衛宮士郎はその日、死を体験した。
魔理沙と共に博麗神社に帰った衛宮士郎を待っていたのは心温まるお味噌汁だった。
博麗霊夢の配慮によって温かいうちに食べて欲しいからと帰ってすぐに出されたそれは、未だに沸騰を続けるお味噌汁だった。
霊夢の笑顔には不思議な迫力があり、断ることはもちろん、その場から逃げ出すという選択肢すら士郎は思いつかなかった。
居間に置いてあるちゃぶ台を囲むように座った士郎と魔理沙、そして霊夢は皆笑顔のままで元気よく「いただきます」の号令をした。
置いてあるのは小指の爪ほどの白米、煮えたぎるお味噌汁、除霊のために盛られたのではと勘違いを引き起こす塩、そしてその塩に負けず劣らず盛られたわさびだった。
霊夢へ目を向けてみると、綺麗に焼かれた鮭、備え付けられたみずみずしい大根おろし、切れ目の入れられたこんにゃくとそのこんにゃくを浸している甘辛醤油、そして味噌の香りを感じさせるお味噌汁にほどよく盛られた白米が目に入った。
理不尽・・・と考えかけて士郎は自分のせいだということを思い出した。
しかしそれでも思う、鬼の所業だと!
そういえば、と魔理沙に視線を向けてみる。
目元に涙を蓄えながらわさびを口いっぱいに頬張る少女がそこにはいた。口の中、そしてわさびの香りで鼻もやられているだろう。
さらにそこに降り注ぐ熱湯という名のお味噌汁、口元を抑えて無理やり飲み込もうとする魔理沙の姿がとても痛々しく士郎の瞳に映った。
その健気な姿に涙を流しそうになる。
だが、彼女の分も食べようとは思わない、他者の罪を被る事は人助けでは無い(と、自分に言い聞かせて)。
士郎は心の中で誓った、もう博麗霊夢という女性をおこらせることは必ずしないと、この少女には自分の師である遠坂凛に似た、また、自分が一時期執事を務めたルヴィアにも似た恐ろしさを感じる。
桜程ではないが怒らせてはいけない女性の典型だ。
この食事が終わったら、深く、深く謝ろう。
心の中で、なんとはなしに考えを走らせる。
体は飯で出来ている
I am the bone of my foods.
血潮は鉄分で心は旨み
Iron is my body,and taste is my blood.
幾たびの食卓を越えて不敗
I have created over a thousand cooking.
ただ一度の残飯もなく、
Unaware of loss.
ただ一度の追加注文もなし
Nor aware of gain.
料理人はここに独り
Withstood pain to create cooking,
野菜畑で水を放つ
waiting for one's arrival.
ならば我が生涯に意味は不要ず
I have no regrets.This is the only path.
この体は、
My whole life was
無限の飯で出来ていた
"unlimited blade foods"
思考が尽きた頃、衛宮士郎の目の前にあった食事は全て彼の胃の中に収まった。
「模擬戦?」
あの剣呑な食卓から3日が経って、士郎もこの世界の弾幕について少し使用できるようになった頃だった。
士郎が自分にとって一番作りやすい剣の弾の形を神社裏で考えている。そんな時にきた相談だった。
魔理沙がふと、弾幕とは関係なしに士郎の実力が見てみたいと言い出した。
「そうそう、前に士郎が狼男を倒したって言ってたからついつい気になっちゃってさ」
その申し出は、士郎にとっても嬉しいものだった。
士郎自身、自分の力がこの世界でどの程度通用するのかを知りたかったのだ。
