「じゃーん!いいニュースっ。ホシノちゃんに同級生ができるよっ!」
『アビドス自治区』。他を圧倒する広さと多くの生徒で栄華を極め、学園都市キヴォトスにおいて最大の学生自治区_____だったのは過去の話。
今や原因不明の吹き荒れる砂嵐と、地表に広がる砂がその多くを砂漠に変えてしまいその過去は見る影もなく。しばらく前からアビドス自治区は生徒と、自治区内を拠点としていた企業の多くが去ってしまいこの土地は衰退の一途をたどっている。
少ないながらもアビドス高等学校に在籍していた生徒も去り、在校生たった2人の高校になってまだ1週間も経っていない。
生徒が去るのも無理もない。ただでさえ広がる砂漠を前に人が離れているというのに、アビドス高校には多額の借金がある。
人が減り治安維持も厳しい今、不良が増加し悪化する現状を見れば去った生徒に厳しい目を向ける小鳥遊ホシノだって内心理解している。
先週もまた他自治区へ転入する生徒を見送ったときには目の前の少女、梔子ユメが「ひぃん…」などとしょぼくれた顔で鳴いていたのも記憶に新しい。
そんな崖っぷちな高校に、今更所属しようという生徒がいるというのか_____。
「同級生…?今の時期に、しかもうちにですか?」
「うん!…といっても、まだ手続き中なんだけどね。」
休みが明け、週はじめの月曜日の朝。椅子から立ち上がりその長い緑髪を揺らし全身で喜びを表しているユメは、今しがた生徒会室に到着したホシノにそう言った。
手にはその用紙なのだろう、数枚の紙を持っている。
チラリと見えた紙には『編入届』の文字が見てとれた。
「とってもかわいいこでね、お話したらどこにも所属してないみたいだったから誘ったんだ」
「無所属?ここキヴォトスで?………不良生徒に騙されてませんか?」
「でも、いいこだったし、家もなくて困ってたから放っておけなくて…。なら、アビドスに来ちゃいなよって誘ったら、いいよーって!」
「軽すぎです!」
ホシノはそう言って、ユメの隣に歩き手元の書類に目を通す。
出会ってからというもの、ユメのお人好しすぎる行動に振り回されてきたホシノ。行き当たりばったりなユメの行動に「私がサポートしないと」と心掛けるようになっていた彼女は、その生徒の情報を確認する。
氏名に年齢、住所は家がないからか空欄で、学歴は__________。
「(ここに編入するなんて余程の物好きか、何かしらの思惑があるのか_____。小、中、高すべて通ったことがない!?)」
学園都市キヴォトスにおいて、自治区あるいは学校はすなわち国。今でこそ不良になった生徒も以前はどこかしらの学校に在籍していたし、全くの無所属などキヴォトスで銃を持っていない以上に珍しいことなのだ。
学校に所属する恩恵は大きい。住居がなくまともなアルバイトもできない学籍のない生徒が今まで生活できていたことに、ホシノは驚いた。
「こんな怪しさ満載の生徒、本当に認可したんですか!?」
「うん、今のアビドスに来てくれる生徒は貴重だからね。その子も乗り気だったし、これからにぎやかになるよ!」
「_____。書類を見るかぎり決まったようなものですし、もう……いいです。ところで、この生徒はいつからうちに通うんですか?」
「明後日だよ」
「明後日!?」
「制服待ちだねっ」
「 」
連邦生徒会からの支援が滞って久しく、すでにアビドスの内情など向こうは興味もないのだろう。こういった書類を連邦生徒会にも送るものの反応はなく、アビドス高校生徒会会長であるユメの決断はそのまま決定事項なのだ。
しかしながら、日々ユメの行動力に振り回されてきたホシノでさえ、あまりのスピード感に絶句してしまう。
「(本当にこのひとは…っ!)」と、ふつふつと湧き出る感情をかろうじて抑えたホシノはまだ残っていた疑問を口にした。
「住所の欄が空欄になっていますよね。空き家はありますけど急にはガスも水道も通せないですし、それまでこの生徒はどこで生活するんですか?」
「通ってない空き家で十分って言ってたけど、さすがにかわいそうだったからね。今のところは私の家で生活してるよ。……ホシノちゃん?」
「このっ…ほんとに…っ。ユメ先輩、お話があります!」
「ひ、ひぃん…」
怪しい生徒の編入に加え、その生徒を居候させていると軽く話したユメにホシノの堪忍袋の緒が切れた。
書類を机に置き、前かがみで詰め寄るホシノの説教を聞きながら。ユメは過去を振り返る。
それは、学校が休日の昼下がり。
衝撃的な出会いを遂げた彼女との邂逅。
その生徒の名は_________。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ねぇっ!わたし、『安藤ユウ』☆実はわたし、ちょと困っててぇ…。おはなし、いいかなっ☆」
「あ゛あ?…へぇ、随分いい服着てんじゃん。ちょうどアタシも金欠で困っててさぁ…」
「うぇっ☆???」
「財布もってんだろ?有り金出しな」
「!?」
わたし、安藤ユウ☆
PSO2の自キャラ転移をしたらブルアカ世界にきちゃったみたい☆
早速みつけた女の子に話しかけたらとっても凄まれちゃった!
