東方剣創記   作:スペイン

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睨まれた。

目線、それは物理的な攻撃でも、感覚的な作用をもたらす何かでも無いハズだ。

にも関わらず、『睨まれた』という事実と、それに伴って生じた薄ら寒さに『わたし』は目を覚ました。

記憶にあるのは銀色の女性、そして闇の中、『わたし』をまるで着せ替え人形のように様々な衣類を試着してみせた『誰か』と、再び銀色の女性にここまで運ばれてきたということ。

「あぁ、な~んだ」

声が聞こえた。

間の抜けた声、というよりもやる気の感じられない声だ。

幼さの感じられる高い声と、それでいながらしっかりとした滑舌の組み合わせは不気味なものに思えた。

「目を覚ましちゃったんだ」

残念・・・いや、残念そうに聞こえる声だ。

その文字の羅列そのままの意味で、残念そう(・・)に聞こえる声なのだ。

「目を覚まさなかったら壊しちゃおうと思ってたのに」

言葉の端々に感じられる幼さは、無邪気さを演出するための格好の材料なのではと感じるほどにその声は含んでいた。

恐怖を、含んでいた。

「こんばんは、それともこんにちは?ごめんなさい、時間というものには疎くてね、498年からは数えてないの」

日常会話、彼女にとってはその類だったのだろう。

しかし、『わたし』は恐怖していた。

本来であれば敵の(まだそう判断するのは早いけれども)情報というのは知れば知るだけこちらが有利になるのだから喜ばしいことのはずだ。

しかし、彼女の口から紡がれる言葉は情報以上の恐怖に満ちていた。

なんと言った?498年?

意味が分からない、理解ができない、長命の妖怪であればそれくらい生きることは決して珍しいことではない、ただ・・・彼女は明らかに違う。

妖怪には色々なタイプがいる。

長命を生きる中で己を見つけ、その己を維持する者。

長命を生きた結果何かを悟り、自分がたどり着いたその場所(さとり)を基点として物事を考える者。

長命を生き、それでも己というものを見つけられずに、それでも何かを求め生きる者。

長命を生き、命というものに飽いた者。

彼女(こいつ)はそのどれにも当てはまらない。

生まれ、成長し、その過程で止まってしまったかのような。

長命を生きたにもかかわらず、その歴史を感じさせない。

しかし、それでいて長命の者が持つ、『特有の強さ』を感じさせる。

言葉を、文字を、いくら並べようともただ一つの簡潔な説明で全てがまとまる。

彼女(こいつ)はヤバイ』

目線の先、確かに捉えていた彼女の姿がブレた(・・・)

両の手は脱力し、口元に浮かべた紅い月はさらに紅く、三日月へと変貌する。

一歩、それは彼女が踏み出した歩数だ。

それだけで、彼女の姿は右へと移動した。

目でその動きを追うも、捉えた頃には再び足を踏み出している。

あぁ、二歩目だ。

力は入っていない、あくまでも自然体。

武術の心得が無い、あるいは武術の心得が『極めた』以上にあるのであれば身につけられる歩き方だ。

一歩ずつ、右へ、左へ、その進行をやめることなく段々とこちらへと近づいてくる。

その足元に衝撃は無く、本来であればそのブレる(・・・)程の速度で移動すれば生じるであろう轟音や地面への亀裂さえも確認できない。

この(わざ)を無意識でやってのけているというのならば、なんと恐ろしいことか。

「ふふ、あーそびーましょ」

遊戯への誘い、それは本来であれば可愛らしいものとして捉えられるものだ。

覚醒からしばらく経ち、『わたし』の目も慣れてきた。

見えてくる。

金の髪、アップサイドで結んだサイドテール。

服装は紅を基調としたドレス、膨らみを持つ白が可愛らしさを演出した良い服装だ。

その白を侵食するかのように、紅い、いや、赤い液体が付着していた。

その液体、それだけで白に含まれていた可愛らしさは欠如する。

恐ろしさ、恐怖、理解の範疇を超えた感覚が『わたし』を襲った。

それでも、理解できることがあった。

彼女(こいつ)がいうあそびとは、生死のやり取りであることだ。

朝が近づいているのだろうか、ぼやけ、今にも消えてしまいそうな記憶の断片から『能力(チカラ)』の使い方を読み取る。

彼女(こいつ)から生き延びる方法を模索、1秒でも、1分でも、1時間でも長く生き延びる。

「えへへ、私はフランって言うんだ」

笑顔、そして唐突な自己紹介、なぜこのタイミングで?

