一人は衛宮士郎の『同僚』で、たまに家に招いて食事を一緒したり、職場での昼食も一緒にとったりする仲だ。もしかして自分は衛宮士郎のことが好きなのでは・・・?と自覚も芽生えてきていて、衛宮士郎自身も頼れる相手として彼女のことを認識している。
最近では職場で『付き合っているんじゃないか?』とか、『結婚しろよ』との言葉をいただくこともあったりなかったりするんだとか・・・
もう一人、それは衛宮士郎の『同居人』だ。
仕事を手伝ってもらうこともあれば、食事を作ってもらって寝食も共にしている。過去には抱きしめられて『一緒にいたい、my life , all time with you』とまで言われたこともある。(本当は無い)
衛宮士郎に対して恋愛感情を持ってはいないものの、それもいつまで続くのやら・・・
そんな二人が、今、テーブルを挟んで対面していた。
玄関での会話をここに記そう。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
その日、少し多くの荷物を持って帰ることになった衛宮士郎は上白沢慧音にその手伝いを頼んでいた。
頼んでいた・・・というよりも帰り際に衛宮士郎が四苦八苦しているところを通りがかった慧音が半ば無理やりここまで運んだというのが正しいのだが、結果として、彼女は衛宮邸へとやってきた。
『おじゃまします・・・士郎、この荷物はどこにしまえばいいんだ?』
玄関の戸を開けると、慧音はいつもどおり(何度も来ているため)士郎の自室へと歩を進めていった。
そこに、思わぬ障害物。
腹部を爪で掻きながら、とんでもなくだらしない格好で現れたのは博麗霊夢、しかし、だらしなさは目に見えていながらも玄関まで来るということ、それは衛宮士郎の帰りを待っていた。その事実に違いないといえよう。
『こんにち『あらおかえり士郎、お風呂は焚けてるわよ』
・・・瞬間、重なり合った二つの言葉はまるでプロレスリングに響きわたるゴングのように、続いて交わされたのは視線。
『おや、【噂の】同居人の・・・博麗の巫女をしているんだったか、はは、外見だけではとても分からなかったよ(だらしなさすぎて)』
『あら、士郎、プロレスラーでも連れてきたの?随分と力持ちみたいだけど、まさか教師だなんて言わないわよね?』
クロスカウンターモノだった。
「私は、士郎に命を救われた」
開幕、上白沢慧音が言い放った一言は150kmのストレートだった。
その後に『だから・・・』や、『なので・・・』は続かない、続かないからこそ、その言葉を聞いた博麗霊夢は口を開けなかった。
実際、『だからどうしたのよ』と、とても言いたい、言いたいのだが、それを言ってしまえばその事を意識していると相手に教えるようなもの、さらには『別に、それだけだが・・・何か?』と返された際の胃への間接的ダメージを考えると何も言わないのが得策だと考えた。
「~♪」
遠くからは衛宮士郎の鼻歌が聞こえる。
現在はお風呂に肩まで浸かって疲れを癒しているところだ。
聞こえてきた鼻歌に慧音が思わず口元を緩ませたところで、合わせて生じた心の緩みに付け入るように霊夢がライフルを放った。
「私は、士郎に肩を抱かれたわ」
ヘッドショット、気がつけば天井を見上げていた上白沢慧音はその類まれなる妄想力でそれが一体どういった状況なのかを推理(妄想)した。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
場所は一体どこなのか、薔薇が咲き乱れる豪華な庭園で衛宮士郎と博麗霊夢は二人、寄り添い合って立っていた。
赤い薔薇の花びらが風に舞い、空の青さを背景にしながら遠くへと旅立っていく姿を二人は見送っていた。
新しい季節の訪れを感じさせる一幕に、博麗霊夢は頬を染めながらつぶやく。
「今、動いたわ」
腹部に手を当てながら愛おしそうにさする霊夢に士郎は笑みを作りながらその肩を抱き寄せた。
最初は片手でこちらへと抱き寄せる形で第ていた肩を、今度は両手で固定する形で。
察したのだろう、霊夢は周囲を確認するように目配せをすると、表情に照れを隠しきれていないまま、その瞳を閉じて唇を衛宮士郎へと突き出した。
応えるように、衛宮士郎も目を閉じて、二人はその唇を―――
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「・・・ちょ、ちょっと、貴女、女性がしちゃいけない顔してるわよ」
口をあんぐりと開けて端からよだれを少し垂らしながら慧音は現実へと戻ってきた。
「はっ!そ、そんな、巫女の身でありながらはしたない・・・!」
その言葉に、霊夢が思わず反論する。
「はっ、はしたないって何よ!私は士郎と同棲しているだけで何もしてないわよ!」
誰もその点を聞いてはいないのだが、そんなことを唐突にいうものだから慧音の感情に火をつけてしまった。
「そそそそそ、そんなことを言い出すって怪しいんだ!怪しいんだ!」
まるで子供のような慌てよう、しかし、あらぬ誤解をされているのではないかと焦っている博麗霊夢はその言葉にすらさらなる焦りを感じる。
「あ、怪しいって何よ!あんたこそ教師だなんていって士郎にわけのわからない授業をしているんじゃないでしょうね!」
中学生の妄想のようなことを口走りながら霊夢は墓穴を掘り進む。
「なーに言っとるか!そうやって変な妄想ばかりして!そそ、そっちこそ士郎の湯浴み中に服の匂いをかいだりしてるんだろ!私ならそーする!」
完全に爆弾、爆弾発言というものが発言で収まっているのは言葉だからだろう。
だとしたらこれは口から出た爆弾、相手の感情を爆発させる言葉だろう。
「そんなことしてないわよ!洗濯と称して服を預かった時に抱えた服の大群によろけたフリをして顔をうずめるくらいのことしかしてないわよ!」
お互いに自滅。
「ほ、ほらみろほらみろ!羨ましいんだ!羨ましいんだ!」
このあとも、お互いに自滅を繰り返し、自分たちが水だと思って飲んでいたのが酒だと気づいた時には士郎が眠たさに風呂の底に沈んでいた頃だった。