マヒトツノカミ   作:サクリ・コモロ

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CASE 04 : 言霊 -ECHO-

「私は騰蛇(とうだ)(にしき) 芳理(かおり)。よろしく。」

丸眼鏡をかけたショートヘアの女性。

トヨアシ重工のロゴが入ったブルゾンを羽織っている。

――騰蛇(とうだ)班。正式名称は妖装試験部隊だ。

正直、何しているところなのか、いまいち想像がつかない。

 

……まあ、私には関係ないだろう。

 

 

 

「ほいだら、隊長を拾いにいこうか。」

「その必要はないよ。」

「は?」

「上にいる。」

隊長は屋根の取っ手にしがみついていた。

正直いつの間にそこに移動したのか()逃していた。

この瞬間だけは、さっき吹き飛ばされた女よりも隊長のほうが怖いと感じた。

 

ルーフハッチから隊長が乗り込んで、芳理(かおり)に向かってサムズアップをする。

「隊長は何と?」

「ジャストタイミングだと。」

「どうも。」

 

高速道路に合流する。

すると、後方に影が迫る。

さっき吹き飛ばしたはずの女だ。

高速道路脇の防音壁を走っている。

 

――そして、

重力など存在しないかのように、舞うように車から車へ乗り移っていく。

 

踏み台となった車は反動でバンパーやルーフが凹み、大きく傾いた。

そのままコントロールを失って、ガードレールにガガガと擦りつけて停まる車両もいた。

 

後ろを”眺めて”いると、ふと言葉が出た。

「あれの後処理どのくらいかかるんだろ......」

源はVサインを作って返す。

 

プァーーーン!!!ドンッ......

車はさらに衝突。

 

源は後ろを見るや否や挙げていた手をパーにした。

「5日......頑張れ六合(りくごう)......」

「たぁけ!んなことより自分のこと心配しやぁ」

隊長が腰のポーチから本を取り出す。

その本のページを開き、芳理(かおり)に見せる。

「イライラ撃退......ストレス解消マニュアル?」

「え、今?」

隊長は文字に指を指しているようだ。

「撃退......いや、指示が独特!」

「まあいいわ......タタラ、それを取って」

芳理が指差した先には、錫杖のようなものがあった。

ただ、先端は輪っかではなく、U字と十字が合体したような形状だ。

さらに十字の先にはマイクのようなものが付いている。

U字の両側には三つずつ輪っかがぶら下がっていた。

「これ何?」

FEIDSE(フェイズ)因界推定計器(Factoric-field Estimate Instrument)及び(and)指向性因力信号放射器(Directional Signal Emitter)。」

「何て?」

「こいつで隊長の”言霊”を拾う。」

「そんで、それを敵に向けてそこのトリガー引けばええ。」

 

芳理は私と隊長にインカムを手渡した。

私はそれを身に着け、ふぇいず、とやらを持ち、ルーフハッチから顔を出す。

 

インカム越しに芳理(かおり)の声が聞こえる。

『隊長、お願いします。』

隊長はインカムのマイクを口元に近づける。

私はインカムをミュートにする。芳理は身に着けているヘッドホンのスイッチを切った。

 

芳理(かおり)から指示が来る。

『――よし。いつでも撃てるよ。』

彼女が次の車に乗り移る瞬間を狙う。

 

 

トリガーを引く。

先端のマイクから、わずかに空気が揺らいでいるように”見えた”。

 

――しかし

彼女は空中で体をひねり、姿勢を変えて避けた!

 

私の直感に間違いはない。

が、彼女は三度も避けた。

 

ただ、一つわかったことがある。

 

彼女は動きを読んで避けているのではない。

――トリガーを引く瞬間

それを見てから避けている。

 

これ以上隊長の語彙を”消費”するわけにはいかない。

どうしたものか。

「あいつ速すぎて当たんないよ。」

『音速避けるとかバケモンか』

『......いや、利用できるかもしれん』

芳理は突然後方へ乗り移り、隊長にハンドルを託した。

『隊長、運転を!』

室内の後方には、工具や電子機器、用途の分からない部品が所狭しと並んでいる。

まるで小さな工作室のようだった。

車内の床には直径七センチ、高さ十三センチの筒が六つ並んでいた。

木の板にネジで無理やり固定されており、それぞれが何本もの太い電線で繋がっていた。

さらに、一番手前側の筒から伸びた電線がバズーカのようなものへと繋がっている。

「どういうこと?」

 

ウィィィン!

電動ドライバーの音がせわしなく鳴り響く。

 

「できた。」

少しすると、電動ドライバーを置く音――

「早」

芳理(かおり)はさっきのバズーカのようなものを手渡してきた。

直径五センチほど、長さ一メートルほどの鉄パイプ。

銅線が幾重にも巻き付けられたコイルが五つ、

一定の間隔を開けて配置されている。

後端には箱状の部品が付いており、そこから太い電線が床の筒へと伸びている。

そして、箱の中には電子基板と、弾を押し出すための機構などが詰め込まれている。

中央付近には持ち手とトリガー。

「何これ」

「お手製コイルガン。待ち時間暇だったもんで途中まで作っとった。」

芳理(かおり)は箱の下部分を指でトントンと叩く。

「アンタはただここをビリビリさせてからトリガーを引くだけでええ。」

「それだけ?」

「そんだけ。」

 

ルーフハッチからもう一度顔を出し、コイルガンを構えて、

直径四センチほどの弾体を装填する。

弾体の後部には、見たこともない部品がいくつも取り付けられていた。

因力を込めると、床においていた筒が”眩しく”なってきた。

 

なるほど。この筒は電池みたいなものか。

"充電"が完了し、照準を彼女に合わせる。

――ここだ。

トリガーを引く。

 

――バシュゥゥゥゥン!

弾は彼女の真横を掠めていった。

 

 

 

ボフッ

女の斜め後ろで何かが炸裂する音。

パラシュートだ。

 

弾体の後ろに付いていた筒のような部品からパラシュートが開き、

その空気抵抗で減速する。

直後――

弾体に取り付けられた小型スピーカーから、空気の振動が”見えた”。

 

彼女の表情が驚きに変わる。

次の瞬間、後方に大きく吹き飛ばされていった。

隊長の”言霊”が作用したようだ。

『よっしゃ、計算通り!』

 

 

立ち尽くす彼女の姿が遠のいて行く。

それを確認すると、私は車内に戻った。

「今のは何?」

「ドップラー効果を利用した。」

ドップラー効果――聞いたことある。

「救急車のやつ?」

「そう。」

芳理はPCの画面に波形を大きく映し出した。

「これは?」

「隊長が発した音声波形。これは音だけをコピーしたもんだから、効力はありゃせん。」

再生する。

『Back, Accelerate』

もう一つの音声を再生する。

『……ピィィイィ。』

「何これ?」

「まあ、人には聞き取りづらい周波数だでね。」

「はぁ。」

「これは録音データの周波数をいじったもの。」

芳理が別の波形を映し出した。

「弾体とあの女の相対速度から、あいつの位置でどう聞こえるかを逆算した。」

「そして弾体に仕込んだスピーカーから、逆算した音を再生する。」

「すると?」

「あいつのところでは、最初に隊長が喋った音声と同じ周波数になる。」

「......つまり、こっちでは聞き取れなくても?」

芳理が指を鳴らす。

「そう。向こうでは、ちゃんと隊長の言葉として”聞き取れてしまう”。」

「……」

「あいつは、目がでら良すぎた。」

芳理がニヤリと笑う。

「だから、罠にかかった。」

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