東方剣創記   作:スペイン

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「兄ちゃん!慧音先生を助けてくれてありがとう!」

 人里に戻った士郎を待っていたのは肩に怪我を負ったあの少年だった
慧音先生・・・というのはおそらく、現在、士郎の腕の中で眠っている女性のことだろう

 狼男を倒し、女性の安否を訪ねようとしたところ、彼女は既に気絶してしまっていた
 そのため、士郎は彼女を両の手に抱いてここまで戻ってきた
 
 士郎の姿を目に収めた少年は一目散に駆け寄り、その言葉を告げてくれた

 助けることができたという実感が胸の内から湧き出てくる
 その後、少年に案内されて慧音と呼ばれた女性の家屋まで連れてこられた

「先生はいつも窓の鍵を開けてるんだ」

 そう言って平然と家屋の中に入っていく子供に一抹の不安を覚えたりもしたが、とりあえずは慧音を抱えて家に上がらせてもらった

 少年は押入れから持ち出した布団を畳の敷かれた一室に敷くと、そこに慧音を寝かせるよう催促してきた

 慧音をそこに寝かせ、怪我をしている部位を診るために衣服を脱がせる

 少年にはお湯と綺麗なタオルを持ってきてくれるよう頼んだ

 慧音の衣服を脱がしていくと、元々の衣服の形からだいぶ変わってしまっていることが見て取れた。おそらくはあの狼男に切り裂かれたのだろう

 自分がもっと早く駆けつけていれば、その後悔が胸を締め付ける

 衣服の下には傷ついた体が、スタイルの良い身体は女性としての魅力を存分に放っており、士郎は思わず衣服を脱がしてその裸体を見たことに罪悪感を覚えた

 腕、足、口元、胸元に切り傷が見られるが、どれも深くはなく、痕が残る程のものは無かった

 士郎が傷の確認をしていると、洗面器にお湯を貼って少年が帰ってきた

 少年から洗面器と、そのあとに持ってきたタオルを受け取って士郎は傷口の消毒と体を拭き始めた

「うっ・・・」

 慧音の漏らす苦悶の声に力加減を少し弱める

「兄ちゃん、先生大丈夫かな?」

 少年が心配そうに尋ねてきたので、士郎は心配を与えないために

「あぁ、心配ない、小さな騎士が…君が先生のために助けを呼ぼうとしてくれたおかげでな」

 けれども決して嘘は交えずに答えた
 
 その答えが嬉しかったのか少年は顔全体で柔らかな笑みを作ると慧音の手を取り力強くそれを握った

 慧音の傷の手当も終わり、クローゼットから彼女の寝巻きと思われる白地に桜柄の浴衣を取り出して彼女に着せておいた

 一息ついて、士郎は佇まいを整えるとともに少年へと目を向けた

 少年は既に眠りの世界に落ちてしまっているようだ

 少年と慧音に毛布を掛けてあげて、士郎は二人の安心した寝顔を見て口元が緩むのを感じた

 そして同時に、あることを思い出した

「あ・・・魔理沙・・・」

 金髪の少女の名をつぶやいて、ふと、差し込んできた光に目をやってみる

 既に、陽が登り太陽がさんさんと輝いていた。



第3話 宿

 

「すまない…」

 

 朝の人里で聞こえてきた謝罪の声は衛宮士郎その人のものだった

 

 その言葉からは誠意が感じられるものの、その言葉を向けられた相手はふくれっ面を解かないでいた

 

 その言葉を受けた少女、霧雨魔理沙は昨日の夜のことを思い返していた

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「へへっ」

 

 思わず笑みがこぼれた

 

 今は夜、衛宮士郎がこの人里を散策したいと言い、別れて三ツ星に向かうところだ

 

 笑みの理由は先ほどの士郎との会話にあった

 

『綺麗な夕焼けだな、この空は』

 

 士郎は、『この空』と言ってくれた

 

 そこに士郎がどのような思いを含めたのか魔理沙には知る由もないが、故郷の空を褒められた。それが魔理沙にはなんだか誇らしかった。

もしもそれが、一緒に見た空を指しているなら…魔理沙の乙女回路が暴走仕掛けたが、ふと冷静になって考えてみた。

 

