マヒトツノカミ   作:サクリ・コモロ

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CASE 02 : 励磁 -DEPLOY-

 先頭車両に向かってデッキの中を進んでいく。

新幹線が突然揺れ、バチンという音とともにあたりが暗くなる。

照明が落ちた。

 

その黒い(もや)は”成長”しているらしい。

架線から電力を吸い取り、自身の身体をむくむくと拡大していく。

放置すれば強固なトンネルすら突き破りかねないほどに。

可及的速やかな対処が必要だ。

 

隊長はドアを指差す。

私は頷いた。

 

私は式神を片付ける。

隊長は因妖師を制圧する。

 

いつもの戦法だ。

 

 右足に斥力を込め、ドアを一気に蹴破る。

――ボゴンッ!

金属製のドアはあっという間に彼方に消えていく。

もう手遅れだろう。

被害が拡大する前に強硬策で行く。

間髪入れずに両足に斥力を――

跳び上がる。

......風圧がすごい。

左手に引力を込めてしがみつく。

屋根に跳び上がるや否や

尻尾のような物体が風を切って飛んでくる。

私は反射的に左手を放す。

 

――ヒュッ!

その尻尾は左手を掠め、後ろのパンタグラフもろもろを吹き飛ばす。

「ここを狙うか。」

相当賢い。だが遠慮というものを知らない。

屋根に上がって、遮蔽物がなくなる。

全貌が見えてきた。

見た目は大きな......ナマズ――それも尻尾がヘビのように長く伸びている。

 

間違いない。

D3相当の式神だ。

 

速やかに剣印を組んだ左手を振り下ろし、

「解」

と唱える。

瞬間、全身を覆っていた擬装膜界(メッキ)が剥がれ落ちた。

”着ていた”パーカーやショートパンツ、

右手に持っていた竹刀バッグが、

砂のように崩れ、散り散りになっていく。

その下から本来の戦闘服が現れる。

竹刀バッグの中身も同時に露になり、(こしら)えが姿を現した。

ここに目撃者はいない。

まあ、万が一いたとしても

六合(りくごう)班がいい感じに隠蔽してくれるだろう。

 

刀を腰のベルトに差す。

右手と両足に引力を込める。

屋根に着地する。

――直後。

ナマズは尻尾を振り下ろす。同時に車両は減速を始める。

 

隊長が止めたか、自動的に止まったかわからないが

......ナイスタイミングだ。

慣性を利用し、やや左斜め前方を狙って跳ぶ。

直後、尻尾は屋根に叩きつけられる。

先頭車両へ突進する。

 

(つか)に手をかけ、勢いをのせて水平に切り払う。

思ったより――いや、”視えている”とおりだ。

手ごたえはない。

少し粘性のある煙を、刀で振り払っているような感覚だ。

さっきまでパンタグラフを吹き飛ばしていたとは、とても思えない。

が、着実に消滅している。

 

――次の仕事に取り掛かる。

車内に戻って事情聴取するまでが仕事だ。

 

私は減速していく新幹線を一気に追い越した。

身体をくるっと後ろに回す。

抜き身の刀をトンネルの骨格に向ける。

 

励磁(デプロイ)。」

因力を解放する。

刀身は六つに分離していく。

六枚の刃を繋ぐように、強烈な電磁力が迸る。

稲妻が刀身の間を走り、空気を切り裂くときの熱が(つか)を介して伝わってくる。

そのうちの一本を斥力で弾き飛ばす。

――ザクッ

私は残った刀身との間に働く因力をコントロールし、

引き寄せる。

そのまま、身体が宙へ引っ張られる。

ターザンのように。

 

......もっとも、私の場合はロープじゃなくて刀だけど。

 

身体が振り子のおもりのように大きく弧を描く。

地面が近づいてくる。

速度がピークに達する。

 

昔、加賀美さんに教えてもらった物理の授業が、ふと頭をよぎる。

減速していく新幹線がちょうど私の真横を掠める。

 

――ここだ。

六枚の刀身を再び引き寄せる。

同時に私の身体も前方へ引っ張られ、

一気に加速した。

 

消磁(リトラクト)。」

――ボスッ

”錨”を抜き取る。

因力を弱めると、六つに分離していた刀身は一気にパチンとくっついていく。

 

同時に身体を新幹線と同じ方向へと反転させる。

 

さっき”降りた”乗降口まで水平距離で100m。

――50......30............10。

 

車体に向かって右手を伸ばす。

右手に引力を込める。

――キュキュッ!

手が車体に吸い寄せられる。

そのまま車内へ飛び込む。

 

「ふー。」

と安堵する。

スー、と静かに刀を収めていると、近くに人の気配。

「あ」

車掌が腰を抜かしてこちらを凝視している。

「あー.......ええと、警察関係の者です」

「怪しいものではありません。」

「はあ......」

警察が刀......少々無理はあるが、まあなんとかなる。

「この後、巫女さんと黒服の人が来ると思いますが」

「......巫女?」

「指示に従ってれば大丈夫です。」

どうせ忘れるさね。

あとは任せた、少彦名(すくなひこな)ミコト。

 

 

 

先頭車両に入る。

隊長、と手錠で拘束されている二人の因妖師(おんみょうじ)の姿。

そして、乗客はみな昏睡している。

 

一人は悪態を付き、もう一人は諦観した様子で俯いている。

因力の残滓から察するに、さっきの式神を操っていたのはおそらく後者だろう。

 

隊長はこういうとき、本の中の文章を指差して意思疎通をする。

それなら、少なくとも術は発動しない。

ただ、口を利けない以上、意図が正確に伝わるとは限らない。

 

だから、通訳を待っていたというわけだ。

 

そのときだった。

 

悪態をついていた男が突然、電気ショックでも受けたかのようにブルブル震えだす。

――と思ったらガクッと項垂れる。

「......っ!」

身の危険を本能的に感じ取り、咄嗟に刀を構えた。

 

――ひりつく空気の中、

その男は何かに取り憑かれたかのように突然喋りだす。

「やはりそこに居たか、ヒトツメ。」

「我々はオノゴロ。あなたを助けに来た。」

――ヒトツメ、オノゴロ。

初耳のワードが立て続けに飛び込んできた。

バチンッ!

その二つの言葉を反芻している間に、

男は糸が切れたかのようにバタリと倒れた。

 

続いて女の身体が激しく痙攣しだす。

同様にスタンガンに打たれたかのように、ドサッと床へ崩れ落ちた。

 

二人の首元には、勾玉のような焼けた痕。

――正確には、そこだけ異様に温度が高いので、そういうふうに”見えている”。

 

ピコン、と音がした。

隊長のスマホに通知が来ている。

 

隊長が自動音声で再生する。兼村(かねむら)さんからのようだ。

隊長が苦しそうな様子をしているので、内容は薄々察していた。

「京都、非常にヤバいです。」

「作戦変更です。名古屋に向かいましょう。」

「徒歩でこの地点に向かってください。迎えを送ります。」

 

新幹線は現場検証で当分動かない。ここからだと徒歩1時間コース。

中途半端なところで足止めを喰らった。

脱線しなかっただけまだマシか。

 

――そう思うようにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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