
「・・・核よ」
合点がいった・・・
「・・・なるほどな、自国内で完全に他国を圧倒することができる物を完成させれば、これまで以上に国際社会において有利な立場になるということか、さらには核の研究ともなればエンジン部分、ロケット部分の研究にもつながる。それは同時に通常兵器であるミサイルの質の向上にも直結するわけだ」
しかし、腑に落ちないところがある。
「まて、その事実、言葉だけで説明しても信じる人間なんてたかが知れてるぞ?確かに・・・アメリカやロシアに言ったら脅威として認識をするかもしれないが証拠がない、どうやって信じさせるんだ?」
そう言った士郎に対して、ラミアはチラと目をやると肩に手をおいて引き寄せた。
傍から見ればキスをするために女性が彼氏のことを抱き寄せたようにも見えただろう。
実際、耳元近くに持ってこられたラミアの唇は今にも士郎と接触しそうだ。
しかし、士郎もラミアも目的のために行っている事なので欠片もときめいたりはしない。
伝える言葉、聞かれてはいけない本当の要件・・・
「私はアメリカ側のスパイよ」
そう言って、喉にあるチップを見えるように提示してきた。
緑色のそのチップには確かに小さいながらも外見以上のデータを蓄えることができそうだ。
なるほど、データはそこに・・・
待てよ、ということはこの戦争は、考えたくはないが・・・
彼女の仲間が全員失われたのかもしれないという現状、フランス軍はスパイとして潜入されたから報復と情報の広まりを恐れてだろう。
とすれば、今現在この愚かな争いが続いている理由・・・考えられるのはただ一つ・・・
情報を取り返すための・・・争い?
それって、つまりは・・・
―――
動脈硬化と診断されたスペインです。
検査入院だそうです(´・ω・`)次の次でラミア編が終わります。
過去話ということで東方キャラの出番が少なくなっておりますが楽しんでご閲覧いただければ幸いです。
少し修正を、それと間違って下書き段階のものを投稿してしまっていました。後から読んだ方はなんのこっちゃというお話になってしまいますがそういうミスを自分がしてしまったということを反省の意味も含めてここに報告させていただきます。