架空は、現実に。   作:伊空路地

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10.反省会と委員長

 戦闘訓練を全員が終え、ヒーロー基礎学の授業は無事終了した。

 一人だけ大ケガをした緑谷くんは保健室に送られ、他のみんなは残る授業へ。そっちも何事もなく終わって、放課後に。

 

 ヒーロー科は普通科やサポート科、経営科と比べてかなり忙しい。放課後に活動のある部活や委員会なんかはA組だと誰も入っていないようだった。

 まだ二日目だけど、原作でも誰かが部活しているような雰囲気はなかったはず。これからも変わらないんじゃないかな。

 

 そんな訳でみんな帰るだけの放課後、ちょっと残って戦闘訓練の反省会をする流れになった。

 といっても、別にしっかり司会進行をするような会ではなくて、雑談半分にぱらぱら集まって話しているだけに近いもの。

 ちなみについさっき、爆豪勝己(ばくごう かつき)は引き止められながらも無言でさっさと帰ってしまった。

 

「そうね。風ちゃんか瀬呂ちゃんが例えば私たちの後ろから、挟み撃ちの形で来られていたら苦しかったと思うわ」

 

 私も梅雨ちゃんと反省をしてみている。

 訓練直後に瀬呂くんが言っていた「一人くらい自由に動いた方が良かったかも」という意見を梅雨ちゃんにしてみたところだ。

 

「オールマイト先生も言っていたけれど、3対2の形になってしまっていたものね。制限時間は15分しかなかったから、突破が遅れるだけで「ヒーロー」側は焦ったと思うわ」

 

 「ヒーロー」チームの勝利は「(ヴィラン)」チームを全員確保するか、核を回収すること。反面「(ヴィラン)」チームは制限時間15分を耐え凌ぐだけで勝利だった。

 普通に考えれば「(ヴィラン)」チームが明らかに有利で、私たちチームの最大のミスは正面から戦いに行ったことだったのかもしれない。

 そもそも核のある五階で待ち構えるのではなく、もっと積極的に「ヒーロー」チームの時間を消費させるように嫌がらせするのがより賢かったはずだ。中距離で立ち回れる私か瀬呂くんが、ゲリラ的に攻撃するとか。

 更に考えれば核の目の前で最後の砦になるのは切島くんの方が良かったような気もする。

 つまり、私と瀬呂くんが散発的に当たって時間を消費させ、切島くんが最終防衛ラインとして構える。そんな感じがベストだった……のかな?

 うーん、難しい。

 

「風ちゃんから見て、私たち側にも何かないかしら」

「思いつきだけど……梅雨ちゃんはビルの外壁から移動したら、偵察や奇襲ができたかも」

 

 原作を知る私はともかく、A組のみんなはまだお互いの”個性”を良く知らない。

 外壁を登ってくるかも、なんて考えもしなかったんじゃないだろうか。

 切島くんと私の配置もビル内部を上ってくる前提だったし、きっと意表をつけた気がする。

 

「それは、確かにそうね。ビルの中を進む、なんてルールも無かったし……」

 

 梅雨ちゃんは人差し指を口元に当てるクセがあって、何か考えている時なんかによくやっている。かわいい。

 

 なんて話をしていると、教室のドアが開いてスイーと緑谷くんが現れた。

 保健室で午後の授業をすっぽかした彼だが、ちょうど戻ってきたようだ。

 

「おお緑谷来た! おつかれ!」

 

 ちょうどドア近くにいて、最初に反応したのは切島くん。

 

「いや何喋ってっかわかんなかったけど、アツかったぜおめー!」

「よく避けたよー!」

「一戦目であんなのやられたから、俺らも力入っちまったぜ」

 

 切島くんに加え、芦戸三奈(あしど みな)砂藤力道(さとう りきどう)も緑谷くんに寄っていく。

 梅雨ちゃんも気になっていたのか、緑谷くんの方に近づいた。ついでなので、私も一緒に。

 

「俺ぁ切島鋭児郎! 今皆で訓練の反省会してたんだ!」

「私、芦戸三奈! よく避けたよー!」

蛙吹梅雨(あすい つゆ)よ。梅雨ちゃんと呼んで」

「俺! 砂糖!」

 