「ねぇ、貴女はだァれ?」

一変、無表情といっても差し支えないその顔、まるで感情が見て取れない。

一瞬、またブレた(・・・)

近づいてきている。

気がつく・・・なんて必要もない、フランと自呼したその少女は一歩の大きさに均一性は無く、その口調にすら安定を見ることができない。

「わたしはルーミア、よろしくねフラン」

返答の意味は無かった。

ただ、フランが会話を望むのなら・・・それで事コト(・・)を交えずに終わるというのであればそれは最良の結果だ。

「ルーミアだね、うん!よろしくね!」

返答はいたって普通、しかしそこに、前方へと前のめりになって『わたし』の目の前まで移動してくるというモーションが付随した事で事態は急変する。

会話とはなんだったのか、言葉を交わしたことで生じた僅かな安らぎをかき消すかのようなフランの右手、冗談から振り下ろされる形で放たれたその右手は莫大としか表現のしようがない魔力を纏っていた。

避ける。

体をほんの30cm、横にずらすだけで避けられるその攻撃への対処は完了。

反撃の一手としてフランに闇を絡みつかせる。

とても、とても小さな闇の霧はフランが足元を見られないよう眼へと、視界の下半分を覆う形で絡みついた。

「あ”ー?」

喉を震わせながら発せられたその声はフランのもので、自分に生じた違和感を快く思っていないことが聞いて取れた。

次の一撃が来る。

身構え、身体に闇を纏わせていつ襲い来ても対処できるように警戒をする。

次の一撃は空振り、フランの視点からすればルーミアの体を切り裂いたようにも見えたのだが感触が無かったことにフランはすぐさま違和感を覚えた。

答えは『闇の霧』、身体に纏わせることで自分の身体の大きさを隠したのだ。

フランが切り裂いたのは腹部のすぐ横、何もない空間だった。

「へぇ」

感心するフランは今の一撃に力を込めすぎたせいかバランスを立て直すために硬直した。

そんなフランの様子を見て次にルーミアが起こした行動は闇で腕を覆うことだった。

同時に、爪に妖力を込めることでその長さを増す。

攻撃が来る。

フランは理解し、立て直した姿勢そのままに回避のためにその身を逸らした。

「40cmってところカナ?」

爪は薄く、目視してその長さを測ることは難しい、なのでフランは腕を覆う闇の長さに合わせてその身体を逸らした。

紙一重、フランは避けた後の行動を思考する。

「(ルーミアは次を考えない程の力で爪を振っているわね、それじゃあさっきのワタシと同じでバランスを崩しちゃうわ)」

だからこそ、その腕を避け、掴み、折る。

「(折って、痛みに堪えようとする瞬間を中断させるために蹴りを入れる。蹴りを入れて蹴りを入れて、ボールみたいに転がして遊んでしまおうかしら)」

苦痛に漏れた声を聞いてきっとワタシは笑顔になるだろう。

「(先のことを考えるだけでゾクゾクしてきたわぁ♪)」

思考は未来のことばかり、

それが、失敗だった。

闇が覆っていたのは爪の一定部分まで、真の長さは闇を超えて60cm。

闇は相手に爪の長さを悟らせない為の偽装(フェイク)、先程、フランの攻撃を避ける際に使用した闇や、視界を眩ませる闇、そうした『闇の霧』の本当の狙いは『闇の霧』を相手に意識させること。

傷ついた己の腕を抑え、フランは自らが思った未来とは逆に苦悶の声を漏らしてしまった自分に苛立ちを感じた。

そして同時に、その傷を与えたルーミアに対しても。

しかし苛立ちだけではない、口元に浮かべた歪笑は楽しさを映し出している。

「クク・・・」

苦悶の声はいつの間にか悦に入った笑い声に変わっていた。

「貴女・・・イイね♪」

耳に聞こえてきたその言葉に、ルーミアは今の攻撃で仕留められなかったことを酷く後悔していた。

「(まずいなー、今の『わたし』の限界に近かったんだけどなー)」

ルーミアは感じていた。自分の思考が段々と鈍くなっていくことに、自分の中のどこかにある知識というのなのダムから流れてきていた大量の水が、どこかでせき止めたかの様に段々と段々とその量を減らしていた。