狼男という存在を倒したことはそれなりのことらしく、人里での経緯を話した際に霊夢からも呆れられた。
そのため、この模擬戦の申し出は士郎自身が望んだものでもあったのだ。
「ってなわけで、やろうぜ!」
そう言ってどこからか箒を取り出した魔理沙に対するように、士郎もバックステップで距離をとって無刀の形で構えを取る。
「(とはいえ、流石に本気は出せないが…)」
そんな事を思いながら、魔力回路を走らせた士郎は目を強化して魔理沙の動きを見逃さないようにした。
儀礼用の剣を刃を潰した状態で1本投影して魔理沙に向かって投擲する。
魔理沙は少し驚きながらもこちらに向かって走ってきた。
「物質創造なんて難しい事が出来るのかよ、すごいぜ!」
途中、儀礼用の剣をスライディングする形でかわし、士郎に向かって突進してくる。
「創造とは少し違うのだがな」
士郎が空中へとジャンプして逃げたところ、魔理沙は箒へと魔力を込めて上方向へと思いっきり上昇してきた。
このままいけば士郎へと魔理沙の突進が直撃する。
「これはな、投影と呼ぶんだ」
士郎はその急な動作に驚きながらも身の丈以上あるグレートソード(もちろん刃は潰してある)を投影し、それを大きく振ることで空中において姿勢を変えて魔理沙の突進を軽々と避けてみせた。
「んっ!」
魔理沙が力を込めた声を出したと思うと、士郎の横を通り過ぎていった箒のブラシ部分からカラフルな星が士郎へと襲いかかった。
未だ着地を待つ状態の士郎だったが投影したグレートソードをすぐさま自分の前方に持ってくることでそれらを防ぎ、着地と同時にグレートソードを破棄して次々と襲い来る星を避けた。
魔理沙は依然として箒にまたがり空中から星による攻撃を続けている。
「爆撃をされている気分になるな」
そんな魔理沙めがけて投影した短剣を投擲してみるも、華麗にかわしながらなおも攻撃を続けている。
魔理沙の魔法は威力に欠けるおり、星の数から避けにくいという点は素晴らしいのだが、正直、生身の状態の士郎でもあの程度ならあたっても対した傷、どころか傷もつかないだろう。
魔理沙自身が非殺傷での戦闘に慣れているからなのか、魔理沙の攻撃には恐ろしさをなんら感じなかった。
いや、恐ろしさというよりも、感じなかった物は『殺意』か…。
そこで、士郎は一度魔理沙に声をかけてみることにした。
「魔理沙」
士郎に呼ばれ、魔理沙が一度攻撃を止めて地面へと着地して士郎へと向き直る。
「なんだよ、今は模擬戦中だぜ?」
「あぁ、模擬戦だ」
だから、と士郎は目に力を込めて言い放った。
「私を殺す気で来い」
その言葉を受けた魔理沙は、最初こそポカンとして口を開けて間抜けな面を晒していたのだが、
「へ、へへっ!へへへ!言ったな!言ったな!?」
口元を笑みに変えてテンションも最高潮といった具合まで変化した。
「実は模擬戦だから非殺傷にしてたんだけどこれだと本気出せなくてさ」
そう言った魔理沙は、二三度ジャンプすると士郎を見据えた後に目を閉じた。
「んーと・・・ほっ!」
言葉の後、魔理沙の内から魔力が溢れ出た。
魔力の量はそれほど多くもないが、恐らくはこれが魔理沙の本気。
いや、量でいえば人という分類では多いに当たるだろう。
「(いかんな、人外百鬼に魑魅魍魎、英傑豪傑死徒真祖と同じ基準で考えては…)」
舐めてはいけない、手加減と本気、その違いは何も威力だけじゃない、戦術にも違いがある。
そして思い出す。
この幻想郷に来たばかりの時、魔理沙が見せた星の輝きを思わせる特大のレーザーのような魔法、魔理沙の真骨頂はおそらくあの一瞬の爆発にあるのだろう。
油断はない、驕りもない、ただ迎え撃つ!