 衛宮士郎という男がどういう人間なのか、今の魔理沙にはまだ測りようも無い。

 危険…では無いと信じたい、どちらかといえば優しさを感じた。

 

 しかし、一緒にいて不快ではない、むしろどこか落ち着く、そんな感想を魔理沙は抱いた。

 なのに…、

 

「なんでだろう…士郎に、何処か空しさを感じるのは」

 それは表情から、仕草から、言葉から、彼の成し得る全てが何処か空しさを孕んでいる。

 

「やっぱり、昔何か…あぁやめやめ!難しく考えるのは私らしくないんだぜ!」

 頭をくしゃくしゃっと掻いて、気持ちを新たに「よしっ!」と歩み出す。

 

「さ~て、三ツ星でダンゴでも食って待ってるかな」

 

 足取り軽やかにお腹の欲求を満たすために魔理沙は三ツ星への道を進んだ

 

~待ち始めて1時間~

 

「おばちゃ~ん、三色団子追加で~」

 

 魔理沙の声に「は~い」という返事の後、手に陶器の皿を持ったお婆さんが奥から頼りない足取りで歩いてきた。

 

 三ツ星はお婆さんとその娘、そしてさらにその娘で経営をしている団子屋だ。

 

 歳月を経てもなお変わらない伝統の味と、優しさのニイ婆、美しさのミイ母、可愛さのチイ娘の3傑女が人気の理由だ。

 

 魔理沙が今しがた頼んだ三色団子は創業当時から続くメニューで、その歴史はニイお婆さんのお婆さんのそのまたお婆さんの代まで遡るというから驚きだ。

 

 もっちりとした質感にほどよいやわらかさをもつぷにっとした団子は上から、白、緑、桜色の3色になっており、見た目もさることながら味に関してもほどよい甘みをもっており一度食べればまた食べたくなること間違いなしの品になっている。

 

 ふと風を感じて横を見てみれば、誰にも気を使わせないような足取りでこの団子屋の母、ミイさんがお皿を片付けていた。ミイさんは綺麗な銀色の髪の毛を後ろで結っている。結われたその美しい髪はうなじを隠すように背中まで届いている。

 

「士郎は今頃どこら辺を見回ってるんだろうなぁ」

 

 ふと口から漏れたそんな言葉に、ミイさんが口元に意地悪な笑みを浮かべながら、 

 

「あら、男?」

 

「ん?あぁ、士郎は男だぜ」

 

「いや、そ、そうじゃなくてね」

 

 魔理沙をからかおうとして失敗してしまった。

 

~待ち始めて2時間~

 

 夕闇の時刻についたこの人里も、既に闇が空間を支配し始めている。

 

 もう団子も食べ飽きて、ニイ婆さんの出してくれた暖かいお茶で一息ついていた魔理沙はふと、魔力の流れを感じた。

 

 しかし、その魔力の使い方は魔理沙の知る『外なる魔力』ではなく『内なる魔力』だった。

 

『外なる魔力』、つまりは魔理沙の使用するように魔力を『放出』することにより使用するやり方のことを指すのだが、今回感じたのは散らばった魔力が一箇所に集中するかのような、まるで『凝縮』させたかのように感じた。

 

「(珍しい魔力の使い方するやつもいるもんだなぁ・・・何してんだろ?)」

 

 ふと、見に行ってみようかとも思ったが士郎がその間にきたら・・・と考えて魔理沙は見に行くことをやめた。

 

「士郎はまだかなぁ」

 

 魔理沙は空を見た。

 

 星々が輝きを地上に運んでいるのが見える。

 

「どっかでまた、星でも見上げてんのかなぁ」

 

 そんな事を考えながら、手元にあったお茶をすすった。

 

 ふと、士郎が箒の後ろにいた時の安心感を思い出した。

 

 自然と、笑みがこぼれた。

 

 そして同時に、振りかえった時に士郎の胸板に肩を置いた事を思い出して、頭を振って必死に忘れようとした。

 