 私は昨日一緒に帰ったので名乗るまでもないだろう。

 芦戸三奈がずっと「よく避けたよー」って言っているな。最初に緑谷くんが爆豪勝己の奇襲を避けた時にも言っていた。よほど気に入ったらしい。

 

 みんな随分な勢いだ。

 確かに初戦の緑谷くんたちは印象深かったし、何より見ていて盛り上がった。音声無しでも伝わる緑谷くんのアツさの賜物(たまもの)だ。

 

「あれ!? デクくん怪我! 治してもらえなかったの!?」

 

 緑谷くんの腕は包帯だらけ、右腕は釣られていて、どう見てもケガ真っ最中と言った感じ。

 それに気づいたお茶子ちゃんが心配そうに近づく。

 

「あ、いや、これは僕の体力のアレで……」

 

 雄英の看護教諭『リカバリーガール』の”個性”は治癒力の活性化。そして高速の治癒は体力を消耗する。

 昨日にもケガをしていた緑谷くんは、一気に治癒できなかったのだ。

 これは原作知識。

 

「あの麗日さん……それより、かっちゃんは? いない、みたいだけど……」

 

 緑谷くんは教室を見渡しているが、爆豪勝己の姿はない。

 さっき一人だけ帰っちゃったからね。

 

「爆豪くん? 皆止めたんだけど……さっき黙って帰っちゃったよ」

 

 お茶子ちゃんからそう聞くと、緑谷くんは「ごめん」とだけ言って駆け出していってしまう。

 爆豪勝己を追いかけていったのだ。この後の展開は知っているし直接見たいところだが……難しいだろう。

 緑谷くんはここで誰にも話していない重大な秘密、その一部だけではあるけれど、「授かった”個性”」であることを爆豪勝己に明かす。

 もし私のような第三者が近くにいたら、絶対に彼は話さないはず。なので、残念だが原作を壊さないためにも私は一緒にいけないのだ。

 

 二人が見えるかもと思ったらしいお茶子ちゃんが廊下に出て、全面のガラス窓から校舎口を見下ろす。

 気になったらしい芦戸三奈と梅雨ちゃんもお茶子ちゃんの隣に並んだ。

 せっかくなので、私も並んで校舎口を見下ろす。

 

「あ、爆豪くんいた!」

 

 ちょうど校舎から出てきたばかりらしい爆豪勝己の背中が眼下に見えた。

 少しして、緑谷くんも校舎口の陰から飛び出してくる。

 

「緑谷ちゃんも追いついたわ」

 

 爆豪勝己が足を止めて振り返った。緑谷くんに呼び止められたようだ。

 

 流石に、何を話しているのかは全く聞こえない。

 見れば、緑谷くんが一方的に何か喋り続け、終われば今度は爆豪勝己が遠目にもイラ立ち全開といった感じで言葉を返している。

 当たり前だけど、どんな話なのか見える範囲じゃ想像もつかないね。

 

 爆豪勝己が再び緑谷くんに背を向けて歩き出すと……まもなく、瞬間移動じみた速度で現れたオールマイト先生が爆豪勝己の両肩を捕まえていた。

 が、やり取りは続かなかったようであっさりと爆豪勝己が離れ、そのまま学校を出て去っていく。

 残されたオールマイト先生の背中にちょっと哀愁が漂っていた。

 

「……なんだったの? アレ」

 

 何かあったらしいが何があったのかはさっぱり分からない。そんな一幕を見た素直な感想が芦戸三奈から出た。

 

「男のインネンってやつです」

「緑谷ちゃんが、一方的に言い訳してたように見えたけど」

 

 たぶん緑谷くんと爆豪勝己の間には何かしらがあるんだろうな、というのは誰からも想像しやすい話に違いない。

 色々知っている、なんなら部分的には二人自身より二人に詳しい私は、彼らのインネンに深く頷く。

 爆豪勝己が成長する、ここが最初の一歩だ。アツいね。

 

「男の、インネンってやつです!」

 

 それ好きだねお茶子ちゃん。

 

 

 

 

 

 翌日。

 相澤先生が教壇に立って、HRの時間だ。

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させてもらった」

 

 口を開いて最初の話題は戦闘訓練について。

 わざわざ全員分を見たのだと思うが、担任って大変だ。

 まぁでも、ヒーロー科だもんね。直接のヒーロー活動に関わる授業内容なら、見ておかない訳にもいかないだろう。

 

