東方剣創記   作:スペイン

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衛宮士郎が後にした寺子屋、そこには話をする2つの影があった。

「なるほど・・・確かに衛宮先生は苦労しているようですね」

1つの影の口元が動いた。声は若い、それでいて落ち着きを持っている。

それに応え、もう1つの影の口元も動く。

「あぁ、私は今回のことではあまり士郎に手助けしてやれない、だから竹林の忍者の末裔である貴方に彼を助けて欲しい」

女性の声が切なげに願いを紡いだ。

「とはいえ、私は本格的な戦闘になれば役には立ちませんよ?衛宮先生の事は大好きですからね、もちろん手助けさせていただきますが」

「あぁ、わかっている。戦闘無く終わればそれが何よりだ・・・だが、先ほど寺子屋を訪ねてきたあのメイド、確か湖のところにある館の人間だ。士郎が話していたルーミアという少女は元々その近辺の森で出会い、現在では行方不明だという・・・どうにもこの2つにはつながりがあると思えて仕方ないんだ」

衛宮士郎という存在が関わってきた物事、それはつながりを持っていることが多かった。

博麗神社に行き着き、その手伝いをすることで人里の人々に多く知られ、職探しをしている時に教師となることになり、多くの人々に知られていた人里で職を得た。その職を得た寺子屋で同僚の山根久朗からの提案で湖の危険を調べに行った先で、ルーミアと呼ばれる少女に出会い、別れ、その少女は行方不明になった。そしてそれから数日、行方不明となったルーミアという少女が住んでいた周辺に建つ館のメイドが訪れてきた。

「間違い・・・ないだろう」

「了解です。ふふ、貴女がこうも誰か1人のために奔走するのも珍しい」

「かっ、からかうな・・・別に私は、同僚が困っているから・・・助けるだけ、だ?」




なぜ最後が疑問形になってしまったのか、それを女性は自覚しているのだが、認めようとはしていない。








第28話 断ち切る迷い ~残り1日~

~衛宮邸~

 

衛宮邸の入口、スライドのドアを開けて士郎は自分の自宅へと帰ってきた。

 

腕に抱きかかえた咲夜が顔を赤くしながら『いつ降ろしてくれるのかしら・・・』と考えているのを士郎は知らない。

 

靴を脱ぎ、咲夜の靴も脱がせる。

 

その際、白いストッキングが包む長く、細い足に思わず目が行き、足先からほどよい肉付きの脛、そして筋肉でムチリとした腿を伝って上の方へと視線が移っていくと、咲夜の手でガードされたスカートへとたどり着き、即座に目を逸らしたのだが咲夜から「スケベ・・・」と呟かれた。

 

返す言葉も無く、そのままの姿で士郎は居間まで移動すると、ようやく咲夜を降ろし、そのまま座布団の上に座らせた。

 

「茶を取ってくる。少し待っていてくれ」

 

そう言ってその場から立ち去り台所へと消えていく士郎を見送った咲夜は、依然として若干の混乱を抱きながらも本来の目的を忘れずにいた。

 

「(私は今日お嬢様の言伝を賜って来たのだからしっかりしなくちゃ・・・)」

 

案内された(というよりも連れてこられた)居間の中を特に意味もなく観察する咲夜、そこには士郎が使用しているのであろう膝置きや、二つにたたまれて枕替わりにされたのであろう座布団などがあった。

 

実際のところは居間で腹を出しながら寝ていたどこかの巫女の片付け忘れなのだが、咲夜は「(だらしないところもあるのね・・・ふふっ)」と、どこか勝気になっていた。

 

他人のふり見て我がふり治すとはよく言ったもので、咲夜自身も今の自分に衣服の乱れなどがないかという点を気にして、気がついたところを直していた。

 

「(それにしても・・・もしももう一度あの男と戦うことになったとき、私は勝てるのかしら?)」

 

衛宮士郎という人間の強さ、それは素早さである・・・と咲夜は思っている。

 

圧倒的なその脚力に何度驚かされたのか、咲夜はその一点では確実に勝てないと考えていた。

 

だからこそ、自分よりも美鈴が・・・美鈴ならば勝てるだろうと咲夜は踏んでいた。

 

美鈴の強みはその技術(わざ)の多さと持ち得る膂力にある。

 

『気を扱う程度の能力』という彼女の強み、彼女はそこに甘えることもなく自らの修練を欠かさない、さらに恐ろしいことはその伸びしろが未だに天井知らずだということだ。

 

あるいはそう・・・彼女に『存在の加速』を使えば勝てるのではと思えた。

 

しかし、その解除が遅れてしまえば、それだけ美鈴の寿命を縮める結果になる。

 

容易には手を出せないのが『あの能力』の痛い点だ。

 

接近戦ばかりを考えすぎなのだろうか?と、咲夜は右手に魔力を集中させて小さな風の竜巻を作った。

 

以前、パチュリーから教えてもらった魔法の一つだった。

 