~待ち始めて5時間~

 

「(あれ・・・?なんで士郎こないんだ?もしかして先に霊夢のところに戻ったのか?いや、空を飛んできたんだし士郎には道がわからないだろうからそれはないと思うし・・・あれ?でもそうしたらなんで士郎はこないんだろう?もしかして私、何か士郎が嫌がるようなことしちゃったのか?それとも、まさか士郎が何か事件に巻き込まれたりして?もしもそうだとしたらどうしよう・・・士郎を一人で行かせた私の責任だ・・・)」

 

 心の中で悩む魔理沙は今、もう今日の閉店を迎えた三ツ星の外においてある木製の椅子に座っていた。

 

 待ち続けた魔理沙は心が段々とさみしさに陰ってくるのを感じていた。

 

 目元に自然と涙が浮かび、最悪の考えが頭をよぎる。

 

 そんな事はないと否定しては再び悩み、立ち上がり探しに行こうとしては士郎が来たらということを考えて座りなおす。

 

 魔理沙は段々と自分を責め始めていた。

 

 そして、ただ会っていない、それだけの時間が士郎への思いを募らせる時間となっていた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

~待ち始めて10時間~

 

 魔理沙のことを陰ながら見守っていた三ツ星は、いつの間にか眠りについていた魔理沙を家に運んで布団で寝かせた。

 

 魔理沙は自らの箒を胸に抱きしめてうなされるようにして眠っていた。

 

…・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

~夢の中~

 

 花園、そう呼ぶにふさわしい光景がそこには広がっていた。

 

 私は白いドレスを着ていて、花園の中心に座り込んで花の冠を作っている。

 

「――――!」

 

 誰だろうか、私を呼ぶ声がした。

 

「―――理沙!」

 

 男性の声だ、なぜだろうか、すごく嬉しい。

 

 今、一番聞きたい男性の声だ。

 

 何故、こう思うんだろう。

 

「魔理沙!」

 

 彼は、そのたくましい腕に私を抱きとめてまた私の名前を呼んだ。

 

 答えるように、私も、彼の名前を…。

 

 そして、その唇に、私の名前を呼んでくれた唇に…。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

~待ち始めて16時間~

 

「あらあら、お迎え見たいよ魔理沙ちゃん」

 

 ミイの声に、魔理沙は目を覚ました。

 

 まず気がついたのは、いつの間にか自分が布団の中にいることと、何故かミイに頭を撫でられていることだった。

 

「…?」

 

 寝ぼけ眼をこすりながら、魔理沙は上体を起こして周囲を見回した。

 

 自分が元々着ていた服装ではなく、ピンク色の少しサイズの大きなパジャマを着ていることに驚きながらも、その場所が三ツ星であることに気がついた。

 

「ミイさん…私、なんで」

 

 と、そこまで口に出したところで昨日、自分が士郎のことを待っていて、いつの間にか眠ってしまったであろうという考えに行き着いた。

 

「あ…そっか、私」

 

 そして、頭が冴えてきたことによって、先ほどミイの言ったことを思い出した。

 

「そういえばミイさん、お迎えって…」

 

 ミイの方をチラリと見た魔理沙は、そこに口元を三日月にして目元を皿のようにしたミイを見た。

 

「んっふっふー、あなたの夢の王子様、士郎君が迎えに来たみたいよー」

 

 その言葉に「おっ、王子様ぁ!?」と反応しようものなら、

 

「あなた、寝ている間に士郎士郎ってうるさかったのよ」

 

 微笑み・・・というよりもからかいに近い笑みを浮かべながらミイは言ってくる。

 

「なっ~~~~!?」

 

 顔が赤くなるのを感じ、魔理沙は思わずまだ膝下に掛かっていた布団を顔まで持ってきて隠してしまった。

 

 頭の中で「なんでなんでなんでなんで!?」と疑問を唱えながら必死に冷静になろうと努める。

 

 男として見ていなかったはずの士郎なのだが、昨日あんなに意識をしたせいだろうか、それとも昨日の夢のせいだろうか、不思議と士郎のことを意識していた。

 