「へへっ、じゃあ行くぜ!」
そう言った魔理沙は懐からフラスコを取り出すとそれをこちらに投げてきた。
二人の距離は約5m、
士郎は瞬時に解析の魔術を行う。
この酸性の強さ、そして液体の色から見るに――
「硫酸・・・か!」
中に入った液体を硫酸であると判断した士郎は足へと強化を走らせ、すぐさまフラスコを空中で掴んで魔理沙へと投げ返そうとした。
「チッ!」
魔理沙は両手をあわせて魔法を放つ準備をしていた。恐らくは空中でフラスコを撃ち抜いて士郎へと硫酸の雨を降らせようとしたのだろう。
「思考を回転させろ、戦いの中に自分の流れを作り出せ!」
敵である魔理沙に対して思わず飛ばしたアドバイス、自分でも何を言っているんだと思いながらも言葉に反応するかのように動き出す魔理沙に嬉しさを覚える。
士郎が早かった為すぐさまパターンを変更。
元々、ぶつけようとしていた魔法は特大級の魔力塊、練り上げられたその魔力、その魔法。
今練り上げたこの魔法をそのまま士郎にぶつけるために使用する!
魔理沙の手から大小様々なカラフルな星が、しかし先ほどとは明らかに込められた魔力の量が違う、相手を傷つけるための魔法が放たれた。
士郎はそれを見て嬉しさを感じつつ、フラスコを足元に叩きつけて割り、強化された足をもって魔理沙から一気に距離を取った。
すぐさま投影した弓で魔理沙を撃ち抜こうとするが、多くの星が魔理沙を隠していて目測では見つからない。
そこで士郎は8本の短剣を投影して空中へと放る。
士郎の頭上へと4本。
そして放物線を描いて前方へと飛んでいく残りの4本の剣、それらをもって魔理沙をあぶりだそうとした。
「でてこい」そう思った矢先に、一つの大きな星に隠れて魔理沙が箒にまたがって飛んできていた。
「(突進か!なるほど目隠しのために使ったのか!)」
そのまま大きな星を貫いて士郎へと突進を敢行するも士郎はそれをまるで闘牛士のようにひらりと避けると、自分のすぐ脇をすぎさる魔理沙を掻っ攫う様に抱きかかえた。
そしてそのまま地面へと押し倒すと、士郎は動こうとする魔理沙に、
「動かないほうがいい」
そう言った。
その理由を魔理沙はすぐにわかった、腕と足(の衣服)に空中から飛来した4本の短剣が突き刺さり地面に縫い付けられたからだ。
「チェックメイトだ」
あまりにもあっけない幕切れ、士郎はまるで本気を出すことなく魔理沙を
魔理沙自身、八卦炉を使わなかったり、スペルカードとして普段使用している技を使わなかったというのもあるが、そんなことを言ったら士郎は一切を使用していない。
魔理沙はできる限りの本気で向かった、しかし、本当の戦場で命のやり取りをしてきた士郎からしてみると、魔理沙の動きはあまりに単純で戦略性のないものだった。
「筋はいいが、魔法に頼りすぎだな」
そう言われた魔理沙は、途中で士郎の使用していた足が早くなる魔法について気になった。
「士郎、途中でいきなり早くなったりしたあれはなんなんだ?」
そう問われた士郎は、魔理沙になら話しても混乱はされないだろうと思い、自分の世界における魔術というものについて説明した。
そして、先ほど自分が使用した強化の魔術についてもだ。
「はー、なるほどな」
素直に感心する魔理沙は、その技術を自分も覚えたいと思った。
使用できる魔法や知識に関しては魔理沙の方が上だが、こと魔術に関しては魔理沙は素人、それどころか無知な赤子に等しいのだ。
「なぁ、士郎」
その言葉に、士郎自身予感していたのだろう、苦笑いを浮かべながら魔理沙が次に言った提案を受け入れた。
改訂作業中 小話
この前自販機で珈琲を購入したらスロットが当たりを弾きだした。
嬉しく思い先程購入した珈琲を購入しようとしたら売り切れていた。
というよりも、何故あの自販機はつめた~いの飲み物が四種類しか無いのだろうか、まぁ、秋葉原にあるドクターペッパーオンリー自販機も中々だが…。
ちなみに作者はドクターペッパーとMAX珈琲が好きです。
あとBOSSのカフェオレ。