それでも、限界があるとしても――

――己の今を出し切るしか、彼女(フラン)に勝つ方法は無い。



脳裏に、言葉が出てきた。



暗闇(くらやみ)  宵闇(よいやみ)  今宵(こよい) の 闇夜(やみよ)闇霧(やみぎり) 晴れずに (かげ) と交われ 夜宵(やよい) の月夜(つきよ)

それはまるで引き金(トリガー)、体の内から溢れ出てくる闇の霧。

それは世界を侵食するかのようにルーミアの体から部屋全体へと行き渡る。

暗闇が空間を支配するのも時間の問題、そうなれば勝機は、ある。

だが、

「ア八」

それは、許されない。

こちらに向かってかざされたフランの左手、小さな振動と共にそこから魔弾が放たれる。

闇の霧に防御の効果はない、隠すことや誤魔化すことは出来ても、物理的障壁には成りえない。

闇の霧の放出を一度抑え、その場を移動して魔弾を避ける。

とはいえどもここは小部屋、それほどまでの広さを持ち得ないこの空間ではいつまでも避け続けることは困難にあたる。

と、そこで勝機。

フランが連発していた魔弾の連射が唐突に止まった。

何故?と疑問を呈するよりも早く行動へと己を動かす。

自らのドレスの裾を引き千切り、さらに動きやすい状態へと格好を整える。

部屋の広さは避けながらの移動で把握できた。物の位置、フランの現在地、自分の現在地も確認した。

闇の霧のさらに奥、まるで、ルーミア自身が闇の霧で隠していたかのような大きなナニカ。

自分のどこかに、いや、きっとそのナニカのどこかにある。それだけは分かっている膨大な量の魔力を探す。

知識のダムが完全にせき止められるその前に、魔力を探す。

記憶をたどるかのように目を閉じて自分の内側へと集中する。

内側へと・・・!






「眼なんて閉じたら、ダメだよ」






外部からの衝撃。

そうだ、何故、今余裕をもって魔力を探そうとしてしまったんだ。

何故、連射が止まったことに疑問を抱いておきながら放置したんだ。

何故、連射が再開されるという未来を予想できなかったんだ。

最初の衝撃は胸元だった。肺から空気が逃げ出し、呼吸の苦しさから顎を上に、顔を天へと向けて勢いよく息を吸う。

そんな、明らかな行動の隙を見逃してくれるほど優しい相手じゃない、連射は続く。

肩、後方へとバランスを崩したところへと更なる衝撃、頭部、完全にバランスを失い転倒する。

転倒したことによって背中へと衝撃、床に衝突し、軽くバウンドすることでまたもや肺のなかの空気が外へと逃げ出す。

バウンドしたことによって生じた床との僅かな隙間、狙ったのだろうか、それともそれは偶然なのか、どちらにせよ確かなことは―――

「アハハ」

隙間を掻い潜り届いた連射、背中を襲うさらなる衝撃。

悪魔的ともとれるその笑い声の後、感覚的にはとても長い時間の浮遊時間、間隔的にはとても短い魔弾の衝撃、まるで少女が風船を落とさないように手で宙へと跳ね上げるかのように、フランという少女は風船(ルーミア)のことを魔弾をもってして落とさないように跳ね上げていた。

