「生命全部いこう」と言いながら今日も人間を助けてしまう大魔女もどき。
人類滅亡を目指す二人の魔女と、
その周囲で巻き込まれていく魔法少女たちのお話。
――たぶん。
「人間に、復讐しようと思うんです」
彼女はそう言った。
「長い年月がかかってしまったとしても」
私は、その言葉に頷いた。
私にも叶えたい願いがあったからだ。
けれど――私は待てなかった。
長い年月なんて、とてもじゃないが待っていられない。
「あなたなら、できるはずですよね?」
私は彼女に尋ねた。
彼女の魔法なら、もっと簡単に終わらせられるはずだった。
「【洗脳】の魔法で国に潜入して、兵器を使えば早いのでは?」
「【発火】で地上に太陽を作ってしまうのもいいですね」
いくつか案を出してみる。
けれど彼女は首を横に振った。
【魔女因子】によって人間を【魔女】に変える。
そこに意味があるのだという。
人間の中に潜み、長い時間をかけて、じっくりとやる。
そのほうが面白い。
……なるほど。
実行するのは彼女だ。
私一人ではできない以上、従うしかなかった。
そうして私たちは別れ、それぞれ別の場所で活動することになった。
魔法で定期的に連絡を取りながら、少しずつ【魔女因子】を広めていく。
計画は、順調だった。
順調すぎるくらいに。
だから私は――
暇になった。
「んあー……」
机に突っ伏す。
長い。
とにかく長い。
「はー……早く広めてくれないかなぁ」
私は自分にできる範囲で、すでに全て撒き終えていた。
全生命体に対して、全力で。
だって、
『みんな死ねばいいのに』
と思っていたから。
死は安らぎだ。
苦しみも、悲しみも、何もかも終わる。
この星ごとなくなってしまえばいい。
終わってしまえば、それでいい。
それが私の望みだった。
人間への復讐?
――最初から、そんなものには興味がない。
ただ、全部終わってほしいだけだ。
もともと大した力を持っていなかった私は、あっという間にやることがなくなった。
最近では国からの調査も厳しくなり、普通に生活することすら面倒になってきている。
そんなある日。
「とても素敵な娘を見つけたんです」
また始まった。
最近の彼女は、友達の話ばかりだ。
「それは良かったですね……それで、計画は順調ですか?」
「ふふっ。まだです。まだ、かかります……」
「そうですか」
……本当に、やる気はあるのだろうか。
こっちは暇潰しに子供の面倒を見るくらいしかすることがない。
それでも、あの子たちは嫌いじゃなかった。
虐待されていたり。
貧困に喘いでいたり。
どうしようもない環境に置かれている子供を、何人も見てきた。
こないだなんて、殺人鬼にいきなり刺された。
……痛かった。
まあ、普通に反撃して何とかなったけれど。
「はぁ……」
いったい、いつになったら終わるんだろう。
そんなことを考えていたら、ふと思った。
―― 一度くらい、会いに行ってみようか。
彼女がいつも話している、その友達に。
◇
「えっ、ユキちゃんの言ってた友達?」
目の前の少女が、ぱっと笑った。
「ぼくは桜羽エマ! よろしく!」
「二階堂ヒロだ。よろしく」
……なるほど。
この二人が、いつも話している子たちか。
ユキとなった彼女は楽しそうに二人の間にいる。
まるで、普通の女の子みたいに。
「名前はなんて言うの?」
エマが尋ねた。
「ユキちゃん、教えてくれなくてさ」
まあ、当然だ。
私は何度も名前を変えている。
ユキが知らないだけだ。
「今は……只野シキと呼んでください」
「今は?」
エマが首を傾げる。
「家庭の事情か何かかな?」
「……まあ、そんなところです」
嘘ではない。
「せっかくだから、四人で一緒に遊ぼう!」
エマが元気よく手を上げた。
ヒロも頷く。
そして――ユキも。
笑っていた。
私はその顔を眺める。
どうしてだろう。
どうして、そんなに楽しそうなんだろう。
あなたが復讐しようとしている相手は――
この子たちと同じ、人間なのに。
私は、少しだけ分からなくなった。
◇
「この世界はね…さっさと終わるべきなんです。」
最近よく集まっていた私たちだが、
今日はユキもエマも居ないある日のことだった。
ポツリポツリとヒロに対して考えをこぼしていく
「今日も苦しんでいる子を見かけました、
苦しめている子も見ました。」
いじめ…だったんだろう光景は良くある話だ。
「怖いですね…みんないずれは死ぬのに…」
なんとなく気に食わないので和解させたけど
「死は最高に平等だと思うんです。」
静かに話を聞いていたヒロが僅かに顔をしかめる。
「また助けたんだろう君は…?それなのにどうしてそんなに死ぬことを求めるのかな。」
助けたことは【正しい】が、私の望みは【正しくない】のだと。
いつものようにヒロは言った。
「いつかわかるはずです…あなたなら【救った】と思える日が来る。」
やれやれといった表情でヒロは頷いてはくれなかった。
◇
「少し、遠くへ行くことになりました」
「遠く?」
ユキが首を傾げた。
「ええ。最近、魔女因子の反応が妙な場所があるらしくて」
「シキさんが行くんですか?」
「私以外に暇な人がいないので」
「……それ、理由になってます?」
「十分な理由ですよ」
ユキは少しだけ笑った。
「いつ帰ってきますか?」
「さあ。数日かもしれませんし、数週間かもしれません」
「そうですか」
なんとなく、寂しそうに見えた。
「……何か?」
「いえ。なんでもありません」
そう言ってユキは笑う。
相変わらず、この子はよく笑う。
人間を滅ぼしたいと言っていたのが嘘みたいだ。
「では、行ってきます」
「はい。気をつけて」
「あなたも」
そう言って、私はその場を離れた。
◇
遠くへ来てから、やることは思った以上に少なかった。
「……何もない」
魔女因子の反応を調べてみたのだがやっぱり異常なし。
「帰っていいですかね、これ」
誰に言うでもなく呟く。
当然、返事はなかった。
仕方がないので、適当に町を歩く。
すると、見覚えのある子供がいた。
以前、食事を十分に取れていなかった子だ。
「……あ」
向こうも私に気づいた。
「お姉ちゃん!」
駆け寄ってくる。
「この前、ありがとう!」
「……何のことです?」
「ご飯!」
「ああ」
そういえば、置いていった。
「別に。余っていただけです」
「またくれる?」
「……考えておきます」
「やった!」
嬉しそうだ。
私はその顔を見て、少しだけ笑った。
……まあ。
これくらいなら、いいか。
◇
離れた場所で活動をし始めて一体どれくらいがたっただろうか
依然として何の成果も得られなかった私に一つの連絡が届いた。
「……?」
ユキについての知らせだった。
私はしばらく、その言葉の意味を理解できなかった。
「……ユキが?」
聞き返す。
返事を聞く。
もう一度、同じ言葉を聞いた。
「……そうですか」
口から出たのは、それだけだった。
胸の奥が、妙にざわついている。
けれど私は、すぐに理由を見つけた。
――計画が、止まる。
ユキがいなくなれば、当然そうなる。
だからだ。
きっと、それだけ。
「……困りましたね」
私はそう呟いた。
けれど。
どうしてだろう。
その言葉だけでは、どうにも納得できなかった。
「……まあ、いいです」
私は立ち上がった。
「帰りましょうか」
いつも通りの声で。
いつも通りに。
そうして私は、ユキのいなくなった場所へ戻ることになった。
……ただ。
帰り道の途中で、何度も考えてしまう。
どうして私は、こんなに帰りを急いでいるんでしょうね。