ただ密談の予定自体はしていた様子で、ヒソカはクラピカが来なくて泣いていたらしいです。
ヒソカ「……悲しい♠」
「プロハンター専用サイト?」
ネオンたちの護衛に戻ったヴェラはクラピカと電話をしていた。
クラピカは元の部屋にいて、ヴェラは新しく借りた別室にいた。
『ハンターライセンス所持者が閲覧可能な、金を払えば何でも調べられるサイトだ。私の方で検索したところ、ノストラードファミリーの構成員、所有物件が載っていた』
「……別室を借りて良かったな。ちなみにだが、幻影旅団の構成員にライセンス所有者がいるかは調べれるか?」
『既にやってみたが無理だった。幻影旅団という組織の大まかな情報は載っていたが、詳細な情報……構成員などについては書かれていなかった』
まあそうだよな。もしライセンス所持者がいて検索できていたなら、今もなお謎めいた組織ではなかったハズだ。
「少し君について踏み込んだ質問をしてもいいか?」
『……答えられる範囲でなら』
「仮に先程の男がお礼参りとして一人で襲撃に来た場合、君はヤツに単独で勝てる見込みがあるか?」
重い沈黙が二人を支配する。
『……可能性はあるが、確実とは言い難いな。ヤツに鎖がどこまで通用するのか、それはやってみなければ分からない』
「見込みがあるならそれでいいよ」
少なくとも単独撃破できるだけの発を作ったのだろう……ついこの間まで念の存在に気づかなかった少年が、どうしてそこまで言い切れるのか。
──制約と誓約だろうな。
「少し話は変わるが、今日は私がネオンの護衛をする。明日はオークションに顔を出しに行くから、ネオンの護衛はバショウ君たちに任せる」
『わかった。私は何をすればいい?』
「その部屋で待機。ヤツが来たときの対応は全て君に一任する」
『了解した』
そこで電話が切れる。
ヴェラはシャワーを浴びて着替える。ネクタイは目についたヴァイオレット。そのネクタイは期間限定ではないがそこそこの値段の一品である。
着替えが終わり髪をドライヤーで手早く乾かしてネオンの部屋に入る。
「ネオン、今日は私が護衛をすることになった」
「え、ほんと? 2日連続!?」
信じられない、と目を丸くするネオン。
「本当だよ。ただし、オークション関連の仕事もあるから買い物をする時間がそこまでない」
「……ならさ。美容院とかはさ、行ける?」
「美容院?」
想定していなかった単語をオウム返ししてしまう。
「そ、美容院。外出はそれだけでもいいから、ね? いいでしょ?」
「……でも、この前も行ってなかった? ヨークシンに来る前にも私が付き添いで行ったよね」
「うん。だからわたしじゃなくて、ヴェラが施術を受けるの」
──は?
「ええと、確認するよ? 私が美容院で髪を切ったり整えたりしてもらうってこと?」
「そうよ」
「それって私が護衛する意味ないじゃん。髪なんてテキトーでいいよ、いつも自分で手入れしてるし」
「あれは手入れじゃない! ヴェラが勘で髪を切ってるだけ!」
勘とは失礼な──ヴェラは少しイラッとした。
「前にも言ったでしょ? ヴェラは美人なんだから、もっとオシャレに気をつけてって」
「だから気をつけてるじゃん。自分で整えてる」
「そーいうんじゃなくて!! もー! エリザ、なんとか言ってあげて!!」
すっかりお怒りになってしまったネオンがエリザに同意を求める。ヴェラとネオンの顔を交互に見て、エリザは顔が引きつる。
「ネ、ネオン様の言うことも一理ありますが、ヴェラさんはネオン様の護衛なので──」
「じゃあもう一人護衛を付ければいいじゃない。ヴェラ、誰かいないの?」
バショウとセンリツには明日の護衛を依頼しているし、ダルツォルネもオークションでの仕事で手一杯だ。クラピカは囮を進んで買ってくれている。スクワラとリンセンにはノストラードの護衛と不審者がいないかの監視を依頼していた。
正直な話、だれも手が空いていなかった。
「皆仕事中……店には私一人で行くよ。だから私が戻ってくるまでネオンはこの部屋で待っててよ」
「……ホントに行ってくれる? ホントのホントに?」
「行くから、ちゃんと施術受けてくるから」
なんで護衛担当の仕事が美容院に行くことなんだよ──心の中でため息をつく。
「じゃあついでに──」
「ついでに、じゃないよ。私はネオンの護衛が仕事。ホントはネオンから目を離す事自体がやっちゃダメな行為なんだよ」
「ちぇ、おもしろくない……」
ほっぺを膨らまして不貞腐れる。紙切れに美容院の名前と住所を書いてヴェラに渡す。
「ここのお店。私の名前を言えば大丈夫だから」
「はいはい、わかりましたよ。エリザ、悪いけどちょっとネオンの相手してて」
かしこまりました、頭を深々と下げるエリザ。そんな彼女を尻目に部屋を出てスクワラに話をしに行く。