「アハハ、アハ、アハハハハハハハ!」

繰り返される衝撃は時間にして10秒、ルーミアには1分にも10分にも感じられたであろうその時間。

終わりを迎え、ルーミアは緩衝材も何もなく地面へと落下した。

「・・・ゲホッ」

悪態の一つでもついてやろうと思ったのに、出るのは咳ばかり。

口の中に血の味が広がり、悲しくも『美味しい』と思ってしまった。

ルーミアは不思議にも、意識が遠のく中で安心をしていた。

「(意識を、手放そう・・・フラン、あの子は『わたし』が目覚めるのを待っていた。なら、気を失っているあいだは手を出さないはず)」

確信に近い考えの下で、ルーミアはフランが確かに笑顔になるのを見た。

口元が、ゆっくりと動く。























安心は絶望へと、意識を手放す事は抗いへと、口の中の血の味は感じられなくなっていった。

寝てはいけない、起きても待っているのは絶望だけだ。

口の中に広がっていた血の味など気にしない、立ち上がる。いや、立ち上がろうとした。

しかし、膝が、身体がもういうことを聞かない。

瞳にフランの歪笑を移しながら、ルーミアは気を失った。



第25話 ラミア③ ~残り2日~

これまでの事態を振り返る。

 

アフガニスタンのヘラート、そこで起きたアメリカ軍が襲われるという事態に援軍という形で出動した日本軍の輸送機に乗り込んだ士郎は、アメリカ軍を襲い、ヘラートに駐留している軍隊がフランス軍であることを知った。

 

街の外で待機するアメリカの鎮圧部隊とは別に、士郎はヘラートの民家でアメリカのスパイと名乗る少女、ラミアと出会った。

 

ラミアとラミアの仲間たちはフランスが核を生産しているという確たる証拠を収めたチップを首元に隠しており、その情報の隠蔽のためにフランス軍はラミア達の拠点があるヘラートを襲ったのだった。

 

いつの襲撃なのかは定かではないが、士郎とラミアが民家で出会っていたその頃、ラミア達アメリカのスパイが拠点としていた場所がフランス軍によって襲われ、結果、アメリカ軍のスパイで唯一の生き残りとなったラミアは今、士郎と行動を共にしていた。

 

しかし、そこで士郎は気がついてしまった。

 

――ラミアがこの紛争にも似た騒動の原因である――

 

と・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

あれから4日、ヘラートから外に出るための門や道、壁に至るまでフランス軍に見張られており、ジャマーをかけられているのか通信も通じない状態に士郎とラミアの二人は警戒の線を張り続け、命からがらといった具合で逃亡生活を続けていた。

 

言葉、交わすだけで落ち着けるのであればなんと容易いものか、もちろん会話というモノにそのような機能はなく。情報を伝達するために用いていた。

 

「外の連中はラミアを助け出そうとしていないのか?」

 

士郎の疑問だった。

 

昼下がり、スラム街の小さなテーブルを二人で使用してお茶を飲むそんな時間帯。

 

あれから、鎮圧の名目で動いているアメリカ軍は何かを待つわけでもなく、何かを奪うわけでもなく、ただただ静寂を守っていた。

 

そこで湧いて出たのが先ほどの士郎の質問だった。

 

「さぁ、どうなのかしらね、私が持ってる情報を欲しているのは確かだけれど、強引に踏み込めない理由でもあるんじゃないかしら?」

 

返すラミアも、明らかな理由は無く、推測でモノを言うほか無かった。

 

幸いな事は鎮圧部隊に動きがないことでフランス軍の方も目立った動きを行うことができず、互いに犠牲者が出ていないということだった。

 

アフガニスタンが所有する軍隊は今回どちらに味方しているのだろうかと気になりもする。

 

ヘラート内部で争う分には建物も多く、監視カメラも少ないという状態からフランス軍もやりやすいのだろうけれども、ヘラート外部、アメリカのカメラに捉えられ報道されでもしたものならばフランスという国が悪として見られてしてしまう。

 

なんせ、アメリカは世界に向けて今回の事件をアメリカ軍襲撃事件として報じているのだから。

 

ともなれば、その犯人がアフガニスタンのゲリラではなくフランス軍でしたという真実は世界に混乱を与えてしまう。

 

「(こちらから行動を起こすほかないか・・・)」

 

何故フランスがPMCや正規ではない民間軍事会社に今回の件を頼まなかったのか、それはラミアの持つデータチップ、その中に含まれている核の情報が確かなものであるという証明にもなる。

 

だからこそ、狙われる。

 

ラミアを無事にアメリカへ引き渡したとして、フランスはどうなる?