「あらあら、洗面台使っていいから身支度整えなさいね」

 

「わっ、わかったから!わかったから!」

 

 手を振りながら客間を出て行くミイの一方、魔理沙は顔にこもった熱が引くまでずっと布団で自分の顔を隠していたのだとか…。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

~現在~

 

「…すまない」

 

 魔理沙はその言葉を、そしてその言葉を言っている衛宮士郎を見てふくれっ面を解けないでいた。

 

 正確には、ふくれっ面をしていなければ無事でよかったという嬉しさで微笑みが表に出てしまうからだ。

 

 さらに、ここで笑みをつくろうものなら後ろから見ているミイに後々何を言われるものかわかったものではない、乙女心は恥ずかしさに弱いのだ。

 

「怒っている…よな」

 

「そりゃ怒ってるに決まってるぜ」

 

 そう聞いてきた士郎の弱気な瞳に、思わず罪悪感が生まれる。

 

「決まってるけど…」

 

 さらに、よく考えてみれば今は朝、人があまりいないことから士郎の声は変に目立っていた。

 

 今は家屋の中にいるのであろう里の人々にも、その声は聞こえているだろう。

 

 そうなるとまずい、色々と困ることになる。

 

 世間体は今更気にしてはいないが、三ツ星にまで迷惑がかかってしまうのは望むところではない。

 

「わ、わかったぜ、士郎にも何か事情があったんだろ?」

 

 見てみると、士郎の顔には疲労の色が見て取れる。町の散策だけでここまで疲れるものだろうか?と思い、改めて、士郎の現状を観察してみる。

 

 すると、服のいたるところに微量ながら血液が付着していることに気がついた。

 

「し、士郎その血!」

 

 見てみても士郎に外傷はない、とはいえ、血液が付着しているということは何らかの事件に巻き込まれたと推測できた。

 

 士郎自身、自分の服装を見てようやく気がついたようだ。

 

「い、いやこれは、少し人を手当した時に」

 

「そ、そうか…お前のものじゃないんだな、良かったぜ」

 

 魔理沙の安心した顔に、士郎は自分を心配してくれる存在が確かにいることに『居場所』を感じた。

 

「ありがとう、魔理沙」

 

 士郎の言葉に魔理沙は微笑み、人助けをしていた士郎におもわず質問していた。

 

「それで、どこの誰を助けてたんだ?」

 

 士郎は魔理沙の質問に対して、とても快活に、

 

「あぁ、慧音という人をな」

 

 そう答えた瞬間、魔理沙の表情が若干固まった。

 

「狼男に襲われてたから焦ったが、なに、私の相手では無い」

 

 さらに固まる。

 

「綺麗な女性を一人、残る様な怪我も無く助ける事が出来た」

 

 「ほう」と魔理沙、

 

「慧音さんってのは女性か?」

 

 その刺のある言い方に少し言い詰まりながらも士郎は「あぁ」と肯定した。

 

「それで、手当したっていうのは腕か?足か?」

 

 えっと、と思い出す士郎、

 

「えっと、腕と」

 

 軽い切り傷、消毒をして布を当てて完了だ。

 

「足と」

 

 こちらは挫いていた、湿布を貼って足首を固定しておいた。

 

「口元と」

 

 強くぶたれたようで口の端が切れていた。。こちらに関しては消毒以外にできることがなかった。

 

「胸元だな」

 

 豊満な胸元の付け根のあたり、軽く爪を押し付けられたのか刺し傷のようなものが出来ていた、こちらには絆創膏を貼っておいた。

 

 ふと、思い出して今になって恥ずかしさがこみ上げ、顔が熱くなるのを感じた。

 

「ふーん」

 

 その言葉を受けて、

 

「ふーーーん」

 

 魔理沙が何やら意味深な眼差しで士郎のことを見た。

 

「士郎は、私が一人で寂しく待っている間に、女性の胸元を見てたんだな」

 

 その言葉に、士郎は否定できない現実を後悔した。

 