流れるようにカツアゲされちゃうし、わたし、これからどうなっちゃうのー!?
…ざけんな!頭グ〇セフにしても限度があるだろ!
話しかけただけでカツアゲされるとか、これでも青春RPG!?
ちょっと、いや、これかなり治安悪くないか!?
いくらハチャメチャな学生生活を謳歌とはいえ、はっちゃけすぎではございませんか!?
どうなってんだこの世界!!!こんなので百合の花が咲く?ウソだろ???※勘違いです。
あの後、ここまでの道中に確認したなかで『メインメニュー』も使えることを把握していた俺は、ブルアカについての数少ない情報をもとに準備をした。
この世界の『生徒』はみんなヘイローを持っているものと聞いた覚えがあったので、それっぽい『アクセサリー』を頭の上に乗せる。
キャラクリ機能『エステ』での細部調整ができないがため、泣く泣く素の状態での使用になってしまったが。
そして『レンジャー』、いわゆる射撃ジョブをサブとして設定していたため『アサルトライフル』を装備。
キャラ名では人名らしくないことを考慮したこと、『ある機能』を見つけたことで『安藤ユウ』と名乗ることを決めて。
よし、と意気込んで少女に話しかけたものの…。
「えぇっと、実はわたしお金もってなくて…☆」
「はあ?そんなカッコして持ってないわけないじゃん。ちょっとジャンプしてみろよ」
「 」
や、やばい。あまりの無法さに意識が飛びそうになった。
落ち着け、ロールプレイを崩すな、俺。
今の俺はきゃぴきゃぴ☆女子。明るくて、語尾に☆がついてて、ちょっと押しが強い女の子のはずだ!
カツアゲなんて何するものぞ!きゃぴきゃぴ☆女子なら巻き返してみせろ!
「ほ、ほら!ぴょん、ぴょんっ。…ね?ほんと、お金なくて☆だから___」
「なら、身ぐるみ剥ぐしかないな!!」(ダダダッ!)