 

アメリカも世界的に報道することはできないだろう。その情報の入手方法がスパイでしたなんてのはアメリカも警戒される結果を生んでしまう。

 

だが、核の実験場の場所なんかもあのチップの中に含まれているのだとしたら・・・ラミアの様な少女がスパイとして潜入できる程だ。恐らくは軍、あるいは上層部の方にまでアメリカのスパイは存在する。実験の際に軽い干渉をしただけでも繊細な核の実験は大きな被害を生むことになるだろう。

 

放射能による被害は1年やそこらでどうにかなる問題ではなく、それは自国の生産で生計を成り立たせることができるフランスにとって、大きな変革を求められる事態となるだろう。

 

最善は、最善手はなんだ?

 

どうすればアメリカ、フランスの両方が損も得もせずに・・・終わ・・・、そうか。あぁ、そうか気づいてしまった。

 

「なぁ、ラミア・・・そのデータチップって、取り外すことはできないのか?」

 

狙いはデータチップ、なら、そのデータチップを(衛宮士郎)が持ち去ってしまえば、ラミアは狙われることがなくなるはずだ。

 

そう思い、口にした言葉だったが、ラミアは目を伏せて呟くように言った。

 

「出来るわ・・・でも、いやよ」

 

否定の言葉、それとともにラミアが手に持っていたカップが震える。

 

無意識か、意識下なのか、ラミアは自分の手に持ったカップに怒りを、悔しさをぶつけていた。

 

「分かってるわ、このデータチップを外して、士郎がアメリカに届けたほうが私達スパイが(おこな)ってきた任務の達成する確率は高い」

 

でも、

 

「でも私は、私の、私達の成し得てきた事が詰まったこのデータチップを自分の手でアメリカに届けたい」

 

プライド、それがラミアの行動を支えているのだろう。

 

だとしたら、この任務を成し得たとき、彼女は何を支えにして生きていくのだろうか。

 

「分かった、なら俺はその手助けをするよ」

 

「・・・ありがと」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

それから3日後、事態は急変した。

 

ラミアの持つ旧型の携帯電話、折りたたむことも出来ず、サイズも辞書並みだが電波を拾うというその一点に関しては現在出回っている携帯電話すら凌駕する程だ。

 

本来は拠点との通信用に用意され、仲間の遺品として持っていたその携帯電話に対して、電話がかかってきた。

 

「もしもし」

 

電話に出たラミアは、額に汗を浮かべていた。

 

口元も乾燥し、緊張からなのか手元すら震えている。

 

受話器の向こうと繰り広げられているのがどんな会話なのか、士郎は聞くことも可能ではあったがラミアが嫌がるだろうと思い控えることにした。

 

「・・・えぇ、情報は確かに、はい」

 

・・・相手は、アメリカだろうか?

 

データを持っているということを明かしているあたり、信頼のできる相手ではあるのだろう。

 

「・・・現地の協力者が一人、はい、はい・・・わかりました」

 

何かに答えると、ラミアは携帯電話を士郎に向かって差し出した。

 

「(現地の・・・とはまた厄介なことしてくれたなぁ)」

 

「変わったゾ、オレが現地の協力者ダ」

 

普段とは口調を変える。

 

アフガニスタンで生まれ育った人間が英語を覚えようとすると、ペルシア訛りを持った状態で覚えてしまうことが多い、そのため、現地の協力者と紹介された士郎はペルシア訛りをわざと自らの英語の中に加えた。

 

『お前が協力者か、なるほど、現地の人間というのは嘘ではないらしいな』

 

「おマエは誰ダ?少女の仲間カ?」

 

ぶっきらぼうな感じに、尊敬を踏まえた表現などを控える。

 

『・・・ふむ、どこまで聞いているのか、答えてもらってもいいか?』

 

・・・なるほど、確かに大事な点だ。

 

核の事を知っているのであれば生死の判断すら必要になるだろうからな・・・

 

「答えルと言ってモ、オレは少女ガ困っていテ、外に知り合いがイるのにゲリラガ街を占拠してイテ連絡が取れないカらその間かくまって欲しイって頼まれたくらイだ」

 

『なるほどな、協力感謝するよ、今度謝礼も払おう』

 

謝礼か、お礼が弾丸なんてのは勘弁して欲しいものだが・・・

 