『咲夜は風と水、それと無属性・・・というか属性の絡まない魔法が向いてるみたいよ』

 

そう言われ、何度か練習をしているうちに確かに人並み以上には使えるようになったのだが、それを戦闘の中に取り入れられるかというと微妙なところだった。

 

「(それに、あの男がもしも魔法を得意としていたら・・・魔法による攻撃はまるで意味を成さなくなってしまうわね、攻撃しようにもあの速度で避けられてしまえば無駄になってしまうし・・・どうしたものかしら)」

 

咲夜が悩んでいることなど露知らず、士郎は素知らぬ顔で『お茶持ってきたぞー』と帰ってきた。

 

咲夜の前と自分の前、それぞれテーブルの上にお茶を並べた士郎はその目付きを変えた。

 

「咲夜、なんだ・・・その殺気は」

 

漏れ出したものではない、意図的に、衛宮士郎に対してぶつけたのだ。

 

「・・・なに、少しこれからする話に合わせて雰囲気を変えようと思ってね」

 

咲夜は口元に浮かべた笑みを崩さずに、確かな敵意を持って士郎を睨みつけた。

 

「まぁいいわ、端的に言ってあげる。1つ、私達(こうまかん)は明日にでも幻想郷中を巻き込んで大きなことをするわ、それがどんな事かっていうのは・・・まぁ、見てのお楽しみね」

 

士郎もそれを受けて、一度目を閉じるとそのままの状態で口を開いた。

 

「殺意を織り交ぜた会話なんてのは恐ろしくもなんともないな、むしろありがたさすら感じるよ、咲夜、知っているか?笑顔で交わされる悪意に満ちた会話の恐ろしさを、殺してくれと願えども殺さずに楽しむ悪意の塊を、一人の少女の人生すら潰して、己の家計の悲願を達成させるために幼少の頃から身体を改造するほどの底知れぬ悪意の怖さを・・・許せ無さを・・・ッ!」

 

「・・・悪意、ね、確かに、殺す意思を丸出しにした殺意よりも、何をしでかすのかわからない悪意の方が恐ろしいのかもしれないわね」

 

経験があるのか、それとも、士郎の言葉から何かを感じ取ったのか、咲夜は納得が言ったようで確認するかのように口に出した。

 

過去の暗い思い出に触れてしまったのかと士郎は自分の言葉に少なからずの反省を覚えた。

 

「まぁ、いいわ・・・核心を伝えるとするわ」

 

咲夜は士郎の双眸をしかと睨み、『悪意』を含んだ瞳で言葉を続けた。

 

 

 

「貴方の探している少女、ルーミアは、紅魔館で妹様の玩具(おもちゃ)になっているわ」

 

 

 

どう反応が来るか、咲夜はそれを探っていた。

 

「・・・どういうことだ」

 

冷静、保たれたその理性で士郎は質問をした。

 

咲夜自身、ここでいきなり襲われてはたまらないと思っていたのでその反応に微かに安心を覚えた。

 

「どういうこともなにも、そのままの意味よ、我が主、レミリア様の妹君であるフランドール様の玩具(おもちゃ)として扱われているわ」

 

淡々と、事実を述べるだけの咲夜は感情を込めていない、込めているのは『悪意』だ。

 

「妹様は『あらゆるものを破壊する程度の能力』を有していらっしゃる。その玩具(おもちゃ)として扱われているのだから・・・彼女はいつ壊れてしまうのか、それは私にも分からないわ」

 

危険な能力でこそあれど、制御できていれば問題はない、つまり、いつ壊れてしまうのか分からないというのは、制御できていないことを伝える意味だ。

 

「それでね、貴方に対して、そのルーミアから伝言があるのよ」

 

無言であった士郎は、眉を僅かに反応させ、咲夜の言葉を待った。

 

 

 

「『私を助けないで』」

 

 

 

・・・沈黙。

 

重い空気が居間を支配する。

 

重圧(プレッシャー)は無いものの、身動きも取れない、いや、重圧(プレッシャー)がないからこそ、身動きが取れなかった。

 

永遠に続くかとも思われたその空間を裂いたのは士郎だった。

 

「そうか」

 

咲夜はそこに見た。

 

口元に浮かべられた笑みを、どこか、懐かしむその表情を。

 

士郎の脳裏に、過去の記憶がよぎった。

 

アフガニスタンでの一件、助けるか、助けないかというその選択。

 

上白沢慧音からもらった、悩みを断ち切る言葉。

 

そして、自分で選んだ確かな未来。

 

助けたら、ルーミアに迷惑をかけるのかもしれない。

 

ルーミアは、助けられることを望んでいないのかもしれない。

 

助けた結果、ルーミアに不幸が襲い来るのかもしれない。

 

 

 

「なら、助けないとな」

 

 

 

全てから。

 

迷いは、ない。




最近ですね・・・自分の後頭部に何かいると思って取ってみたら虫が交尾してたんですよ。

・・・虫に先越された。
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