「スクワラ」
「は、はいっ」
「ネオンの命令で私は美容院に行ってくる。施術が終わったらすぐに戻ってくるから、それまでネオンの護衛を頼む。ちなみにエリザもネオンの相手だ」
端的に要件を伝えてエレベーターに乗る。気が乗らないまま、美容院に向かったのであった。
「
エレベーターが閉まる直前、白い念の球体をネオンを部屋に向かわせた。
「お目付け役、頑張ってくれ」
球体は返事をするかのように震えた──エレベーターのドアが閉まる。
■
ウボォーギンを解放させてノストラードファミリーの構成員リストを渡してから、シャルナークはハンターサイトをずっと閲覧していた。
狙いは2つ。一つはネオン=ノストラードの情報である。ネオンは占いの評判がとても良いことがわかった。サイトでは100%当たる占いと書いてある。団長のクロロがネオンに興味を持ち、あわよくば念能力も奪おうと画策していた。
もう1つはネオンの護衛についての情報である。調べていくうちに一人の存在に必ず辿り着く。
「ヴェラ=グレイ」
3年前からノストラードファミリーのボス、ライト=ノストラードが直々に雇っている女であり、雇われてから急速にマフィアンコミュニティの中でノストラードの名前は存在感を増していた。
「ん?」
ファミリーからヴェラ=グレイ本人について調べると興味深い記事が出てきた。7年前の新聞記事である。
【創業者は若者二人、会社を救った若き交渉役。トラブル解決で頭角】
そして4年前の記事を発見する。
【若き経営者たち、それぞれの道へ──躍進を続けた新興企業が円満解散】
その企業は4年間だけ存在していた。主な事業内容は交渉仲介・用心棒・リスク管理の3つだった。たまに人探しなどをしていたとも記載されている。確かな実績と同業他社と比べて安価な料金。その2つで一部グローバル企業からも依頼を受けるまでに成長していた。
だが、なによりも目につくのはあまりに異色の研究内容──空の更に向こう側にある星についての研究。記事によると交渉仲介などは最初から研究費を稼ぐためにしていた事業だと書かれている。記事の一文にはこう書かれている。
《ぼくらは夜の空に浮かぶ星を掴みたくて会社を立ち上げました》
写真には眼鏡をかけた男性の写真が載っている。その横にはやや幼さが残ったヴェラ=グレイの姿があった。ヒャクメイと書かれているその男はヴェラと共に会社を創設した代表だった。
会社を畳んだのは最初から計画していたとも取材で明らかになっていた。ヒャクメイが天文学の研究所へ入るための実績作りとヴェラの金稼ぎ、それが達成したので解散したという。
その他には延々と星について書かれている記事ぐらいしかなかった。当たり前のことだが、彼女の念能力については何も書かれていない。
そして出身地も生まれも年齢も、他のことは一切書かれていなかった。
■
シャルナークがアジトに戻り団長に話しかける。
「団長、今いい?」
ゲテモノ作者の本を綴じてシャルナークに目を合わせる。
「なんだ」
「言われてたノストラードの娘とその護衛についてまとめたから確認してくれ」
「わかった」
まとめられたプリントに素早く目を通していく。あっという間に2枚を読み終わったところでクロロの目が止まった。
「……ヒャクメイ?」
「知ってるの?」
ヴェラではなくヒャクメイの方にクロロの目が留まったのだ。
「天文学の権威だ。俺たちとそこまで年は離れていないはずだ」
「へー……それだけ?」
「以前直接会って話したことがある」
「……? 何か盗ったのかい?」
「いいや、一時期天文学にハマっていてな。気になることがあって話を聞きにいった。実に有意義な時間だったよ。今でも論文は欠かさずチェックしてる」
ちなみにヒャクメイは念使いじゃなかった、とクロロは続けた。
「そう……え、それだけ?」
「それだけだ。だが重要な情報でもある」
クロロが続ける。
「以前ヒャクメイと話したと言ったな。あの時、ヒャクメイは自分が流星街出身だと語っていた。おそらく、ヴェラ=グレイも流星街出身の可能性が高い」
「確かに可能性自体はあるだろうけど、それが重要な情報?」
「流星街出身の奴らが星に興味を持ったんだ。噂程度だが耳にしたことがある。流星街の星読みじいさん。シャル、聞き覚えはないか?」
「ないよ。単なる物好きだろ。とにかく、書類はまとめたから後は自分でやってくれよ」
呆れ半分の口調でアジトから出ていった。シャルナークは旅団の生命線の一つ。他にも仕事があるのだ。クロロのようにゲテモノ小説を楽しむ時間はなかった。
■
同時刻、日も沈んだ夜。ヴェラは美容院での施術が完了してホテルに戻る道中だった。
「あー疲れた」
そして内心では少し腹が立っていた。
──毛先整えるだけであの値段!? ネオンは何考えてんだよ!