「ハハ、アリがたいな、この後はドうすればいい?」

 

『あぁ、もう一度彼女に変わってくれないか?』

 

「わかッタ」

 

ラミアに携帯電話を返すと、ラミアは安心したような表情を見せた。

 

もしかして、見定めるとかそういう話で俺に携帯電話を渡したのだろうか・・・いや、というよりも十中八九そうだろう。

 

「えぇ、わかったわ、その場所に行けばいいのね、了解です」

 

電話機を切り、ラミアは先程の怒りを踏まえた顔とは打って変わって安心した顔になった。

 

こちらへ向き直ると、ラミアはどこか悲しそうな表情をしながらも、回収地点を指示されたことと、ここで士郎とはお別れだという事を告げた。

 

「・・・ここまでありがとね、あとは、全部私が頑張るから」

 

「待ってくれ、後は回収をまつだけだろ?何を頑張るって言うんだ?」

 

それを聞くと、ラミアはヘラートの地図を取り出した。

 

ラミアが指で場所を示す。

 

そこは、今士郎達がいるスラムから300mほど進んだ場所だった。

 

だが、問題がある場所だ。

 

そこは、ヘラートでも数少ない高層ビルのある場所だった。

 

アメリカ系企業の運営するビルで、屋上にはヘリポートがある。

 

「多分だけど、私の国は知らないんだと思う」

 

問題、それはそのビルがフランス軍に占拠されていることだ。

 

外部への連絡が取れなかったこの数日、少しでも電波を拾える場所を探していた士郎とラミアは高所を廻った。

 

その中には例外なくこのビルも含まれており、その際にフランス軍がこの場所に何人もいるのを発見したのだ。

 

「まぁ・・・そうだろうな、なら俺が先に侵入してやつらを」

 

「ダメよ」

 

否定、確かな拒絶の意思だった。

 

「士郎も連れてくるようにって、確かに言われたわ、『戦力になるようなら連れてこい、最悪、ビルにたどり着くまでの壁にでもなってもらえ』ってね」

 

なるほど、盾にでもなるだろうと考えられたわけか・・・

 

ラミアも、それが嫌で付いて来させまいとしているのだろう。

 

「・・・貴方とは、士郎とはここでお別れ、これ以上は本当に貴方に迷惑をかけることになるわ」

 

今更何を・・・とは思うが、それが彼女の望みだというのなら形式上でも従おう。

 

「分かった・・・気をつけろよ、ラミア」

 

ラミアの目を見て、しかと伝える。

 

その目には、決意の火が灯っていた。

 

しかし同時に、別れの滴も見て取れた。

 

「ホントに、ホントにありがとね・・・士郎、きっと私、貴方がいなかったら折れてたわ」

 

それはきっと、間違いない・・・衛宮士郎がいなければ、ラミアという少女はあの地下で最後を迎えていた。

 

「じゃあ、私は行くわ、もうこれ以上、私を助けないで・・・これは、絶対よ」

 

士郎はそう宣言するラミアを見て感じた。

 

この少女は折れないと、この少女に支えはいらないと。

 

固い握手を最後に、互いに、互いの目を見る。

 

「私のこっちでのドッグタグ、アメリカに持っても正規の物を使うようになるから、これは処分されちゃうの・・・それじゃ淋しいから、これを持っておいて欲しいの」

 

士郎は頷き、その手に感じた重さを噛み締めながらラミアに背を向けた。

 

それに対してラミアは、士郎に背を向けてビルの方向へと歩き出す。

 

ふと、士郎が振り返るとそこにラミアの姿は無かった。

 

きっと彼女はやり遂げる。

 

俺は、この地でフランス軍が引き上げていくのを見てから日本に帰ろう。

 

きっと、それはそう遠くない日だ。

 

「俺は待つよ、ラミア」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――銃声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回でようやく長かったラミア編も終わり、話も残り1日へと移行します。

同時に、自分が動脈硬化による狭心症を患っていることがわかりました(´Д` )



追記

いや、ほんとどうでもいいことなんだけど煙草吸ってると灰になっていく過程見てるだけでバサルモスとグラビモス思い出す。彼らってまだいるのかな?MH4やってないんですよね(´Д` )
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