「爆豪。おまえもうガキみてえなマネするな。能力あるんだから。……で、緑谷はまた腕ブッ壊して一件落着か」

 

 まずコメントを頂いたのは例の二人。

 やっぱり担任目線でも注意がいくらしい。

 当然か。一人だけの大ケガだし、明らかにあの二人だけ雰囲気違ったし。

 

「”個性”の制御……いつまでも「出来ないから仕方ない」じゃ通させねえぞ。俺は同じ事言うのが嫌いだ。それさえクリアすればやれることは多い。焦れよ緑谷」

「っはい!」

 

 大丈夫、大丈夫。

 すぐにできるように——。

 ・・・…いや、全然すぐではなかったか。なんなら蛇腔戦でも100%で腕バッキバキにしてたような。

 あれ、本当にケガしなくなったのって最終決戦だけか?

 ……オールマイト! 「感覚だ!」とか言ってないでなんとかしてあげて!

 

「さてHRの本題だ……。急で悪いが今日は君らに……」

 

 無駄に不穏。

 相澤先生はいきなり個性把握テストとか始めた前科があるから、みんなの警戒がすごい。

 

「学級委員長を決めてもらう」

「学校っぽいの来たーー!!」

 

 落差がすごい。

 相澤先生わざとやってるでしょ。

 

「委員長! やりたいですソレ俺!」

「ウチもやりたいス」

「オイラのマニフェストは女子全員膝上30cm!」

「ボクの為にあるヤツ☆」

「リーダー! やるやるー!」

 

 みんな急に元気だ。

 見える範囲はほぼ全員が手を挙げている。

 チラと窺ったところ、私の後ろで物静かな口田甲司(こうだ こうじ)も無言ながら手を挙げている。ちょっと意外だ。

 

「静粛にしたまえ!」

 

 飯田くんの声がみんなの注意を引く。

 

「”多”をけん引する責任重大な仕事だぞ……! 「「やりたい者」がやれるモノではないだろう! 周囲からの信頼あってこそ務まる聖務……! 民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは投票で決めるべき議案!!」

 

 と言いながら、彼の右手は堂々と天に向かって伸びており。

 

「そびえ立ってんじゃねーか! 何故発案した!」

 

 面白いなぁ飯田くん。

 真面目なんだよね。

 

「日も浅いのに信頼もクソもないわ飯田ちゃん」

「そんなん皆自分に入れらぁ!」

 

 梅雨ちゃん「クソ」とか言うんだっけ。

 

「だからこそここで複数票を獲った者こそが、真にふさわしい人間という事にならないか!? どうでしょうか先生!!」

「時間内に決めりゃ何でも良いよ」

 

 こういう、やや強引ながら全体を取りまとめるパワーがある飯田くんは既に適正があるように見えるけどもね。

 結果的には飯田くんが委員長になるのだけど、収まるべくして、といった感じが私はしている。

 

 

 

 

 

 投票終えて、結果は緑谷出久が三票、八百万百(やおよろず もも)が二票、あとはみんな一票ずつ。飯田くんとお茶子ちゃんと轟焦凍だけが0票だ。

 

「僕三票ーーー!!?」

 

 最多票を獲得した緑谷くんが絶叫している。

 自分に票が入るとはつゆほども思っていなかったんだね。

 

 緑谷くんの三票は飯田くんとお茶子ちゃん、あと自身での票だろう。

 八百万百の二票は轟焦凍と自身。

 ちなみに私は全然委員長なんてやりたくないが、原作と票を変えたくないので自分に入れた。

 

「0票……! わかってはいた! さすがに聖職といったところか……!」

 

 飯田くんが苦しんでいる。

 あんなにやりたがっていたのに他人に入れるんだから、面白い人だ。

 飯田くん、勝算とか根回しとかのせいで政治家には向いてなさそうだよね。

 

 というわけで委員長は緑谷くん、副委員長は八百万百。

 

 と、思わせて。

 原作通りにマスコミの雄英侵入と非常口飯田があって、委員長は飯田くんに代わった。

 非常口飯田、思ったより非常口で面白かったよ。

 

 

 

 さて……。

 次は、USJ編だ。

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