「ちょっとぉ!?」
まずは無一文アピールだ、さすがに手持ちがなく旨味がないことを知れば下手なことにはならないだろう。そう思いその場で跳ねて話を続けようとしたところ…。
話の途中に少女が動いたと思った瞬間、その手に持ったアサルトライフルからのまマズルフラッシュ。
現代日本において銃とは無縁の生活を送っていた俺には、自身も装備しているとはいえ、まさか撃つなど思ってもみなかった。
昔見た映画でも、アクション映画はともかく、銃は最後の手段として描かれていたこともあり、あまりの引き金の軽さに思わずその場を駆け出す。
「(まさかこんなに軽く撃ってくるなんて!まずは逃げないと!)」
「ほら、さっさと…って、はや!?ちょ、待て!」
「(この角を曲がって…!)」
逃げた安藤ユウをヘルメット団の少女は追い掛けたものの、あまりの逃げ足の速さにその距離は離れ、ビルの角を曲がり路地に入った時にはその姿は見えなくなっていた。
______________
「はぁ、はぁ。ここまでくれば大丈夫かなっ☆」
先ほどの少女との邂逅からしばらく。流石に距離が離れただそろうと判断し、薄暗い路地で一息つく。
頭〇ラセフ、とは聞いていたもののあんまりな対応だったな、と独り言ちる。
身体は疲れていないというのに、先ほどの一件で気分は疲労いっぱい。
胸にてをあて、心拍が早くなっていることを感じる。
「(そういえば、『前』からFPSとか、ガンシューティング系は苦手だったなー)」
思えば、『前』の友人に誘われFPSをプレイしたことがあった。
ゲームが下手というわけではない。敵を見つけて倒す、ということに苦手意識があるわけでもない。撃ち合いだってできるのだが、どうしても慣れないことがあったのだ。
例えば、角を曲がろうとしたら敵も曲がってきたとき。移動中に意識外から狙撃されたとき。
そういった『びっくり』に対しての耐性があまりに低かった。
「(ホラーとかではそんなことないのに、なんでかなぁ?)」
先ほどもそうだ。まさか撃っては来ないだろう、と意識を外してしまったため『びっくり』した。
そういうとき、何もできなくなり、撤退することを繰り返してきた経験が苦手意識に繋がっているのだろう。
「(でも、あれが普通なら、どうにかしないと)」
自キャラ転移。『前』ならともかく、『今』なら装備だって整っているし、そうそう死ぬことはないだろう。
そう、思ってはいるのだが_____。
「振り出しだー!次は、話しかける人を選ばないとっ☆」
心機一転、先ほどの少女のような不良の雰囲気を感じない、そんな人を探すことにした。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「うぇぇ、よさげなひとがいないよぉ…」
あのあと、何人も人を見かけた。最初の少女こそダメだったが、あれは少数派なのだったと気を持ち直し、まずは観察することから始めよう、そう意気込んだものの。
少女だけでなく機械?の大人、獣人?の大人も見かけたというのに、なにか『これじゃない』という感覚を覚えてどうしても話しかけることができなかった。
それでもと話しかけても碌に相手にされないか、銃を向けられて逃げてしまっている。
ロールプレイも、次第に語尾の☆が減り、目には涙が浮かんできていた。
『前』はこんなに涙もろく無かった。『前』はこんなところで足を止めることは無かったのに。そんなことばかり考えてしまい、思考も悪循環に陥る。
ふと、そういえば、転移してから時間がそこそこ経ったな、と感じてからは空腹感を感じる。
しかし、今の自分は無一文だ。PSO2のお金ならばある。見つけた自動販売機で飲み物を飲もうとしても当然ながら使うことはできず、のどの渇きも感じている。
「うぅ、ひもじい…。ここにきても世は無常なんだね…って、あれは!」
転移時は東にあった陽はすでに頭の真上まで来ているというのに、薄暗い路地で世を儚んでいるとき、『そのひと』は来た。
緑の長髪で、箱のようなものを肩にかけ笑みを浮かべながら歩く『そのひと』は、見ただけで感じる圧倒的『善オーラ』を振りまいている。
背が高く、着崩した制服のシャツの胸に付けたハーネスのホルスターには拳銃が見える。
心なしか、少女の周りがきらきらと輝いて見える。※涙のせいです。
『あのひとしかいない』。気が付けば自然と足が動いていた。
「だずけてくだしゃいいいぃぃ!もう、おなかがへっててぇ、のどもかわいたのにおかねもないしぃぃ、あづくて、ひからびそうでえぇぇ!!おばなじ、おばなじだけでもぉぉぉお!!!」
「ひぃんっ!えっ、うんっ、聞く、聞くからまず落ち着こっ。ねっ?」
「あ゛り゛か゛と゛う゛こ゛さ゛い゛ま゛す゛う゛ぅぅぅ!!!!」
それは、暑い日の昼下がり。
情けない出会いを遂げた彼女との邂逅。
そのひとの名は_________。