「私が士郎の心配をしている間に、士郎はそれをよそに狼男と戯れてたんだな」

 

 さらにもう一手、王手にも、チェックにも近いその言葉に士郎は冷や汗を流す。

 

 次の言葉はチェックメイトか、そんなことを危惧する士郎をよそに、

 

 そこに、魔理沙が小さな声で、

 

 

 

「お、大きかったか?」

 

 

 

「は?」

 

 

 

「い、いや、なんでもない!」

 

 何かをごまかすように後ろを向いた魔理沙は、自らの胸元をペタペタと触って何を思ったのか溜め息をついた。

 

 そして、そこでやっと自分の今の考えに気付いた。

 

「(あ、あれ?なんで私嫉妬なんてしてるんだぜ?べ、別に士郎が女性と一緒にいようと私とは関係ないハズだし、ミイさんが変なこというから私も変に意識しちゃってるだけだぜ多分!だいたい士郎とは昨日会ったばかりなのに意識すること自体おかしな話だぜ!)」

 

 おかしな話、そうは分かっているのだが、昨日から考えていることは士郎のことばかりであるのは否定できないことだった。

 

「本当にすまない」

 

 士郎の声に、魔理沙は心を落ち着けることに専念した。

 

「き、気にすんなもう!士郎も男ならいつまでもうじうじしてないで胸張っていいぜ!」

 

「(そうだぜ!士郎も男ならもっと強気で・・・つよきで・・・)」

 

 そこで、自分の口元に魔理沙は手を持っていってふと自分の言葉を頭の中で反芻した。

 

「(そうだよな・・・士郎は、男なんだよな)」

 

 困惑にも驚愕にも似た魔理沙の表情に、士郎は首をかしげた。

 

「(士郎は男で、私はなんでそれをこんなに意識してんだ?)」

 

 魔理沙の中で、何か新しい感情が芽生えようとしたその時だった。

 

 そんな魔理沙の様子を見て、士郎は、

 

「魔理沙、待たせてしまって本当にすまない、その…身勝手だとは思うが、許してくれたと認識して構わないか?」

 

「え、あ、うん」

「それならば、帰ろう」

 

 笑顔だった。

 満面の笑みとはいえない、何処かニヒルさを醸し出すそんな笑み。

 本当に身勝手な、何かを誇る様な笑顔だった。

 

 誰かを助けられた事を誇っている。

 そんな笑顔だった。

 

 士郎にそう言われ、魔理沙は士郎を見た。

 

「博麗神社にな」

 

 前を向いていた。

 

 士郎の瞳は真っ直ぐに、限りなく広がる青空を、その下に広がる森を、そして彼らが今いる人里を視界に収め、前を向いていた。

 

 綺麗な瞳だなと、魔理沙は思った。

 

 同時に、今のこの気持ちを大切にしたいと、

 

 士郎の言葉に魔理沙は自分の心に区切りをつけた。

 

 この不思議な想いは後で整理しよう、と、

 

 この不思議な想いは大切にしよう、と、

 

「あぁ!」

 

 そう快活に返した魔理沙の表情は、青空に燦々と輝く太陽のようだった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「「あ」」

 

 二人は、あることを思い出した。

 

 『博麗神社』というキーワードに、何かが脳裏をよぎったのだ。

 

 士郎は弾幕を思いだし、魔理沙は昔、どこぞの巫女を本気で怒らせた時のことを思い出した。

 

 そう、恐ろしいと知る者から、その恐ろしさを向けられたかのように。

 

 蛇に睨まれた蛙では無い、一度蛇に咥えられた蛙だ。

 

 魔理沙の笑顔から感情が消えた。

 

「れ、霊夢…忘れてた…」

 

「あ…」

 

 二人はその場に固まった。

 




改訂作業中

士郎の台詞に一部どころか結構な改訂が入っております。

以前は「~~だな、よし!」みたいな快活少年風な部分があったのですが、改訂後は「ふむ~~というわけか、なるほど」と訳知り顔大人風に味付けしてあります。

暖かいうちにお召し上がり下さい。
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