「ムカついたからハンバーガー買い占めよーっと。みんなの差し入れにもなるしな」
最寄りのファストフード店でダブルチーズバーガーを50個注文する。店員は引きつった顔をしていたがヴェラの持つブラックカードに何も言えず作り始めた。
その間にダルツォルネに連絡する。
「もしもし、ダル? あと20分ぐらいで戻れるよ。何か変わったことは?」
「クラピカの下に賊が現れた。例の大男だ」
その一言でヴェラのオーラが変わった。
「今クラピカはどこ? ネオンは無事?」
「お嬢様は無事だ。賊はクラピカに鬱憤を晴らすためだけに来たらしい。先程、郊外の荒野にいるとメールが来た」
そう、一言だけ呟いた。
──クラピカが目的なら彼が死んでも組にそれほどのダメージはない。問題は彼が賊に勝利、もしくは殺害した場合。幻影旅団からの報復は来るか?
──わからない、旅団の行動指針による。大男の行動が暴走だと仮定。それを他の団員が認知していない場合……報復が来るかどうかは不明。他の団員が男の行動を認知していた場合……報復の可能性は高い。仲間を殺されて納得する連中なハズがない。
「ダル。クラピカが帰ってきたらわたしに知らせてくれ。彼が生きて帰ってきた時点で旅団からの追撃はおそらく確定している」
「……わかった。その場合、お嬢様の護衛にクラピカは外そう。何をさせる?」
「基本的には情報収集に徹してもらう。表には出歩かせない。わたしも一度ネオンの護衛から離れて現時点の問題点などをまとめておきたい」
ダルツォルネは嫌そうな声で返事をした。おおかた、ネオンに報告するのが難儀なのだろう。
「ネオンにはわたしから説明するから。ダルは他のみんなに伝えるだけでいい」
「助かる。オレではお嬢様を納得させることは無理だしな」
「ちょっと強気に言えば折れてくれるよ?」
「それはおまえだけだ……ひとまずはおまえの帰りを待っておく。ハンバーガーは忘れずに受け取れよ。じゃあな」
ハンバーガーのことなど忘れていない──そう思っていたが、気になるところがあった。
「ハンバーガーのこと言ったっけ?」
後ろから声が聞こえるので振り返ると、カウンターにダブルチーズバーガーで満パンになった袋が5つ存在していた。
店員はヴェラに対して、
「お客様ぁ!! 早く受け取ってください!! 他のお持ち帰りのお客様のお品物が置けません!!」
と半泣きしながら言っていた。
「……大きめの手提げ袋あります? 金は言い値で出します」
規則通りに定価料金を払って大きめの服を3つもらった。2袋ずつ詰め込んで改めて帰路につく。
「こんなに買うんじゃなかったよ。トホホ」
「団長、その本面白い? クマにエイリアン食わせた作者の本って聞いたけど」
「そこそこだな。今回は人間の体にアブラゼミの顔を持つ化物が神話のクラーケンに槍一本で挑むという浪漫と冒険に満ちた小説だ。題材は独創的で文体も俺好み……ただし中盤は中だるみしている。次回作も期待だ」
マチは頭を抱えた。